遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
『そこの喧しい坊や達もそっぽ向いてないで、黙ってこっち見てくださいね』
「「いや誰がだっ!?」」
――聞こえて来たのは、とても低い、野太い声。
いやまぁ俺達でしょうけども……さっきあんな大爆笑してたし。
それにしたってそんな名指しで言う事ないじゃないですか。っていうか……
「こっちって……」
「……おい、アソコや」
周りの奴らが、視線を一点に向けてる。その先は会場の奥の方。
自分達も視線を向けて初めて気が付いたのだが。会場の奥に、一段高くなっているスペースがある。体育館の檀上っぽいそこに――磯野さんと似た格好の男が一人立っていた。
独特の紅いレンズのゴーグル――浅黒い肌に、ゴツイ身体付き、禿げた頭。印象に残るというか、頭に残る要素しかない、余りにも存在感のデカすぎるそのむつけき男性は……壇上の上から、にこやかに会場全体を見下ろしている。
『これはどうも。皆さん此方を見て頂けて感謝の至りでございます――貴様らが知りたくて堪らない情報を私が口にするのだから、無駄口を叩くのやめるのは当然の事ではあるが』
……んで。序そこから飛び出した台詞に思わず口があんぐりと開いてしまった。
えっ、慇懃無礼ってまさにこの事ですか? 言葉が若干強いのそうけど、そもそも喋りの端々から感じるこの、なんか……そう、厭味ったらしい感じが!
すっごいこう、耳ざわり。普通にしゃべってるのに、浮かべた薄ら笑いとか。その癖真っ直ぐに背筋を伸ばしているのとか、なんか、変にイラっとするぞこのおっちゃん!
……っていうか、アレ? 普通に聞き取ってるけど、日本語?
『という事で――よろしく頼むぞ、出場選手の諸君。PPSE社からこの大会運営の為に派遣されて来た……便宜上『B』と、名乗らせて貰う。この様な大会参加者自体の品位が疑われるような大会に出向させられた一般将校だ』
『それ故、日本が聖地となる大会だというのに、日本語の一つも嗜まない愚鈍な一般参加選手諸君の事は慮る事は出来ん。そこは、謝罪をさせて貰おう』
……う、うわぁ。やべぇ、勝手に頬が引きつっちまった。
多分翻訳の為にだろうけど、スマホ立ち上げてた人たちが物凄い顔になったぞ。まさかあれをそんまま翻訳しちゃったとか? えっと……つーか翻訳されるの織り込み済みだってのに、言う!? そんな台詞!?
もう何か、イラつく通り越してコワイぞ。
『しかし、この様な形だけの謝罪など、お前達にとってはどうでも良い事だろうが――正直に言えばだ。私としても、お前達の事情など知った事ではない』
白い歯を剥き出しにし、張り付けた、というのがピッタリ過ぎる笑いを皆に浴びせかけながら、Bと名乗った男はすらすらと言葉を紡ぐ。滑らかながらまくしたてるが如きその速度と、独特な喋り方から紡ぎ出される言葉の毒気の強さたるや。なんだアイツの舌はバーン系の効果ダメージを主軸としてんのか。容赦なく直でライフポイント削って来る。
アレだろうか。この会場全体が基本ガラが悪いから、それにも負けない様な図太さを持つ委員を選出したのか。毒を以て毒を制す的な。
実際……周りのワル共の射殺さんばかりの尖った視線の中に晒されても、男は堂々と壇上で胸を張ったまま、気にした様子もないと来てる。
いや。気にしないどころか、会場全体を見下すその目つきは……そんな視線を向ける奴らを小馬鹿にしている様にも見えるのだが。
その口元が――俺の感想を裏付けるみたいに――更に、吊り上がり。
『貴様ら、この大会の出場者が一番気になっているのは――優勝賞品だけだろう』
……瞬間だった。
空気が、変わった。
『ガンプラバトル選手権世界大会――我々PPSE社が主催する、世界一のガンプラを決める一大イベント。そこへの出場切符。出自の地域や、選手個人の事情を一切問わない、実力『だけ』で勝ち取れる唯一の出場枠』
『WWF優勝特別推薦枠……ただ一つ勝ち取りたいのは、これだ』
……当然。
ここへきている奴らにとっては、それは名前だけでも特別な意味を持つ。
殺意を剥き出しにしていた奴らも、男の酷い言い様に顔を顰めていた人たちも。その目つきが、変わったのが分かった。敵意も何もかも――今、剥き出しの闘志に変わりやがった。
そして、俺達もそれは同じ。
皆分かってるんだ。態々その事を口にするって事は……もう直ぐに、始まるからだと。その『たった一つの席』を奪い合う死闘が。
『どうすればその権利を手に出来るかを、今から出来るだけ簡潔に説明してやる。しっかりと私の話を聞くなり、翻訳するように……理解は出来たか?』
しん、と静まり返った会場内。
それを肯定と受け取ったのか。
Bは、うんうん、とわざとらしい位に頷いてから――浮かべた笑みを、すっと消した。
『流石だ。最低限の規律は弁えられている模様で安心した……とはいえ、貴様らにとってはこのチャンスは逃す事の出来ない好機である。当然と言えば当然ではあるが。では、その褒美をくれてやるとするか』
そのままBは片腕を、見せつけるみたいにゆっくりと掲げ。
その指先を……ぱちん、と鳴らして見せた――その直後の事だった。
彼の背後、何時の間にか降りていたスクリーンに、文字列が映し出されたのは。
「……えっと、バトル……ロワイアル、か?」
書いてあることは決して多くない。俺でも読める位の分かりやすい英単語だ。会場の人達からすりゃあ実に分かりやすい事だろう――僅かに、会場中がざわついたのがハッキリと分かった。
『先ずは予選――ここにいる『WWF』の参加者全員、『370名』参加で、ガンプラバトルでのバトル・ロワイアルを行って貰う』
うわ、と声が漏れそうになった。この大会ってそんなバカみたいな人数が参加してんのか!? 遊戯王だったら……大会二十回分くらいは余裕で賄えるレベルだぞオイ!?
っていうか、ガンプラ大会の地区予選だってそんな人数は多くなかった筈だし……小世界大会の名は伊達じゃないってか。
んで、その全員でのバトル・ロワイアル――すなわち、全員敵の潰し合い、か。
「派手やなぁ、随分」
「あぁ……」
ガンプラが三百以上入り乱れる戦場――そもそもスペースがあるのか、と思ったが。
そもそも会場の規模がデカくて、入り乱れた出店でちょっとした祭りになるような場所だ。そりゃあ確保できているんだろう。となると……凄い事になるのはもう間違いなし。
俺達が今までやって来たのは基本的にサシか、チーム戦擬き。周り全員が敵同士っていう結構複雑な戦いは、初めてになる。
もしこれで何か特殊なルールとかあるとかなると、その辺りを考慮して戦術を組まにゃらならんのだが。
『このバトル・ロワイアル自体のルールは……シンプルだ』
感じる僅かな不安の中で――視線の先、人差し指がぴん、と真っ直ぐに立てられる。
『用意されたステージ内で『日暮れまで』生き残る事。必要なのはこれだけだ。他には何も考えずとも問題ない』
……どうやら、不安は杞憂に終わりそうでほっとした。
分かりやすい。シンプル。ありがたい。細かい点取り合戦とかは正直上手くできる自信が無かった。ここは天が味方してくれたと感謝しよう……と、思ったのだが
ふと疑問が過り、顎に手をやって考える。
予選、と言っているのだから、数を絞らにゃならん。だというのに、生き残る事がルールとなると……誰も動かず人数も絞れない、という可能性もある気がするのだが。
『――しかしながら、だ』
そんな俺の疑問に応えるように。
『これだけならば、貴様ら全員結託して時間を稼ぐなどの手立ても使えてしまう訳だが』
真っ白な、石膏で出来てるみてぇな歯を、剥き出しにするようして口を大きく広げ。聞いているだけのこっちにも分かりやすい程に――声色に『ハリ』が乗り始めたのが、ハッキリと分かった。
立てていた指先は、そのまま会場の方へと向かい。何かを指さす様なそのジェスチャーと共に……言葉を続けるBは、酷く楽しそうに見える。
『そこでだ。貴様ら参加者共にとっては実に重要になって来る情報を一つ、私から教えてやろう――そんな温いやり方よりも、お似合いの方法を思いつくだろうな』
背筋がざわつく。
なんか、とんでもない事が起きそうな。想像だにしない地雷デッキに当たった時みたいな嫌な予感がする様な――
『――もしここで、この中の内の誰かがラスト一人になった……その時点で』
『おめでとう! 君がこのWWFの優勝者だ!』
……は?
「な、なんやと……!?」
――ざわざわざわ……っ!!
一瞬――会場中の奴らが一斉に騒めいた。聞こえた。人数が人数だ。肌に来るような騒音となって……いや、違う、人数だけの問題じゃあねぇ!
それだけ、会場の奴らが動揺してるんだ。声が抑えきれなかったんだ!
言葉が分からなくても、何となく分かる。
多分だけど、会場の奴らは『嘘だろう!?』って感じの事を言ったんだろう。当然だった。俺だってそう口にしたっておかしくなかった。単に驚きで口が開けなくなってただけで……っ!
「た……大佐。これって……その」
「言っておくが、普段通り等と思うなよ……私とて、運営の正気を疑っている処だ」
リュウザキの声は、分かりやすく震えている。そしてそれに応える大佐の声は――明らかに、硬い。
俺達みたく表に出している訳ではないようだけど……それでも、俺達と同じく度肝抜かれたのは間違いないらしい。良かった、コレがこの大会の普通だとか言われたらどうしようかと思った!
「確かに、以前もバトルロワイアル形式ではあったが……単純に三十人程まで人数を減らす程度のものだった。こんなバカげたやり方ではない」
……大会って言うのは、ある程度公平さを保たにゃならん。
トーナメントって言うのは、その為の形式だし。遊戯王も、公式大会で基本的に何回か戦う事になるマッチ戦を採用してるのはその為で。
真剣勝負でも、あくまで競技だから。そこの線引きは必ずあってしかるべきだろう。
けどこれは……本当に生き残った奴だけが正義。命を懸けた『殺し合い』みたいなやり口じゃねぇか、これは。
『どうだ? 少しはやる気も出たかね、諸君?』
にやり、と。壇上でBが『嗤う』。
コイツ、状況を分かっていらっしゃるのか。そんなに煽って、命が惜しくないのかコイツいや俺達が言えた台詞ではないけれども。態々言う必要があるか!?
『あぁ、安心して欲しい。複数人生き残ったらきちんと本選も執り行う――残念ながら、何人生き残るかは此方は想定していないので、終わった時点でトーナメント表は別途作る事になるが』
その手間が無い方がこっちは楽だ――と。なんて事も無いように口にしたその辺りで。
『『『――ウオォォォオオオオオオオオオオッ!!!!』』』
遂に、会場が爆発する。
――歓喜の雄叫びによって。
ここの『悪役』をどうしようかな、と思ってた所でジークアクスで奴が登場したのでこいつにしました。でもZ時代のあの脂の乗ったチーズ野郎書くのは難しいですね……