遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
大佐が、目を見開く。
してやったり。いや別にこの人に対して、そんな事する必要あるかと言えば一切ないんですけれども。男の子ってカッコつけたくなるよね、うん!
まぁ、それは兎も角として……ちらり、と。隣の相棒に目を向ける。
一瞬、視線を交わしたリュウザキは……直ぐに不敵な笑みを返すと共に、バシンと背を叩いてくれる……一喝、ありがてぇ。
想像をはるかに超えて環境は最悪だった。世界レベルの猛者の揃う大会だった。
苦難の道どころの話じゃない。分の悪い賭けどころの騒ぎじゃない。もう俺達とは真剣さが違う……どころの差ではないかもしれない。
ベテラン様から見れば、挑むのは諦めた方が良いんじゃないか、なんて心配されても当然の事だろう。
でも――それがなんだ。
「楽しむ……か」
「そうだよ」
確かに俺達は漫画の世界の主人公じゃない。好きな時にディスティニードローなんざ出来る運命力は持ち合わせちゃいない。実力だって今は足りないかもしれない。こりゃあどうしようもない、って状況なら普通に降参を選ぶ事だってある。
それでも。
決闘が開始して、手札をオープンして……その直後に降参を口にした事だけは、一回もない。それが、俺のひそかな自慢だ。
例え手札で最高の展開札を握りながら、後攻を選ばされても。
先行取ったにも関わらず、手札誘発塗れで展開一切出来なさそうでも。
後攻から捲るに最適な札を引いたにも関わらず。初手『手札抹殺』とかされても。
必ず、カードはセットする。自分のターンのターンエンドは最低でも口にする。
最後まで『楽しむ事』を放棄しない。はーなんだクソゲーなんて、やる前にカード投げ捨てる様なマネだけはしない――だから。
『ガンプラバトルは『戦い』じゃない。『遊び』なの――何よりも『好き』で『楽しむ』事が一番だから』
「――ナンセンスでしょ。『楽しんで遊ぶ』事をハナっから放棄するなんざ」
自分達の利益、栄光の舞台への架け橋、他には……何があるだろう。そりゃあ、殺気立つくらいに譲れないモノだろう。戦う熱になるだろう――でも、それは俺達がすごすご引き返す理由には到底ならない。
ちらりとアタッシュケースを見る。
この中には、俺達の『夢』が詰まってる。『ガンプラという遊戯の王』へと昇り詰める為の、今までの全てを賭けた、『マイフェイバリット』――
このガンプラバトルを『楽しんで』勝つための、俺の夢の全てを詰め込んだ切り札が。
確かに、賭けた思いの重さ、本気で作り込まれたガンプラ、積み重ねて来た経験……恐れないといけないのは、山積みだろうさ。
それでも。逆に震えが来るほどの『恐れ』を通して、逆に確信が持てた。
「遊戯ってのはな……誰よりも真剣に、そしてマナー良く、楽しんだ奴の勝ちなんだぜ。だから――胸張って言えるさ」
一つ呼吸を入れてから……目の前の鋼の瞳を真っ直ぐに見返す。
「どれだけヤバい奴が居ようと、そう言う意味じゃ『俺達』が、一番だ」
そう、言い切った瞬間。
体にかかっていた重圧が、ふっと緩んだような気がした。
「……ふん。迷う素振りすら見せんとは。剛毅か、若さゆえの無謀か?」
「っていうか、なぁ……」
「そもそもの話やけど」
まぁ、よしんば。俺が万が一、そんな風に諦めたとしても。
「「……逃げんのは――コイツが許さないだろうし?」」
……そこで、改めてリュウザキの方を見る。
「「……ぶふっ!」」
リュウザキは親指で。俺は人差し指で。お互いを真っ直ぐに指さしていた。
リュウザキが浮かべたキョトンとした顔と、その台詞。瞳に映った俺の顔と、まるで鏡合わせのようで――思わず噴き出すのと同じタイミングで、奴も笑った。
「いやいやないない――お前が決闘から逃げるとか、想像もつかへんわ」
「それはこっちの台詞だろロマンチスト。レッドアイズ中毒がよ」
「喧しいわバ火力厨」
「テメェ言っちゃならんことを!」
そっからあっと言う間に睨み合いながら顔を突き合わせて――でも、やっぱり。
「……ぷっ」
「く、くくくっ」
「「くひひっ、ふへへへひひひっ――」」
なんか、変に力が抜けて……腹抱えて笑いだしてしまう。
なんだコイツ、自分の事が見えていないのか流石は遊戯王馬鹿――なんて。何時も通りな空気を感じて。この真剣な会場内でなんて間の抜けたやり取り。
こりゃあ酷い。目の前のオジサマに帰った方が良いんじゃないかなんて言われるのも道理だろうな。うん。
あぁ――やっぱり。コイツは、絶対最後まであきらめたりしない。その前で、一人で尻尾撒いて逃げるなんて、情けない真似出来ねぇわな。
「は、はひっ、あ、アカンっ、こらあかんっ……くふふっ……!」
「さっきまでシリアスだったのにっ、あははっ、ひでぇっ、ひっでぇ!」
……うん。すっごい白い目で見られてるなこりゃ。周りから。
参加者のおじさん達も……何だコイツって目で見てると思う。今はちょっと確認しづらいですけれども。いやもう、笑い過ぎて目の前が涙で滲んでるし、ひっくり返っちゃってるんですよ許して。よーし床もバシバシしちゃうぞー。
という事で。
ひーひー言いながら、お腹の底から笑う事しばし後。
何とか、『大佐』の目の前で立ち上がり。笑い過ぎで引きつった腹筋やら、なんで攣ったのか分からんふくらはぎやらのダメージで、生まれたての小鹿みたいに膝を震わせることとはなったが。それでも、顔を引き攣らせながらサムズアップ。
「っはぁ、はぁ――まぁ。きついのはそうでしょうけど……僥倖だと思っておきますよ」
「こちとら強くなりに『も』来たんや。相手が強い方が燃えるやろって話ですわ」
ご心配おかけしました、と言う意味も込めてハッキリと。
確信できた。結構ゴツイ顔してるけど、めちゃくちゃいい人だよ。この人。こんな若造たちに、気を使ってくれて――まぁ、それを蹴っ飛ばしてしまう事への申し訳なさもあるが。それに対して、大丈夫、だと示しす為にも。親指は直立不動。
しかし……大会の開催までの時間、ちょっとした観光どころか実家への挨拶回り以外は、マジでガンプラの細かい調整に当てるしかねぇか。
これだけの大会に出るんだから僅かな時間も無駄には出来ない。気分転換をして作業効率を良くする、って言う常套手段も投げ捨てて、ちょっと予定詰め詰めにするしかない様だねぇコレは。
うーん……燃えて来た。デッキの構築見直しなんて、幾らやっても良いからな。
「まぁ、観光で頼りにされなくてラッキーと思っておくかなぁ」
「安心せぇ。ホテル前でそんな幻想は除外ゾーンに裏側表示で捨てたわ」
「いやいくら何でも酷くない? せめて墓地において?」
「いややわそないに再利用しやすい場所に送るやなんて」
「――くくくっ、成程そうか。」
……大佐が笑ってる。
いや、さっきのぶった切りで結構ナマ言った感はあった。故に癇に障っても仕方ないなとは思ってたのだが……『勝手にしろ』とか言われるでもなく、凄い上機嫌そうで、寧ろ不興を買うどころか、これは。
「侮っていたのは此方だった! これがお前達のニホンで言う所の『一本取られた』という奴か! 全く、見事な啖呵を切ったものだ! はっはっはっ! はっはっはっ――んぅ゛!? う゛ぇっほ! う゛ぇっほぉ!」
「いや咳き込む程!?」
めっちゃウケてる。何ならこっちの想像だにしないレベルで。何が琴線に触ったのだろうか……分からん。何も分からん。
呆然としているこっちを置き去りにしたまま、しばし笑い声は続き……漸く落ち着いた所で、大佐は少し困ったように『すまない』と口にした。
「あぁ、いや、俺達は別に……大佐さんこそ、あの」
「何、少し愉快に過ぎただけだ――成程、若い息吹の台頭、この目で確と見た! 流石は『青い巨星』殿だ! かの慧眼、未だ衰える所を知らず!」
「何処の誰やねん『青い巨星』……?」
初代ガンダムの大尉だろその人。
まぁ、見た目から何までそっくりなラルさんはいるけどさぁ。あの人はあくまでガンプラの好きな気の良い……いや、まさか。まさかな?
フェリーニって、あのガンプラおじさんの事大尉としか呼んでなかった、よな。多分。でもガンプラバーの人達にも凄い慕われてるし。
……もし、大佐とラルさんが知り合いだったとして。
この、明らかにリスペクトを隠さない態度。筋金入りであろうワルですらたじろぐレベルの人物が此処まで目を輝かせるラルさんって、俺達がまだまだ知らないだけで想像を更に超えた大物の可能性が――
「であれば――うむ、決めたぞ!」
――ん? 何が?
「この大会の間、貴様らの面倒は私が見てやろう!」
「「…………え゛っ!?」」
あ、ヤバイすっごい声出ちゃった……じゃなくて!?
「泊っているホテルは何処だ? ちょうど宿泊先も決まっていなかった所だ、同じホテルを利用させて貰うぞ」
「いやいやいやいや……ちょ、ちょっと!」
「いきなり何を言い出すんですかアンタ!?」
片手と首を千切れんばかりに左右に振って意思表示。それで『ハイ分かりました、此方のホテルです』とは言える訳がねぇだろ何を言ってんだこの人!? 個人情報の扱いを知らないのか……いや違う突っ込むべきはそこじゃねぇ!
いや、あの……いきなり過ぎませんかとか。大佐は一応、俺達と同じ参加者なんですけどそれは大丈夫ですかとか。そもそも宿泊先そんな急にそこにするって言って泊まれるのかな……とか一杯あるけども!
けども、そもそもの話ですよ! 何も理由が分からんっ!
「ど、どうしてそんな話に!?」
「なに、ここまで来て、後は自分達で好きにしろとは余りにも情に欠ける物言いではないかとな。心配するな。こう見えてもチーム所属のファイターだ。若いひよっこ共の面倒を見るのには慣れている」
「いやそう言う話じゃなくて……!?」
っていうかチーム所属とかあるんだ、ガンプラバトル。いや有っても不思議じゃねぇよなこんな世界大会もあるし。こんな強そうな人が居るなら、もしかして結構な強豪だったりするのかなー……じゃねぇや!
それは一旦、一旦、置いておくとして、そんな『坊や、一人でお使いかい? それはえらいねぇ……よっしゃおじさんが一肌脱いだるわ!』的な昭和オヤジのノリでやって良い事じゃない気がするんですけれども――
『――はいはーい、お静かに』
――バツンッ
「「わっ!?」」
「……ちっ、勢いで押し切れる所だったモノを」
こ、今度は何だっ!? 急に会場が暗く――っておい待て、このオッサン今さらりととんでもない事言わなかったか!?
……おい、見られたからって視線反らすな、誤魔化そうとするな!
チクショウ、とても優しい足長おじさんだと思ってら、とんだバケモン肝太おじさまだった。思わず一歩下がりもするわこんなもん。
『――そこの喧しい坊や達もそっぽ向いてないで、黙ってこっちを見てくださいね』
「「いや誰がだっ!?」」
ラルさんもちゃんと大人なんで、若い少年達を気にかけてくれています。