オーバーロード 竜の降臨   作:読み物好き

20 / 22
前回のあらすじ
恐怖公  :吾輩の眷属達…かわよ
まーれ  :カブトムシみたいでかわよ
その他一同:うわぁ…
現場の方々:うわあああ↓↓↓↓↓↓


黒の一夜

「な、何!?何が起こってるわけ!?」

 

雑貨店の店主──コッコドールは悲鳴に目を覚まし急ぎ外へ出る。

 

「何よこれ!?ひっ!!ゴ、ゴキブリ!?」

 

地面を埋め尽くす様に、まるで地面が動いているように月の光を反射するアレ。

アレが多くの人を襲っている。それは正に地獄絵図。

 

「ご主人様こちらへ!小さな生命の忌避(スモールライフ・アヴォイデンス)

 

従業員のエルフ達3人が微光を放つドームを作り出す。

それに入れないのか避けるようにアレらは近寄らない。

 

「た、助かったわ…な、何よこの魔法!凄いじゃない!」

「森に伝わる虫避けです。森の外で使うとは思いませんでしたが…うぅ…き、気持ち悪い」

 

それを目にした多くの人が助けてくれと群がってくる。

そして人が多く集まる所に悪魔が集まる。

 

「あ、あれ…あ、悪魔…?嘘よ…」

 

膨らんだ頭部、異常に細い左手、全身の無数に空いた小さい穴から黄色の膿を垂れ流した…悪魔。それが大量に襲い掛かってくる。

 

──神閃

 

瞬きの一閃で一匹の悪魔の首が飛ぶ。

力なく崩れ落ちる悪魔に驚きの多くの声と、一つの場違いな声が響く。

 

「結構強いじゃーん。さっすが私の相棒って感じー?」

「お前も戦え」

 

襲い来る悪魔を次々と屠りながらそう言い放つ青いボサボサした髪を持つ男性。

そしてオレンジ色のボブカットをした細身の女性。

 

「いやー。だーって面倒じゃん。それに虫とかキモいし…結構…マジで…無理なんだよね」

 

一体の悪魔の頭部からスティレットを引き抜き、顔を引き攣らせている。

 

「なら報酬は全部俺が貰うぞ?」

「それは酷いなー…。わかったよー…」

 

そんな会話をしながらコッコドールの前に女性が降り立つ。

何度か店に来るそれは、気まぐれに金を払う事もあるが基本は払わない負の常連客。

そんな彼女が口を開く。

 

「ねーねー。コッコちゃーん。ちょっとお金に困ってんだよねー。報酬、言い値で払う?」

 

ぶんぶんと首を振るコッコドールに満足気に頷いた彼女は告げる。

 

「んじゃ、契約成立。悪魔は超一流請負人(ワーカー)のクレマンティーヌ様とブレインちゃんに任しときなー?虫は…ちょっと…無理だけどさ…。そこ、私も入れてくんない?」

 

 

 

 

 

 

「に、逃げるな!戦え!」

 

市街地で衛兵隊長が大声で叫んでいる。

だが地を這うアレ相手にどう戦っていいのかがわからない。

悪魔を相手しようとアレを無視すると体に纏われ噛みつかれる。

アレに気をとられると悪魔に致命の一撃を入れられる。

守るべき市民は必至で棒を振り回し足踏みをしてアレを何とか振り払っている。

 

「も、もう駄目だ!逃げろ!」

 

誰かがそう叫ぶ。

そうすると後は脆い。

 

散り始めたそこに、大きな影が舞い降りる。

山羊の骨を被ったような、巨体の悪魔。

杖とも棍棒ともとれる巨大な武器を振り上げる。

絶望の悲鳴を上げる兵士達に無慈悲に振り下ろされ──

 

──る事はなく、悪魔は拳で空き缶を踏み潰すように潰れていく。

 

「間にあったとは言えんぞこれは」

「…チョット…これは…ワムにはキツイ…」

「ただの虫ではないかや」

「ワムの感性はヒトにちかいので…」

 

二人の女性が降り立った。一人は無人の野を見るように。一人は頬を引き攣らせ両手で目を隠し。悪魔達に立ち塞がっている。

 

「如何する?こう多くては…あぁ!登るな!気持ち悪い!」

「ほら。ディーエだって」

「這い登られると不愉快ぞ…」

「…とりあえず、皆はここに入るといいよ」

 

片手を目から外し指を一振りすると水のドームが現れる。

ドームに弾かれているアレを目に多くの人が走りこむ。

 

「影に潜む妙な悪魔。あれも何匹か潰したが…そんな場合ではなかったようぞ。これでは守るに守れんぞ。一気に流したり出来んのかや?」

「ちょっと難しい。人も皆流れちゃう。何処にどれだけ人が居るかもわからない」

 

フェディエルは大きくため息をつき肩に乗っていたアレを指で払いながら告げる。

 

「では手分けして回るとするかや」

「おっけー…とは言いたくないけど…しかたない…」

 

そう言い残し思い思いの方角へ駆けていく。

──そんな光景を塔の上から眺める複数の影がある。

 

「師よ!!これは一体…!何が起こっているのです!!」

 

誰に言うでもないフールーダの叫び声は虚しく空へと消えていく。

 

「フ、フールーダ様!て、帝都が…!」

 

空と地が黒く染まっていく。

塔の上から弟子達と唖然と眺めるその惨状。

悲鳴がそこ彼処から鳴り響いている。

 

(師からは二人を帝都から遠ざけろとしか聞いておらぬ!何故あの二人がここに…!?師よ!何故答えてくださらないのです!この悪魔は!?虫は!?あの二人組は!?これは師のご意向なのですか!?私は何をすればよいのです!?)

 

「師よ!!どうか!どうかお答えください!!今何処におられるのですか!?」

 

叫び声は地上からの悲鳴と喧騒に消えていく。

私は何をしたらよいのですか、師は何をお求めなのですか。そんな思考を掻き消すように、地上からは悲鳴が。背後からは弟子達からの指示を求める大声が次々上がる。これが師が求めている結果なのか、それとも何らかの偶然が重なったのか。頭を抱えたフールーダが最後に辿り着いた物。それを叫ぶように口に出す。

 

「ええい!まずはあの虫の群れを何とかせよ!空から火球(ファイヤーボール)で市街地を守るのだ!」

 

その命令に多くの魔法詠唱者(マジックキャスター)が市街地へと飛んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

──カラン。

 

帝都の空に何かが転がる音が響く。

屋根から響くそれは喧騒に消えていく。

 

「な、何だ…この状況は…」

「う…うわぁ…」

 

地獄と化した帝都を呆然と屋上から見下ろす二つの影。

一つは手にした杖を落とし、呆然と見つめるアンデッド。

一つは全身に寒気を感じて顔を真っ青に染めている闇妖精(ダークエルフ)

 

デミウルゴスへ伝言(メッセージ)が繋がらないという異常事態。

転移門(ゲート)から出たその目にはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図が飛び込んできた。

 

「うわ…ど…どう…します?…アインズ様」

 

顔を引き攣らせているアウラが自分の体を抱きしめ口を開く。

 

「ど、ど、どう…どうしよう…デ、デミウルゴス…デミウルゴスが何処に居るかわかるか?」

 

頭を抱えている主人にちょっと不思議な感情を懐きながら闇妖精(ダークエルフ)は街を見据える。

耳に手を当て…後悔する。大量に感じるアレ。ついでに悪魔と人間達。

顔を歪ませながら報告する。

 

「…ダメです。色々居すぎてデミウルゴス一人探すのは…」

「あ!そうだ!これならマーレに聞けるかもしれません!」

 

どんぐりの首飾りに手をかける。

 

「ど、どうだ?」

「…ごめんなさいアインズ様。繋がりません…」

 

それを受け暫く目元に手を当てていたアインズが口を開く。

 

「…わかった…。…仕方がない…直接…探しに行くぞ」

「えぇっ!?…あ、あそこに…ですか…?」

「そうだ…助けられる者は助けてやってくれ」

 

──上位アンデッド創造 蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)

──中位アンデッド創造 切り裂きジャック(ジャックザリッパー)屍収集家(コープスコレクター)

 

「散らばり一体でも多く悪魔と虫を倒せ!帝都と住民達を守れ!守るべき者を決して傷つけるな!」

 

そう言い放ち、主人は魔法を用いて多くの悪魔を屠りながら逃げ惑う人々の元へ飛んでいく。

それに続く様にアンデッド達も戦場に跳ねるように飛びこんでいく。

黒い大地にうわぁ…と思いながら主人に続いて闇妖精(ダークエルフ)も駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

宮殿近くの市街地に力強い声が鳴り響いていた。

 

「引け!引くのだ!手を出すな!」

「ナ、ナザミ様!ここで逃げては市民が!」

「これは神を降臨させるための儀式!陛下もお望みなのだ!」

 

それを耳にした多くの者が一瞬固まり、多くのどよめきが走りだす。

この地獄を陛下が?そんな馬鹿な…と。

 

「故に我らがするべき事は陛下をお迎えに上がる事だ!」

 

どよめきが大きくなる。

本当にこれが…陛下の?と。

鮮血帝…まさか自らの民を生贄に何かを?と。

想像は言葉となり、言葉は混乱を呼び多くの者に伝播していく。

帝国四騎士。信頼厚いその者から出た言葉というのもそれを加速させていく。

兵達に混乱が走る中、市民達が悪魔に追われ走ってくる。

 

「助けてくれ!」

 

そう言い走ってきた市民を不動──ナザミは2対の大盾で吹き飛ばす。

 

「もう一度言う!これは陛下が望まれた事である!」

 

その言葉に兵達と、それを見た民達は絶望を浮かべる。

 

「行くぞ!我らが陛下を──」

 

金色の閃光が走り、言葉を言い切る前に後頭部から額を槍が貫抜いた。

それはぐにょりと形を変え崩れ落ちる。

兵や市民はその光景に凍り付く。

 

「私が望んだだと?信じる貴様等も貴様等だが…」

 

皆が声の元へと顔を向けると近衛に囲まれたジルクニフがそこに居る。

今までの話は?我らは一体何を信じれば?

あの騎士は?人間ではなかったのか?

兵達も市民も完全に混乱と困惑の中に居る。

 

「何をしている!!一人でも多くを守り一体でも多く悪魔を討ってこい!!」

 

その言葉に跳ねるように兵達が駆けだしていく。

 

「ナザミ…お前も…お前もなのか…」

 

転がる腹心だったそれにジルクニフはそう小さく呟き目を閉じる。

一瞬の感傷に浸り、即座に頭は動き出す。

 

「クソ!!ナザミの姿で先の様な言動をされては…!」

 

何処まで多くの者が見聞きした?

一人が知れば瞬く間に広がっていくのは間違いない。

どうする?どうすればそれを止められる?

違う。止める事は不可能。ならば塗りつぶすのみ。

苛立ちながら周囲に残る兵や住民達に大声で告げる。

 

「宮殿を解放する!逃げてきた者は全て宮殿に避難させろ!レイナース!そして近衛は私に続け!私自ら前線に出る!」

 

「…それにしても虫だと…?幼い頃見た以来だぞ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっち。皆こっちに入って。うわ!飛んでる!こっち来ないで!」

 

水のドームを何か所も作り、そこに民や兵を移動させる。

多くの悪魔が正面から襲い来る。

2メートルを超える巨体の悪魔も混じっている。

そして何より1メートル近いアレが飛行し突っ込んでくる。

 

「悪魔だ!後ろからも来るぞ!」

「おい!アンデッドもいるぞ!」

 

後ろからも悲鳴が上がる。

 

「悪魔も多いけど何より光景がショッキング」

 

目を覆いながらも片っ端から繊維状の水で切り倒しているが物量が上回っている。

何より小さすぎて全てを捌ききれていない。

前を処理していると後方からも迫ってくる。

全身鎧を身に付け黒炎が上がる剣を持つ悪魔が多くを率いて突っ込んでくる。

 

──骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)

 

その声と共に骸骨の壁が悪魔の進路を塞ぐ。

 

焼夷(ナパーム)

 

火柱が巨大なアレと悪魔を焼き尽くす。

 

「あ、あれいいですね!

 生き残りご一行はあの水の中に入りなよ」

 

後ろから状況にそぐわない声が上がり皆がそちらに顔を向ける。

水のドームを指さす一人の闇妖精(ダークエルフ)と幼子を見つけて固まる一体のアンデッドがそこに居た。

その後ろに続く多くの住民がドームへ駆け込んでいる。

 

「…無事…で…何よりだ」

 

しばらく固まっていたアンデッドはそう言い残し、弱々しく飛び離れていく。

その様子を見ていた闇妖精(ダークエルフ)が二人の姿に交互に首を動かしている。

 

「あの…?アインズ様…?あそこ!あそこに居ますよ!」

 

闇妖精(ダークエルフ)が幼子を指さし声を上げる。

その一言でびくりとアンデッドが一瞬動きを止める。

 

「あいんず?」

 

ワムデュスからも出た一言でアンデッドの動きが止まる。

ふよふよと近くに飛び、アンデッドに遠慮なく近寄り正面へ回り込む。

 

「…モモ?」

 

その一言でアンデッドは完全に固まった。

 

「モモでしょ?」

 

暫く沈黙した後に返事が返ってくる。

 

「…何故そう思うんだ」

「ワム、友達間違えたりしないよ」

 

それを聞いたアンデッドが崩れ落ちる。

 

「違う…俺は…友達なんかじゃないんだ…。約束も…守れなかったんだ…」

 

「守ってる。だから助けに来たんでしょ?」

「違う!元はといえばこれは俺のせいなんだ…」

 

「そうなの?」

「…そうだ。俺が俺の…皆を…皆を止めれなかったから…。

 俺が…俺が臆病だったから…俺が何もできなかったから…」

「アインズ様…」

 

崩れ落ちたアインズにアウラが駆け寄る。

その様子を見ていたワムデュスは暫く考え口を開く。

 

「でもモモは来たよ。止めに来たんでしょ?」

「…そうだ。でも俺のせいなんだ。全部、全部…」

「もしかしてゼンベルもモモのせい?」

 

小声で蜥蜴人(リザードマン)の事ですよとアウラがアインズに告げる。

 

「そうだ…。蜥蜴人(リザードマン)も。王都も。俺が…悪い。俺が…気付けなかった。止めれなかった」

 

ピクリと反応したワムデュスは腕を組み目を閉じて何かを考える。

少しの沈黙の後に問いかける。

 

「ほんとはモモは生き物、嫌いなの?」

「…嫌いじゃない。もうこんなのは嫌だ。もう…嫌なんだ…」

 

細く消えゆく声で答えたアインズの心からの感情。

もう嫌だ。沢山だ。誰かが傷付くのも傷つけるのも。

誰かが死ぬのも。仲間達が傷つける事も、もう嫌だ。

悲鳴の様に。懺悔の様に。溜めこんだ本心が口を出て行く。

 

それを聞き暫く考え込んでいたワムデュスは口を開く。

 

「じゃあ、まだワムの友達。

 いっぱい悪い事したけど、その分いい事してね」

「俺を…許してくれるのか?」

 

「モモは沢山がんばってる命奪った。

 死んだ命はもう帰ってこないけど、まだ助かる命もあるよ」

 

悲鳴が木霊する帝都に指を指す。

 

「ほんとはワム達が干渉する事もよくない。

 もうあんまり偉そうに言えないけど。

 世界が壊れちゃうから。だからワムの分も沢山助けてあげて」

 

「…モモも、まだワムの友達でいたいなら、だけど」

「ああ…ああ!」

 

「沢山いい事してね。約束。今度は守ってね」

「今までの分もがんばって。…この光景はちょっとワムにはキツイので」

 

ブーンと飛んでいるアレに顔を引き攣らせてそう語る。

 

「…今度こそ約束は必ず守る。全て終わったら…もう一度話をさせてくれ」

「わかった。終わったら聞く」

 

それを聞きアインズは深く頭を下げる。

自分をまだ友と呼んでくれた事に心からの感謝と謝罪を込めて。

 

「ありがとう…本当にすまなかった」

「うん。ただ終わったらおしおきする。ディーエが」

 

アインズは飛ぶ。デミウルゴス探して。

一刻も早くこの事態を収拾する為に。

 

「ところで、だれ?」

「…あー…あたしはアウラ」

「行かないの?」

「え…と…出来れば…そう!ここで!この水!と人間を守ろうかなーって!」

「だいじょぶ。水は簡単にはこわれないから。がんば」

「…そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妙ですね…」

 

墓地地下でデミウルゴスが頭を捻っている。

 

「如何なさいましたかな?我輩の眷属達が足りませぬか?」

 

足元から止む事なく眷属を呼び出し続けている恐怖公が口を開く。

 

「定期報告が来ません。悪魔の群れに混ぜた手の者達が皇帝を捕獲次第、多くの悪魔を生贄に儀式魔法を行う予定なのですが…帝国の戦力で全て始末…は不可能。伝言(メッセージ)が使えない事の想定はしていましたが、思った以上に状況が掴めませんね」

 

「あ、あの、えっと。見てきましょうか?」

影の悪魔(シャドウ・デーモン)が戻ってこないのも気になります。お願いできますか?」

 

了解と出て行こうとするマーレにデミウルゴスが声をかける。

 

「この状況、想定外の事…例えば…例の二人組が帝都に居る可能性があります。第二段階、異物の索敵と排除へ移行します。行く前に合図をお願いしますよ」

「え?あ、あの…。確か居ないって…」

 

「常に例外は存在します。その為の保険ですよマーレ。もし発見してもあなたは交戦を避け戻ってください」

「それともう一つ。今回の悪魔達は見境がありません。あなたに危害を加えられるほどの者はいませんが、気をつけてください」

 

「は、はい。え、えっと。地震を起こせばいいんですよね?」

「そうです。帝都外に居るシャルティアへの合図となります」

「えと、あの、そういえば何でここに居ないんですか?」

 

尤もな疑問を口にする。

何と言ったものかとデミウルゴスは少し考え口にする。

 

「…本当はコキュートスが適任なのだがね。恐怖公が苦手だそうだよ」

「シャルティア嬢が?我輩が苦手?初耳ですな。我輩何かご無礼を?今度眷属と共に詫びに尋ねるべきでしょうか?」

 

はて?と首…頭を捻る恐怖公。

 

「それはやめた方がいいと思うね、恐怖公。…面白そうだがね」

 

それを受け、よけいに頭を捻る恐怖公。

 

「さ、マーレ。合図を頼むよ」

「は、はい。で、では行きます!」

 

大きな二度目の地震が帝都に鳴り響く。

 

 

 

 

「二度目の地震…合図でありんすね」

 

シャルティアは飛び上がり、帝都を目にし、固まる。

衝撃的なその光景に力が緩み、手にしたスポイトランスが一瞬宙を舞う。

 

「こ、こ、ここ…ここに…と、飛び…込むんでありんすか…?」

 

計画を聞いていた時、既に何となく想像はしていた…が──想像の遥か上の光景に流れていない血液がサッと下がっていくのを感じる。

頬を引き攣らせ、己の任務を思い出す。

与えられた任務。二度目の地震──想定外の敵が居る可能性有り。索敵及び可能であれば排除。

て、敵…敵…と見るも、右も左も地上は月の光と炎を反射するアレと悪魔の群れ。

空は空で蠢く悪魔の群れとアレが縦横無尽飛び回っている。

 

「ど、どこに敵が…デ、デミウルゴスの勘違いじゃありんせんの?」

 

そうかも。そうだ。きっとそう。恐らく。きっと。たぶん。

 

「ん?今のは…?」

 

火柱が上がり、その周囲の悪魔が焼き尽くされ、一瞬空間が開く。

その一瞬にシャルティアは見た。黒いローブを羽織った何か。

…今一瞬…あの空間に…何か居た…。魔術師…?

火柱…焼夷(ナパーム)あたりでありんすかえ?ではあれが…敵?

その頭に浮かんだ疑問を覆い隠す様に、開いた空間もアレで遮られていく。

やっぱり気のせいかもしれない。気のせいかも。きっと。たぶん。

そう自分に言い聞かせながら顔を引き攣らせながら口を開く。

 

「…眷属召喚」

 

「…見て回ってきなんし!何か見つけ次第戻ってきなんし!

 た、ただ…大したものじゃなければ…戻って来なくてもいいでありんす…」

 

行きたくない。出来る事なら絶対に。心の底からそう思い眷属を送り込む。

 

「え?」

 

想定外の結果にシャルティアは唖然とする。

 

「あ、あ、あ…あの悪魔共…わ、わ、わら…わらわの眷属を…無差別に…」

 

──ああ…ぁ…ぁぁぁぁ…

 

夜の空に一人の吸血鬼の叫び声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガペッ」

「ひ、ひいいぃっ!」

 

全身鎧を身に付けた悪魔の剣の一振りで男の首が飛ぶ。

体はそれに気づいていないように少しの間その場で立ち尽くし、糸が切れるように崩れ落ちる。

後ろに控えていた奴隷のエルフ達が悲鳴を上げる。

 

「老公!天武がやられたぞ!!」

「ますいの…ありゃ強い」

 

カブトムシを彷彿とさせる鋼色の全身鎧を着た戦士と老人が武器を構えなおす。

 

「皆!一旦下がろう!このままじゃ無理だ!!」

「下がるったって何処に下がんのよ!ひっ!登ってくんな!!」

 

二刀流の男とハーフエルフが悲鳴の様に叫ぶ。

 

「アルシェ!妹達は無事ですか!?」

「だ、大丈夫!だけど…!虫が…!」

 

神官と大声で泣く子供を連れた少女が声を上げる。

 

「来るそ。気を抜くなヘヒーマッシャー」

「わかっておる!!老公こそ、このような所で命を粗末にするなよ!」

「良い事を言うではないかや」

 

言葉と共に降ってきた女性のかかと落としで石畳ごと悪魔が砕け散る。

 

「な、何だ!?」

「あれをいちけきとは…お主何者しゃ?」

「今は喋っておる暇なんぞないのではないかや?」

 

美しい銀髪…に大量に付いている小さなアレをぽいぽいと投げている女性。

 

「悪魔はどうとでもなるが、コレは此方には無理ぞ。小さすぎる」

 

焼夷(ナパーム)

 

空からそう声が聞こえると空高く火柱が立ち上り、アレを焼き尽くしていく。

 

「ア、アンデッド!?何故こんな所に!?」

 

一名少女がアンデッドを見て吐いている。

皆が驚愕するもそれを無視するように続けて魔法を発動させる。

 

骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)

「これで悪魔は足止めできる。向こうに──」

 

──連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 

向かってくる空の悪魔の群れに、のたうつ竜の如き白い雷撃が襲い掛かり灰と化す。

 

「向こうに急げ!水のドームがある!そこに入れば虫は入ってこれない!」

──中位アンデッド創造。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

「こいつについて行け!切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)、この者達を守りつつドームまで導け!」

 

突如現れ次々と冗談のような凄まじい魔法を放ち、悪魔を屠り生者を守るアンデッドを前に皆唖然と固まっている。

 

「呆けておる場合かや?ここに居れば死が待つぞ」

 

その言葉に我に返った一同は感謝を口にしアンデッドが指し示す方角へ走り出す。

フェディエルはそれを見送るとアンデッドへと声をかける。

 

「のう、お主。王都に居ったモモンとかいうた者であろうや?」

 

アインズはそれを受け、少し固まり答える。

 

「…ワムデュスといい…フェディエルさんといい…何故わかるんです?」

「ヒトの子の真似事をしておるアンデッドなぞ珍しい。覚える気が無くても覚えるであろ」

 

「…詳しく聞きたいのですが──今は話している時間がありません」

「尤もであるかや。話している時間はないであろうな」

 

「先ほど見つけたが…遠く離れた所に親玉のような者がおるであろ?が、動く気配がない。他を無視してあれを叩こうにも他を放置すれば多くが死ぬでな」

 

守ってやろうと告げたのでなと、肩をすくめながら指で示すその先。

遠く離れた所に巨大な悪魔が浮いている。

 

「憤怒の魔将…」

 

アインズが呟くように口にする。

 

「…知り合いか?あれを倒せばこれは止まるのかや?」

「…止まらないでしょう。これは──恐怖公の眷属召喚。憤怒の魔将を倒したところで止まりません」

 

「ではその恐怖公とやらは何処に居る?」

「わかりません…俺も探し回っている最中です」

 

「なるほど?では此方は一応あの親玉に向かって進もうぞ?主は近場の細かいのを相手しながら探すがよい。さすれば少しは落ち着くであろ?」

「…わかりました」

「色々詳しいようではないか?後で話は聞かせてもらおうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーい」

 

自分へ向かってきた悪魔を杖で殴り潰しながら歩く一人の闇妖精(ダークエルフ)

悪魔像(アーマゲドン・イビル)から発生した悪魔はデミウルゴスの使役する者と違い、制御が効かない。

 

「うーん。影の悪魔(シャドウ・デーモン)はどこなんだろ…」

 

そう呟きながら歩きまわっている。

影の悪魔(シャドウ・デーモン)と居る可能性があるらしい二人組を探して。

 

「くすぐったいから服に入ってこないでほしいなぁ…」

 

恐怖公の眷属をぽいぽいと投げ歩いていると聞きなれた悲鳴のような声が聞こえる。

 

「あれ?お姉ちゃん?」

「マーレ!?」

 

鞭を振り回しながらアレや悪魔を屠っていたアウラが走り寄ってくる。

 

「マーレ!…あー…。ちょっと近寄らないで…」

「どうしたの?お姉ちゃん?」

 

マーレの頭の上に居る大きめの眷属が触覚をピクピク動かしている。

ぽいぽいと投げて姉に疑問を投げる。

 

「どうしてここに居るの?」

 

あっ!と目的を思い出し告げる。

 

「デミウルゴスは何処!?これ今すぐ中止して!」

「え?え?ど、どうして?」

「アインズ様のご命令!!」

「え?アインズ様の?」

「そう!だから早くデミウルゴスの所に連れてって!」

 

「え、えと。今は地下墓地に恐怖公と居るよ」

「え”恐怖公と…?」

 

サーっとアウラの顔が青くなる。

 

「うん。そこで恐怖公が沢山眷属を出してるの」

「そ、そう…そうなの…。え、えっと…何か伝える方法ないの?伝言(メッセージ)とか…」

 

大量に地下から湧き出すアレをかき分けながら進むのを想像してしまった。

行きたくない。物凄く。

 

「え、えっと。作戦中止は…アインズ様のご命令…なの?」

「そう!そうよ!」

「え、えっと。あの…ほ、ほんとにいいの?」

 

弟の様子に少しイライラしながら告げる。

 

「いいの!アインズ様もここに来られてるの!デミウルゴスを探し回ってるのよ!」

「え!?わ、わかった。えーい」

 

杖を大きく振り下ろすと大地が大きく揺れる。

──三度目の地震。作戦中止。即時退却。

 

「え、えと。これでその…伝言(メッセージ)の妨害とか、眷属召喚とか…止まると思う」

 

そう伝えると同時にマーレに伝言(メッセージ)が届く。

 

<<マーレ?私です。どうしたというのです。何故作戦中止を?>>

<え、えと。あの。アインズ様が来られて…直ぐに止めるようにって…>

<<アインズ様が!?今どちらに!?>>

<え、えと。わ、わかんない…です。お、お姉ちゃんに聞いたので…>

<<アウラに?…わかりました。シャルティア、恐怖公の二人と所定の場所で合流し速やかにナザリックへ戻ってください。私はアインズ様と連絡が取れ次第戻ります>>

 

「え、えっと。作戦中止になったみたい。これから戻るって」

 

それを聞き、アウラが回りを見渡すとアレが動きを止めている。

 

「そっか。じゃあ、あたしもアインズ様を探すよ」

「え、えと。じゃあ僕は…合流して戻るね」

 

──はぁ…。これでいいんですよね?アインズ様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、憤怒の魔将──ヤルダバオトと思われる悪魔が討たれた。

その後も沸き続けた多くの悪魔は謎のアンデッドと帝国兵、請負人(ワーカー)、黒碧、冒険者達に討たれる事となった。

 

最前線で民を守った皇帝と騎士レイナースを称える声は帝都全土に響き渡る。

多くの者を救った請負人(ワーカー)、黒碧、冒険者達、そして謎のアンデッド。

これにも止む事のない賛辞が響き渡った。

 

今回の事件を起こしたとされる邪神を祭る貴族や信者は一族郎党皇帝の命により処罰された。

後に黒の一夜と呼ばれるその戦いは、多くの犠牲を払ったが規模に対し驚くほどに死者自体は少なかったという。

帝国四騎士のうちの2騎士は討ち死に。1騎士は悪魔が化けていたと発表が上がると多くの者が涙と驚きの声を上げた。

 

姿を消した多くの住民を救ったとされる闇妖精(ダークエルフ)の話も瞬く間に広がった。

それを受け妖精(エルフ)の奴隷制度の反対運動が起こり、皇帝はそれを受諾した。

 

そしてヤルダバオトの目論んだとされる神の復活──。

多くの悪魔を滅ぼしたアンデッドこそが蘇りし死者の王、死の神では?という話がまことしやかに囁かれる事となる。

死を統べる神が多くの死に怒り、その眷属ヤルダバオトを討ったのだという者。

全く無関係のアンデッドであろうという者。

ヤルダバオトに怒った神の降臨だという者、様々だった。

 

後に帝国は市民及び皇帝が異様な程潔癖症となり、世界最大の清潔都市となる事はまた別の話。

 

 

──その後、再興中の帝都郊外の草原で、二人と白金の鎧が出会う事になる。

 

 

「やっと見つけたよ。──君達はプレイヤーじゃ…ないね。

 その気配遮断はどうやって…。詮索するだけ無駄かな。

 直接目にすれば分かるよ。君達は同種…じゃないね?似ていると思ったけど違うね」

 

 

「自己紹介が遅れたね、私は──ツアーという者だよ」

 

 




じる   :何だこの地獄絵図は…(ドン引き)
現地の方々:(白目)
恐怖公  :吾輩MVPでは?
デミえもん:間↑違い↑ない…↓↓↓↓

あうら  :へたれか!!
ももんが :だって居るとは思わなくてさぁ!
まーれ  :へたれかー!!へたれってなに?

~一月前の路銀稼ぎの夜盗狩り~
くれまん :何でついてくんのさー?殺すよ?
ぶれいん :お前。強い。しゅき。しゅき!
くれまん :は?(困惑)

小さな生命の忌避(スモールライフ・アヴォイデンス)
オリジナル魔法。虫や小動物が近寄れなくなる。
森や田舎に伝わる蚊や蛇除けに最適な0位階の世界固有魔法だゾ!
森住みなら絶対居る(確信)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。