リーシュ妃がサドに目覚めたら   作:記憶破損

1 / 14
黒き徳妃

 

 東宮で幼子が一人の男の膝上で話していた。幼子の顔には笑顔が見られ、安らいでいるように過ごしていた。

 

「ひげのおじちゃん」

 

「何でしょう、里樹(リーシュ)妃」

 

「ううん…なんでもない」

 

「そうは見えないな。何かあるなら聞こう…兄上の事で相談でも?」

 

 リーシュは無知だった。現皇帝が重度のロリコンで齢9歳で嫁ぐ事となった哀れな少女、それがリーシャ妃。無知というのは時に残酷な現実に染まってしまう存在だ。

 

「あのブタさんはどうでもいいの。いつもないてるだけでつまらないから」

 

 …この時の記憶は今も覚えている。自分の膝で当然のように発した言葉を理解するのに時間が掛かった事を…

 

「…豚とは」

 

「ブタっていって、ムチでたたくとよろこぶの!」

 

 男は顔を己の手で隠した。身内の性癖は知っていたが、想定以上に悪化していた事に頭痛すら感じる。何より、無知の少女からこのような言葉を発させた業の深い趣味を知ってしまったことが更に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は数年経ち…東宮で過ごしていた男は急死した兄に変わり、皇帝となった。皇帝となった彼は頭角を現し、その政治に関する能力を存分に活かしていた。

 前皇帝と一番違うのは、家柄だけで判断しなくなったことだろう。実力を示した者は積極的に官職に当て、特に実力があると判断した者は宦官として後宮に招待するようになったことだろう。それが当人に望ましい事かどうかは置いておき…

 

 そんな皇帝が愛する者達がいる後宮。宮女であり、下女とされる者達は日々夢見ていることがある。上級妃の誰かに侍女として魅入られる事、所謂出世を求めて過ごしていた。

 だがそんな簡単なものではない。彼女達の仕事は基本、後宮の掃除洗濯などであり知識面を期待されていない。文字書き計算といった知識も覚えていないのが基本故に日々の態度からしか判断されないのだ。

 

 日々ミツバチを求め、甘い蜜を発する草花が生い茂る庭…そんな中に一輪の毒花が生える。その匂いに釣られる者達が後を絶たなくなるのは、実に愉快な出来事に繋がる事だろう。 

 

猫猫(マオマオ)のおかげで助かったわ、うう、でも寒い」

 

「もう少しで石が温め直りますので」

 

 冬の寒さが心身を冷やす月、暖を囲む者達で溢れていた。華やかな衣装に身を包み、己が主を表す色を前面に出す様に目を奪われる男が多いだろう。華やかな裏に広がる女たちの争いに気づかず。

 

 彼女達は上級妃の侍女達。今宵の園遊会に参加したが、薄着な上に冬の寒さを長時間耐えるのに苦痛を強いられていた。そんな問題に首を突っ込んだのはマオマオと呼ばれる侍女であった。

 服の内側にポケットを刺繍、その中に熱した石を入れる事を考案。つまり湯たんぽの概念を生みだした少女だった。そんな彼女の主である玉葉(ギョクヨウ)妃の下に来てから初の園遊会。

 

(早く終わらせればいいものを…見栄を大事にするのは勝手だが、下々の者には理解できない事だ)

 

 マオマオは薬師の知識を持つという類まれなる才能を持っていた。本人が平穏を愛する性格故、出世欲は持ち合わせていなかったが何故か出世を繰り返す事になっている。

 

「そうだわ、猫猫には里樹妃の事を伝えてなかったわね。いい?見た目に惑わされないでね…まあ、大丈夫だと思うけど」

 

 同じ侍女の桜花が耳元まで近づいて教えてきた。その過程で前皇帝の妃だったと知らされ、鳥肌が立ったが…感想としては不遇な姫君としか思えなかった。実際にその姫君を見るまでは…

 

 黒い…それが第一に思った。本来身にまとう服装には意味がある。自分の雇い主である玉葉妃は翡翠宮を与えられ、我々侍女は自らの主を表すピンク色に近しい色の服装を身にまとう。

 

 里樹妃は金剛宮、白色が基本となるはずなのだが…本人を含め、黒い服装をしている。年齢が14となるが、未だに生娘であり帝のお通りが無いらしい、それの当てつけだろうか?

 

「あら、玉葉妃のところの」

 

 里樹妃の侍女が、こちらを見下すような態度で挨拶をしてきた。主人の前でそんな態度をとっていいのかと内心呆れていると…里樹妃が手がその侍女の額を叩いた。

 

「あら?同じ上級妃の侍女同士でしょ、仲良くしなさい。ごめんなさいね、躾ができてなかったわ」

 

「い、いえ、大丈夫です!」

 

(おいおい、この姫様いい性格してるぞ)

 

「はぁ、はぁ・・・す、すいましぇん」

 

(…花街で輝きそうだな)

 

 調教された犬と飼い主…どうやら、後ろの連中も躾られているようだ。瞳が潤って、羨ましそうに泣いている。花街で過ごした過去からマオマオはこういった輩が懐かしくなった。

 

 





 前皇帝の死因…エクスタ死ー

現皇帝「隠さなければ…」

阿多妃「馬鹿でしょ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。