毒殺騒ぎは
「そう…ありがとう」
情報を伝え礼をして去っていく武官を最後まで見ず、ぼんやりとただ時間だけが過ぎていく。その様子を見た侍女達が話しかけるが、無の対応で返され胸が苦しくなるだけだった。
彼女、
夜更けに関わらず、その音が望んでいた事だと言わんばかりにリーシュ妃は起き上がる。
音を出した者に歳相応の笑顔で話しかけ、相手も失笑して対応していた。
「来てくれると思いました。阿多妃」
「ああ、少し話せるかい?」
「ええ、もちろん」
主が起きたのに気が付いた侍女が近づいて来るが、主の冷たい眼差しを受け、客間を開けて退出した。その様子に、瓢箪を片手に苦笑いしながらアードゥオ妃がリーシュ妃と対面する。
「昔は可愛げがあったのにね…」
「あら、今は可愛くないかしら?」
「生意気にはなったね」
「失礼しちゃう」
互いに皮肉を言い合いながらも、その顔は穏やかだった。場が明るくなると、アードゥオ妃が目を付して答える。
「…
毒殺騒ぎこそ起こしたが、結果論であるが死者はいない。リーシュ妃の個人的な感情はあれど、やり直す選択肢も用意していた。
「用意した身分は無駄になりましたか…残念」
「そういうところだよ。私や皇帝が苦手になった理由は」
「何分、非力な小娘ですので」
息を吐き、呆れたようにアードゥオ妃は続けた。
「あんた、私が上級妃をおりること知ってたね?万が一、風明が残る事を選択したら私の付人を続けさせるように動いていた。違うかい?」
アードゥオ妃は以前より、妃の立場をおりる事を決めていた。皇帝からの指示があったとはいえ、子も産めず、妃として役割を果たせない身。納得した上でのことだった。当然ながら、そのような重大な情報には規制がかかっている。
「あらあらそんな、皇帝のお考えを知るなんて私にはできませんわ」
「はぁ…壬氏に当たるなよ。南の離宮に住むだけだ」
「何で壬氏様が出てくるのでしょう?」
「さあね、ただあんたが嫉妬深いのは知ってるから言っただけさ」
嫉妬深いと言われ、どこか納得と同時に否定するように答えた。
「私は愛してるだけですよ?特にいい反応をしてくれる方を」
歪んだ笑顔を見せられたアードゥオ妃は、心の中でジンシの事を祈った。これ以上は忍びないと考え、話題を変える。
「あの緑髪の子はお気に入りかい?」
「猫猫はですね、私のお友達なんです」
「そりゃ、お気の毒に」
「ふふ、彼女は毒を愛しているようですよ?」
「変人には変人が集まるかい…この変態どもが」
マオマオが聞いていたら、一括りにするなと否定しただろう。しかし、徹夜の勤務、日中での翡翠宮の仕事も相まって彼女は今、夢の中である。
「彼女の叔父は…昔、後宮の医者だった記録が出ました」
その言葉を聞き、アードゥオ妃は訝げに聞いていた。何かを察したのか、責めるように問い詰めた。
「…私が今更、あの子に当たるとでも?」
「いいえ、私も知ったのは今回の事件を調べたからこそ。猫猫の家族が関係してたなんて知らなかったわ」
「教えてないんだね…あんた」
「思い詰められても困るから」
それが優しさからか、自己満足か、それとも別な意思か…アードゥオ妃にリーシュ妃の内心は見抜けなかった。
「卑怯だよ。そんなところだけ幼子のままなんて」
その言葉を皮切りに席を立つ。その足取りを物寂しげな声で問いかける。
「もう行ってしまうの?」
「まだ会いたい奴がいるからね。それに、あんたとじゃ飲めないだろ」
持っていた
リーシュ妃はその人物が誰かを想像し、今度の宦官達と話し合う事柄をぶつけようと思惑する。
「じゃあ、阿多妃がただの阿多様になった時にでも挨拶に行きますわ」
その言葉を背で受けながら、腕を揺らして消えていく。
自分も外に出て、ふと暗雲で隠れた夜空を眺めながら、夜風を浴びて背を向けた。
次回で最終回予定。元々短編予定だった作品なので。名残惜しいですが最終回とします。