遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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Standby Phase-09 「OVER Jump Boys」

 ――顔にかけられた水が、ぱしゃりと弾ける。

 

 寝起きの火照った顔に、ひんやりした朝一の水がすぅっと染み渡って……思考がスッキリと晴れて行く。実にすがすがしい朝。寝起きの頭がすぅっと冴えて行く。部屋に差し込む朝日の光は、とってもきれいだ。

 

「こんなに良い旅館を守れたんだから……胸を張ってもいいかしら」

 

今日で滞在も終わり。母から押し付けられた仕事もきちんと終えて、自分としては大満足な終わりになった。

 

 階段を下りながら伸びを一つ、身体を解しながら考える。

 朝早く起きて、朝食までも少しある。折角だし、こういう温泉旅館特有のお客さんの寛ぐフリースペース的な所で、何も考えずのんびりと過ごすのも悪くないか――と

 

 くるりと角を曲がって、目的の場所まで来たところで。誰かの喋っている声が耳に入って来た。この音は……

 

「――あら」

「あ、おはようさん」

「おはよう、メイさん」

「おう」

 

 テレビから聞こえてくる、ニュースキャスターの喋り声と。セイ達、模型店御一行の子供メンバーの声だった。紅一点のチナの姿が見えない事をセイに問えば、『部屋で眼鏡を探している』との事らしい。

 

 成程、女将から『お礼』という事で受けたおもてなしはとても素晴らしいモノで。あんな騒動があった後とは思えない位に全員が物凄いはしゃいでいたし。それで疲れ切った後にふかふかお布団に大分してぐっすり寝てしまったのなら、『あれ? 昨日、私って何処に眼鏡置いたっけ……?』となっても仕方ないだろうか。

 

「それで、朝から何について話してるのかしら?」

「――これだよ」

 

 部屋の奥に置かれた大画面薄型テレビに、セイが視線をやる。それを追いかけて――そこに表示された内容に、思わず眉間にしわを寄せてしまう。

 

『――えー、繰り返しお伝えします。昨日未明、株式会社『ムーンベース』CEOのタッカー氏、並びにPPSE社の社員のバスク氏が、エジプトで開催中の『WWF』会場にて、エジプト当局に拘束された模様です』

 

 キャスターの隣の画像に移されているのは、黄緑色の髪の怜悧な美貌をした男と、褐色肌のゴツイ見た目の印象の男。

前者――タッカーと呼ばれた男は分かりやすく『やり手の資産家』と言ったような出で立ちで。後者のバスクという男は顔にかかった紅いゴーグルが印象的か。

 

 そして。彼らの上に表示されたテロップに表示された言葉は、中々に穏やかではない。

 

『当局の発表によりますと、タッカー容疑者には現在、『大規模テロ』に直接関与していた疑いが掛けられており。バスク容疑者が、PPSE社の社員の立場を悪用してそのテロ行為に協力していた可能性があるという事で、調べが進められており――』

 

 大規模テロ――普段暮らしている自分達とは、まるで関わり合いの無い、遠い向こう側の世界の話。昨日も中々気合いの入った悪を撃退したばかりだが、それとは行為のレベルも規模も何もかもが違う。

 

 ……しかもこのニュース、ガンプラビルダーとしてもガンプラに関わるセイやマオにとっては、正しく『二重』の意味での驚きだろう。

 

「ムーンベースって、確か……Gシステムを開発してたっていう」

「うん。でも……そのGシステムには致命的な欠陥があって、周囲を巻き込むような大きな災害に繋がりかねないモノだったって」

「しかもその『欠陥』、どうやら態と仕込まれたって話で……本社からの操作で意図的に『事故』を引き起こせる代物だったらしいですわ」

 

 そう。辰三たちも使っていた、次世代のガンプラファン達が参入しやすくなるきっかけとして期待されていた、ガンプラ作成のサポートシステム――『Gシステム』を開発していたのが、このムーンベースという会社である。

 

 ……その開発側が、意図的に『欠陥』を仕込んで。多くの無辜のガンプラファンや未来のビルダー達を巻き込んだ犯罪を目論んでいたというのだから、二人にとっては地雷を踏みぬかれるが如き暴挙に違いない。

 

「そう……随分と、酷い事をするわね」

「……ホントだよ。沢山の人がガンプラを楽しみやすくなるような、もの凄い発明だったのに。それを利用して……!」

「ガンプラを侮辱してる様なもんですわ!」

 

 ……昨日の今日で、これだ。

レイジは何も言わずとも明らかにつまらなそうに鼻を腫らして不機嫌であるし。そこから更に、ガンプラ愛に関しては他の追随を許さないレベルのマオとセイは、完全に青筋立てているレベルだ。

 

 自分としても、正直許せるような行いではないが。しかしながら『事前に』知らされていた部分もあって、まだ冷静でいられた……先日、辰三の事務所から回収した『Gシステム』の解析結果は、もうエジプト当局に届けられているだろうか。

 

「――でもよ。それを防いだのも、『ファイター』なんだってよ」

 

 ……そんな良くない空気を打ち破ったのは、打って変わって楽し気な声を上げたレイジだった。

 

 その言葉にちらりと画面に目を向ける。

 

『――現地での取材によりますと、ここギーザで行われていた『WWF』に出場した、ガンプラバトルのプロチーム『ヨルムンガンド』の選手や多くの参加者の方が、大会での結果でGシステムを売り出そうと考えたタッカー容疑者の目論見を打ち砕いたとの事で……』

 

 今度写し出されたのは……黒い髪をオールバックに纏めた、如何にも厳しい軍人然とした男性。どうやら、彼が中心となってタッカーという男の野望を現地で打ち砕いて見せたとの事らしい。

 そんな男性の姿を見ながら、レイジはニヤリと笑って見せた。

 

「ガンプラバトルで世界を救った、ってさ。めっちゃスゲェじゃねぇか」

 

 ガンプラに関するニュースを追いかけていれば、自然と目にする事もあるその顔。

 先ほどまで憤懣やるかたないと言った様子だった二人も。その言葉に、ちらりと改めてテレビの画面を見つめてから……感慨深そうに頷いて見せる。

 

「ほんまに……まぁでも、この人なら納得ですわ」

「スゲェ奴なのか?」

「うん。フェリーニさんと同格か、それ以上に物凄い強い人でね。特にチームでのガンプラバトルの実力の高さに定評があって……」

 

ヨーロッパの古豪チーム『ヨルムンガンド』のエースファイター――画面には、彼の愛機である白いゲルググと、意外とMAタイプのガンプラの上手いチームの名物エンジニアの姿も映っているのが見えた。

 彼の戦いぶりは見た事がある――そろそろ大会出禁になりそうな勢いだった。憧れのラル大尉の後追いをする事になるのは嬉しい事なのか、どうなのか。

 

 さて。

 そんな世界のファイターの活躍を見て、次世代の若いホープ達が胸の焔を激しく燃え上がらせているのを横目に、自分も流れるニュースを眺めている。目的は……WWFに参加している筈の自分の幼馴染二人。

 

 まぁ映るかどうかなんて分からないが。それでも、元気そうな姿が見れられたらそれで良いかな、位に思っていた所で……ふと、テレビの場面が現地の観客へのインタビューへと移り変わって。

 

『――ファイター連合が頑張ったのも当然だが……それだけじゃない。最後は『二人組の子供』があのいけ好かないインテリをぶっ飛ばしちまったんだ!』

 

 ――参加者の男性を映した映像に。あ、と声が零れてしまった。

 

『初参加の日本人のハイスクール二人組が、あのまま優勝をもっていっちまったんだからなぁ……ここまで来たら、世界大会でも頑張って欲しいぜ』

 

 ……胸が、高鳴ってるのが分かった。

 

 咄嗟に、口元を抑えて後ろを向く。ダメだ。今……今、画面を見続けたら、きっとボロが出てしまう。思いっきり、『やったー!!』って言いたくなってしまう。『嬉しい』が胸の中に一杯になって、苦しくて、弾けてしまいそう。

 

 ……居た。

 男性の後ろ――会場を駆け抜けていく絆創膏を鼻に張った褐色の少年を、破けたニット帽を被った少年が追いかけてた。二人とも……ちゃんと、そこに居た。

 

 ……服だって汚れてた。包帯が巻かれてるのも見えた。

 世界中の強豪、大会に渦巻く悪意、その奥底に埋められていた巨大な災厄――漫画みたいな物凄い大事件に巻き込まれた、その『跡』だった。

 

 見るだけでも分かる。

 大変だったろう。苦しかっただろう。困難の連続だったのだろう。自分と同じ若さで、身の丈に合わない様な責任を負う事にもなっただろう。

 泣きたかっただろうか。帰りたかっただろうか。後悔だって沢山したのかもしれない。

 

 あぁ……でも、と。熱いものがこみ上げてくる。

 

 それでも、二人とも――笑っていた。

 晴れやかな顔をして、とても元気そうにしてた。

何があっても、負けなかったんだ。彼らは自分の『好き』で……全部、全部、全部、ぶち抜いてやったんだって。楽しそうに会場を走る二人の姿が。何よりもバッチリ、伝えてくれていた。

 

やったんだ。二人とも。

 

「なぁセイ。世界大会って……ガンプラの、だよな?」

「うん。このWWFって大会で勝つと、出場権が得られるんだ。日本での予選大会みたいなものだけど……」

「ここは誰でも参加可能で、それこそどないな猛者でも気軽に参加出来ます。ここを潜り抜けるのは、それこそ針の孔を通すような難度なんですわ」

「へぇー……それを、俺達と同じ位の奴がなぁ」

 

 後ろを向いたまま……ちらりと柱時計を見る。都合がいい事に、もう大分時間は経っていた様で。そろそろ、女将さんが自分達を呼びに来る頃だろうか。

 

 丁度いい。折角だ。このサプライズは……彼らが戻って来てから。『世界大会』で明かしてあげよう。そっちの方が二人にとっても嬉しいだろう。

 

「――三人とも、時間」

「ん? あー、もうこんな時間か」

「朝ごはんの準備も終わる頃やね」

「遅れても悪いし、ここら辺で切り上げようか」

 

 さりげなく、出来るだけ此方の様子を悟らせないよう。一旦部屋へ戻るように促す。

ワイワイと喋りながら各々の部屋へと戻っていく三人を見送りながら……ちらりとテレビに目をやった。

 

 エジプトの空の下。

 仮設であろう、簡素な表彰台の上で燥ぐ二人の少年の写真が、写し出されている。

 テロップで『WWF大会の若き英雄』として紹介された彼らの手には……片手に『金色』に輝くガンプラ。そしてもう片方の手には――ガンプラバトルの大会の場には相応しくない、カードデッキのケースが握りしめられていた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「それで、マリクはもう出かけたのか」

「はい。というかマリクは日本の生まれですっておじい様……」

「おぉ、そうか。どうも地元顔をしているからいつも勘違いしてしまう。それで、確かガンプラの世界大会……だったか。なんともまぁ、我が一族は『玩具』に縁があるのう」

「ガンプラバトル、ですね。あの子達からすると『カード』の方の普及を目指しての出場らしいですけれど」

 

「うーむ……儂等としてはアレ、あんまり目立ってもらってもなぁ……三体の『神獣』の肖像権売り渡して刷られたとか、罰当たり極まりないからのう」

「罰が当たるとしたら刷った『向こう』ですから大丈夫でしょう。あの子が作ってたのも広義には御神体ですし、バトルも神に捧げる武舞踊という事で、プラスもありますし」

「そうかのう……」

「そうですよ、きっと」

 




今回の更新はこれで終わりです。一区切りまでいけて良かった……

追記:さっき間違えて投稿してごめんなさい…
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