遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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Standby Phase-05 「迷宮への誘い」

 ――戦いは、持久戦の様相を呈していた。

 

「……」

『ちぃっ……ちょこまかと!』

 

 メイが渾身の屍鬼の打撃を叩き込めたのは――相手が自分を見失った、その一瞬の隙にしっかりを『タメ』を行う事が出来たからである。そして、一度大技を食らって生き延びてしまった以上。世界大会を経験したファイターである『灼熱の辰』が、そこを警戒しない訳もない。

 基本的に、短いチャージからの中距離散弾の連打、連打、連打――戦いは既にビルの屋上から、地上へと移り。限定されたシティの道路上での追いかけっこへと変わっている。

 

 ドラゴンガンダムをベースに、単純に殴り合いに特化させたのが『影鬼』である。

その特性を強く受け継いでいる『屍鬼』ならば……隙をついて一撃入れる位はそう難しくもないのは、間違いないが。

 

『まぁいい――あの一発さえ貰わなければ、ドラゴンガンダムの乱打など、物の数ではないわっ!』

 

――問題は、元のドラゴンガンダム自体が、身のこなしに特化した機体である事。

 

如何に殴り合いに特化させているとはいえ、やはり同じMFのボルトガンダムや、ゴッドガンダムに、一発の重さは及ぶべくもなく。威力を出すには『タメ』が必須になって来てしまう――増してや相手は、溜め有りの一撃とて、取り敢えずは耐えたアプサラスだ。

 生中な乱打など『散弾ではなぁ!』で終わってしまうだろう。

 

 それを、両者ともによく理解している。故に――辰三は臆せずしてメイに対して攻勢を仕掛け続ける事が出来、メイもその猛攻に晒されるばかりに甘んじている。

 

 とはいえ、だ。

 

「――おかしな話ね。そんなに威張り腐って」

『……何?』

「貴方の攻め手の温さが変わった訳でもない。だのに、もう討ち取った気でいるなんて」

『っ……!』

 

 アプサラスの速射の散弾も、屍鬼を相手に有効打にはなりえていない。身のこなしに特化させたドラゴンガンダムを、更に近接戦闘での殴り合いに特化させたのが屍鬼である。ただ攻撃範囲の広いだけの砲撃を、避けられない道理はない。

 

 メイとしては、このまま敵からの砲撃を避け続け、相手のエネルギー切れを狙ってしまっても良いまである。それだけの余力がある。

 そこから繰り出される挑発染みたその一言に――ばしゅう、と。『白と黒』の煙を噴き出しながら、アプサラスⅢが前進する。

 

 廃熱か――此方へと近寄るその姿に、ぴくりとメイの片眉が上がった。

 

『――ほざけ』

 

 一喝と共に、再び吐き出される光の雨――再び、落ち着いて範囲から跳び下がる。

 

 それを追うように再びアプサラスⅢの巨体が、再びじりじりと前進を始める。ビルに挟まれた道路の上を、まるで此方に迫る壁の様。

 

そこから繰り返し放たれるのは……余りにも愚直な連射。

数を打てば当たる理論、にしても杜撰に過ぎる。自棄を起こしているのかと思う様な単調な攻勢だ。万が一にも袋小路に追い込まれるなどの事態でも無ければ間違いなく避け切れる。光の弾丸が直撃すると共に、不意に振って来る瓦礫の方が、脅威とすら言えた。

 

……より正確に言うのであれば。

気にするべきは、そうして落下した瓦礫と共に巻き上がる粉塵や、破壊された街並みの火の手と共に上がる黒煙による、視界不良の方ではあるか。

開けている場所なら兎も角。都市だけあって、この辺りの道路は左右にずらりと建物が並ぶ、比較的閉鎖的な空間だ。どうしても淀んだ空気が溜まって行ってしまう。

 

結果として……画面に映る視界の四分の一程度を、既に黒煙や粉塵が覆っており。時折吹き込む風にあおられた煙が広がり、視界の半分近くまでを潰してしまったタイミングすらも存在した。

 

「……本格的に目で見るのが厳しくなってくるのも、時間の問題か」

 

如何に単調な攻撃とはいえ、完全に視界を覆われた状態では、そちらの前兆を察知する事も難しくなってくる――そろそろ、戦場を一旦変えるべきだろうか。周りに漂う薄墨の霞は、段々と濃さを増している様な気すらしている。

 

本来のドラゴンガンダムであれば、吐き出した焔で舞い散る煙を、一気に吹き飛ばしてしまう事も不可能ではないのだろうが。

生憎と屍鬼は打撃戦特化。先程の様な剛拳一発で煙を一気に散らそうにも、やっぱり貯めという物は必要になってくる訳で……やはり、何の準備も無しに隙の大きい大ぶりの一発を放つというのも。

 

「……タイミングとしては、頃合いかしら」

 

ぽつりと呟く。緑の機影の双眸が、一瞬。自らの下がっている道路の後方の街並みを確認するかのように、明後日の方角へと逸れ――

 

『掛かったなっ!!』

 

 ――その直後。

 

 アプサラスⅢの前面、小型のコンテナらしき部分が開き、何かが射出された。

突如として焔の中の屍鬼へと飛来するのは――まるで壺の様な形の浮遊体。白い身体から伸びてくるワイヤーが、まるで鳥籠の様な形となって。僅かな隙を突いて、屍鬼のその身体を包み込む――

 

『これが、俺の『灼熱』! もう貴様は――』

 

 しゅぱん

 

『終わり――だ?』

 

 ――事も無く。

 

 アプサラスⅢに搭載されていた特殊兵器『アッザム・リーダー』から電流が走る、その直前。丸みを帯びたその本体が、突如として真っ二つに切断された。

 屍鬼の頭部から伸びた――弁髪刀の一振りによって。

 

「……舐められたものね」

 

 廃熱に見せかけた『ガス放出』。その後も、周りに漂う煙や粉塵に忍ばせるように、こっそりとガスの濃度を上げ続けていた。あの単調な力攻めは、ほぼ全て前振り。

 アッザム・リーダーの電撃と、機体に付着しているであろうガスが反応すれば――間違いなく、防ぎようもない強烈なダメージになっていただろう。

 

 今になって、漸く敵の狙いも全て理解出来た――そしてその上で、敵方の狙いが全て理解出来ていない、あの瞬間であっても。

 視界不良の中、一瞬だけ見えた白い影。その形状と、飛んでいった方向から、凡その当を付け。半ば『捨て行動』も覚悟して自分の視覚の外を、頭部の刀で切り払った。

 

「あんな単調な攻撃ばかり繰り返されて――警戒しない訳ないでしょ。かつては世界大会を戦い抜いた猛者を相手に」

『……貴様ぁっ!』

 

 ずっと、静かに気を張っていたのが、功を奏したと言えた。

 

 お陰で、本来のアプサラスに搭載されていないであろう、アッザム・リーダーとガスのコンボという奥の手を引きずり出し……何とか対応する事にも成功した。

 単純な火力と、そこを補う搦め手。ビームに対する耐性に加え、限定的とはいえ実体のダメージに対する軽減手段も持っていた――アプサラスⅢのその巨体に対し、世界と戦う為の武器を詰め込めるだけ詰め込んでいると言って良い、完璧な仕上がり。

 

 決して油断は出来ない相手である事は依然確かではある……が。

それでも敵の機体の『底』は見えた。後は、どう詰めて行くかである。

 

「――」

 

 先程、背後を確認した所……この先は、左右へと逃れられるT字路だ。

 此方から『仕掛ける』のであれば――そこか。

 

 決めたのであれば……即行動。相手が撃つよりも早く、自分から大きく距離を取る。それこそ――自分が貯めを伴う一発を仕掛けるのにも、相手のアプサラスが大技を仕掛けるのにも、最適な間合い。

 ゆっくりと迫るように動こうとしていた巨体が、止まる。

此方を見据える、モノアイの先で……敢えて、見せつけるように、ゆっくりと拳を構えて見せる――これから、お前と戦ってやる、という。分かりやすいファイティングポーズ。

 

 僅かに、声が漏れ出たのが聞こえた。

 

『あ、あの……あの女の娘が……っ!』

 

 明らかな苛立ちだった。

 

『虚仮にするか……この、俺をっ!!』

 

 ザクの頭部の下、再び光が灯る。今度は……効果の薄い散弾ではない。目の前に広がる道路諸共に、全てを焼き尽くすつもりだろう――先程、幾つものビルをいとも容易く両断して見せた、あの最大出力の熱線をもって。

 

 今から、自分も全開の一撃をもって迎え撃つか。いや、ここまで距離を大きく取ったのである。流石に此方が最速で踏み込んだとしても、熱線がこの辺りの通路諸共に自分を焼き尽くす方が、早い。

 

 故に……自分が出来るのは、その最大出力の、『虚』を突く事。

 

「――」

 

 一つ呼吸を入れる――まだ、だ。

 

 もうそろそろ発射される頃合いではあるだろう。しかしまだ、まだだ。機をじっくりと見極めなければ。目の前の敵相手に、最大限のリターンを求めないのは愚策。

狙うのは、もう相手が後戻りできない、攻撃を放つしかない――という、その一歩手前である。ゆっくりと――構えた屍鬼の両腕を、丁度ボクシングでのピーカブースタイルのように、ぐぐっと胸元に引き付けて行く。

 

 ちらり、と。画面から一瞬、手元へ――表示されたホログラム、武装の表示欄を確認。カーソルを合わせてから再び画面へ視線を戻す。一秒もかけていない。上等。

 

アプサラスⅢの孔へとエネルギーが収束する――まだ。

どんどんと、メガ粒子の輝きが増大していく――まだ、まだ。

耳に聞こえる、ばちりと電流の走る音が、背中に冷たいものを走らせる――まだ、もう少しだけ。

 

『――舐めるなよォおオ゛っ!!』

 

 そのモノアイが――確かに、此方を捉えた。

 

「――舐める訳ないでしょうがっ!!」

 

 直後。

 

引き付けていた両腕を、備えていた頭蓋型の手甲を盾にする様な形へと。三つに並んだ異形の瞳を模した赤い宝玉を、真っ直ぐに敵の方へと向ける。

コマンド入力。実行――宝玉に鬼火の様な光が揺れる。

 

 発射直前。攻撃中断が出来なくなるポイントの、瀬戸際。そこへと突きつけるこのカウンターは――この屍鬼の『切り札』。

 宝玉に揺れる光は、相手の破壊の閃光よりも一手早く、それぞれに満ちて行く――それぞれに宿るは、青、緑、赤。そして。

 

「『LWS』システム、作動ッ!!」

 

 瞬間。

 

『ぐぉおおぉお――!?』

 

 二機の間を、メガ粒子の熱線より尚も眩い太陽の如き閃光が満たしていく――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なんだっ、今のは……目くらましかっ……舐めた真似をっ!」

 

 一瞬。画面越しにも眩しくは感じたが、それでもガンプラバトルは画面越しに景色を見ている関係上、本当に目が潰れるという事はあまりない。

 直ぐに体制を立て直した辰三は、怨敵の姿を改めて視界に捉え直した。

 T字路の真ん中、ビルの前に、いまだ手甲を盾にする様にして立ったまま――これを狙っていたのだとすれば、間抜けとしか言いようがない。大した効果を上げても居ないというのに此方の動きを止めたと油断して、そこに立っているなど。

 

「慢心だな――高くつくぞっ!」

 

 もう既にチャージは終わっている。逃げ出す為の姿勢ならばともかく、がっしりと何かを受けるように腰を落としたその恰好では、ドラゴンガンダムの素早い身のこなしという長所も、半減が良い所だ。

 

 今なら、当たる。そんな確信をもって、改めてトリガーに指をかけ――

 

『……』

 

 その直後。

 

『――』

 

 ――ぞぶり

 

「…………はっ?」

 

 異変は、起こった。

 

 視界の先。ビルの前でゆらりと直立の姿勢を取った異形のドラゴンガンダム。

 それが、突如として背後へと、倒れ込むようにバランスを崩した――そう、それだけ。他に、何かおかしな素振りをした様には、一切見えなかった。

 

 だというのに。

今、ドラゴンガンダムは、その背後の建物へと……()()()()()()()()のだ。

 

 背中の触れた部分から、粒子で形作られた筈の建造物が、まるで清水を蓄えた水面の如くに『波打った』かと思えば――その身体を、呑み込んでいっているのだ。

 体の半分を、弁髪刀から、そのフェイスパーツを、そして――最後には、その腕の異形の頭蓋と、足先に至るまで、ドラゴンガンダムの機体の、全てを。

 

「な……あっ……?」

 

――とぷん

 

「……」

 

 ……そうして。

 

 思わず、伸ばしてしまった手の先で――ドラゴンガンダムは、背後の建物へと、完全に沈み込んでしまって。

 辰三の目の前から、きれいさっぱりと姿を消してしまったのだ。

 




ビルドモンスターズしてないと思っとったやろ……ビルドしちゃってるんだなぁコレがァ!!
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