113年前の上弦   作:白澄星火

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第弐話:無敵の血鬼術

第壱節:呑み衣

 

隆寿郎が地面を蹴ると、赤い刀身が軌道を描き、怪物の首へと吸い寄せられていく。

そしてそのまま、烈火の如くの勢いで、刀は怪物の首へ叩きつけられた。

 

しかし、怪物の首は肉の塊で覆われており、刀が入らない。

肉の塊は硬さと弾力が両立されており、さらに、日輪刀を飲み込もうと浸食を始めていた。

咄嗟に隆寿郎は刀を引き抜こうとするが、彼の周囲を胴体ほどの太さの触手が包み込もうとする。

 

その瞬間、──────咆哮が轟いた。

 

断末魔にしては猛々しい叫び声が響くと、隆寿郎は怪物の首から刀を引き抜く。

その後、一瞬にして触手を斬り落とし、一度背後に飛んだ。

 

だが、怪物と距離をとった筈の隆寿郎は苦痛で顔を歪ませていた。

 

「くっ・・・」

 

彼の歯の隙間から苦悶の声が漏れる。

 

そんな様子を見て、怪物の口元には嘲りや喜びが滲み出た。

 

「あーあ・・・俺様の吞み衣を斬っちまったなァ」

 

怪物が得意げに声を弾ませる理由は、隆寿郎に対して攻撃が届いていたためだ。

実際、隆寿郎の利き腕と腹部には消化液が付着しており、それらは隆寿郎の身体に焼くような痛みを与えていた。

 

だが、隆寿郎の処置は迅速だった。

彼は消化液が付着した部位の衣類を切り落とし、自身を守る。

 

そして、決意に満ちた表情を浮かべて刀を握り直すと、隆寿郎は上段の構えをとった。

 

怪物の触手は攻防一体で無敵と呼んでも過言ではない代物だった。

胴ほどの太い触手は機敏に動き、対象を執拗に捕えようとする。

そして捕まったら最後、対象が骨まで溶けるまで離すことは無い。

 

では、刀で防御するのはどうか?

それは、隆寿郎が受けた被害を見れば(もっ)ての(ほか)ということが分かるだろう。

触手を傷つければ、今度は消化液が飛び出すのだ。

飛散した消化液が付着すれば、皮膚は焼けただれ、体力を奪う。

 

今までいくつもの隊員がこの怪物に挑んだが、攻略の糸口さえつかめず、命を落としていった。

 

そんな怪物の実力を目の当たりにしても尚、挑もうとする隆寿郎の表情に一切の迷いは感じられない。

すると怪物は眉を(ひそ)めながら、唇をかすかに尖らせた。

 

「・・・なんのつもりだァ?無駄だってわかんないのかねェ」

 

怪物が挑発の言葉を口にするが、隆寿郎は眉一つ動かさず、鋭い眼光で怪物を捉え続けていた。

 

そして、二度目の激突が幕を開ける。

 

隆寿郎は再び怪物に向かって一気に踏み込む。

対する怪物は、触手を伸ばし鬼狩りを包み込もうとする。

しかし、隆寿郎は防御も攻撃も捨てそのまま突き進み、ズブズブと怪物の触手に沈んでいく。

 

すると、怪物の口がぎこちなく開かれた。

 

「おいおい・・・俺様の呑み衣に食われてんのに、まだ動くのかよ?」

 

然もありなん、隆寿郎は止まらないのだ。

本来であれば、消化液で溶かされ激痛にのたうち回る筈だ。

しかしどうだ。

声すら上げず、ゆっくりと、だが着実に怪物の命を奪おうと迫っているのだ。

 

流石に、怪物にとっても予想外の出来事だったようで、頬の筋肉がピクリと動く。

 

「アンタ正気じゃねェわ・・・付き合ってられるかっつーの」

 

そう言って、怪物は距離を取ろうとした。

その時だった。

 

「なっ・・・!?」

 

怪物は驚嘆の声をにじませた。

その理由は、一本の触手を、隆寿郎が左腕でがっちりと固定し、逃がさないようにしていたためだ。

 

そして怪物は、余裕の有る態度を崩していった。

 

「くそっ・・・くるんじゃねェ・・・!」

 

・・・怪物の悲痛な願いは隆寿郎の耳には届かない。

着々と、彼は怪物との距離を詰めていく。

 

そしてついに、隆寿郎の刀が上段の構えから斜めの向きに、怪物の首へ振るわれた。

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