リーシュ妃がサドに目覚めたら   作:記憶破損

3 / 14
お供を付けて挨拶へ

 

 園遊会で起こった毒混入事件。それらを収め、混乱した者達も散らばり始めた頃合いで彼女は動いた。己の侍女から大まかな毒の正体に当たりをつけ、立役者の一人に挨拶をしようと探し始める。

 

「玉葉妃、少しよろしいかしら」

 

「あら~里樹妃どうしたの」

 

「毒見の子と会わせて頂けない?」

 

 ギョクヨウ妃は察した。先ほどの事件について聞きたいのだと…同時にリーシュ妃に目を付けられたマオマオを思い浮かぶ。今頃、ジンシ様と一緒に犯人探しでもしてそうだと。

 

「あの子に会ってどうするのかしら?」

 

「ふふ、何もしませんわ」

 

 はにかむような笑顔で答えるリーシュ妃を見て、これほど信用できない者もいないと思った。

 

 リーシュ妃の事について色々と知っているギョクヨウ妃。彼女は人当たりの良い態度を崩さず多くの者達と交流を持っている。その為、良くも悪くも噂を耳にする機会が多いのだ。

 

「貴方、礼聘(れいへい)の子を何人か召し上げたそうね?」

 

 礼聘とは庶民や貴族の子である。後宮に集められる宮女には位が存在し、家柄である程度の身分証明を含め決めている。侍女も基本として位の高い者から決められていくのが大半だ。

 人柄と能力両方を見るギョクヨウ妃と違い、リーシュ妃は人柄問わず気に入った者であれば取り込んでいく雑食。どんな存在でも自分色に染めていくので関係ないのだろう。

 

「お耳が早いですね、彼女達はまだ教育不足だからこの場にいない」

 

「渡さないわよ」

 

 言葉を遮るように答えられた拒絶の言葉。呆気にとられたリーシュ妃はツボに入って笑い出す。まるで、幼子の如く気に入った物を離したくないように言うものだから。

 

「くくっははは、お可愛いこと」

 

 その様子を見たギョクヨウ妃は頬を赤らめそっぽを向く。リーシュ妃はギョクヨウ妃が現皇帝からの寵愛を受ける意味を改めて理解した。子の鈴麗公主(リンリーひめ)を見ても可愛らしく、愛情を受けて育っているのがよくわかる。 

 

「ふふ、妬けてしまいますわ…お邪魔しました」

 

 随分呆気なく退散することに疑心を持ったギョクヨウ妃は問いた。人探しはもういいの?と…リーシュ妃はこちらをからかう様な笑顔を袖で隠しながら祝福の言葉を伝えて去った。

 

 …ソワカ、ソワカ… 

 

 

 

 

 

 退散したリーシュ妃は何事も無かったように金剛宮に向かって足を進めていた。

 

「よろしかったのですか?翡翠宮まで行けば自ずと」

 

 侍女の一人がつまらない回答をしてきた。その者の顔を撫でるように触れ、瞳を覗く。赤らむ顔から体温を感じながら、低い声で言葉をぶつける。

 

「それじゃあ彼女の輝きが見れないでしょ?」

 

 リーシュ妃は毒見の行動を見て、あのまま終わるような人物ではないと判断していた。追い毒を好んでするような輩だ、普通では思いつかない行動をしてくれるかもと期待しているのだ。

 

 顔を離し、態勢が崩れた侍女を眺めつつ言葉を続けた。

 

「今回の事件でどっちにしろ壬氏(ジンシ)様から聞き取りが来るわ。あの毒見の子も関わるでしょうね」

 

 リーシュ妃は混乱する場の中で抜け目なく離れていくジンシの姿を確認していた。目的の子を追う様に出ていく姿を…実に面白い案件になりそうだと考えていた。

 

「私が求めたのは彼女の本質を知りたいのよ。紹介されて終わりな関係なんて望んでいないの…わかるかしら?」

 

 侍女は高揚とした様子でありながら、心身が冷える眼差しを受け口からよだれが止まらない。

 

「行きましょう?」

 

 変わらない歩みで先を進める。その歩みに合せるように続いていくのであった。

 

 ---

 

 

 その男もまた園遊会に参加して、混乱した盤を眺めながらそそくさと巻き込まれないように退散していた。

 

(歩、歩、歩…馬、馬、馬、角…おっと里樹妃か)

 

 男はとある持病を持っており、人の顔が判別できなかった。どうしようもない事だと諦めていた時、叔父からのアドバイスで相手の観察を続け、人が盤の駒に見えるようになった。

 

 彼は生まれ持っての盤面遊戯の才を開花させ軍師として返り咲いた。数多の物事を盤局と見て、最善手を打ち続けた。その結果、武の素質が無いにもかかわらず軍部の幹部軍師となった。

 

 だが、準規に沿わない行動を繰り返す様から変人軍師と呼ばれることが常だった。

 

(…後手になったな)

 

「あら、羅漢(ラカン)軍師。偶然ですね?」

 

「…ええ、里樹妃もお変わりないようで何よりですな。では」

 

「お待ちになって」

 

 意にそぐわない一手。その(リーシュ妃)がラカンは苦手だった。角を潰すように動く駒、その差し手もまた厄介。番手になれば斜めから崩してくる嫌な一手を好むときた。このような者には席に座らないに限るのだ。

 

「酒の席で羽目を外しましてな。茹だった頭を冷ましているだけですので」

 

「あなた下戸でなくて?」

 

「…はて?」

 

「果実水がお好きなようね。私も好きなの」

 

「果実酒と考えないので?」

 

「ふふ、だったら酒の匂い一つでも出してから言ったらどう?軍師様」

 

「これは一手取られましたな、ハハハ。対局はこれで幕を下ろし」

 

「誰かを探しているの?」

 

 ラカンがリーシュ妃と会いたくない理由はこれだ。相手の中に土足で入る事に躊躇が無い。前々からそうではないかと思って接していたが、今回は逃げれそうになかった。

 

「…探しているとしたら何か?」

 

「だって目的地が同じだと思ったからよ」

 

 察しがついたラカンは一息入れ、ひょうきんな表情で問いかける。

 

「わかりやすかったですかな?」

 

「人を観察するのは貴方だけではないと知りなさい」

 

 その答えに目を開き、心を閉ざす。そして仲良く向かう事になった…ジンシ様の仕事場に。





 羅漢「よくもずけずけと人の心の中に入る。恥を知れ、俗物!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。