遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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Standby Phase-03 「作戦会議中」

「ら、ラルさん……メイちゃんと、あのタツって人と、どういう関係なの?」

「……簡単に申し上げればですね、リン子さん。辰三にとって、彼女は自らの天敵とも呼べる相手の、娘なのですよ」

「ミヤノ・マイさんと彼の間に、何か?」

「三年前――辰三が出場した世界大会には、マイちゃんも出ていたのですよ。そしてそこで辰三は……マイちゃんに、惜敗を喫した」

 

「……それだけならばまだ良かった。あやつも、マイちゃんという強いファイターに出会い更なる灼熱を燃やしていた。しかし……その直後の発表が、辰三の内に燃えていた思いを燻らせる事となった」

「それって……まさか」

「えぇ。その頃にはもう、ミヤノ君……ミヤノ・メイ君も、世界大会へ進めるだけの実力を有した立派なファイターとして成長していた。マイちゃんは、その大会での敗北と娘の成長を機に――しかし、世間から見れば酷く、突然に」

 

「引退を発表したのです」

 

 

 

 

 

 

「――良かったの? 世界大会の前なのに。調整に集中しなくても」

「そ、それはミヤノさんも同じことじゃないかな……」

 

 そう言われてはぐうの音も出ない。

 とはいえ……本来、辰三との戦いは、メイ一人で行うつもりだったの所に、突如としてレイジ、セイ、マオの三人も加勢するという話になっては、問いたくもなるというモノ。

 

「それに、ここで世界のレベルを知っておくって言うのは、悪くない事だと思うし」

「はっ、アイツには中々な挨拶を貰ったからな。横取りはさせねぇぞ、メイ」

「ボクも、この旅館の……ミサキちゃんの一大事と成れば黙っていられません! まぁメイはんに殆どええ所は持ってかれてしまいましたけど……」

 

 そんな問いかけにも、彼らは寧ろ強く返事を返して来て。これ以上は野暮だな、という結論は、彼女にガンプラの調整へと意識を集中させる事を選ばせた。

 

「それなら構わないけど……それと、ヤサカ君」

「え、なんでしょう?」

「女の子は、ピンチを救ってもらうよりも、もっと。辛いときに寄り添って貰えた方が嬉しいものなの。竹屋が大変なのはこの後……ちゃんと連絡先交換して、色々アドバイスとか乗ってあげなさい。手先の器用さなら、誰にも負けないでしょ?」

「……っ……な、成程……っ!」

 

 ……ついでに、純情な京都少年にもちょっとしたアドバイス。珍庵和尚に、少しでも借りと恩を返せるように。それに。力になりたい、というその真摯さには男女関係なしに応援してあげたくなる魅力があった故に。

 

 後は……辰三達の『調整』が終わるまでに、どれだけガンプラの仕上げが出来るか。

 関節に違和感、塗装漏れ、組の甘さ等が無いか……畳の上、腰を据えてじっくりと隅々まで確認作業――と。

 

「そういやよ、メイ」

「どうしたのレイジ君」

「いや、さっきアイツ等の方ちょっと覗いて来たんだけどよ……中で『Gシステムの試運転だ』とか言ってたのは、何だったんだ?」

 

 ――その言葉に、ガンプラをなぞるメイの指の動きが、止まった。

 

「……レイジ君、それ本当?」

「あぁ」

「Gシステムって……確か、最近話題になってるっていう」

「はい。ガンプラの『カスタマイズ』が素人でも手軽に出来るっちゅう機械ですわ」

 

 ……ガンプラは、『素組み』と呼ばれる、売られているそのままを説明書に従って組む段階までなら、初心者も十分に楽しめるコンテンツである。

 しかし、そこから一歩進んで、更に自分の好きなカラーリングに塗装したり、デティールを上げる為にパーツに加工をしたり、複数のガンプラを組み合わせるカスタム方法の『ミキシング』に手を出すとなれば……その難度は大きく跳ね上がってくる。

 

 そう言った素組みから一歩進んだ経験者レベルの工作の敷居の高さ――それを何とかする為の試みは、ここ最近のガンプラ界隈で幾度も行われてきた。

 

 ……そんな、初心者参入の高い壁を破壊する為の大きな希望の一つとして、ここ最近注目され始めているマシン――というのが、メイが知っている、世間が『Gシステム』に対して抱いている『イメージ』である。

 

「へぇ~……俺でも作れんのか?」

「うん。確か……塗装に、簡単なミキシング、それにバックパックに追加武装を付けたりとか、そのレベルが始めたての初心者にも出来るようになるって触れ込みだったよ」

「マジかよ!? すげぇな……」

 

 ……それに加え、ディティールアップに関しても、ミキシングを行うだけのパーツを作る段階で最低限は保証されるオマケ付きだ。

 

 要するに、『初心者完全脱却』レベルの代物が、ガンプラに慣れていない初心者や、バトル自体は得意でも工作は苦手というファイター達にも作れるようになり――その先の段階へ移る為の、いわば『補助輪』としての役割も期待されている。

 

 その凄さを、レイジはキチンと理解してくれているようだった。想像よりも、もっともっと真摯にガンプラバトルに向き合ってくれているらしい。倫理委員会に連なる者として、なんだかそれが嬉しかった。

 

「……ん? でも待てよ、それをアイツらが持ってるって事は……?」

「少なくとも、あの取り巻き二人が使って来るガンプラは、初心者のそれとは出来が違うレベルの代物、と思っていた方が良いんじゃないかしら」

「それは……かなり厄介だね」

 

 ……それは置いておいて。

 

 セイが、顔を顰めながら口元に手を当てて考え込むのも当然だった。

 ガンプラというのはビルダーの作り込み次第で性能が大きく変わるのだから、その部分に容易に下駄を履かせる事が出来てしまう……というのは、戦う相手側から考えれば分かりやすい脅威。

寧ろ、ビルダーとしてはこの中でも屈指の腕利きであろうセイだからこそ、それがどれほど厄介なのかを正確に把握できている――というのもあるかもしれない。

 

「――関係あらへん!」

 

 ……しかし。その直後、僅かにセイにかかっていたそんな重たい空気を、威勢の良いマオの声が拭き散らした。

 

「いくら下駄履いた言うても、ワイには分かります。セイはんが積み上げて来た経験からしたらそないなもん、鼻紙みたいなもんですわ!」

「マオ君……」

 

 それは、ガンプラ心形流のマオからすれば当然の事だったのだろう。互いのガンプラを見せ合って、認め合ったビルダーだからこそ――堂々かいた胡坐の上、拳を握って熱く断言出来たのだろう。セイの努力は、多少の下駄程度でひっくり返せるものではないと。

 

 ――そして。セイのビルドの腕前を良く理解しているのは、マオだけではない。

 

 マオの言葉に、何より深く頷いたのは。セイの隣のレイジだった。

 

「あぁ、そうだな――セイのガンプラは、マジで最高だ。それなりの出来のガンプラじゃあ逆立ちしたって、敵いやしねぇ」

「れ、レイジ迄」

「それに、そのガンプラを操るのは……俺だ。セイのガンプラ使って、あんなチンピラに遅れなんかとるかよ」

 

 自分と、セイのガンプラがあれば、誰にも負けない。部屋の柱に、実にリラックスした様子で背を預けた相棒からの、頼もしい一言――セイの曇っていた表情が、すぅっと晴れて行くのが、メイからもハッキリと分かった。

 

 頼もしいメンバーだと思う。実際、マオやセイ、レイジの三人と自分のチームで、三対三のチームであれば、戦力的には過剰戦力と言って良いかもしれない。相手は、一人は世界大会で切磋琢磨した実力者とはいえ、他二人はどう見繕っても野良試合のレベルの領域を出ないと見て良い。

 

 ……しかし、不安要素が無い訳ではない。

 

「――えぇ、実力では私達の方が上ね」

「だろ? ほら、メイもそう言ってるし――」

「……でも、油断は出来ないわよ。辰三自体は、間違いなく世界レベルの強敵だし。それに加えて……相手は、Gシステムを使って状況に応じて機体を変えられるっていう、大きなアドバンテージがある」

 

 ――その一言に、部屋の空気がピンと張り詰めたのが分かった。

 

「そ、そっか……向こうは、機体を作戦の内容に『最適化』して戦えるのか!」

「チーム戦じゃかなりデカいアドバンテージや……アカン、そこは盲点やった!」

「……え? どういう事だ?」

 

 ……正確には、一人を除いて、か。

 

「レイジ君。基本的に、セイ君やマオ君の作ったガンプラは一点もの。それは分かるわよね」

「そりゃあそうだろ」

「でも向こうにはGシステムがある以上、ある程度は機体に『幅が利かせられる』の。そうね……此方は個性豊かな名剣が三本。でも向こうは槍や弓、盾やナイフと、大量生産品とはいえ、種類を自由に選んで戦える、って言えば……分かるかしら?」

「……っ!」

 

 とはいえ、レイジも頭が悪い訳ではない。ある程度かみ砕いて説明すれば、こうして相手の脅威をより正確に理解できたのだろう。二人と同じ様に、顔色が変わったのが分かった。

 

 確かに、単純な質で、そして真っ向から打ち合わせたなら……此方が十回やっても十回勝つのは当然だ。しかし……相手が、盾と槍、弓を組み合わせ、チームとして向かって来たのなら、話は大きく変わって来る。

 それぞれの凸凹の弱点を補い合って、見事な『円』を描いたチームは、間違いなく強敵と言ってもいい。しかも……その中核を成しているのは、灼熱の如き荒々しさで世界大会を戦い抜いて来た怪物である。

 

「考えられる中で一番分かりやすくて厄介なのは……エースの辰三を活かす方向の戦術になるかしら。二人は補助に徹して、エースの力で全てを押し潰す」

「多分、そっち方向だと思います。時間もあんまりないんや、凝った事は出来ません」

「じゃあ僕らは、あの辰三って人に一点集中するか、サポートの二人を先に叩くか、のどっちかになるのかな」

「んなもんアイツをぶっ飛ばす方に決まってんだろ」

 

 ……が。

 

 三人の視線の先で――それでも、レイジは怯まない。目の前の脅威を認識しても尚というべきか。

 

 よっぽど腹に据えかねているのだろう――当然と言えば当然か。彼にとっても楽しいバカンスだった処に、急に事故一歩手前の危険運転、横暴な態度も態度に据えかねていると見える。旅館に対してのやり方も気に入らないだろうか、彼にとっては。

 

「……相手は、世界クラスの強敵よ?」

「それがどーした――これからそこへ挑むんだぜ。どっちみち、アイツにビビってなんかいられるかよ」

 

 何処か浮世離れした空気を薄皮一枚に纏ったその奥では、劫々と焔が燃えている。腐った暴風に煽られ、最早全てを呑み込む程の『火災旋風』と化しているであろう――このやる気を削ぐのは得策じゃない。

 

 その熱には、『覚え』がある。

 普段から『情熱』だけで爆走している馬鹿二人を見つめて来た彼女だからこそ。その思いの力は、決して軽視できるものではなかった。

 

「――良いわ、それなら逆にこっちは作戦なんて捨てて行きましょう。ただ真っ向から叩き潰す。ターゲットは辰三だけ。シンプルに、ね」

「お、おぉ……ええんですか、それ?」

「即席の連携に頼るよりは、それぞれのポテンシャルとやる気を最大限に活かした方が良いと思うし。それに……ヤサカ君も、かなり腹に据えかねてるんじゃない?」

 

 ……マオは、曖昧に笑いを返して来るが。そうして細めた瞳の奥は、全く笑っている様には見えない。その上で、特に何も口にしないという事は了承と取る。

 

「イオリ君も、それで大丈夫?」

「うん。どうせ、レイジはこうなっちゃったら止まらないし」

「ありがとう――そっちも大変ね」

 

 何時もこんな感じ。とでも言いたげなセイの表情に、思わずそう零した所で、セイが少し照れくさそうに頭を掻いた。

 

 相手の方が連携がしやすいのは確かだろう。

 しかし……此方のチームとて仲が悪い訳でもない。最低限、互いを活かす事さえできれば負ける事は先ずないだろう。

 

 後は……

 

「……私の目的が果たせるか、かしらね」




まだまだ独自設定は止まらねぇ……っ!
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