遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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Standby Phase-06 「迷宮に潜む屍鬼」

「――そこだっ!」

 

 レイジの咆哮と共に、ビームライフルから放たれる、二条の砲撃。

その内の一本が、眼前から逃れようとしていたグフの片割れ――その最後に残った、一門のガトリングを撃ち抜く。

 後に残るのは、弾けて歪んだ無惨な砲塔の残骸――自らの火力の不足を補っていた武装が使いものにならなくなった事に、取り巻きの一人が苛立ちを隠しもせず舌打ちを一つ。

 

『クソっ、ガトリングがぁっ……!』

『落ち着け、もう一回、奴らを挟み込んで、もう一度『電流網』を成功させちまえばっ!』

 

 これで……漸く、二機のグフ・フライトタイプの火力の要たるガトリング、計四門を全て破壊出来た――痺れた機体で鈍ったガンプラの動きでも、慣れていない機体の、外付けの武装ならば、というセイの読みは、見事に当たった。

 

 ガンプラというのは、一朝一夕で使いこなせるものではない。

 そこから行くと、対戦していたあの二人は、ファイターとしてもそれなり程度な上、機体の『使い方』自体はある程度把握していても、真にガンプラの特性を理解し、使い熟しているとも言い難いレベル。

 本来であれば、自分とレイジ、心形流のマオと、一級品のファイター揃いの此方のチームに対抗など出来ない……筈だったのだが。

 

「はっ、もう『痺れ』も抜けて来てんだぜ?」

「ミサキちゃんの前であないな醜態はさらさへん!」

 

 厄介だったのは――敵方二人の使う、ヒート・ロッドとウミヘビの二刀流。

基本は四門のガトリングによる一斉射撃で近寄らせず、頃合いを見計らって二対一に持ち込み、四本の鞭による包囲攻撃。避ける隙すら与えず、一機ずつ動きを鈍らせて狩る。

一回でも型に嵌められてしまうと、打開する事が難しくなってしまう戦い方。

 

 詰みの状況から……何とか打開に成功したのは、そんな状況でも粘り強く戦い、セイの狙い――相手から火力を少しずつ奪い、持久戦において此方の有利を少しでも勝ち取るその策を、レイジとマオが見事に熟してくれたから。

 

「良くもまぁ――好き勝手やってくれやがったなぁ……!」

「ガンプラ粒子の変容技術――それは、そっちだけの芸当やあらへんわっ!!」

 

 最後の悪あがきとばかり、グフ達が残った武装であるヒートロッドとウミヘビを構えた時には――もう、遅かった。

 

 レイジが一気呵成にビルドガンダムを突っ込ませ、ビームライフルで足のブースターを撃ち抜いて。相手の機動力を奪った灰色の機影は……そのままスラスターを吹かして上へと抜けていく。

 自分の後から飛んで来る、最強の『二の太刀』に巻き込まれてはたまらない。セイとしても、自分の作のガンプラが『消し炭』になるのは避けて欲しかった。

 

 そして。

 

「ド派手に決めたる――ガンプラ心形流の正統後継者! ヤサカ・マオ!」

 

「舐めんなやぁッ!!!」

 

 大剣の切っ先を向けるかのような堂々たる構えから放たれるは――粒子の変容技術、アプサラスⅢのそれが『守り』ならば、コレは『攻め』への応用。

 月が無くても関係ない。背中の羽のソーラーパネルでプラフスキー粒子を吸収させ、莫大なエネルギーへと変え。今、眼前の敵へと――

 

「ハイパーサテライトキャノン! いてまえぇえええええっ!!」

 

『『う、うぉおおおおっ!?』』

 

 最早、脚を奪われたグフ・フライトタイプでは、その射線上から逃れる事も叶わない。

 巨大な嵐の如く吹き荒れる、青いエネルギーの奔流は、文字通りに一瞬で二機のガンプラを呑み込んでいって――そして。

 

 その後には、敵対者たちの欠片すらも残さなかった

 

「……え、えげつねぇ」

「これが……マオ君の、ガンプラ」

 

 ……原理こそ理解できる。

 

 しかし、粒子変容技術の応用と、ガンプラの性質の融合のレベルの高さは。

世界への切符をレイジと共に勝ち取った、今のセイを持ってしても、目を剥いてしまう程の超高度な物。

 

 全身より高熱由来の蒸気を立ち上らせるその機体の迫力に……思わず、息を呑んでしまった。彼のガンプラは、世界大会で戦ったというあのアプサラスⅢすらも凌ぐほどの完成度を誇っているのではないか――と。

 

「……」

「はっ、震えが来るじゃねぇか……ん?」

 

 ……そこで、レイジが何かを思い出したかのような声を上げ――顔を青ざめさせた。

 

「やべぇっ、メイの奴はっ!?」

「「あっ……!?」」

 

 ――思い出した。

 

 そうだ。あのX魔王と比較になるレベルの強豪と、彼女は単騎でしのぎを削っている最中だったのだ。

 

「ま、マオ君っ! ミヤノさんの援護に!」

「分かっとります!」

 

 多少のダメージこそあれど、今だMk-IIもX魔王も健在。再びスラスターに火を入れ直し、二機のガンプラが飛翔する。

 

 先ほど二機が居たのは、高層ビル群の上空だったが……しかし、その辺りまで飛んでいったものの、二つの影は何処にも見当たらない。滞空しつつ、周辺を見回していた所で。

そこから離れた大通りの辺りで、漸くその内の一機を見つける事が出来た。

 

「あ、あそこだっ!」

「あのオッサンのアプサラスやっ! せやけどっ……」

 

 未だ空に浮遊するのは。遠目からでも目立つ、アプサラスⅢの背中。

しかし……その近くには、メイの操るドラゴンガンダム・屍鬼の深緑の姿は何処にも見当たらない。レイジの舌打ちの音が、ハッキリと聞こえた。

 やられてしまったのか、と。そう思った――直後の事。

 

――ゴ ウ ン ッ !

 

『がァっ……!?』

 

 その巨体が――弾かれるように、背後へと吹き飛んだ。

 

「あっ」

「今のは……っ!」

 

 そして。ぐらつく巨体の影から飛び出して来たのは。そのMAを豪快に殴り飛ばして見せた張本人、細身のMF。

 弁髪刀を揺らすその姿は――まごう事なき、ドラゴンガンダム・屍鬼。

 

「無事やった!」

「良かったぁ……」

「……ヤロウ。ピンチどころか、派手にやってるじゃねぇか」

 

 くるくると回転しながら――そのまま、先程のようにビルの屋上へと着地した屍鬼。其方へと、ゆっくりとアプサラスⅢが向き直る。セイ達の視線に晒された装甲は……何処もかしこも酷い凹みが目立ち、無惨な有様を晒している。

 

 一方、屍鬼の方はと言えば。多少、煤に塗れたり、塗装が剥げたり、としている部分はあるが……大きな傷を負っている様には到底見えない。

 激戦の残り香は、あまりにも濃厚に漂っていた。そして……その勝負の主導権を、メイの方が握っているという事も、はっきりと。

 

『お……おのれっ……妙な技を、使いやがってぇっ!!』

 

 アプサラスの砲に、メガ粒子の光が宿る――続いて吐き出された散弾は、屍鬼へと浴びせかけられるも、MFの素早い動きには付いていけていない。

 というよりも、幾つもの痛打を受けて、自慢の砲台もマトモに機能していないのやもしれない。放たれた弾丸の数は、明らかに少ない上に、狙いも定まっているように見えない。

 

 華麗なバク転と共にその範囲から逃れた屍鬼。その身体がビルのヘリから宙を舞う。くるくると回りつつ、通りを挟んで一つ向こうのビルの壁面へと身を躍らせて――その指先を突き立てながら、壁面に片膝を立てるようにして着地する。

 直後、屍鬼を追って、アプサラスⅢが通りの宙へと姿を現し……

 

『――っ!? ま、またかっ……建物毎砕いてしまえば、何処へ逃げようともっ!!』

 

 その姿を目にした途端。様子が明らかに変わった。

怒りではなく……明らかな動揺で声を震わせ、再びエネルギーをチャージし始める。その姿に――僅かに違和感を覚える。

 

此方から見る限り、彼女はビルの身体にぶら下がったまま、何か特別な事をしている様子は見えなかったのだが。焦燥に駆られるように、射撃体勢を整える事すらせずに速射。

態勢が不安定ではあるが、壁面からでも十分に高機動を発揮できるMFを相手に、ロクに狙いを定めずに範囲攻撃のゴリ押しというのは……

 

 その違和感に従うように、視線を屍鬼の方へと戻した――と。

 

「――あ、あれっ?」

 

 その姿が、何処にも無い。

 

 瞬きする程のほんの少し前まで、壁の側面にくっついていた筈。しかも、壁を蹴った様な音もまるで聞こえなかったというのに……音もなく、その姿が消え失せている。

 その疑問に答えたのは……マオだった。

 

「……ミラージュコロイドや」

「えっ!?」

「あのドラゴンガンダム、ミラージュコロイド……ちゅうより、光学迷彩を搭載しとる。ワイやあの辰三とかいうオッサンと同じ。ガンプラ粒子の変容技術の応用」

 

 ……となると。あの異変、というか、狼狽え球ならぬ狼狽え弾は、ミラージュコロイドで姿を消される前に叩くための物なのか。

 しかし、それでも違和感が残る。光学迷彩、というだけならば……『建物毎』やら、『何処へ逃げても』という、あのあからさまな動揺に、違和感が残るというか。

 

「……いや、それだけじゃねぇな」

「えっ?」

「セイも、そう思ってんだろ」

 

 ……そんな相棒の脳裏に浮かんだ疑問を、彼も同じくして抱いていたのだろう。レイジのその一言に、セイもゆっくりと頷いてみせた。

 

「うん。何か、違和感があるというか」

「あのオッサンのガンプラ、メイのガンプラを見てるようで、見てない感じがした。何か別の物を見ている様な――」

 

 ――ガゴンッ!!

 

『ぐぁあああっ!?』

 

 そうして話している間にも、再びアプサラスⅢの巨体が宙を舞い――先ほどの屍鬼よろしく、ビルの側面へと向かっていく。その結末には……着地と衝突という、余りにも大きな違いがあるが。

 

 その近くの路上へと、セイとレイジ、マオも、自らのガンプラを着地させた

 ガラスに覆われた高層ビルの半ばの階を抉る様にして不時着する事となったアプサラスⅢ。先程の拳の一撃は、遂にその巨体に大穴をこじ開け……内部で火花が散っているのがはっきりと見えている。ほぼ決着は付いた、と言っても良い程だ。

 

 ……それでも尚、

最早、轟沈寸前と言った有様でも、そのモノアイから光は失われていない。

 

『ど……どこだっ……次は、何処からっ……!?』

「た、タフやな、あのオッサン……」

 

 身体を動かせずとも、ギョロギョロとモノアイを巡らせ、自らの敵を探す――その執念に思わず、と言った様子でマオも感嘆の声を上げ――

 

「――流石は、母とぶつかり合った猛者と言った所かしら」

「にゅおわぁっ!?」

 

 今度はその背後から聞こえて来た声に悲鳴と共に飛び上がる――X魔王が。

 

 セイもレイジも同じく驚きと共に背後を振り返って……しかし。

 

――ずぶ ぐぐっ……

 

「――なっ!?」

「えぇっ!?」

「……んな、アホなっ……!?」

 

 自分達が立っていた『ビルの壁面の中から』突如として現れた屍鬼の姿に。それ以上の驚きをもって、思考を塗り替えられてしまう。

波打つ鉄筋コンクリート製のビルの壁面。まるで湖面から姿を現す、ズゴックの如き面妖なその光景。ガンプラというものが如何に自由とは言えど、物理法則自体を無視するが如き超常現象。

 

「――お疲れ様、三人とも。そっちも大丈夫そうで良かった」

「い……いや、大丈夫、なのは良いんだが……」

「ど、どうなってるのそれっ!? 壁の中から出て来てたよね、それ!?」

「ガンプラ粒子云々とかもうちゃうやんけ!? い、一体どうなって……!?」

 

 ひらひらと屍鬼の手を揺らすメイに、思わず他二人と一緒になって詰め寄ってしまう。というか、もうマオはその絡繰りを暴かんとビルの壁面の方へと走り寄って行って――

 

――ずぷん

 

「あ゛っ!?」

「ま、マオ君も行ったーーー!?」

 

 ……そのまま、X魔王は綺麗に壁に吸い込まれていった。

 

「お、おいアレ大丈夫なのか!?」

「えぇ。大丈夫。害はないわ。というか……」

「いやいや全部呑み込まれちゃったよ!? すっぽりだよ!? ホントに大丈夫!?」

 

 『怪奇! ガンプラを呑み込む巨大ビル!』といった見出しで、一昔前のゴシップ誌に乗りかねないその光景に、セイ・レイジ組が改めてすっとんきょうな声を上げたが。メイの方は飄々として慌てる様子もなく……ただ、ぱちんと指を鳴らして見せた。

 

 ……瞬間。

 

 ばきり、と。目の前のビルの壁面に亀裂が走り――その『景色』が細かな粒子へと姿を変えて、眼の前から消え失せていく。

 

「……うそぉ?」

「な、なんだコレ……?」

「ただの『ホログラム』よ。私達が操縦してるエリアで使われているアレと同じ」

 

 その、『偽物の景色』が消えた先には……呆然とした様子のまま立ちすくむ、X魔王の姿がある。マオも『うそやん……』と声を漏らして、セイ・レイジ組と同じく、目の前の事態に思考が追い付いていない様子である。

 

「……プラフスキー粒子を使って形作った偽物の『景色』を投影していたの。私の屍鬼の切り札よ。操縦席でもホログラムくらいは作れるんだし、フィールド内でも出来るかなって思って。これもプラフスキー粒子の応用」

 

 ――曰く。

 

 ドラゴンガンダム・屍鬼の両腕。その異形の頭蓋に嵌め込まれた三つの宝珠が――プロジェクターの様な役割を果たしているのだという。

 

 紙と同じほどに薄く、しかしながら、真横から覗き込まれなければ分からないレベルの偽装が可能な『ホログラム』を瞬間的に空間に投影し――そのホログラムの裏からこっそりと抜け出す時の光学迷彩と合わせ、自らのほぼ完璧な隠遁、及び意識外からの強烈な不意打ちを狙った改造との事。

 

「あ、相手に見られちゃってる時は?」

「その時はその時で、目くらまし用のフラッシュも搭載してるわ。その一瞬の意識の混乱と合わせ、相手を意識レベルから罠にかける事も出来る。近距離特化だからね、相手に如何に好きにさせず、自分の得意な距離に持ち込むか、の勝負よ」

 

 ……ちらり、と。未だ向かいのビルで『どこだ、どこだ』とうわ言のように繰り返すアプサラスⅢに目を向ける。

 

 要するに……彼は、この機体が行く先々で、屍鬼がビルの中へと沈んでいく幻影を見せられていた訳だ。しかも、その一瞬に見失えば……完全な意識外から攻撃が飛んで来る。

 ただの光学迷彩なら、動きを予想する事も出来たかもしれないが――向こうは立ち並ぶビルの『中』をメイの屍鬼がすり抜けて来ている様な錯覚を覚えてたのだろう。

 

 しかも、高層ビルが乱立しているホンコンシティ。

 何処へ行っても壁を背負い……その中から、先程のように屍鬼の腕が伸びてくるかもしれない。上空へ悠長に逃げようとしても、何時の間にか上を取られてしまっているかもしれない。突然――目の前のビルから、弾丸の如く飛び出してくるかもしれない。

 ……相手は、近距離での爆発力ならばピカ一のMFである。そんな相手が、本来『あり得ない場所』からの不可視の必殺を構えているとなれば。

 

『ど、何処だっ……次はっ……何処からっ……?!』

 

……頭に思い浮かんだ情景に、思わず息を呑む。

 

 全ての壁が、敵の領域。狩場。死地。

 安全地帯など、本当の意味で、何処にも存在しない状態。

 

 雨の降りしきる、薄暗い空の下で。時折聞こえる、駆動音が鼓膜を僅かに揺らす。

 目の前の景色が灰一色に見えてしまうほどの心理的ストレス。背後、眼の前、左右、いや四方八方から。無数の腕が、伸びてくる。

 

 捕まったらダメだ、おしまいだ。でも何処にも逃げられない。アイツは何処からでも自分を見ている。暗がりから……真っ赤な瞳で。

 来る。来る。アイツが来る。深緑の狩人が襲いくる――

 

 

 

『――みぃつけた』

 

 

 

「「――ひゅっ……」」

 

 ……思わず、喉から漏れ出る声。

 

 隣の相棒と、目を合わせる。どうやら、似た様な光景を想像していたらしい。顔を青くして口元やら目元やらを引き攣らせた、酷く珍しい表情をしていた。

 

「……こ、こっわ……」

「?」

 

 ……即席のチームメイトたちが、若干ドン引きしている中で。

 

「ちゃんとドラゴンガンダムの機体性能を活かした、良い改造が出来たと思ってるのだけれど……『アイツ等』も良い原作再現だって言って褒めてくれたし」

 

 ただ一人……張本人のメイだけが、周りの様子に不思議そうに小首を傾げていた。

 




今回の原作再現は、アニメ寄りな感じです。子供の頃のシャドウグール、すげぇ怖かったっすよ……
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