遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
「――コレで、どうですか!!!」
「嘘マリクもうできたんかオマエ!?」
「あたぼうよ!!!」
……苦節、苦難の道のりであった。指先が何度ドドメ色に染まっただろうか。
塗装の機材やらなんざまるで持っていない俺達は、イオリ模型店で買ったり、イオリ先生から機材をお借りして、俺の家、リュウザキの家、そしてイオリ先生の家(NEW!)でここ一週間で猛特訓を行ってきたのである。今日は俺の家だ。また姉ちゃんに睨まれた。
ここに至るまでの間、俺とリュウザキは、まぁ互いのしくじりを煽り合って喧々囂々を繰り返していたが……それはそれとして、イオリ先生と俺達は、真剣そのものに技術を学ぶ、弟子と師匠と言う関係がピッタリな感じだった。
質問をすれば、一緒に真剣に悩んでくれて。塗装した所を見せれば、先ずは上達から褒めてくれる……『これじゃダメだよ』と言うのを先に口にせず、出来てるところを見てからちゃんとダメな所も指摘してくれた。
『プラモデルを作るの、楽しいって思ってもらいたいから』
その余りにも透き通って誠実な言葉に、俺は男泣きした。リュウザキも泣いた。
道は違えど、こんなにまっすぐ自分の好きな事に熱中できる少年を、心から尊敬して、打ち解けて……今や、僅かな敬語も取れてタメ語で話す仲になった。年の差なんて関係ない。何かを愛する、という事を通して、俺達は同士に、友達に成れたのだ。
……友達と言えば。
初めて友達として家に招かれた時、イオリ先生の母ちゃんと顔を合わせたのだが……めっちゃ、チャーミングな美人さんだった。ブラマジ以来だろうか。『うわエロ』とか口走りそうになったの。寸前で堪えたが。
セイにお友達が増えて嬉しい、と喜ぶその姿は、本当に優しいお母さんなんだろうなって言うのが分かった。姉ちゃんとは大違いである。
まぁそれは兎も角として……
「――凄い! 沢山練習してたけど、実際に塗装するのはコレが初めて。なのに、変なムラも全然ない……本当に凄いよ、マリク先輩!」
「へへっ、よせやい……イオリ先生の教えの賜物さ……」
短期間で『うわ、指の先の汚れ落ちねぇ……』と風呂で黄昏る事になる程に塗装に向き合ったその結果が――今、イオリ先生の座る目の前に、立っている。
サーフェイスの上から、塗り直した艶消しのイエロー。
正に生き物。つやを出すのではなく、鈍い輝きを見せつける体に……マッシヴな身体の筋肉を目立たせる為の僅かな墨入れ。アニメから正に現実に飛び出してきたが如き、圧倒的な存在感。
剥き出しの歯は、美しい白――ではなく、封印されていたモンスターらしく、『色々な』年月が積み重なった、若干汚いクリーム色。錆の浮いた手枷と鎖は、イオリ先生から教わった汚しの技術と、色ムラを敢えて起こす事で表現。
それ即ちは、遊戯王史上最高にして最強のロマンカード、五枚揃えばその時点で勝利を確約する、問答無用にして、無効にすら出来ない最強の『勝利効果』。『三幻神』のカードですらも、彼には明確に道を譲るであろう、唯一無二の伝説。
『封印されしエクゾディア』――遂に、色塗りを含め、完成に至った。
「……どうだい、イオリ先生。俺のイメージ通りに仕上がってるだろう?」
「うん。見せてもらった画像……ううん。それ以上かもしれない。僕はこのキャラクターの事をよく知らないけど、でも」
「見惚れちまう、か?」
……頷くイオリ先生に、ガッツポーズを一つ返す。
委員長と同じ様な生粋のガンプラマニアにそこまで言わしめたなら、突貫工事ながらも、それなりの仕上がりとなったと考えていいのではないか。コレが努力の結晶と言う奴だ。
そして……それ即ち、プラモデルの制作に置いて、漸く俺達は一つ、ステップを上った訳だ……! それ即ち、近づいた。ガンプラバトルと言う舞台への進出に!
「おしおし……!」
自らの進歩に、再び、今度は噛みしめるようにガッツポーズ……していると、イオリ先生が此方を見上げてふと口を開いた。
「……えっと、今更何だけど……どうして二人は、僕に塗装を教わろうと? なんていうか、ここまで凄い頑張ってるのを見ると、普通じゃない、っていうか」
「ん? あ、えーっと……その辺り説明、して……たっけ?」
「してへんのとちゃう? あっ、クソここ重ね塗りいけるか……!?」
「あーしてねぇか!」
半ば勢いで頼み込んでいたので、すっかりと忘れていたのだが……そうだ。俺達がなぜこんな必死こいてガンプラについて短期漬けを行っているのかは、まるでイオリ先生には説明していなかった。酷い話だ。俺達みたいなド素人の無謀な挑戦に、事情も説明しないまま付き合わせていたというのか……!
「コイツはすまねぇイオリ先生……」
こうして付き合って貰った同士イオリ先生に、何と誠実さに欠けた対応。謝罪の意味も込めて頭を下げて……改めて、自分達の野望を伝えるため、口を開く。
「実は、俺達がこうしてガンプラを勉強し始めてるのは――」
「世界大会ィ!?」
「そうやで!」
「ちょっと事情があってな……正気じゃねぇのは、百も承知なんだが」
イオリ先生がショットガンみたく唾を飛ばして驚くのも、不思議じゃない。ガンプラの世界大会……ガンプラ、ガンダムの事を知らずとも、それがどれだけのモノか。素人なりに理解はしているつもりだ。
文字通り世界中から集ってくるんだ。俺達デュエリストたちが遊戯王に魂を燃やすように、ガンプラに魂を燃やした『ファイター』達が。国の代表、バックに付いた企業の推薦に一般枠から勝ち上って来た生え抜き共……誰も彼もレベルが段違いの怪物揃い!
……らしい、委員長曰く。
「それで、せめて最低限大会に出場できるくらいには、ガンプラについて勉強したくて」
「いや、ほんま突貫工事にも程あるで……」
「いやいやいやいやいやいや」
ブンブン顔を振るイオリ先生。その顔が引きつっているのを見ると、どうやら俺の認識と言うのも、そこまで間違っていないらしい。
遊戯王で考えてみよう。ストラクチャーデッキを握ったばかりの新人が、環境デッキないしは極まり切ったファンデッキを握った猛者に立ち向かうその景色を……遊戯王マニアの俺らだって初心者側の挑戦を無謀と判断するだろう。
そのレベルの愚行である。
「でもな、俺達も無謀だと思っていたがな……死ぬ気になって頑張ったら、こうやって塗装をある程度までは仕上げられたんだぜ?」
「希望ってもん持ってしまうわなぁ」
プラモデルの組み立て方は、遊戯王のガンプラで叩き込み……そしてそこからは、イオリ先生と言うチートにも等しい師匠に教わってかなり短縮できた。夏にある、と言う大会にはギリギリ間に合うのではないだろうか。
「……え、えぇっと、一応聞きたいんですけど……お二人って、どんなガンプラで出場する予定なんです?」
「んー……やっぱ、塗装を変えて、俺らのカラーに染めるとか、そう言う感じか? 割とお手軽なカスタムパーツとかもあるって言うし、そう言うのも使っていけたら……」
「ガンプラって種類も多いやろうしなぁ、カラーを変えたら、結構モンスターそっくりになる奴もおるやろ、うん」
候補としては、やっぱりアンティークギアなどが挙がって来るか。それこそアーゼウスなどは、ガンダムの中にカラーを似せただけでもかなりそれっぽくなるんじゃないか。
そして、俺達が調べた中には、結構お手軽にガンプラに組み込める、カスタムパーツなるモノも売っているらしく……そう言うのでカスタムして見れば、更にそれっぽくなるのではないだろうか。
「……やっぱりそのレベルかぁ……」
「とはいえな、そこまで面倒見てもらう訳にはいかないし。心配せずとも、自分のガンプラぐらいは自分達で組み立てるから、大丈夫大丈夫」
「せやね……あ、当然、その時はイオリ模型店で組み立てるのに必要な一式、揃わせてもらうさかい! ご実家の方にいくらでも金、落とさせてもらうで!!」
リュウザキの言葉に改めて頷いた。なんなら、今からでもガンプラの組み立ての練習用に、という事でガンプラ大量に買い込んでもいい。ここまで見てくれたお礼代わり、ではないがしかし。ため込んだ短期のバイト代、全てつぎ込もうじゃないか。
「――ダメだ……!」
「ん?」
「どないしたん先生――どわぁっ!?」
「二人とも!」
とか、思っていたら。
座っていた先生が突如として立ち上がった。先程のちょっと困惑した顔とはまるで違う何かを決意したかのような……そんな強い瞳で、此方を見ている。
俺達はと言えば、突如として立ち上がった先生に驚き、そのあどけない顔が生み出すとは思えない表情の迫力に、自然と二人寄りそう様に壁際に下がってしまった。
「ちょっと家まで来て! 今すぐ!!」
「「えっ、いやだからガンプラ買おうかなって」」
「先生命令!!」
「「あっ、ハイ」」
その剣幕に、俺達は押されるがまま、部屋の隅で寄り添って頷いた。
――膝から、力が抜ける。
どさり、と崩れ落ちた。床に跪いて、仰ぎ見る俺の視線の先には――一つのガンプラ。
蒼い翼と、トリコロールカラーに彩られたスタイリッシュなガンプラ。色塗りのレベルは正に……動画でモデラー達が作っていたあのレベル。しかし……このガンプラは、そんなモノじゃないのだ。
リュウザキが、尻餅をついて倒れているのが見えた。気持ちは分かる。あのガンプラがどれだけ凄まじい代物なのか……周りの景色と、イオリ先生の言葉が、教えてくれた。
「――コレが、僕のガンプラ。世界大会に出るならこのレベルは、必要になって来ると思うんだ」
「そ、そんな……」
「フルスクラッチ、やとぉ……!?」
我らガンプラにわかには聞きなれぬ言葉……フルスクラッチ。それ即ち、『ガンプラを自作する』事。ガンプラ、プラモデルと言うモノは、パーツを組み立てて作る、という前提を持っていた俺達にとっては、青天の霹靂にも等しい概念だった。
勿論、全身ぜんぶ新規造形、と言う訳ではないらしいのだが。しかしその全身、彼自身の理想を追い求め、フル改造され、一部のパーツは完全に自作で制作されているというのだから、にわかには信じがたい。
だがその説得力を増しているのが……今、見せられているイオリ先生のガンプラ制作スペースである。
自室とは別にある、と言うだけでも驚きだというのに……俺達が知る、塗装用のスプレーやエアコンプレッサー以外にも、電動式の工具、設計をする為のノートパソコンに、デザインナイフと言うらしいガンプラ加工用の刃物。
その他、様々な、プラモデルを作るため『だけ』に揃えられた器具の数々……そのどれもこれもが僅かに色あせたり、染みが有ったり、年季が入っているモノばかり。
そして、その全ての器具と、イオリ先生の知識、経験がつぎ込まれて完成されたガンプラが……目の前に立つ、ビルドストライクガンダムなのである。
蒼い翼……を持つ背中のあれは、ブースターパックと言って、アレだけが独立して動けるように作り込んであるのだという。しかも、本来のガンプラには存在しないそのシステムをイオリ先生は、自ら組み込んだというのだ……!
「「ひ、ひぇええ……」」
「……二人は、とても真剣に頑張ってた。二人に教えるのも、色々話して、一緒に塗装するのも……この一週間ちょっと、とても楽しかった。だから、友達として、師匠として、誤魔化すのは良くない、と思って。これを見せたんだ」
イオリ先生の、優しくも厳しい言葉が胸に染みる。
甘かった――色替え、お手軽カスタムで殴り込みをかけようとしていた俺達の認識を文字通り、ぶち壊された。
自らパーツを自作し、自分でギミックを創造し、自分の夢と想像力を詰め込んだ『理想のガンプラ』を作り上げ――その理想をぶつけ合う。
言う事は簡単だ。だがしかし、既存の枠から外れ、自分だけのギミックを作り出して仕込むというのがどれだけ大変か……ガンプラに詳しくない俺達だって、分かる。
当然、自作するっていう単純な難易度もそうだけど……俺達が遊戯王のプラモデルを作って思ったのは、その『完成度』だ。
素人が作ってもある程度見れるモノになる、そうなる様に何人もの人が知恵を絞って作り出している……んだと思う。そこに個人で手を加えて改造する事が、どれだけ難しいのかと言う話だ。
遊戯王のデッキと同じだ。何人ものデュエリストが試行錯誤を繰り返して完成されたデッキレシピに手を加えるのは、素人じゃ絶対に出来ない。下手に手を加えて弱体化するなんて事は、いくらだってあるのだから。
……それが出来るのは。知識と、経験と、想像力と、全てが揃った、
そんな超一流たちが魂込めて作り上げた『理想のガンプラ』に……高々色替えカスタムの機体で太刀打ちなんて出来るものか。
「――リュウザキ」
「あぁ……こら、覚悟決め直さんとあかんな」
考えを、改めるんだ。即座に。
ちらり、とイオリ先生の方を見る。俺達をここに連れてくる時、イオリ先生は『現実を見せる』だとか『どれだけ無謀な事なのか教えてあげる』とか何も言わなかった。
この部屋に案内してくれた後、ビルドストライクガンダムを見せた時も、ちゃんと解説してくれた。どういう風にこれを作ったのかを……塗装の時の様に。丁寧に。
諦めさせるのではなく、コレがどれだけのモノかを教えてくれている――その意図を、気遣いを、心配りを……理解できなかった訳がない。
「――イオリ先生、店のガンプラの中で、先ずは作るのにおすすめのガンプラを教えて欲しい。先ずは、『ガンプラ』ってもんを理解しないと」
「せやな……こら、ため込んでたモン全部吐き出さんと、足りへんで……!」
ゆっくりと、二人して立ち上がり――ビルドストライクガンダムに向き合う。
塗装を終えて、満足している場合じゃない。プラモの組み立て方は分かる、なんて次元はもう卒業しないといけない……突貫工事に次ぐ突貫工事でいくしかない。
イオリ先生が示してくれた通り。
中途半端ではいけない。振り切るんだ。カスタムパーツで遊戯王モンスターを模したガンプラにする……そんなものではない。もっとその先へ行かねばならない。
出来るか、じゃない。やれるところまでやる。最早ここまでやって来て今更になって逃げだすなんて、デュエリストとしても、男としても、失格レベルだ。
即ちは、俺達の手で、遊戯王モンスターをモチーフにしたガンプラを、『ビルド』するのだ。イオリ先生が、ビルドストライクガンダムを作って見せたように。この世で、俺達以外が持ちえない、魔改造ガンプラを……作り出す。
その為には。ガンプラへの理解を、突貫工事でも良い、出来る限り深めなきゃならん。
「――ここからは、もっと厳しく行くけど、二人とも、大丈夫?」
「おうさ」
「覚悟は出来とる……引き続き、ご指導ご鞭撻、よろしく頼むで……!」
……春も終わりを迎えそうなそんな時期。
俺達はいよいよ、ガンプラと言う森の深淵に、足を踏み入れようとしていた。
ビルドファイターズのビルダー共って、普通に雑誌に載ってしかるべきな超一流しかいないのなんで???