113年前の上弦   作:白澄星火

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第肆章:幕間
第壱話:手がかり


第壱節:生存者(ながれ視点)

 

享和2年 02月23日(西暦:1802/03/26)──────

 

隆寿郎(りゅうじゅろう)の日輪刀の近くに、焼けただれた男性が一人、発見された。

だが、隆寿郎は行方不明だった。

 

 

第弐節:ながれの過去(ながれ視点)

 

焼けただれた男の姿を見て、私は強い憎悪に駆られていた。

 

私の姉と、その婚約者がまさにそのような姿で亡くなったからだ。

 

姉は体が弱かった。

体も小さく、華奢で、庇護欲を掻き立てる女性だった。

 

対して私は、身体は丈夫で、女としては背丈が大きく骨太であり、姉とは対照的だった。

 

だから、両親が気にかけるのはいつも姉だった。

 

──────私もいっそ、病気になれば・・・

そんなことを思う時もあった。

 

家族以外で姉と近しい間柄だったのは文吉さんという男性だった。

彼は姉と同い年で私の四つ上だった。

彼は鬼殺隊に身を置き、逞しい体つきとさわやかな性格は多くの女性を魅了した筈だ。

 

それに対して、姉もおしとやかで、理想的な女性だったと思う。

だから、二人が両想いになるのもすぐだった。

 

しかし、私も文吉さんに恋心を覚えていた。

だから、姉に対して嫉妬心を覚えることもあった。

 

でも、私は姉を嫌いになることはできなかった。

なぜなら、姉は文吉さんへ向けるのと同じくらい、私のことも愛してくれていたからだ。

 

姉はいつも私を気にかけてくれて、私の成長や幸福を願ってくれた。

 

私は段々と、自分は彼女を守るために強く生まれたのだと思うようになっていった。

気付いたら、女性らしさとは無縁だった自分の見た目を恥じることは無くなり、むしろ何かに活かしたいと考えるようになった。

そして、私の関心は自ずと、人々を守る鬼殺隊へと向いていった。

 

当然、そんなことを姉に話したら、いつもの穏やかな姉からは想像もできないような剣幕で怒られた。

私の必死な説得で、姉は渋々了承してくれたが、そこで姉と一つの約束を交わした。

 

──────"おばあちゃんになるまで生きること"

それが姉との約束だった。

 

姉に怒られたのは、これが最初で最後だった。

 

姉と文吉さんが正式に結ばれることになったのは私が十四の頃で、その時にはもう嫉妬心を覚えることは無く、心の底から二人を祝福した。

 

しかし、そんな幸せも束の間であった。

──────旅先で、姉と文吉さんは鬼に殺された。

 

二人の死体は目を覆いたくなるほどの惨状だった。

 

あんなに華奢だった姉の身体は焼きただれ、骨はひしゃげていた。

きっと耐え難い苦痛が身体を限界まで曲げたのだろう。

 

私の初恋の人は、顔もわからないくらい酸で崩れていた。

 

私は二人の遺体に寄り添い、嗚咽を抑えることもできなかった。

その場所には今までの私が発したことの無い、鬼へ向けた呪いのような言葉が充満し、暗い影が私を包み込んでいった。

 

彼らは私の生きる希望であり、幸せの象徴だった。

姉の美しさと文吉さんの優しさが、この世から永遠に消え去ったことを受け入れることはできなかった。

 

そして今でも、瞼を閉じれば二人の最期の姿が鮮明に浮かび上がり、その度に私は憎悪の炎を燃やすのだ。

 

 

第参節:目的(ながれ視点)

 

享和2年 03月10日(西暦:1802/04/12)──────

 

鎹烏や隠が、隆寿郎を探し始めて数日が経った。

そんな中、遂に鬼から生き延びた男性が目を覚ました。

 

そして彼の口から、あの日の夜に朧げな意識の中で目にしたことが語られた。

彼曰く、鬼は触手を使って人間を消化しながら捕食するらしい。

また、隆寿郎はその鬼に終始劣勢であり、状況を鑑みれば隆寿郎が殉職したのは確実とのことだった。

ただ、あの日の出来事を口にする彼があまりにも辛そうだっため、それ以上の情報は彼の回復を待ってから得ることにした。

 

それにしても。

 

(──────そうか、因縁すら感じるな)

 

恐らくだが、あの日姉と文吉さんを殺した鬼と、隆寿郎を殺したのは同じ鬼だ。

 

獲物を溶かしながら食べる鬼なんて、今まで実際に会ったことも聞いたこともない。

それだけ、特殊な鬼だということだ。

 

それと、その鬼は基本的に痕跡を残すことなく獲物を捕食するはずだ。

 

何故かと言うと、柱を葬るほどの実力──────十中八九、上弦の鬼で間違いないが、上弦ともなれば、今まで食べてきた人間は数知れず。

しかし、消化液で溶かされた形跡のある犠牲者は、姉と文吉さん、そして今回の男性のみ。

 

つまり、死体そのものが、少なからず手がかりになるのだろう。

 

ではなぜ、姉と文吉さんを殺した時と、隆寿郎を殺した時だけ、手がかりを残したのか?

 

これは推測だが、文吉さんは当時柱で、さらにその中でも上位の実力者だったことが原因だろう。

夜明けまで粘ったに違いない。

 

表現は悪いが、鬼も手こずったため、やむを得ず"食べ残した"ということだろう。

 

隆寿郎も同様に、夜明けまで鬼を釘付けにし、少なくとも目撃者を一人生存させた。

 

だから。

 

──────私が、繋ぐ。

 

 

第肆節:損失(ながれ視点)

 

──────隆寿郎の葬儀は、空っぽの棺で行われた。

元柱であり彼の父親の、権寿郎(ごんじゅろう)さんがあんなに泣いているのを私は初めて見た。

 

そして、隆寿郎と入れ替わるように、弟の聡寿郎(そうじゅろう)が柱となった。

実力は申し分無く、さすが煉獄家だと感心した。

 

しかし、聡寿郎は隆寿郎の代わりにはなれなかった。

 

いや、誰も隆寿郎の真似など出来やしない。

 

隆寿郎は少ない睡眠時間でも問題なく日中を活動できた。

しかも、底知れぬ体力で一日中鬼の目撃調査に動き回っていた。

 

だから、隆寿郎が開いた穴は、想像以上に大きかった。

今までは、隆寿郎の尽力で鬼の所在を掴み先手を打つことが出来ていたのだ。

 

(・・・これは、最後の手段だけど・・・)

 

私は、ある"人物"を思い浮かべていた。

金で動き、手段は択ばず、人を殺すのに躊躇もしない、そんな男を。

 

「さーて・・・下弦の弐、乱波の時に助けてあげたから、こっちの無茶を聞いてくれると良いんだけど・・・」

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