遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
「――はぁあっ!!」
『下がれマリクっ!』
リュウザキの悲鳴のような言葉に――咄嗟に、背後に跳び下がった。スラスターを吹かす暇もなく、半ば下半身の屈強さに任せた、緊急的なステップ回避。
殆どノーモーションから放たれる、伸び上がるようなドラゴンガンダムの上段狙いの蹴りは――砲台の先を僅かに掠めた。何とか、直撃だけは免れる事が出来たが……一歩反応が遅れてたら、即座にウォドム・リボルヴ最大の武器が使用不可能にされていた所だった。
ガンプラバトルに慣れる事が出来たいたからこそのギリギリのラインだ……レイジには、感謝せねばならない。
「くそっ、相変わらず速え……っ!」
「逃がすかぁ!」
が、のんびりしている暇はない。追撃の如く、踏み込んだドラゴンガンダムが、跳躍しつつ、刃を振り上げるが如く、踵を振り上げるのが見え――そこまで確認した時点で、今度は全力でスラスターを吹かして、逃げるように後退する。
「噴ッ!!」
――バキリ、と。
振り下ろされた脚の下、大地にヒビが入るのが見える。
叩きつけられた脚の威力を、その亀裂の大きさが物語っていた。結構堅牢に作ったつもりのコイツが、実は紙装甲なのではないかと錯覚してしまいそうになる程の脚力は、流石に近距離重視の機体と言うしかないか。油断してたら次が来る、体勢を立て直さないと――
『――なにを油断かましてんねや! 次弾来とるで!』
考えるよりも先に、急いで機体を動かしていた。
避ける、とかでもなく本当に大地に転がる様にして緊急的に体を崩し――腕のリボルバーに噛みつこうとしていた、竜の頭から紙一重で逃れる事に、結果として成功した。
『なんだあのガンプラ、腕が伸びたぞ!』
『ドラゴンガンダムの特徴だよ! あの腕のドラゴンヘッドで相手を捕まえて、自分の間合いに相手を引き寄せたり、腕から炎を吹いて中距離もカバーできる、意外とトリッキーな機体なんだ!』
イオリ先生、半分正解。確かに原型のドラゴンガンダムは、そう言う機能を持っているらしいが……俺が見た大会の中で、どれだけ苦戦しても、委員長のドラゴンガンダム影鬼が火炎放射してるのは見た事はない。
恐らくはその機能はオミットされてると思う。そしてその分、強化されているのは、多分基礎性能だ。あのドラゴンアームを使って、影鬼よりも倍は太いガンプラを容易に引き寄せていたのを覚えている。
「――ハァッ!!」
「いやあっぶなっ!?」
そして。単純にドラゴンアームがパワーアップした事で。
ドラゴンガンダムの得意な近距離から逃れようとする相手に対しては。捕まえて自分の間合いへ引き寄せるための手段としても、次の一撃へと繋ぐまでの『誤魔化し』としても、使えるようになった――ちょうど、今みたいに!
不意を打つドラゴンアームから逃れようと無理に体を崩した一瞬、委員長の影鬼はその一瞬を狙って距離を詰め――迫ってくる、体重の乗った掌底。直撃の回避は……無理! 避けられないなら!
「――ぶちかますっ!」
「っ!?」
逆に、一歩前進。センサーカバーを閉じて。拳に威力が乗る前に……逆に、全体重を乗せて、遮二無二に、突進。ウォドム・リボルヴは普通にデカいし、ウォドムよりも体重が増えている分、こういう選択肢もある!
ごちんっ!
「うぐぅっ」
「うぁっ……!」
……覚悟していたよりも、大分少ないダメージ。相手の突進の勢いに怯むウォドム・リボルヴに対し、よろけて尻餅つく寸前の影鬼。どうやら腕のリボルバーの砲塔が、顔面を突き飛ばす形になったらしい――好機!
ステップで、飛びあがる様に一歩後退。その最中、右腕の砲塔を、機体の中心に合わせるように意識しつつ、ドラゴンガンダムへと向け――狙いを定めてる暇はない、兎も角、急いでトリガーを引く!
「ぶっ飛べ!!」
空中にいる間の射撃。その反動が、身体に素直にかかり――更に距離を取りつつの牽制射撃(高威力)となる。
狙ってはいないにしろ、直撃すれば間違いなく、ドラゴンガンダムは消し飛ぶであろう、ウォドム・リボルヴの主砲による砲撃――なのだが。
「ふんっ」
さらりと委員長に半身だけ体を引かれて。弾丸は胴体の上を掠めるようにして、遥か彼方へと消えていった挙句、無意味に爆発。
ダメージを僅かにも与えられずじまい。
結構な速さの弾速な筈なのに……どたどたと必死こいて転げ回ってるこっちと違って、余りにも無駄のないスマートな回避過ぎて、変な笑顔がこぼれる。
馬鹿な、プレイヤーとしての技量に、余りにも差があり過ぎる……!
いや、当然と言えば当然なのだ。拳と拳を繰り出すその間に、的確にドラゴンアームを差し込んでくるのは、回避直後の反撃を潰す為でもある。とはいえ、腕を伸ばす動きに隙がない訳でもなく、むやみやたらにやってると、寧ろその伸ばす一瞬が隙になる。
正に、相手の動きを制する絶好のタイミングを狙わなくてはいけない。扱いの難しい筈のドラゴンアームを、当然のように使いこなす……委員長のファイターの腕は、目立たないがエゲツないレベルだ。
「にしたってよぉ……!」
『マリク! また来るで!』
「わぁってる!!」
んでもって、あの威力の弾丸を半身で避けて尚……ドラゴンガンダムは、躊躇いなく、深く、強く踏み込んで、滑る様に距離を詰めてくる!
一旦距離を取るとかじゃないんですか、恐怖を感じる神経がトんでるんじゃないですかと思ういやホント……近距離が得意にしたって、そんな躊躇なしで突っ込んでくるの怖すぎですやんか。仕方ない……!
「一発使う! そこでいったん距離とる! 逃げられそうなポイント探っといて!」
『了解や!』
……遠距離特化のウォドム・リボルヴだが、しかし近距離対応の武装がないという事もない。というより、近距離に突っ込んで来るのを拒否する武装と言えば良いのか。
ウォドム・リボルヴの脚部……特に関節部は、両腕、頭部と同じ、リボルバーのシリンダーを模した、特異なデザインに改修してある。んで、はみ出たシリンダーの穴は……
「へっ……ただの飾りじゃねぇんだよ!!」
武装を選択。トリガーを引けば――そこから飛び出すのは。白い尾を引く飛翔体。
「――ミサイルっ!?」
「ウォドムのミサイルポッドの有効活用ってな!」
ウォドムの頭部を、俺はただ取っ払った訳じゃない。その武装は、上手い事各パーツに散らして配置してある。主砲が頭部、両腕部のリボルバーな以上、超遠距離から遠距離が得意になって来る。だがしかし、だからって中距離から近距離を投げ捨てたらどうなるのかはレイジ君との殴り合いで悟った。
故に……リボルバー・ドラゴンを模したデザインの中に、自然と融け込ませたのだ。ウォドムの武装を。近中距離への対応策として。
「へっ、追尾性能は折り紙付きだぜガール! ソイツと遊んでる間に、一旦仕切り直させてもらおうか――!」
――斬ッ!
「……はへっ?」
そう。持っていた、のだ。ウォドムのミサイルを。
だが、その射出したミサイルは、そのまま滑って来るドラゴンガンダム影鬼の前で、突如として引き裂かれて、左右へと別れ――そのすぐ背後で、爆ぜる。
おまけに、その爆風に乗って、更にドラゴンガンダムが、加速を……!
「う、うぉおおおおおおっ!?」
咄嗟に武装変更。
胸部にエネルギーが収束していく。充填までの時間が、酷く、長く――あと僅かで、ドラゴンガンダムの拳が、ウォドムのボディを粉砕する……!
急げ、急げ急げ急げ――
『充填完了!!』
「ぬぉおおっ!!」
叫び声と共に――眩い輝きが、胴体から解き放たれる。
その輝きが覆いかぶさる……その直前で、ドラゴンガンダムは突撃の勢いを、またも地面にひびを入れる程の蹴り一つで相殺、一歩飛び下がって、避け切った。
助かった――そう自覚すると同時に、冷たい汗が背中を伝う。
本当に、あと一歩遅れていたら、負けていた。
「……胸部にも仕込み武装、ね」
「へ、へへ……ウォドムさんのビーム砲だよ、残念なことに、無理矢理に、ここに取り付けたから、短射程、威力も低い、拡散砲になったけど……なぁ!」
一応、近距離への牽制は間に合った。
今の距離で、お互い睨み合っているのは、その牽制あってのもんだが……しかし、そのにらみ合いを、一体何時まで維持できるものか。
息も絶え絶え。若干逃げ腰になっているこっちのウォドムと違って……委員長のドラゴンガンダム影鬼は、寧ろ余力を持って拳を構えている。完全に、戦いのペースを握られている。油断していた。そうだ、影鬼には、アレがあったんだ……!
「それにしても……その御自慢の『髪』、そんなに馬力あったのかよ」
「あら、気が付いてた?」
「大会優勝まで何回お前のガンプラ見てたと思ってるんだ。いい加減種も割れるってもんだろうよ」
その俺の言葉に。
回答代わりにか、影鬼の後頭部から伸びた髪の如き鞭刃が、びゅんっ、と振るわれた。
根元から、空中を走る先端までの長さは、先ほど見た時よりも、目測で
アレが、ミサイルを叩き落としたモノの正体。
先ほど、ミサイルを引き裂いた時のドラゴンガンダムは、こっちに攻撃を仕掛けようと突っ込んで来た、そのままの姿勢だった。何も武器を取り出した様子も、迎撃した様子も見えなかった――当然だ。体を一切動かさずとも、アレを鞭のように奮えば迎撃は容易い。
「――影鬼と接近戦してたガンプラは、どいつもこいつも、拳を防いでも、何処からか飛んできた凶刃で胴体を引き裂かれて、崩れ落ちてた」
「……」
「刃を隠していた、とかじゃねぇ。お前が上手くやってたのさ――体に、繰り出した拳に、相手の装備に、隠れるようにして伸ばした、その髪のような刃で、相手のガンプラを一瞬で引き裂いていた」
影鬼、と言うその名前の正体。
相手の意識の影から飛んでくる、想像以上のリーチの『髪型実体剣』による必殺の一撃が、その理由だった。
「適当に使ったら、先ずバレるような目立つ変化だよ。だけど、お前の卓越した操縦技術と徹底した超近距離戦闘と合わさると――その髪は、文字通り影から伸びる必殺の刃に変わる。どいつもコイツも、『なんで』って理解出来ずに敗北してたなぁ」
普通、接近戦の最中に目の前の相手以外に意識を割くなんざ、まず無理だ。レイジと殴り合ってその辺りは理解した。更に言えば……超接近戦タイプのドラゴンガンダムを扱い熟す委員長の技量の前で、意識を逸らすなんざ自殺行為にも近い。だがしかし。
相手が委員長の接近戦を凌ぐことに熱中していると――ほんの僅か一瞬だけ、とんでもない速度で背後に伸びていく刃に、何時の間にか引き裂かれているのだ。
暗器、と言うモノは弱いモノが強いモノを打ち倒す為の卑劣な手段、と言うイメージがあるがしかし。委員長は、自分の強さの中に『別角度の強さ』を潜ませる事で、防ぎようのない必殺として、暗器じみた刃を昇華させた。
「これを卑怯とは呼べねぇよ。なんせこの戦術は、お前程のファイターとしての技量があって初めて成立するもんだ」
「――絶対に成功できるようになるまで、いっぱい練習したしね」
……当然、簡単に出来るもんじゃない。
両腕、両手足、人間にあるパーツならいざ知らず、頭の後ろにある、多関節で、触手のように柔軟にしなり、異常に伸びて、自在に動かせる……そんな武装だ、決して扱いは簡単じゃない。
使いこなすにも、相当の練習が居る。そんな所を……委員長は、相手の視界の外から、回り込む様に振るったり、腕に隠すようにして突き出したり、と相当に柔軟に使いこなしているのだ。一体、どれだけ修練を積んだのか。
「流石はユウキ・タツヤが認めたファイターにしてビルダーだよ」
「――アンタには、今更認められたけどね」
「俺は素人だから理解してなかっただけだよ」
普通に接近戦も強い。間合いから逃さないための差し込みの手段もある。そして接近戦に持ち込めば、文字通り必殺の暗器もあり。そして……
『――派手じゃない。随分と』
遠距離機体の間合いにあっさりと入り込むだけの、技量もある。
大会での優勝経験あり。その文言は、伊達でも何でもない。ユウキ・タツヤよりも劣るとは彼女の言い分だが、接近戦に限って言えば、ユウキ先輩よりも強いんじゃなかろうか。
「――でも、今は、素人じゃねぇ、やり合うだけの……武器もあるぜ……!」
そんな怪物を相手にする――そう俺は、決めていたから。
ウォドム・リボルヴも、まだこれでは終わっていない。最後の、奥の手が残っている。
怯まない。頭部、左右腕部の三つの砲塔を、ドラゴンガンダム影鬼へと向ける。当然影鬼にも怯む様子は見られない。寧ろ……ゆっくりと腰を下ろし、今にも飛び掛かって来そうな体勢へと、構えはシフトした。
……もう得意な距離には逃れられないだろう。なら。
「ここで、ケリをつける……!」
「来なさい」
ユウキ・タツヤに認められる程なんだから、委員長は盛るだけ盛っていいと思った。反省はしていません。