113年前の上弦   作:白澄星火

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第参話:忍との協力

第壱節:いざ、宇随家へ(ながれ視点)

 

享和2年 03月10日(西暦:1802/04/12)──────

 

思いついたが吉日。

早速、大金を手に宇随家の屋敷へ向かった私は、全集中の呼吸による走法で、日の出から移動を開始した。

にもかかわらず、すっかり日が暮れてしまった。

 

(それにしても、遠かった・・・)

 

屋敷は、霧が深い山道を進んだ場所にあった。

 

過去に一度、案内されて訪れたことがあったが、二度目である今回は私たった一人。

迷いそうになったし、たどり着いたのはほぼ奇跡。

 

屋敷の入り口である、大きな門の前には誰もいないが、殺気が至る所から感じられる。

 

(道中も感じたけど、この殺気・・・この数・・・全部が忍か・・・)

 

私は警戒しつつも、扉をゆっくりと押した。

 

扉は重い。だが、鍵はかかっていないようで、ギイと音を立てて、開く。

 

すると、扉の先、屋敷の入り口には、人影が一つだけあった。

 

「久しぶりだねぇ、ながれ」

 

年は三十半ばほど、真っ白な髪と、無精ひげを生やした男が柔らかい口調でそう言った。

すると、今まで至る所から感じていた殺気は一気に消え、私は拍子抜けしてしまった。

 

「・・・以前はどうも。それにしても、忍なのに、まるで武士みたいな恰好ですね、今日は何かあったんですか?天輪(てんりん)殿」

 

私がそう指摘する通り、男──────天輪殿は武士階級とも見間違える、平袴を身にまとっていた。

 

「いや、別にいつも忍び装束ってわけじゃないよ?俺たち」

 

天輪殿はそう言って、ケラケラと笑い始めた。

本当に、忍だとは思えないほど、人間臭い人だ。

今でも彼の仕草は、こちらを欺くための演技には全く見えず、心の底から楽しんでいるように見えた。

 

そして彼は、しばらく笑った後、無精ひげを触った。

それと同時に、ピタリと笑い声が止み、神妙な顔つきになった。

 

「ながれ、お前さんが何をしにきたか、俺には分かる。鬼狩りを手伝ってほしいんだろう?」

 

「・・・お見通しですが」

 

「勿論、そんで、乱波の件で俺たちが世話になったことを理由に、協力を持ち掛けに来た、と」

 

「お金なら、いくらでも」

 

「いや、金の問題じゃないんだよ。鬼は強い、次期当主である俺でされ、刃が立たないほどにな。それに、乱波の件は俺たちが金を払った。だからその件については終わったことだ」

 

「・・・戦闘での協力は求めません。私がお願いしたいのは、情報収集で・・・」

 

「それも無理だな。最悪の場合、鬼に勘付かれて、俺たちまで狙われることになる。そうなりゃ家の存続に関わるぜ」

 

天輪殿は、こちらを睨みつけながらそう言った。

それは、忍の者の眼。一切の妥協を許さない、そんな強い意志が籠っていた。

 

私は観念したかのようにため息を吐いた後、頭を下げた。

 

「分かりました。今日はいきなり押しかけ、すみませんでした。失礼します」

 

そう言った後、頭を上げて踵を返す。

すると、呼び止めるかのように、天輪殿の声が響いた。

 

「待ちな、"俺たち"は協力しない。だが、お前さんに協力できる奴を一人、知ってる」

 

その言葉が耳に入ると、私は天輪殿の方へ振り返る。

 

「・・・え?」

 

「私情を挟み、依頼主を殺した奴だ。とっくに破門しているが、腕は確かだぜ」

 

彼は真剣なまなざしで私を見つめていた。

 

 

第弐節:問題児(ながれ視点)

 

享和2年 03月11日(西暦:1802/04/13)──────

 

ここは江戸。

さらに言えば、何の変哲もない蕎麦屋だ。

私はそこで、一人の男に向けて長々と話をしていた。

 

「──────と、いうことがあったんですが、協力して下さいませんか?」

 

「いやいや、まずよぉ・・・なんでアンタ俺の場所を知って・・・」

 

怪訝な顔を浮かべるこの男こそ、宇随家の問題児──────宇随天暗(てんあん)殿」

 

黒色の髪に、少し吊り上がった切れ長で細い目、瞳の色は暗い茶色。

どうやら変装しているらしく、実の兄である天輪殿の髪の色や瞳などの特徴とはかけ離れていた。

たしかに、この点だけ見れば、まさに忍と言える徹底ぶり。

 

そんな彼だが、まさか江戸の街に住んでいるとは。

しかも、魚・青物などを、てんびん棒でかついで売り歩く棒手振(ぼてふり)だった。

 

"依頼主を殺した問題児"、そう聞いていたため、凶暴な顔つきかと思ったが、どちらかと言うと荒事を好まないような見た目だった。

 

勿論、変装している、という点も忘れていない。

しかし、それを考慮しても、人柄というのは隠し通せないようだ。

 

そして彼は先ほど、追放された家から自身の居場所を特定されている、と言う事実を知ったのだ。

悪夢以外の何物でもない。誰だって泣きたくなる。

 

だが、私は交渉を円滑に進めるためにも、彼の不安は取り除こうと考えている。

 

「安心して下さい。天輪殿しか知り得ない情報です。年の離れた弟として、随分可愛がっていたとお聞きしましたし」

 

「まあ確かに、年が離れているからこそ、兄弟間の殺し合いにも巻き込まれなかったからな・・・兄者とはそれなりに仲良くやってたけどよ・・・」

 

「勿論、鬼と戦うことは求めません。天輪殿もそれだけは禁じています」

 

「なるほど、じゃあ本当に鬼の捜索だけなんだな?」

 

「勿論です」

 

「・・・分かった。勿論、報酬はいただく。一生食うのに困らないくらいはもらうぞ?」

 

「・・・はい!ありがとうございます!」

 

「それと、その依頼は顔を変えて臨む。お前たち鬼殺隊との連携は特にするつもりは無い。それでも良いか?」

 

「勿論です!よろしくお願いします!」

 

私はそう言って、頭を深く下げた。

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