遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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幕間:ミヤノ・メイと海
Standby Phase-01 「海水浴」


 ――マリク・リュウザキの二人がエジプトに向けて旅立ったその直後――

 

「――うん。それじゃ。『WWF』の事とか、色々教えてくれてありがとう。そっちも『ネメシス』……だっけ。その件頑張ってね、『お母さん』」

 

「……えっ? 何? 忙しいから、私にも手伝えって……また!? またなの!? もうこれで何度目!? 子供に頼む程って、どれだけ人手足りてないの!?」

 

「嫌かって……別に、ずっと大会のサポートとかして貰ってるし、構わないけど。ただ、ホントに『倫理委員会』のお仕事、大変だなぁって思っただけ」

 

「うん。うん。それで、次は何処? えっと……海水浴場? 温泉旅館? えっ、本当に私に何をしろって……そこに来てる地上げ屋? じ、地上げ屋がガンプラバトルに何の関係があるって……はいはい。分かりました」

 

「……アイツ等に負けてられない――粒子変容の試運転もしたいし。私の愛機の、最後の晴れ舞台にさせてもらうわ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……だからって、ねじ込む事ないじゃない」

 

「……こんな、和気藹々の家族旅行に……っ!!」

「あらメイちゃん、どうしたの? お花摘みたくなっちゃった?」

「あ、いえそうじゃなくて……すみませんお気遣い頂いて」

 

 ……思わず、メイは――乗り込んだ車の中、肺の中から絞り出すように呟いた。

 

 どうしてそんな風になってしまったのか……端的に言えば、凄い気まずかったのだ。

 

「オハナ……?」

「レイジっ!! シッ!! 死だよそこ突っ込んだらっ!!」

「お、おう?」

「い、イオリ君、ちょっと声大きいかもっ……!」

 

――メイが居るのは、高速道路を行く六人を乗せた車の中であった。

 

 その中で楽しそうに話しているのは、誰も彼もメイの知人ばかりだ。同じ学校の後輩のイオリ・セイ。コウサカ・チナに。セイのパートナーのレイジ。そして保護者として、セイの母親のリン子――運転手のラルとは、何ならそれなりに長い付き合いでもある。

 

 故に……今、周りが誰も知らない人ばかりという、普通に考えればかなり厳しい状況とかではない。というか、メイとしてはその程度の事で何を気後れなどするか、という意識の方が強いのでそんな程度では『こう』はならない。

 

「まぁまぁメイ君。そう縮こまる事もあるまい」

「だ、だって……こんな『身内の方』の為の休日のバカンスになんてっ……!」

 

……そう。逆なのだ。

 

 寧ろ、メイは周りにいる全員と知り合いであるからこそ――今、非情に、大変、心苦しくなっているのだ。

 何せ彼女以外の五人は、もう知り合いどころの騒ぎではない。いわばチーム『イオリ模型店』であり、セイとレイジを応援する仲間達である。そんなメンバーでの、予選大会の優勝の副賞としてもらった楽しい温泉旅行――の筈だったのが。

 

 そこに、一応知人ではあるが……レベルのメイが急遽飛び入り参加したのである。

 

「……胃がっ……!!」

 

 ――本来であれば、メイは一人で来る予定だった。

 

 当然だ。これは本来であれば母の仕事……というか用事の一環であり、それを他の他人に手伝ってもらう等、そも理屈に合わないというのが一番の理由である。

 

 だというのに……なんでか、何時の間にやら保護者伝いでリン子に連絡が行っており。

旅行に行く前に態々『~~頃に行くから準備しちゃってね~♪』と、リン子が家にまで来て伝えてくれたのである――母から『少し娘の事をお願いして宜しいでしょうか』というお願いをされた事も含めて。

 

 持ってきてくれたお土産を一緒に食べて改めて仲良くはなったのは取り敢えず良いとしても、リン子が訪ねて来た時、及び事情を聞いた時のメイは、もう宇宙猫にならざるを得なかった。

 

「気にしなくていいのよ、話を聞いた時は『是非とも!』って私からお願いしちゃったんだもの! もー、お母さんの仕事のお手伝いで一人で遠出なんて、いい子過ぎて力にもなりたくなっちゃうわよ~っ!」

「……すみません……本当に」

 

 眩しいまでのリン子の善意に、更に胃を痛めながら。メイはふう、とため息を吐きつつ窓の外に目を向けた。

 

「あ、あの……大丈夫ですか、メイさん」

「……大丈夫……ありがとう、コウサカさん……海、綺麗ね……」

「な、なぁ……メイの奴、大丈夫なのかセイ」

「多分、海で泳げばスッキリする……と、信じようレイジ」

 

 ……キラキラと綺麗な青い海が。周りからの善意が。居心地のいい空間が。

 こんなにも、自分の胸を苛む事があるのだな、と。瞳から光を失いながら、メイは嫌って程に実感させられていた。

 

 

 

 

 

 

「何て感じだったのに……我ながら、ホント現金よねぇ」

 

 ……まぁ、それはそれとして。

 

 持ってきた水着……というよりも、カジュアルにも使えるワンピースにも近いデザインの『スイムウェア』を身に纏い。

 先ほどまで、レイジとかなり本気の泳ぎの勝負に興じてしまっていた事を思いだしながら、メイはため息を吐く。最後の方は一体何で勝敗を分けているかも分からない様な、お互いによるスタミナでのすり潰し合いの様になっていたが、それは兎も角。

 眩い日の下――彼女は、バッチリと海水浴を楽しんでしまっていた。

 

 透き通った青い空、ミルクの様に真っ白な雲、日の光でキラキラと輝く水面や砂浜の理想的な海水浴場は、うら若い少女が浮かれてしまうのには十分過ぎる魅力が詰まっていたのである――ラルさんを埋めた砂山を、思わずして凝った形にしてしまったのも、夏の魔力のせいだ。きっと。

 

 ……とはいえ、それを踏まえたとしても。

 メイ的には、もう少し自分は引きずってしまう様な、それなりには真面目な性格をしていると思っていただけに、この自分の浮かれ具合は彼女にとってちょっとショックな事だったのである――

 

「……まぁ、この後はちょっとした面倒が待ってるし。それまでくらいは、ね」

 

 ――が、それはそれとして。

 

 メイは切り替える事にした。

 もうここまで楽しんでしまった後なのだ。そこからウジウジとするのは無駄の極みとしか言いようがない。例の馬鹿二人と一緒に頑張った後なのだから、自分へのご褒美も兼ねてもう振り切る事に決めた。

 

「そうね……折角だし、もう一泳ぎしてこようかしら――」

「――メイさーん」

 

 ……そんな時。

 

 後ろから聞こえてきた声に振り返る。紺と白の、スカートタイプの水着を翻しながら。此方に走って来るチナの姿が目に入って来た。

 

「あらコウサカさん。どうしたの?」

「あの、イオリくん達がビーチボールやらないかって。それで……メイさんもどうですか」

「そうなの。えぇ。喜んで参加させて貰うわ」

 

 達、とは言っているが。恐らくやろうと言い出したのはレイジの方なのだろうなとは思いつつも頷きを返し。それじゃあ、と言って背を向けて歩き出すチナの後に続いた。

 

 ……ふと。

 前を行くチナの背を見ていると、思う所がある――さて、こんな夏の季節である。妙な遠慮もここまで来たら今更だ。どうせなら女同士で、甘酸っぱい話の一つでもしてみたいという気分にもなる。

 

「――コウサカさん」

「はい?」

「そのイオリ君とは、どれくらい進展したの?」

「…………へっ?」

 

 その一言に――ぴたり、と。チナは歩みが止めて此方を振り向く。目をまん丸にしながら此方を見つめる彼女の頬には、徐々に赤みが差して行って……

 

「ふえ……えっ!? えぇっ!?」

 

 ……あっという間に決壊した。

 

 顔を真っ赤にしたまま、両手をもう残像が出来るレベルの超高速でくねらせながら踊らせる姿は、まるで八本足の蛸の様。ばたばたと音まで聞こえてきそうな、あんまりな慌て様に……思わずくすりと笑いが漏れてしまった。

 序に言えば、分かり易過ぎる。もうそこまで行ったら、言わずともハッキリと言ってしまっている様なモノだ。

 

「その調子だと……くすっ、あんまり進んでないみたいね」

「にゃっ!? にゃにゃにゃっ!?」

「あ、ちょっとまって急に距離を取らないで。大丈夫、敵とかそういう事じゃないのよ」

 

 頭足類から哺乳類にまですっ飛んだ進化を遂げてしまったチナへ、猫よろしく変に刺激しない様にと出来る限り落ち着きを意識して声をかける。が、一度此方への警戒を剥き出しにしたチナ猫は真っ赤になりながら身体を丸めたまま、ふしゃー……とちょっと弱めに、可愛らしく威嚇するばかりである。

 

 仕方ないか、とばかり。もうちょっと話そうと思っていた事を一旦置いておいて。直線的な話題に踏み込むことにする。

 

「えっと。私もね、貴女と同類だから。ちょっとばかり話をなんて……ね?」

「ふー……ぇっ? ど……同類?」

 

 ……その言葉に、漸く真っ赤になっていた頬から少し赤みが抜け。ぐるぐると回っていた目が、漸く焦点を取り戻す。

 

「え、えっと……メイさんが、ですか?」

「えぇ」

「それって……も、もしかしてっ!」

 

 そして、そこから食いついてくる速度も、正しくネコ科の猛獣並のバネを思わせる様なそれで――三間は優に離れていたであろう距離を、一瞬でチナは詰めて来て。メイと視線を合わせて瞳を輝かせる。

 自分もそうではあるが、しかしながら目の前の乙女な後輩もたいがい現金だな……と苦笑しつつ頷いた。

 

「お察しの通りよ。因みに、褐色肌の方」

「お、お二人ともメイさんと幼馴染さん……なんですよねっ!?」

「えぇ。まぁ正直腐れ縁って言うのが一番近いけどね」

「わぁっ……!」

 

 きらきらと目を輝かせるチナ。実際は、其方ほどキラキラとしたモノではないのだけれどね、とは思いつつも……敢えて口には出さなかった。野暮極まりないだろう、と。

 

「あ、あのっ……ど、どんな所が?」

「……んー、どんな所、ねぇ」

 

 さて、それは兎も角、どんな所がか。

 

 我が幼馴染ながら、あまり褒められた部分は余りない。それが率直な感想だ。

学校では問題行動ばっかりで自分に何時も追い回されている。没収したデッキを取りに来たのだって、一体何回目だったかという話である。

 なんなら、もっと昔だってまぁ自分の趣味に没頭するばかりの悪ガキで――

 

『――これ、やる! だから……泣くのやめてさ、遊ぼうぜ!』

 

 ……まぁ、カッコ良かったタイミングだってなかった訳ではないが、と。今も耳に付けている、安っぽいプラスチックのアクセサリを指先で撫でながら、思う。

 全く、今の服に合わせる為と、似た様なデザインでもうちょっとしっかりとしたモノを探す事になった事は、我が事ながら……本当に。

 

 いや、昔だけじゃなくて。今も……どうだろうか。

 自分の趣味の為に頑張ってる所などは、メイ的にはずっと見ていても全然、飽きなかったし。エジプトに跳ぶ直前まで、ガンプラの調整に真剣になっていた姿も結構鮮明に覚えている。

 なんなら、自分が大会の為に準備を進めていた『新型』についても、まぁ色々と相談に乗ってくれた時なんかは……

 

――そこで。

 

 漸く腑に落ちる答えが、浮かんで来た気がした。

 

「……何処がってのは無いわね」

「えっ?」

「なんだかんだ、全部だと思う。ダメな所も……良い所も、ね」

 

 その直後……チナの顔が、一瞬で真っ赤になっていく。

 まぁ、えらい事を言った自覚はメイにもあった。まるで熟年夫婦染みた言い方、彼女自身恥ずかしくない訳がなく……同じくらいの勢いで顔が熱くなっていくのが分かる。

 ただし、それでも訂正はしなかった。これに関しては、絶対に嘘を吐きたくなかった。とはいえ、頬を掻きながら僅かに視線を逸らしてしまう事くらいは許して欲しい。

 

「す……凄すぎる……っ! わ、私も、イオリ君と、それくらいのっ……!」

「あ、あの……そんなに感動されても困るのだけれど……もう」

 

 ……いや、なんなら。この後に逆襲代わりに、イオリとの事を聞いたって良いだろう。そう言う話の場だと分かっていて尚、向こうから突っ込んできたのだからと、メイは心の内で悪い笑みを浮かべた。

 

 この後のバレーの予定は少しずれこむことになるやもしれないが、仕方ない。根掘り葉掘り、じっくりと聞かせて貰うとしよう。

 




そろそろ……派手なガンプラバトル、書きてぇなぁ……(チャージ開始)
そろそろ……独自設定、組み込んでいきてぇなぁ……(先打ち増G)
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