遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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お久しぶりです。こそっと投稿再開します。


27ターン目 「強者たちの戦場」

「――くくっ、そうかそうか。何も知らない方が楽だったやもしれんな。ひよっこ共」

「いやはや……無知って罪ってばかりやないんやなぁ」

「知恵の果実は罪の象徴……」

 

 ……そうですよ。そりゃあまぁ、万が一の可能性があると思って飛び込んだ訳ですよ。

 だって日本でも化け物染みたのが三人いるんですよ? 幾らなんだって日本が激戦区極まってるからもうちょっとこう……世界の強者密度とか、下がると思ってたんですよ。

 結果は、このザマっ……!

 

 怯える俺達を見て、大佐はにやにやと笑っていらっしゃる。ううむ、カッコいいだけじゃなくて若干意地悪な面も持ち合わせておるなこのオジサマは。良い趣味していらっしゃる事で……まぁ、そう言われて笑われても仕方ねぇ部分しかないけど

 

「……これで何度目や、認識改めんのは……?」

「数えるだけ無駄だろもう……」

 

 多分もう十回くらいは認識改める事になりそうだし。

 

 リュウザキと顔を合わせ、互いに一つ溜息を吐く。一般人なりにしていた覚悟? そんなモン、ここじゃ素引きしちまったメタル化モンスター(旧作)程にも役に立たねぇ……捨てた方が良いぜ! 今日この場所は戦場と化すんだからよ! 化すっていうか、戦場の真っただ中なんだけども。

 頭を掻き掻き、視線を上げる。

 

 自分達の参加した大会。その想像だにしない程の過酷さを知る。

 遊戯王の中で戦ってる主人公っぽい展開っぽくて興奮するけど、残念ながら俺達自身は社長でも、名もなきファラオでも、凡骨でも、千年リングの担い手でも、ましてや、野望に燃える墓守の裏人格でもない――主人公補正なんてものは存在しないパンピーである。

 

 あるとすりゃ……そうだな。

 誰よりも、この大会を――

 

「……あ」

 

 そこで。

 此方を見つめる『大佐』と視線が合った。

 不敵な笑みはすっと消えて。無表情とか真顔――とは違う。此方を見つめる瞳には確かに真剣な光が感じられる。

 

 鍛え上げられた鋼みたく、鈍く光る二つの瞳。

 先程チンピラをたじろがせた時の鋭利な視線とは正反対な穏やかさで、でも漣一つ程も揺らいで無い。不思議だ――激しくないのに、凄い力強いものを感じる、様な気がする。

 隣のリュウザキと顔を合わせた。いきなりそんな真剣な目でじっと真っ直ぐに見つめられたら……ちょっと、驚くって言うかたじろぐって言うか。

 

「え、えっと」

「なん、でしょうか」

 

 ……リュウザキも、同じ考えに至ったと見える。

 

 この目で見つめられたまま『どうしたんだろう』とか悠長に考えて、迂闊に無言タイムに入ったとする――間違いなく、自分達ではその時の空気を打開して口を開くのは無理だ。

 スキドレを盤面に貼られたらどうやって突破する? 回答は決まってる。貼られる前にぶっ潰す。ロジカルな回答になっていないが知らない。コレが遊戯王プレイヤーの回答であろう――という事で詰む前に速攻で口を開く……!

 

 因みに、これで黙らざるを得ない返事が返ってきたら詰みです。大人しくあきらめましょう。所詮先行とったとしても、増Gで仕方なくターン返してスキドレ貼られたらおしまいなんです。

 

「一つ。確認しておくことがある」

 

 ……さて。そんな俺達の行動は果たして正しかったのか。

 

 口を開いた『大佐』の声は酷く静かで――思わず、ぴしりと背筋を正してしまう。

 大佐、というのは只の呼び名、かもしれないが……しかし。今、俺達の目の前にいるこの男性から感じる、この感覚は。

 

 一歩でも動いたら『ヤバイ』と確信できるこの迫力。目の前に拳銃の銃口が向けられてしまったら、普通俺達みたいな一般人は動けなくなるだろう。そんな感じ。

 瞳を鉄の様だと思ったのは、正解だ。正確には、この人そのものが錬鉄の様なんだ。ピシッと背筋を伸ばし、自然体なのに体勢に一切の乱れ無し。そこから零れる重たい声。呼気一つでも、地面に落ちればめり込むんじゃないか。

 

 鉄――いや、鋼の軍人。ホンモノさながらのド迫力!

 さっきのチンピラの時のそれなんざ、格が違う。いや、俺達じゃなくて、チンピラたちはコレを味わっていたのか。通路一杯の鋼鉄の壁が迫り来るような、思わず逃げ出したくなる圧力を。

 

「「な……なんでしょうか」」

 

 意識してもないのに、リュウザキと声が揃う。

 頭の中が真っ白だ。ただ、次に口にする言葉だけが気になってしょうがなくて。硬く引き結ばれた口元に意識が集中する。

 

 一呼吸――僅かな合間を置いてから。大佐は、口を開いた。

 

「貴様ら、ここから引き返すつもりはあるか」

 

 ――思考が、止まった。

 

 ここからって事は……ガンプラバトルの集会場から、引き返す……それは、つまり。

 

「あの、大佐、その……」

「ここから日本へ帰れ、っていう?」

 

 おずおずとだが返したその問いに……僅かな間をおいてから、大佐はゆっくりと、深く頷いて見せた。思わず、リュウザキと視線を合わせ、呆然と呟いた。

 

「ど、どうして……?」

「当然だろう。ここにいる連中の事どころか、『この戦場』にすら無知な新兵を、そのまま送り出す程、私は無責任なファイターではない――見てみろ」

 

 大佐は、そう返してくれた後。

 すっ、と。俺達がいる場所から……少し離れた壁際を指差した――指先が伸びる先に居るのは――俺達の傍、壁際に固まっている『一般』の参加者達。

 なんだろう、と一瞬思ったが、しかし。そうして改めて視線を向けて、まじまじと一人一人を見た時に……初めて理解できることがあった。

 

「……うっ……!」

「い、厳ついっ……!」

 

 顔立ちが、とかじゃない。寧ろ、周りのチンピラ連中と比べるのもちょっと失礼かなーってくらい穏やかな人達ばっかりだ。本当に、ただのごく普通の人としか、一見すると考えられない。

でも……そうじゃない。

 

 眼鏡をかけた大人しそうな若い男は、眼鏡の奥から周りのチンピラ共をガン睨み。

 充実に縫物してそうなお婆さんの眉間に刻まれたのは、深い深い渓谷みたいな皴。

 太っちょの男性が犬歯を剥き出しにしているのは、ゴロツキ共への牽制だろうか。

 

 変に声をかけようもんなら、俺達の方が一目で食い殺されるんじゃないかっていう物凄い威圧感――目の前の大佐に、身体から滲み出る迫力からして負けていない。

 なんなら……ちょっとちょっかい賭けようものなら、こっちが喰われかねない。

 

「冗談……ガンプラバトルの会場だろうここは」

「なんでこないに『殺気立ってる』んねや……っ!?」

 

 ……そこで、ふと深紅の髪色をした少年と目が合った。

 俺達と同じ年頃だと思う。周りを見つめる瞳は、睨んでるという程ではない……けれどそれはもう、真っすぐで、鋭い。その奥には、まるで炎が燃えているようだ。

 ごくり、と思わず唾を呑む。此方に敵意を向けられている訳でも無いというのに、握り込まれた手のひらに、変な汗が滲んで来て。

 

――その視線が、ふ、と逸れた。

 

 奥から走って来た友達っぽい金髪の奴に声をかけられたらしい。連れ立って、壁際に立っている若草色のボブカットの少女の元へ歩いていく。

 少年の背が遠ざかっていくのを、ただ黙って見つめて。

 

「――実感できたか?」

 

 大佐に、そう問いかけられたところで。

 漸く自分の息が詰まっていたのを自覚して。溜まっていた物を、ゆっくりと肺の中から吐き出す事が出来た。

 

「……マリク?」

「だ――大丈夫だ」

 

 聞かれる前に、食い気味に応えた。

 落ち着いて返事なんて出来なかった。心臓が破裂しそうだった。背筋を……変に冷たい汗が伝ってる。触んなくても分かった。

 呑まれてた。完全に。あの少年の気迫に。

 

 周りの、一般からの参加者は、一塊になって、ここに追いやられた人達。俺は勝手にそんな印象を持っていた……いや、『しまっていた』。

 

 だがどうだ。

 今、目の前にいる人たちは皆――その身体から滲み出るとんでもない熱意と共に。ビビるどころか、寧ろ周りの悪意を呑み込んでそのまま叩き潰してやるって、意志の牙を剥いてるじゃないか。

 

「改めて言う」

 

 ……そして。

 

 その中でも……壁際の選手たちを顔を引き攣らせて見つめる俺達の背後から今、ぞわりと溢れだした()()は――酷く冷たく、重い。

 まるで、鉄の銃口をこめかみに突きつけられているかのような。背筋を、冷たい汗が伝っていくのを感じている。

 

「引き返すならば、この『ライン』だぞ――ここを踏み越えれば、もう戻れん。その先に待つのは骨まで焦がす様な戦意と底知れない悪意とが、互いの存在そのものを無に帰さんと喰らい合う……文字通りの仁義なき『戦場』だ」

 

 ……酷く当たり前の事じゃないか。

 

 周りの半分以上――いや、半分よりもはるかに上が、自分達とは違う薄暗い世界の住人ばかりだ。目の前の大佐がいなけりゃ……さっきもどうなっていたか。

 そんな状況の中で……それでも尚、こうしてここにいる人たちがどうして普通の人達だなんて思えるんだか。完全にボケてた。

 

 強者たちの祭典?

 違う――そんな甘っちょろい言葉じゃ表せない。

 

 漫画の世界の中の出来事だと思っていたような、圧倒的な非現実が目の前に広がってる。一歩間違えりゃ、何処へ転がっていくかだって分からない様な大渦の中ですら、闘志を滾らせて目をギラギラとさせるばかり。

強い――『思い』がある。

 その思いを凶器に変え、血眼になりながら鎬を削り、牙を剥いて無慈悲に食い潰す――零れた涙と血飛沫を、当然のように美酒として飲み干す、修羅共の闘技場だ、ここは。

 

「貴様らの様な小僧では、容易く喰われても何ら不思議ではない」

「……っ」

 

 そんな中に、俺達みたいなひよっこが飛び込んだら、どうなる。

 取り敢えず、『普通に』考えてみれば……『ずたずた』が良い所だろうか。

 

 体が? 心が?

 いいや、『両方』だろう――ロクデナシの悪党たちに四方八方から嬲られて、『本物』のファイター達に格の違いを見せつけられて……たとえその後、日本に帰れても。また元通りの生活なんて送れるだろうか。

 

 そんなデュエリストは、『遊戯王』という作品の中にもごまんといた。

 自分こそが最強だ、大会を楽しめれば、ここで一発逆転を――そんな思いを抱いた有象無象のデュエリスト達が、『本物』に敗れ……負け犬として舞台を去った。

 真剣勝負であったが故に、身体や心に傷を負い、再起不能になった者だっていた。

 

 正に、個人と個人による戦――闘争だった。

 俺達だってそうなるかもしれない。この先へ進むなら。

 

「これは、忠告だ。引き返した方が身のためになる。如何に新兵だとしても、その事が分からない訳では――」

 

 

 

――あぁ、それでも!

 

 

 

「はっ。冗談言えってんだ」

 

 大佐の次へ続くであろうその言葉を――奥歯噛みしめて。渾身、切って、落とす。

 瞬間。突きつけられた冷たい鋼のバレルの先が。ほんの少しだけだが……ブレた様な気がした。

 

「この大会を……ガンプラバトルを、まだ『楽しんでない』って言うのに」

 

「帰れねぇよ」

 




ジークアクスを全話見終えたので書き上げました。

シャリアさん出したかったけど、話の展開上どうしても無理じゃった……
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