リーシュ妃がサドに目覚めたら   作:記憶破損

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猫に毒物

 

 猫猫(マオマオ)が医者の寝床を占領し、薬や毒に溺れる様な時間を堪能している。やぶ医者だけでは多くの精査物をさばき切れず、頼った手前しょうがなく明け渡して夜が明けた。

 

 夜明けに床に就いたマオマオ。浅い眠りを繰り返し、何度目かの寝返りをしたマオマオに謎の感覚を覚え、目を開ける。

 

「ぅん…?…!?」

 

 それは一瞬黒い影のようだった。ただひたすらに佇んでいるように、こちらを見つめ続ける影。その影が動き、ゆっくりとこちらに近づく時、寝床から飛び起きる。

 

「おはよう、猫猫」 

 

「な、あ、徳妃」

 

「あら、里樹(リーシュ)って呼んで?」

 

 息を整え、落ち着いて話す。

 

「どうして」

 

「ここにいるか、かしら。私の贈り物、気に入ってくれた?」

 

(里樹の物だったのか…あの美形顔め、私を贄にしたな)

 

 冷静に考えれば答えに辿り着いたかもしれないが、マオマオは目の前の桃源郷に身を任せてしまった。

 自分を売った壬氏(ジンシ)に対し、思いを募らせる。その様子で察したリーシュ妃は笑い出す。

 

「ふふ、その様子だと壬氏様から何も聞かされてなかったようね」

 

「…お見苦しい姿を」

 

 寝起きでボサボサの髪をリーシュ妃が触れる。止めさせようとするとリーシュ妃のもう片方の手で腕を抑えられ、押し倒されてしまった。

 

「徳妃、どいてください」

 

 幼い妃である。その小さき体からの温もり、触れられた手の感触、自らと比較しても軽い肉体。この人物は幼い少女なのだと改めて感じた。

 

白鈴(パイリン)姉さんの感覚だな…この年齢でこれか)

 

 同時に幼い肉体から放たれる色気、そして母性に近い感覚を知覚できるような視線を受ける。マオマオはまるで妓女の幼い頃からの姉貴分である人物を思い浮かべた。ある一点を除いて、その感覚は懐かしさすら覚える。

 

「…なんだか、凄い負けた気分だわ」

 

 素直にどいたリーシュ妃の顔は、どこか悔しそうにしていた。

 

「少しは興奮しないの?」

 

「同性ですので」

 

 冷めた対応でありながら、笑い飛ばすように隣に座った。

 

「昔話をしてあげる。私がまだ前皇帝の妃だった頃の話よ、聞きたいでしょ?」

 

(最初から私狙いか)

 

 薬や毒を集めたのも、ジンシ様に阿多(アードゥオ)妃のところを探らせたのも、この事件の鍵を自分に教える為だと理解した。

 

「私がまだ妃として送られて、心細い日々を過ごしていた時があったの。右も左もわからない後宮で自分の居場所が無くって泣いていたわ」

 

(今じゃ考えられないな)

 

「そんな私に構ってくれたのが、阿多妃だった。最初に会ったのは…今のような男前になる前ね。ふふ、娘のように可愛がってくれて嬉しかった」

 

 昔を思い出したのか、普段の隠すような笑顔ではない素直な顔が現れる。こんな顔ができたのかと思っていると話が続く。

 

「ねえ、阿多妃が何で今のようになったか…わかるかしら?」

 

 アードゥオ妃…マオマオは遠目で見たことがあるだけだが、男性物の服装が似合いそうな御仁だと思えるぐらい、凛々しい姿だったと記憶している。

 

 試すような視線を受け、これが事件の真相に繋がる何かか?と察する。答えを待っているリーシュ妃に対し、回答を考える。

 

(…今までの話からすると、里樹妃が前皇帝時代に会ったのは9歳頃のはず。その時は違って、いや…なる前?自身を変えざる得ない程の切っ掛け…娘のように可愛がって…ああ、なるほど)

 

 事前情報が無いマオマオは現在の妃達を思い浮かべ、皆が大事に思う存在を思い出した。

 

「阿多妃の第一子ですか?」

 

 どうやら正解のようだった。目を伏せ、何かを思い出すように語り出した。

 

「私ね、赤ん坊が好きなのよ。どんな事柄も受け入れ、儚く脆い…だからこそ大事に思うの」

 

 誰かを思い出しているのだろうか、どこか懐かしそうに、けれど悲しそうに話し続ける。

 

「聡明な猫猫は赤ん坊に何を食べさせちゃ駄目かわかるかしら?私はわかってたわ」

 

 その言葉を最後にリーシュ妃は立ち上がる。

 

「愛というのは時に甘く、そして毒のようになるの。猫猫も気を付けなさい」

 

(…ここまで話すなら、最初から壬氏様に伝えれば)

 

 大まかな事件の始まりを聞かされ、これをジンシに話していれば犯人まで絞れたかもと考えているとリーシュ妃の一言で現実に戻される。

 

「大体の犯人像は想像できたかしら?」

 

「…ええ、まあ。話を統合して少なからず動機は何となくですが。ですが」

 

「証拠は無いでしょ?」

 

 犯人自体はわからない。しかし、あそこまで露骨に動機について語られれば何となく察しが付く。

 

「過去に犯人に対し、徳妃が教えてしまったんですね。亡くなった赤ん坊の理由を」

 

「ふふ、続けて」

 

「…赤ん坊に食べさせた物はわかりませんが、我々にとっては何ともなくとも、赤ん坊にとって毒となる物はあります。犯人は知らずに食べさせて…死なせてしまった」

 

「流石ね。じゃあ行きましょうか」

 

「は、え?どこ」

 

「犯人の下へよ」

 

「何考えてるんですか、それに証拠は結局ないはず」

 

「あるわよ?ほら」

 

 リーシュ妃の懐から木簡(もっかん)を取り出す。

 

「意外と手間取ったわ、過去10年間で特定の人物の取引記録を手に入れるの」

 

 マオマオはドン引きした。毒を入れた証拠がないなら、毒の入手経路を探る。その事自体は問題ではない。

 

(交易の記録を平然と持ち歩くな!)

 

 文官が管理する情報を何で妃が写しまで持っているか…関わりたくない気持ちが心を満たした。

 

「私がここに来る時、猫猫に会うって言ってあるの。一緒に行ってくれるわよね?」

 

 徳妃に何かあれば真っ先に自分が疑われる。逃げ道が当の昔に閉ざされていると知り、頭を押さえた。

 

 

 

 

 寝床を追い出され、客間で寝ていた医者が起きた時…まだ残っていた仕事に泣きながら手を付けるのだった。

 





 どこぞのデトロイト市警並に行動力があるリーシュ妃。

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