じる :演技…?素…?いや…演技?わからん…
れいなーす:わぁい!
『──及び、邪神を信仰する邪教徒がおり、一部の貴族にも信仰者を確認』
紙に書く手を止め、天井を見上げる老人がいる。
扉をノックされ、そちらに目をやる。
「セバス様、紅茶をご用意しました」
「ありがとうございます。そこに置いておいてください」
紅茶を置き、軽く頭を下げる金髪の女性──ソリュシャン。
退室しようとする彼女に声をかける。
「興味本位でお聞きしたいのですが」
「何でしょうかセバス様」
「アインズ様に何を願ったのでしょうか」
生きた人間を却下された彼女は別の願いをと言われていた。
同じナザリックの者が何を望んだのか。
そんな興味である。
「まだ考えておりません」
「そうですか」
「セバス様なら何を望まれるのですか?」
私なら何を望むのか?そう問われ苦笑する。
「私はアインズ様のご期待にお答えするどころか勝手な判断をした身です。
何を望むもないでしょう」
「では別の質問を──偽装工作の為にデミウルゴス様がご提案された、複数の
「この帝都ではそこまで大きな屋敷でもありません。執事一人、メイド一人居れば良いでしょう」
「そうですか」
デミウルゴスが4人の
皆ツアレに似た…いや、ツアレに似た者に化けたのだろう。
ペットに似ていて良いだろう?そう言っていた。
理由をつけて断ったが、偽装工作なのだろうと言われ一人は残ってしまった。
日々顔を見ると否応なしに思い出す。
あの時の私の判断は間違っていたのでしょうか。たっち・みー様。
己の中に生まれてしまった感情を呪い、紅茶を手に取る。
──ツアレが入れてくれた紅茶は美味しかったですね。
・
帝都の一角に最近新たな店が開いた。
卵のような看板をした雑貨屋。名を卵の殻という。
客層は冒険者から
品揃えも菓子から贈り物。対モンスター用の毒物まで。
数は多くないがマジックアイテムも扱っている。
「ご利用ありがとうございました」
客に頭を下げるエルフの耳は中程で切り落とされている。
3人の奴隷エルフの従業員と、一人の店主で経営されるこの店は中々繁盛している。
エルフ達は低位の信仰系魔法も身に付けている上位の奴隷である。
とは言え、奴隷は奴隷。普通は待遇は良くない事が多いが、この店ではそうでもない。
衣食住…最も、食は彼女達が作るのだが。が完備され、休みの日には自由行動も認められている。
彼女達からすれば素晴らしい主人だと心底感謝している。
「色々見たいんだけどー?はいこれー。会員証ねー」
フードを被った細身の女性が店員に声をかける。
金色の会員証。上客。
「少々お待ちください。ご主人様をお呼びします。」
盗難や事故の危険を避けるため、貴重な物や毒物等は会員となった者にだけ販売している。
これにより年会費も回収でき、客には特別感を与えられる。
会員にはグレードもあり、購入できる物が増えていく。射幸心も煽る事ができるという形だ。
店主の部屋の前に立ち、少し緊張しながら扉をノックする。
雇われている彼女達はこの瞬間が一番緊張する。
反応がない。ああ…またですか。
「失礼します」
扉を開けるとそこには机の上でブツブツと独り言を言う主の姿。
「て、天罰…いや違うわよ…私は生きてるもの…」
やせ細り、やつれた店主──コッコドールは帝都に逃げていた。
既に心は一度死に、夜になると恐怖に震える。
あの襲撃してきた冒険者の女の目が頭から離れない。
暗闇の中に落ちるような。闇その物とも言える。あの目。
暗くなるとあの目がまた現れて、今度こそ殺されてしまうのではないか。
殺されるならばまだいい。死よりも恐ろしい事が待っているのではないか。
そんな思いが彼を永遠の恐怖と絶望に引き込んでいた。
「ご主人様、失礼します。
するとコッコドールは少しだけ落ち着きを取り戻す。
己の内面から湧き上がる恐怖にはあまり効果はないが、
コッコドールは常に外からの脅威にも怯えている。
影や暗がりから来る外の恐怖には効果がある。
「あ…ああ…何?どうしたっていうの?」
コッコドールは帝都でも奴隷売買を目にし、一瞬それを考えたのだが──
彼女の瞳が頭に焼き付き、完全に裏商売から手を引いた。
罪滅ぼし…そんなつもりは毛頭なかったが奴隷のエルフを買い取って店を開けた。
八本指の頃の経験は商売でも十二分に効果を見せ、みるみるうちに店は繁盛していった。
子供達が笑顔で買い物をしているのを見ると、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。
今では常連の住民と飲みに行く事もある。
八本指の頃は誰かの足を常に引っ張り、弱者を食い物にしてきた。
笑顔で食事を食べる従業員を見て、あの私が偽善者のふりとはね。と苦笑したものだ。
「はい。金ランクの会員証をお持ちの方が商品を見たいと」
「ああ、そうなの。分かったわ」
「お待たせしたわね。こっちよ」
店に顔を出し客を地下へ案内する。
コッコちゃん後で飲みに行こうぜ、という常連に軽く手を上げ返事を返す。
地下室にて、商品が書かれたカタログを開き彼女を見据える。
しかしこんな会員居ただろうか?
フードを深く被っているのは何故だ?
「それで?何が見たいのかしら?モンスター用の毒?マジックアイテム?」
「ん-。それもいいけどねー」
「八本指の死体とかー?」
体が固まる。今、この女…。
フードの下でニタァと笑う女の顔がこちらを見ている。
「あんたさー。コッコドールでしょー?奴隷部門のさー」
「…誰よあんた。その会員証どこで手に入れたのよ」
「似たよーな背丈の奴をさくーっとねー」
ゴクリと唾を飲み込む。その音はやけに響いた気がした。
「…何?殺しに来たの?誰に頼まれたわけ?八本指の誰か?」
「さーね?知って意味あるー?」
腰にぶら下げたスティレットを手に取りぷらぷらさせながらニヤニヤとこちらを見ている。
「…そう」
「んー?命乞いしないのー?たすけてー!何でもするからー!とかさぁ?」
「命乞いしたら見逃してくれるわけ?」
この女は強い。自分程度では成す術もなく死ぬだろう。
それくらいはわかる。だがこれで──毎夜の恐怖から逃れられるなら。
そんな気持ちで彼女を見据える。
「あー、つまんなーい。何その悟ったような目はさぁ」
「冗談冗談。怒っちゃったかなー?」
悪びれる事もなくスティレットを腰に戻しおどけるように告げる。
「じゃあ、何しに来たのよ。あんた、殺し屋でしょ?」
「だからー買い物だってー。そのカタログ早く見せなよ」
ふーん?思ったより色々あるね。とカタログに目をやっている。
この女はこっち側の人間だ。日のない世界を生きる人間。
そのうち彼女がご所望の物を見つけたようで、それを用意する。
金は払うつもりが元よりない事は分かっていたので、それを渡すと満足そうに受け取った。
「ところであんたさー。何を見たわけ?」
「何の話よ?」
「その目は死んだ目なんだよねー。八本指の長が死ぬほど恐れるものって何?」
・
聞きたい事を聞き、欲しい物を持って、また来るねーと言い残し去っていった。
二度と来るんじゃないわよ!と言えた自分を褒めてやる。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「えぇ…疲れたわ」
本心から気遣ってくれる部下…昔はこんな者居なかった。
──カラン 扉が開き、見覚えのない子供が入ってくる。
疲れた。色々な事を思い出して。客の相手でもして気分を入れ替えるとしよう。
「あらぁ、可愛いお客さんねぇ。お嬢ちゃん何をお探し?」
「おくりもの」
「あらぁ、良いわねぇ。誰に贈るのかしら?」
「ん-。おじいさん?」
「そうなのねぇ。ご予算は?」
「あんまりない」
「それなら紅茶か香水なんてどうかしら?こっちは落ち着いた香りが人気よ」
「おー、いい香り」
ありがとうと言い残して店を後にする。
今度はお金を持って二人でまたくるね。そう言い残し。
後日、来客した女性を見るや否や、店主が気絶しちょっとした大騒ぎになったのはまた別の話。
・
扉がノックされる。
「セバス様、来客です」
メイド…
セバスは顎髭を触りながら考える。
帝都に来てからこの屋敷に訪ねて来た者は居ない。
商談はこちらから出向いているし、屋敷に来ることは基本的に断っている。
「誰か来る予定はないですが」
「ソリュシャンにですか?」
「い、いえ…セ、セバス様にです」
見れば顔色が悪い。
予定のない来客──王都での役人を思い出し渋い顔になる。
しかし帝都では何もしていない。
「誰でしょうか?役人ですか?」
「そ、それが…」
「どうしました?」
「こ、…黒碧です」
馬鹿な!何故!?と口から出なかったのは奇跡かもしれない。
椅子を立ち上がり
「直ぐに参ります。ソリュシャンは居ますか?」
「い、今は情報収集の為に外に出られています」
「…わかりました。応接室で対応します。あなたは決して近寄らないように
隠密能力に長けていない者が様子を伺うのはよろしくありません」
承知と頭を下げる
一体なぜ。アインズ様のお考え…?であれば連絡があるはず。
何か自分がまた失敗を…?わからない。聞き出すしかない。
軽く身なりを整え二人を出迎える。
「お待たせ致しました。私に何か御用だとか」
「あの時はありがと。お礼言いに来た」
「な?おったであろ?」
そんな二人を応接室へ迎え入れ、簡単な茶と菓子を振舞う。
遠慮なく飲食している二人が少し落ち着いたタイミングで口を開く。
「お口にあいましたか」
「うむ!中々の味ぞ!もっと持って参れ!」
「美味しい。このクッキーすき」
おかわりを要求する彼女にもう一皿渡し、正面に見据える。
シャルティアと同格だとされる
もし戦いになれば…この姿では勝てないかもしれないと考えながら。
「では…失礼ながら、本日は何用でいらしたのでしょうか」
「あ、そうだった。これ、どぞ」
「袋…でございますか」
「あの時のおれい。ワムはれいぎ正しいので」
中には香水と紅茶がラッピングされて入っている。
本当に礼をしに来ただけだというのかと首を捻る。
礼をしにきて茶菓子をせがむ二人に少しだけ苦笑しながら。
「ありがとうございます。お気持ちだけで充分でしたのに」
「まぁそう言うでない。それは前座ぞ?」
「前座…?」
「主、ヒトの子ではなかろ?」
拳に力が入る。何故気付かれた?
何処から情報が漏れた?まさか…ナザリックの情報が?
即座に増援を呼ぶよう命じて消すべきだろうか?
まさかアインズ様のお考え…?
様々な考えがセバスの頭を駆け巡る。
嫌な汗が首を伝うのを感じる。
落ち着け、落ち着くのだ。今は少しでも情報を得なければ。
「うむ!主の様に由来異なる番は喜ばしいことぞ!」
「番…でございますか?」
「ツアレとかいうのは主の番であろ?」
セバスの顔に驚きの色が示される。
何故この者達がツアレの事を。
そして忘れようと心に秘めた想いが胸から溢れ出る。
あの子は…ツアレは死んだはず。
あの醜悪な王都で、道具の様に扱われ…一人死んでいったはず。
「何故…ツアレの…事を」
少し震える言葉を何とか口に出す。
「ディーエが助けた」
その言葉と共にセバスの頭は限界を迎える。
助けた?何故?どこで気付かれた?
対面では、助けたのはお主であろう?とやり取りをしている二人が居るが
最早頭に入ってこない。
呟くように問う。
「何故…助けられたので?」
「互いを思う番であれば、手を差し伸べても損はあるまい?
それも由来異なる風であれば当然ぞ」
「おかし助けてくれたお礼。
それに、困ってたでしょ?」
「…ありがとうございます」
セバスにはその言葉しか出なかった。
感謝の念と、彼女の無事。
そして、敬愛する自らの創造者の姿を思い浮かべ。
不遜にも似付かぬ彼女にその姿を少し重ねて。
「共に参ってやろうぞ!はよう会ってやるがよい!」
「会いたがってた」
「そして此方に輝きを見せるぞや!」
「…そう…そうですか」
セバスとしては今一度会いたかった。
会って詫びたかった。もう一度あの子に。
しかし会えば同じ事が起こるであろう。
デミウルゴスが二度目も見過ごすとは思えない。
「…私は会う事はできません。
しかし、助けてくださり、ありがとうございます」
深く感謝を込めて頭を下げる。
己の出来なかった守る誓いを成してくれた二人に。
ナザリックの敵であろう者達に。
「何故かや!?番は共に居るものであろう!?」
「お心、深く感謝致します。
しかし、彼女を守るためにも会う事はできません」
何故だと頭を抱えている彼女を見つめ、思う。
アインズ様は敵対するなと申された。
その意図をデミウルゴスから聞き、成程と納得した。
しかし──もしや主の考えは違うのではないだろうか。
アインズにかけられた言葉を思い起こしそう考える。
アインズ様は──と。少し考え、不敬だと頭を振る。
「ところで、ツアレは今どこに?会えはしませんが、一度見に行きたいと思います」
「ゼンベルのとこで元気にしてる」
「ゼンベル…でございますか?」
「そう。森に居る
「な、なんと!?今何と仰いましたか!!?」
思わず声を上げてしまう。
「落ち着くがよい。奴らは悪い者ではない」
「そう。ツアレとも仲良くしてる」
「肉も食さぬ。傷付く事もなかろうよ」
「うん。前見た時も元気だった」
セバスには二人の言葉が頭に入ってこなかった。
その情報だけで頭が一杯になっていた。
セバスは知っていた。
正に今ナザリックの仲間達が
セバスは絶望の淵に居た。
作戦の目的は実験用個体と死体の調達。
そして、何故居たのかを徹底的に調べれられるのは間違いない。
或いは何の興味もなく殺されてしまう可能性もある。
何とか助けられないか。しかしそれは…裏切りを意味している。
忠義か、己の意思か。
以前の彼なら迷いなく忠義を選んでいた。
しかし彼を揺らしたのは、アインズの言葉。
『救える者を救わず、意思を持たず、盲目的に従えという話ではない』
セバスは考える。
今自分がするべき事は何か。
黙秘が正しいのか。それとも…。
──たっち・みー様、私はどうしたら良いのでしょう。
答えは帰ってこない。
自分の中にあるたっち・みーの記憶と姿を思い起こし、考え続ける。
誇りを胸に、その心情の元に多くを助けられたと、昔アインズ様が話してくださった。
そして、アインズ様自身も助けられたと。
『たっちさんがそう望むのなら。そう望んだろうと思うのなら──そう在ろうとするお前は正しい』
アインズのセバスにかけた言葉が、彼の最後の背を押した。
私の信じるたっち・みー様に殉じる。この命を持って。
その後の長い、長い思考の末に。
ゆっくりと、そして重く口を開く。
「詳しい事は何一つお伝えできません。何があろうとです」
二人は顔を見合わせて不思議そうな顔をしている。
「虫が良い話なのは分かっています。
誰が。何のために。何故知っているのか。それらも申し上げる事はできません」
「ただ、叶うのであれば。私の言う事を信じて、今一度救って頂きたいのです」
「
ぜんべる :何か寒気がすんな?冬か?
デミえもん:のりこめー
なざりっく:わぁい