リーシュ妃がサドに目覚めたら   作:記憶破損

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需要あったみたいですね。


彼女が至るまで

 

 前皇帝の時代は垂簾聴政(すいれんちょうせい)に近い形式で成り立っていた。先皇太后による実力主義へ移行…我が子に汚れた政治世界を見せたくない母の愛によって政治が動いていた。

 ある意味で束縛、監禁そこに愛情はあれど、当人の気持ちを理解せず自らの欲をぶつけるだけでは愛を感じることは無い。それ故に…前皇帝は逃げた、見たくない現実を見ず、儚く包み込むような存在に縋った。

 

 ブヒィィィぃぃ!

 

 母のような存在とは真逆な存在。つまり幼子を求めたのだ。だが普通の幼子では駄目だ、愛情を持ち接し、傷ついた我が身を癒してくる幼子を求めていた。所謂、ロリママ、バブみを感じたかったのだ。

 

 いたい?いいこ…いいこ… ペッ 

 あ、あ、あ…

 

 だが前皇帝は弾けた。母からの愛という重圧、他の官職含む者達からの内心見下す瞳、自分の居場所が無い現実、そして…幼き者から向けられる柔らかで全身を包み込むような視線。その全てが合わさった時、前皇帝は新たな極致に至った。

 

 だいじょうぶ?いたくない?

 だいじょうぶ

 ブタさんがなんではなしてるの?め!だよ?

 

 罪の道は罪で塗り固められる。歪んだ愛を受けて育った前皇帝から愛を受けた幼子、リーシュ妃もまた歪んだ愛を受け取ったのだ。

 

 彼女達が一般的に見せられない行為をする場所では、一人のお付きの宦官がいた。その者は生まれ持って声を発することができず、それ故に前皇帝から信頼されていた者だった。

 その宦官は前皇帝が崩御した後、生涯で隠し通したい物ができた…託されてしまったともいう。内容は伏せるが、前皇帝は壁画が趣味である。

 

(おいたわしや)

 

 誰知らずその宦官は壁画を隠した。前皇帝の僅かに残る尊厳を残す為に…また、太后に見つかった時が怖いため。

 

 

 

 

 里樹妃は前皇帝の妃である。崩御した後、彼女は未亡人となり出家することになった。汚れを落とす意味合いもあるが、実力主義に移行するに従い、家柄主義の実家からしたら彼女の利用価値が著しく低下していたのが大半だった。

 血筋としては申し分ない。未亡人というのが足を引っ張るかつ実力主義の考えが次代の皇帝も引き継ごうとしている矢先である。言い方は悪いが身請け話を持って来るまで待てと言われたようなものである。

 

 尼寺にてリーシュは住職からの教えを受けていた。仏教の考えは知識として理解していたが、まだ幼い彼女からしたら理解しずらい考えだった。

 

衆生無辺誓願度(シュジョウムヘンセイガンド)?』

 

『それは四弘誓願(シグゼイガン)の一句です。生きとし生ける者を救おう、苦難を取り除こう。その意思を誓うという事ですよ』

 

『う~ん…あいしあうってこと?』

 

『ほほほ、ええそうですね。リーシュ様の愛が相手様を包めば苦難を取り除けるかと』

 

『そっか!』

 

 幼い彼女に降り注いだ人生。他者から見たら不幸と呼ばれる事柄だったかもしれない、だが本人からしたら人生の道筋を指し示す道中に過ぎなかった。

 

 彼女が尼寺で過ごす日々は唐突に終わりを告げる…実家からの政略結婚相手、南の太守をしている年老いた人物に妾として差し出されたのだ。その後事情を知った現皇帝たちが哀れに思い迎えに来る流れだった。

 

 迎えの使者は唾を飲み込んだという…リーシュが南の太守の家にいることは知っていた。門が開いた時、当主と共に現れた。馬の如く跨っているリーシュが言葉を発するまで時が止まったように感じた。

 

『お迎えご苦労様です』

 

 後宮にて現皇帝はリーシュを妃として迎え入れようとするのに躊躇してしまったという。記憶にある幼き少女の容姿は変わらず、無駄に色気・・・一皮むけた少女に引いてしまったのだ。これで生娘というのだから、末恐ろしいと感じながらも、その原因が身内なのだからと己を納得させた。

 

 現皇帝が東宮時代からの妃である阿多(アードゥオ)妃もまた、リーシュの事を思い後宮に招待するよう志願した人物だった。あの前皇帝を知っている身としてその思いも強く、特に愛されてしまったリーシュを特別視していたのだ。

 

(里樹・・・恐ろしい子)

 

 現皇帝、アードゥオ妃、両名どちらもリーシュ妃に苦手意識が芽生えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 時は園遊会に戻る。華やかな舞子を尻目に行われる演目の一つ…食事である。猫猫(マオマオ)を含む毒見が他の者達に見守られながら食べる演目に口が緩む者達がチラチラと窺える。

 

(趣味の悪い演目だ)

 

 西側に武官が並び、東側に文官が並んでいる。簪を送ってきた者が武官側にいたが、出世頭かと思いながらも運ばれて来た食品に目を移らせた。

 

 食前酒が銀杯に注がれ、匂い、接触部分に曇りがないかなど目視で確認する。

 

(おや?もう飲むのか)

 

 自分が一通り確認し終えたと同時ぐらいか、リーシュ妃の毒見が人先に口に含む…どこか妖艶な花街の女の如く火照っている様子が見て取れた。その様子に観客も当てられたのか、顔が赤いのがチラホラと見えた。

 

壬氏(ジンシ)様が言ってたな、里樹妃の侍女たちは知識と忠誠の塊だって…躾方がお美味い様で)

 

 ジンシ様は男女問わず虜にする美形の宦官だ。後宮を取り仕切っている人物であり、何かと絡んで来る厄介な奴とマオマオは認識していた。

 

『あ~里樹妃と関わらない方がいいぞ。あの方に関わった奴はロクな事にならん』

 

『そういえば、壬氏様は挨拶だけでしたね』

 

『…聞かないのか』

 

『聞きたくないです。それに…ああいった趣味の方も花街では稀にいましたので』

 

『お、おおそうか…』

 

 あの後も何かと絡んできてウザかったが、まあいつもの事だ。

 

 前菜が運ばれ、毒見も終わり特筆すべきことが無く進んで行く。妃たちの口に運ばれても変化なく食し終わり、何事も無い。

 

(嫌なものを見た)

 

 リーシュ妃の毒見が主人の食べる姿を妖艶な眼差しで見つめている。食事の席で場違いなものを見せられ食欲も失せるというものだ。

 

 

 ---

 

 

 長年参加する園遊会の寒さは、年老いた身には辛いものだ。暖かな寝床で酒を一杯したい気持ちになるが、おくびに出さず毒見たちを見守っていた。

 最終的に毒見が食した品が自分達にも馳走われるのだ、安全の為にも毒見を観察する視線は止めない。

 

(ほう、玉葉妃の毒見と里樹妃の毒見…どちらも心得があるか)

 

 観察する高官、大臣の職に就く者は人を見て使える者か否かを瞬時に判断できるだけの経験があった。

 

(薬学を学んでおるな、あの使えん薬師に見習わせたいものだ)

 

 しかし、その観察眼がアダとなった。美味しそうに食す様があまりに内心を写し出し、その表現と虜となったのだ。

 

 ギョクヨウ妃の毒見に魅入られてしまったのだ。リーシュ妃の毒見もまた別な意味で妖艶だったが、大臣的にはギョクヨウ妃の毒見を推した。

 

(なんと美味そうに…それほどまでに美味いのか)

 

 思わず生唾を飲み込み、毒見の動作全てを観察した。見た目は整っているが、どこか不愛想な輩と思っていたがどうだろう…最後付近に出される品を口に運んだ瞬間、花開いた。潤った瞳、頬が赤らみ、どこか焦らすように味わう様に目が離せない。

 

 そこで毒見はありえない行動に出た。あれ程美味そうに食した物を懐から取り出した手ぬぐいに吐き出したのだ。

 

「これ、毒です」

 

 そのまま走り去り、辺りが慌ただしくなる中で大臣は動いた。

 

「そんなはずないだろう!あの毒見は美味そうにっ」

 

 部下からの注意を無視し下座に降り、先ほどの毒見が残した物を食べようとすると…頬を強い勢いで引っぱたかれた。

 

「毒だって言ったでしょう。何をしているの、早く動きなさい大臣?」

 

 リーシュ妃だった。降りて来た大臣が馬鹿な事をする前に止めたのだ。そして、この場で騒動を止めるのも大臣として自分の役目だと思い出させた。

 

(好きかも…)

 

 大臣の心に新たな思いが芽吹くが…それは誰も知らずに育つのみ。

 

 

 

 

 





里樹妃「あなたは大丈夫?」

里樹妃の毒見「あれぐらいの毒なら大丈夫です!玉葉妃のところは何故か分かっていながら更に食べてましたが」

 …へ~お可愛いこと… 

知らぬ間に興味を持たれた猫猫。
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