遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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7ターン目 「強襲、遊戯王バカ」

 ――勝負はついた。

 

 思わず、目の前の欄干にもたれかかるようにして、ため息を吐いてしまう。眼下に広がるのは……ガンプラバトルにおける当たり前の光景である。

 不敵に笑う青年と、俯いて手を握りしめる赤毛の少年……何方も、俺らにとっては顔見知り。更に言うのであれば、赤毛の少年の方は、最近結構なじみ深くなった。

 

 実に分かりやすい……勝者は、青年の側。敗者となったのは、燃え盛る炎にも似た、赤毛の少年の方である。

 短時間に圧縮された激戦ではあったが、しかし。結果としては、青年の側が赤毛の少年との格の差を見せつけるような勝利を挙げる形となった。

 

 勘違いしそうになるが、敗北した側の赤毛の少年……レイジが弱いという事は無い。彼はここ最近、イオリ模型店に出入りするようになって。自動的に、イオリ模型でガンプラ作成に明け暮れていた俺らと知り合った。

 

『アンタらもガンプラバトルやるのか?』

『一応、な。まだまだ練習中の初心者だがなぁ』

『へぇ~……なぁアンタ、その練習相手、俺が勤めてやろうか? どうせ暇だしよ』

 

 ――そして、迂闊な事言った結果、俺達は哀れなサンドバッグとされる事となった。

 

 そう。レイジの、である。

 俺、マリク。及びリュウザキは、ガンプラ初心者でありながら、ガンプラ熟練者くらいには強い化け物染みた謎の少年の為の、壁打ちの為の壁となった。リュウザキは、完全に巻き込まれ事故だった。

 一応、ガンプラ作成に並行して、ガンプラバトルの特訓もしていたが……まるで相手にならない位に強かった。

 

 故に、その強さは身に染みている……彼の敗北は、胸にずしん、と来る結構な衝撃となって、身体を貫いた。

 

「――はー……冗談キツイぜ」

「アレが学園のアイドルの実力なんか……俺達がコテンパンにされたレイジ君が、キッチリ負けてるやなんて、ホンマ悪夢やで」

 

 そして相手が、それをやっても不思議じゃない程の化け物だからこそ。その敗北の景色はより現実味を持って、俺達の頭に刻まれる。

 

 聖鳳学園の生徒会長にして、生徒たちみんなのアイドル。それに加えてとある分野では最早英雄染みて強い。そんな平成も中期ごろに連載を勝ち取ったラブコメ学園漫画の、学び舎を統べる生徒の頂点みたいな設定の奴いる訳~~~wwwとか、えぇ、先ほどまではそう思っていたのだが……

 証明された。目の前で。その圧倒的な実力を。

 

 生徒会長の名前は……ユウキ・タツヤ。

 模型部の部長を務めているのは、全く以て伊達じゃない。文字通り……彼の動かしていたガンプラは、はた目から見てもえげつない動きをしていた。

 気流乱れるステージの中、スマートに動き、そして如何なる攻撃も捌く正確さも持ち合わせていた……正直に言えば、えげつの無い動きだったと思う。

 

 ガンプラの性能で負けていたのか? 否、レイジが使っていたのは……イオリ先生の作り上げた渾身の一作、ビルドストライクガンダムだ。ガンプラの出来が強さに直結するガンプラバトルに置いて、あれを使って機体性能が低いという言い訳は通らない。

 如何に完成度に置いて不安の残る(イオリ先生曰くである。俺達には違いは全く分からなかった)『ブースターパッケージ』がない状態だったとしても……それは、変わらないだろう。

 

 とはいえ、相手の機体が弱いかと言えばそれも違う。

 

 紅いザク。

 ブースターや、武装を追加しただけの、一見してただのカスタム機……かと思っていたが、しかしそんなレベルの動きじゃなかったと思う。イオリ先生曰く、『クオリティを究めたガンプラはそれだけで高性能になる』らしいのだが……だとすればあのザク、どれだけ凄い改造がされているのか。

 ザクアメイジング、正しく『驚異的な』ガンプラだと言えると思う。

 

「はぁ~……やっぱ先に挑んでおくべきだったか」

「せやな。アレがメインイベントで、もう俺らオマケやで……」

 

 そんな強者同士が、えげつない作り込みのガンプラをぶつけ合って、僅かな時間でも鎬を削り合ってどえらい勝負繰り広げた。学校の外からいきなり現れた謎の少年と、学校のアイドルとの名勝負を見学した学校中の生徒のボルテージは最高調、盛大に盛り上がってる。

 ……んで、その真っ只中、というか。その後に態々俺達素人ガンプラビルダーがここ使うとか何の冗談だろうか。

 

「――でも、しょうがねぇか」

「せやな。ここでビビっとっても、俺らの野望は叶えられへん」

 

 ――だが、この中に踏み込む勇気がない、とは誰も申していない訳で。

 

 遊戯王というゲームに置いて、最も大切なのは何か? 

相手の戦略を読みデュエルを制するタクティクスか。それとも優れたデッキを組む構築力か。はたまた、咄嗟に如何に対応して見せるかの判断力か。

 

「全盛期のドライトロン制圧盤面に比べりゃあ、な?」

「この程度のアウェイ、何て事もないわなぁ」

 

 一度ゲームが始まれば、『先行制圧』に『後攻捲り』の応酬……遊戯王と言うカードゲームは、環境の『高速化』と言うモノが実に激しい。

 カードの効果を連鎖的に繋ぎ、爆発的にモンスターを展開し一切の抵抗を許さない鉄壁の要塞を一ターンで築き……かと思いきや、返しのターンで想像だにしない逆転のカードでその無敵の壁に僅かに穴を作り、そこから一瞬で削り切る。

 それが当たり前の環境だ、今は。

 

 そんな地獄のような環境の中では、どれも確かに大切だ。欠けていいものは何もない。

 

 しかし。いざと言う時にデュエルの一試合の佳境に置いて最も大切なのは……どれだけ絶望的な盤面であっても、逆転可能な可能性があるなら……絶対に諦めない、タフネスなハートこそが、重要だと俺らは思っている。

 俺達が普段向き合っている鉄壁の要塞に比べれば。たかが理想のガンプラバトルのおまけになる程度、苦でもない。

 

「――っしゃあ!」

「いくでぇ!!」

 

 二階欄干から身を乗り出し――そのまま、手すりを蹴っ飛ばして、宙へとダイブする。

 

 隣にいた生徒が、信じられない者を見たような顔で見ている。まぁ正気の沙汰ではないだろうが、今回ばかりは、目立った方が都合がいいので、ちょっと目立たせてもらう。

 片手には、銀色のアタッシュケース。此度、俺が準備して来た『初めてのガンプラ』がその中には納まっている。万が一、床に叩きつけない様にしっかりと握りしめて……

 

 ――ど ず ん !!

 

「「「――っ!?」」」

 

 衆人環視の、そのど真ん中に、ヒーロー着地。

 先んじて立ち上がるリュウザキが、ニット帽を片手に抑えながら、ギロリ、と観衆を睨みつける。そんな相棒に負けない位……胸を張りながら、立ち上がって『にこやか』な笑顔をプレゼント。

 

「――まだ帰んなよ諸君」

「次は俺らや! 今日のプログラムは、これからが本番やでぇ!!」

 

 二人して、体育館中の観衆に良く見えるように手を掲げ、叫ぶ。

 いきなり上から降って来た生徒二人。何事か、と若干狼狽えながらも此方に視線を向ける生徒が多い……何も考えず、こんなド派手な登場したわけじゃない。これも、俺達の布教の一部である。生徒と言う観衆のいる中、最高のPRになる。

 俺達の、『遊戯王』の、だ。

 

「――マリク先輩、リュウザキ先輩!」

「アンタら、来てたのか」

 

 そんな遠巻きから注目される中。此方に駆け寄ってきたのはイオリ先生とレイジだ。

 

「おいっすー。びっくりしたぜ、いきなり学校外の生徒とガンプラバトルが始まるからって来てみれば、だもんなぁ」

「んだよぉ、もしかして見てたのかよぉ」

「バッチリやでぇ。レイジの戦いぶり、二連戦の大活躍、な」

 

 にやにやと笑いながらそう言ってやると、バツが悪そうにレイジは頭を掻いた。負けた所を見られたのが恥ずかしいのだろうか。まぁ学校に侵入した挙句、いきなりガンプラバトルしてる所を先ず反省するべきではないかと思うが、そこはスルー。

 

「派手にやられたなぁオイ、レイジ」

「俺らをコテンパンに伸した実力、何処行ってん?」

「……うるせぇ」

 

 俺達をボコボコにした時の、オラオラ系な強気な態度は鳴りを潜め、若干肩を落としている……だが。どうやら負けて機嫌が悪い、と言う訳でもなさそうだ。正しい言い方かは分からないが、敗北を噛みしめている、と言えば良いのか。

 兎も角、悪くない顔をしている。

 

 折角のアオハルを邪魔する程、俺達も無粋じゃないし。

 

「アイツとやんのかよ」

「ユウキ先輩と? 勘弁してくれ、勝てる気がせん」

「レイジちゃんの半分も立ってられへんわ」

 

 んで、そんなアオハルレイジの『獲物』を、奪うつもりもない。と、ここでカッコつけられたら良かったのだが。そもそも俺達はレイジ以下の初心者、そんな奴が圧倒的な学校内ヒラエルキーの頂点に立ち向かう程無謀じゃない。

 んでは、なんでこのタイミングで、俺達が入って来たのかと言えば。

 

周りで『なんだあいつ等』とか『まだなんかあるのか』とか、千差万別に俺達を見ている観衆の中に……『アイツ』が必ず来ていると判断したからだ。

 

「じゃあ、なんで来たんだ」

「ま、ユウキ先輩には噛みつかんが……その『右腕』とは因縁があってな」

「ついでにイオリ先生のガンプラの仇、ほんのちょっとでも取れりゃ御の字って感じやなぁ……俺達が『イオリ門下』なら、アイツは『ユウキ一派』やからな」

 

「「――なァ()()()!!」」

 

 目の前のレイジが若干仰け反るくらいの大音量で、その名を呼んだ。

 

「おるやろ!? 勝負や!」

「今回は、アンタの土俵でやるぜ……ガンプラバトルだ!」

 

 片手に握りしめたアタッシュケースを高く掲げて、叫ぶ。誰からもよく見えるように。お前と戦う武器はあるぞ、と言う意思表示をする為に。

 

「――全く、騒ぐんじゃないの」

 

 聞こえてくる、効き馴染みのある声。この広い体育館にも、凛、と通る綺麗な声だ。

 にやり、と笑ってそちらの方に視線を向ける。ユウキ会長がプレイしていた側、その群衆の中から、すたすたすた、と。真っすぐに歩み出てくる少女が一人見えた。

 

 後ろでポニテ気味に括ったヘアスタイル。銀縁の眼鏡に、真ん中で分けられた前髪、その間の綺麗なでこっぱちな額が可愛らしい。

 そんな真面目な学生的な風貌のイメージを、ほんの少し搔き乱すように両耳に付けられた、『迷』と『宮』と刻まれたイヤリングのアクセントは、彼女の大きな特徴だ。

 

「――ミヤノくん」

 

 ユウキ先輩が意外そう、という態度を隠さずに上げたその声に。バトルシステム一歩手前まで進み出てきた彼女は、スカートの前に両手を重ね、静かに一礼を返した。

 流石に模型部の後輩、ユウキ先輩も彼女の性格はよく知っているだろう。。こんな場に、いくら挑発されたからと言って、乱入する事を良しとする性格ではない。

 

 ――と、思われている。

 だが、俺達は知ってる。『俺達の挑発』なら、話は別だという事を。

 

「マリク、リュウザキ。私と『ガンプラバトル』するって。意味を分かって言ってる?」

「おう、分かり切ってるよ」

「へへへ……俺達も今日まできっちり鍛え上げてきたんや。その全てを、今日ぶつけたるさかい楽しみにしておけやぁ……!」

 

 リュウザキの啖呵に、眼鏡をくぃ、と直すだけで、実に涼し気な表情を崩していない。

 そんな彼女に見せつけるように……つい最近、手に入った新品の端末……ガンプラの情報がたっぷりと詰め込まれた『GPベース』を印籠の如く掲げて見せてやる。

 

「ふうん。最低限の事は学んできたワケ」

「おうとも……今日は、俺が相手だ。やろうぜ委員長……いや、『ミヤノ・メイ』ちゃんよぉ!」

 

 啖呵を切った俺達を、眼鏡の奥から見つめる瞳……その温度は正に絶対零度、鋭さは氷柱にも匹敵しよう。

 

 彼女の名前は、ミヤノ・メイ。

 俺達の古くからの幼馴染、我がクラスのクラス委員にして、俺達の天敵でもあり……学園内でも屈指のガンプラファイター。

 俺達が知っている中では(今日で人生の記録更新しやがったユウキ先輩除く)最強の、実力者だ。

 




今更ですが、オリキャラ周りは基本的に遊戯王の敵キャラがモチーフとなっております。

んで、彼女に関してはほぼ面影はありません……強いて言うのであれば多分でこっぱちなのがダウングレードした面影カナ、と。
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