113年前の上弦   作:白澄星火

19 / 36
第伍章:決戦
第壱話:開戦


第壱節:やわらかな時間の中で(ながれ視点)

 

享和2年 12月14日(西暦:1803/01/07)──────

 

雪が舞うようになり、日は短くなっていた。

少し白みがかった木々も、日が沈み始めると、夕焼けを背にして黒く形が浮かび上がる。

 

そんな景色の中で、私は小さい女の子を背中に背負い、雪山を下山していた。

本当の目的は、鬼の痕跡を追うことだったが、迷子を見つけてしまっては仕方ない。

 

ここで放置すれば、鬼に襲われる前に凍死してしまうだろう。

 

もうすぐ日が落ちる。

今鬼に見つかってしまえば、戦いにくい。

だが、女の子は安らかな眠りに落ちており、寝息を静かに立てている。

 

そんなあどけない姿が微笑ましくもあった。

そして、背中に体温を感じながら、彼女の安らかな休息を見守った。

 

 

第弐節:破壊者(ながれ視点)

 

予定外の出来事だったが、この子のおかげで久しぶりに気分が癒された。

 

(このまま無事に家まで送り届けて、あとは任務を遂行しよう)

 

そんなことを思っていたが、突如として現れた存在に、私の安らぎは一瞬にして打ち砕かれた。

 

「よォ、鬼狩り」

 

暴力的な声が右の鼓膜に響き渡る。

横を向き、声の主を見れば、六尺を優に超えるであろう長身と筋肉質な体に、私は圧倒された。

 

そして、彼の鋭く尖った顔立ちは、威厳と冷酷さを兼ね備えていた。

 

両の瞳にはそれぞれ、陸という数字、そして上弦という文字が刻まれており、吊り上がった目尻は私たちに対する残忍な意志が滲み出ている。

 

しかし、何といっても彼の容姿の最大な特徴は、頬まで裂けた大きな口であった。

肉が抉れ、獰猛な牙を見せながら凶悪な笑みを浮かべており、一見すると、まるで地獄から這い出てきたような存在のように見えた。

 

そんな怪物と対峙すれば、誰であろうと平静を保つのは困難であろう。

 

背中に背負っていた女の子は目を覚ましたようで、ガタガタと震えている。

 

そして、私もまた鉛が胸に重く沈む感覚を抱いていた。

何故ならば、一目見ただけで、この鬼は私が今まで戦ったどの鬼よりも格段に強く、困難なものであることを確信したからだ。

 

私は女の子を降ろし、ここから先は一人で帰るよう、伝えた。

すると、コクンと頷き、この場を後にした。

 

一方、私は鎹烏である紫に増援を呼んでくるよう目配せした後、鬼との壮絶な戦いに立ち向かう覚悟を決め、その身を鬼に向けた。

 

対する鬼は、背中から細い触手を3本、素早く出す。

 

1つは紫、1つは女の子、そしてもう一つはどちらでもない、茂の中へ。

 

私は迷うことなく、その内の1つである女の子へ向かっていく触手を追う。

するとその触手は鬼から分離して、一匹の蛇のように自立して動き始めた。

 

(紫はこの際、諦める・・・女の子は助けるとして、せめて・・・)

 

私は触手に狙いを定め、日輪刀を投擲。

すると、樹木に縫い付けられるようにして触手に刺さり、動きを止めた。

 

すぐさま刀を抜き、振り返ると、肩をすくめた鬼が立っていた。

 

「鴉は殺した。でも、ガキと忍は殺し損ねたな。ま、安心しろって。アンタを殺した後、アイツらも殺してやっから。すぐにあの世で会えるぜ」

 

「私は死ぬつもりはないよ」

 

私は自分に言い聞かせるように、言葉にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。