遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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3ターン目 「二匹のニュービー」

「……違う……なんか……」

「こうやない……」

 

 結果から言えば、我らの情熱は敗れ去った。

 流石に俺達も、早速エクゾディアとレッドアイズをぬりぬりしよう! とか言い出す程無謀じゃあない。取り敢えず、同じ材質の、パーツの付いていたランナーで、ちょっと試し塗りしてみようという結論に至り……

 五指すべてがドドメ色になったあたりで、『あぁ、コレは違う』と悟った。

 

「そもそも、筆で塗って……って感じと違うわ。あのプラモ」

「うん……ムラが一切なかったよ。このランナーとは、大違いだ」

 

 んで、俺達の指を犠牲にする努力の結果として出来たのが、机の上に何本も何本も転がっている、色ムラだらけの闘魂注入プラ棒である。

 

 正直に言おう。

 あまりにも汚い。なんか、ヘドロがこびり付いたみたいな汚さがある。幾ら塗りなれてないって言ったって、コレをどう綺麗にしてもああはならないだろう事は、想像がつくレベルでめっちゃ悲しい事になってる。

 

「じゃあ、こうじゃねぇんだなぁ」

「筆で塗るわけと違う……でもオレらの色塗りって、後はクレヨンとか色鉛筆とかしかなくないか?」

「いや絶対違うだろそれは」

 

 色塗り、という登竜門を見つけ。はしゃいでいた俺らは……上り詰めた天から、地の底まで無情にも叩き落とされたが如き絶望を味わっていた。

 コレが、井の中の蛙という事か。

余りにも分かりやすく味わった挫折に、余りにも分かりやすく砕けて散った。ここにいるのは哀れな敗北者が二人だけ、部屋の床に寝っ転がっていた。

 

「……どないするぅ?」

「うーん」

 

 取り敢えず。

 塗り方で何か、別のアイデアは今の所思い浮かばない。だったら……

 

「よし。別の所に活路を求めようじゃないか」

「別の所?」

「そうだぜリュウザキ……こういう時は、形から入るんだよ」

「そりゃあすなわち……プラモ用の、絵の具とか買いに行くって事かいな!?」

「その通り!」

 

 流石は我が友人。多くを語らずとも理解してくれたようだ。取り敢えず俺達の思考が追っつかず解決の手段が思い浮かばない事はほっぽり投げて……そして。道具が変われば上手く行くんじゃないか、と特に根拠もない光明を見出したのである。

 

「成程な。プラモ用のそう言う奴なら、色乗りも違うかもしれない、と」

「その通りだ。ふふ、我らは素人だからな、道具に頼る事に一切の躊躇いなし!」

「素人故の利点を生かす、っちゅう訳か。流石はマリク、賢いなぁ!」

「よせやい」

 

 取り敢えず、床から体を起こし。リュウザキと向かい合う。

 そして、視線を向けた先はプラモを頼んだパソコン――ではなく、外。リュウザキも知っているだろうが、この辺りには老舗……かは分からないが、結構年季の入った模型店があるのである。

 目的のモノは、そこで探すつもりだった。

 

「……ついでに、外出て気持ちを切り替えよう」

「そうやなぁ」

 

 ……後、それ以外の目的も、多分にあったのだが。

 それはまぁ、多くは語らなかった。なんか悔しかったので。

 

 

 

 

 

 

「あー、ここだここ。覚えてるわー」

 

 商店街……とかではなくて、閑静な住宅街の中。

 

 紅い看板に白い文字で『イオリ模型』の文字。

 ここら辺で、多分ガンプラ作るんであれば、一番品ぞろえが良い店……って、委員長がめっちゃ偉そうに言っていたのを覚えている。

 

「何年ぶりだろうな~、ここくんの……委員長と一緒に、前に一回来たきりだっけ」

「そうそう。委員長、新作のガンプラに目ェキラキラさせてた」

 

 その時の委員長は、めっちゃキラキラしてて可愛かった。

 新しく出たガンプラをどれを買おうか、なんて小遣い握りしめて、ウンウン唸りながら選んでいた。因みに俺達はと言えば……あぁ、今でも思い出す。

 あの時、帰りに寄ったコンビニで買ったパックから、ホロ加工されたレアカードが……近年まれに見る当たりパックだった気がする。

 それまでの態度は……お察しください。

 

「……クズだったなぁ俺ら」

「あぁ。委員長が楽しそうにしとんのに、めっちゃダルそうにしてた。でもアイツは全然気にかけたりせんかった……控えめに言って聖人やなぁ」

 

 良く俺らの友人続けてくれていると思う。それはそれとしてデッキ取り上げるのはご勘弁願いたいのですけれども。

 

「ほいじゃ、その頃の俺らを、ぶん殴るつもりで……」

「おう、ふんどし締めてかかるぜ。何せここは敵地だからな」

 

 俺達の宿敵、ガンプラの本拠地の一つともいえるエリア。そりゃあ遊戯王プレイヤーの俺達としては、敵に敬意を払って、真剣な心持で、ここの扉を開かにゃならん。そう、こうして扉に手を――

 

――ぴろぴろぴろ♪ がー……

 

「……」

「そういや自動ドアやったなここ」

 

 ……ふっ。やってくれるぜ。

 我ら遊戯王プレイヤーの、ガンプラへの記念すべき第一歩を、いきなり奈落の落とし穴で着地狩りしてくるとは。イオリ模型店、侮れねぇ。額に溜まった熱を、髪をサラッと流しながら排熱して、冷静さを取り戻す。

 

 いや、そんな気合入れて入る必要もないんだよ。別にここは普通の町の模型屋さんな訳だし。我々、勝手に敵愾心抱いてるだけなんだから。うん。

 よし。頭も冷えた所で。

 

「改めて」

「邪魔するで~」

 

 入店。

 

 一歩、大きく踏み込んで、先ずは左右チェック。

 右、というか全体的にガンプラの詰まれた棚が幾つもどん、ドンと並ぶ。その姿は最早壮観と言っても良いレベル。やっぱ同じデザインの物が、綺麗に整列してるって、得も言われぬ充実感がある。アンティーク・ギア・ソルジャーとか三体並ぶと凄い気持ちイイし。

 

 まぁ、それはいい。

 んでもって、左には言えば。壁を埋め尽くすほどのでっけぇショーケースがどん。そしてそこに居並ぶガンプラ、ガンプラ、ガンプラ……というか、オイ。

 ショーケースの中の、余りにも信じられない光景に、思わずショーケースの前に駆け寄って、へばりついて中を眺める。

 

「な、なんだこりゃあ……ガンダムって、こんなアーゼウスみたいなクソ派手な奴も居んのかよ」

「白くて、青くて、赤がアクセントで……色とか派手だと思ってたけど、それだけとちゃうわ。羽に、全身真っ青な奴とか……うわ、これとかクリアパーツだらけやんけ……!」

 

 俺がガンダムについて知ってるのは、本当にごく一部だけだ。ザクとガンダム、を辛うじて知ってる、位の感じなのだが……そんなしょぼい知識ではサッパリと分からぬ景色が広がってる。

 

 全部、何処か似通っているというのに、コンパチ臭いデザイン、一切なし。

 ばっちり個性的な見た目で、どちゃくそド派手だったり、逆にシンプルながらカッコよかったりする様な……種類が三十以上は軽くある。

 

 というか……ガンダムに似てる奴多いな。

 青いザク、とか。太い紫っぽい……ザクかこれ? 分からん。兎も角、別種の奴も何体かいるけど、明らかにガンダムっぽい奴が、多い。

 いや、ガンダムっぽいっていうにはちょっと派手過ぎたり、フォルムが全然違ったりするけど。でも顔のデザインとか、めっちゃガンダムっぽい気がしないでもない。

 ガンダムっぽいのに個性バッチリとか、ある意味凄いな……って

 

「ちょっと待て、まさかとは思うが、この棚って……」

「どうやらそうらしいの……見ろや、ほぼ全部『ガンプラ』やで」

 

 くるり、と振り返って――リュウザキの言葉に、くらりと、ふら付いた。

 イオリ模型、と言うその名前で、流石にガンプラが店に存在しない、という事もないだろうが……それにしたって、棚一つに少なくとも二十種類以上はあり、全部合わせれば百種類以上のガンプラが、ここには存在している事になる。

 

「――な、なんてこった……!」

 

 甘く見ていた、ガンプラと言うモノを。

 

 有ってもまぁ、三十くらいだと思っていた、ガンプラと言うモノの種類……だが、現実を見てみれば軽くその三倍は存在するであろう、ガンプラの種類。

 未だ、色塗りという段階を踏もうとしている自分達にとって、とんでもねぇ衝撃。リュウザキも思わず口を押えて戦慄してしまっている。顔が若干蒼い。

 

「お、おいリュウザキ……!?」

「あぁマリク、こりゃあ早急に色塗りの段階を抜けないといかんで……!」

 

 俺達が覗き込んでいるのは、深く深い深淵。そこそこ降りて『もうそれなりには降りれたかな?』等と考えていた……しかし、その認識の、何と甘すぎる事か……!

 色塗り、等と言う入り口も入り口の段階で、あんな風につまずいている場合ではなかったのだ。

 

 ……敵地に偵察に来て正解だった。

 俺達が挑もうとしている敵の強大さを、ここで初めて知れた気がする。

 

「リュウザキ、色塗りとかの、なんだ……絵の具がある場所、何処だ!」

「いや知らんわ、委員長と違うて詳しくもないし……」

「あ、うん。悪い」

 

 そして自分達の矮小さも……なんという事でしょう。敵地に踏み込んでおきながら、俺達が持っているのは、何とメタル・リフレクト・スライムをピンで伏せるレベルの頼りない知識のみ……! せめて神の宣告伏せさせて欲しい。

 

「ど、どうしよう……」

 

 追い込まれ。取り敢えず一ターン生き残るための小細工考える時の様な、ちょっと絶望的なデュエルタクティクスを練ろうとして……

 

「――あの、何かお探しですか?」

「……おん?」

 

 ふと、横合いから声をかけられた。

 

 リュウザキと一緒にそちらに視線を向けると……俺達より、ちょっと小柄な、深い青の髪色のあどけない少年が一人、にこにこと人当たりの良い笑顔を浮かべて此方を見ている。

 なんというか、『無害そうだな~』っていうのが額面から伝わって来るような……とか言ってると、某おどりゃクソ鳥集団とかに捻り潰されるんだけど。マジアイツら、見た目だけはなぁ。ホント、通常召喚権を増やすとかいう……いや、今はいいか。

 

 兎も角、悪い子には見えないという話だ。

 恐らくは、この店の店員さんだとおもわれる……のだが。

 

「あ、えっと……はい、そう、なんですけれども」

「何をお求めですか!」

「あの、えっと、プラモ塗る、絵の具とか?」

「塗料ですね、こちらになります!」

 

 そう言って、男の子は、俺達がいるショーケースの反対方向へと手を向けた。あ、俺達正反対の方向で探し物してたのね……なんと間抜けな事か。店員さんがいなければ、多分五分くらい無駄な時間過ごしてた。ありがとう店員さん。

 

「お二人は、ここをご利用するのは初めてですか」

「あ、はい、そうっす」

「でしたら、ポイントカードをお作り頂ければ、お得にお買い物ができます。おつくりしましょうか?」

「はぁ。じゃあ、後で、お願いします……?」

「はい!」

 

 ……うーん、男子に『可愛い』って使うのも可笑しいけど。可愛いなこいつ。なんかわんこっぽいというか……というか、待て、コイツ……んー。どっかで見た、いや、聞いた? 兎も角、どっちかはしたような、気がするんだが。

 なんだろう、誰かが話をしてたような。そう、ガンプラの話で出て来たんだ。俺がガンプラの話題で覚えてるのって珍しいから、割と直ぐ思い浮かんだ。

 

「……でも、誰との話だっけ……?」

「はい、此方になります」

「えーと、どらどら……うわっ!? オイ、塗料って奴はこんな種類が有んのかいな……!?」

「ウチは比較的品ぞろえは多い方ですけど、それでも、塗料の種類はかなりあります。もしかして、こういったものを使うの、初めてですか?」

「あ、えっと……そう、です?」

 

 あぁそうだ。委員長だ。一緒に昼飯食べた時、有望な男の子がいるって話してたんだ確か。ユウキ先輩にも認められる位の腕だって話してたっけ。

 

「でしたら、そう言った方向けの商品も取り扱っています! よければ、実演してお見せしましょうか?」

「いいんすか?」

「はい!」

 

 そう。ガンプラバトルとかじゃなくて。

 こういう風に、ガンプラを『作る』方面で物凄い腕をしてる、確か……名前は、イオ……イオ……V・HERO ヴァイオン……いや違う、イオ……イオリ……そうだ。

 

「イオリ・セイ」

「――はい? どうしましたか?」

 

 はっとして、大量の塗料のおいてある棚の前の少年と目を合わせる。というかいや本当に塗料多いな、五十とか軽く種類あるんじゃねぇかコレ……じゃなくて!

 そうだ、イオリ・セイ。委員長が、将来『世界大会』でも通用するような凄いガンプラ作りの腕を持ってるって、凄いはしゃいで話してた奴。

 目の前の、この小柄な男子――委員長の言っていた特徴と合致する。

 

「あんた、イオリ・セイ、だよな」

「そ、そうですけど」

 

 目を一度、ぱちくりとさせてから。目の前の男子が頷いた。確認完了。瞬間、この天運を受けたバチリという刺激と共に、俺の頭の中に搭載されたデュエルタクティクスがフル回転を始めた。

 

 ガンプラに詳しい委員長が認める程のガンプラ作りの名人。

 結構純朴そうと言うか、普通に俺たちを案内してくれた上に、ジョーノに塗装の実演まで態々しようとしてくれたお人よし。

 そして、目の前の俺らは……ガンプラの知識に乏しい、ド素人。

 

 その全てが――一つの展開ルートとして、綺麗に一本の線で繋がった。遊戯王的にはサブの展開ルートも欲しいけど……それは兎も角!!

 

「――なぁ!」

「はいぃっ!?」

「ど、どないしたマリク!?」

 

 思わずしてイオリに向けて、掴みかかった……ああいや、当然両肩にぽん、と手を置く程度だ。鷲掴みとかしてない。決して。ホントです……いや、そこはいい。今は。俺の剣幕で圧されてる彼を逃がさないようにすることが先決である。

 

「アンタ、ガンプラについては詳しいか」

「えぇっと一応それなりにはぁ!?」

「そうか。じゃあよ――ちょっとだけ、面貸して欲しいんだわ」

「ふえっ」

 

 出来るだけにこやかに――この最高の『()()』を逃がさぬように。

 




イオリ君かわいいよね
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