113年前の上弦   作:白澄星火

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第弐話:会敵

第壱節:悲劇

 

引手茶屋へ行き、そこの案内人と話し込む弥源次(やげんじ)

 

会話を終えると二人は、そろって茶屋から外へ出る。

そして、しばらく吉原の大通りを歩くと、今度は大見世へと入っていった。

 

階段を昇り、その先にある部屋に通された弥源次。

するとそこには、一人の遊女が座っていた。

 

「ようきておくんなんした」

 

声色は、柔らかな響きを持っていた。

彼女の振る舞いや佇まいからは、高級遊女ならではの上品さと気品が滲み出ている。

客を迎える際の態度や話し方、一挙手一投足には、その地位に相応しい風格が漂っていた。

 

座り込んだ弥源次は、遊女の緊張を解くためか、しばらく本来の任務とは別の話題をしばらく話した後、本題に入った。

 

弥源次はそよから聞いた、失踪した美しい遊女たちに関する情報を尋ねた。

 

遊女はしばらく黙考し、不安そうな表情を浮かべたが、最終的に決意を固めたように頷いた。

 

「・・・わかりんした。お話しんしょう。しかし、その情報を提供する前に、あちきの安全を保証してくれること、そして失踪した遊女たちを必ず助け出すことを約束しておくんなんし」

 

「私はその約束を守ります。あなたの安全と遊女たちの救出に全力を尽くします。どのような手がかりがあるのか、お聞かせください」

 

弥源次は真剣な眼差しで彼女を見つめ、優しい声色で語りかけた。

 

すると遊女は、恐る恐る口を開いた。

彼女の口から語られたのは、若く美しい遊女は、遊郭の内部の者によって連れ去られること。

さらに、彼女らは連れ去られる際に、ひどく悲しみ、逃げようとすること。

それを目的した遊女は口外しないよう、脅されるという内容であった。

 

彼女らが連れ去られる理由や目的、そして脅迫による沈黙を強いられていることは、事件の背後に潜む何か重大な事実を暗示しているかのようだった。

 

弥源次は彼女に持ち金をほとんど渡し、遊郭からの脱出を提案する。

彼は鬼殺隊の力で彼女の安全を保証し、失踪した遊女たちを救出する決意を伝えた。

 

涙を流しながら感謝の言葉を口にする遊女に、弥源次の表情は深い思いやりと同時に哀しみを帯びていた。

 

──────しかしその矢先、彼女の泣き声が急に途切れた。

 

 

第弐節:会敵

 

弥源次は目を見開き、言葉も出ないまま茫然とする。

 

そうしている間に、彼の股引(ももひき)は濡れていき、それに気付いたのか、ゆっくりと視線を下に向ける。

 

そして、目の前の光景に弥源次は表情を凍りつかせた。

 

──────さきほどまで話していた遊女が虚ろな目で横たわり、茣蓙(ござ)を赤く染め上げていたのだ。

 

脱力したように、弥源次は背中を丸める。

その姿は、救済の願いが虚しく消え去った絶望を物語っていた。

 

そんな中、部屋の中に女の声が響いた。

 

「バカな女。賢ければもう少し長く生きれた筈なのに」

 

吐き捨てるようなその言葉は、襖の向こう側から発せられたものだった。

 

弥源次はその声に向きを変え、相手の姿を窺う。

 

襖を隔てても分かるぐらい異様な威圧感が漂っており、弥源次の表情には緊張が浮かんでいた。

 

そして、そんな彼を煽り立てるような言葉が続く。

 

「アンタも、笑えるわね。カカシみたいにぼうっとしちゃって。自分が死ぬって分かってないのね」

 

そんな鬼の言葉に対して、弥源次は冷静さを取り戻したようで、表情を引き締める。

 

「遊郭の女性たちの境遇は知っているだろう・・・?彼女らの多くは親に売られた娘だ。人にさんざん弄ばれ、軽んじられ、あげくの果てには鬼に命までを奪われるのか?彼女たちが一体・・・何をしたというのだ」

 

彼の声音は鋼鉄のような硬さを帯びており、その一言一言には、断固とした意思が宿っていた。

 

しかし、弥源次の言葉に対する鬼の答えは沈黙だった。

 

「・・・・・・チッ・・・!」

 

舌打ちが聞こえ、沈黙が破られたかと思えば、続けざまに鬼が声を響かせる。

 

「知らないわよ。そんなの。ちっぽけな人間であるお前が私に対して偉そうに説教するな。」

 

声色から、隠せない苛立ちを感じ取れた。

鬼は続ける。

 

「不細工な上、頭も悪いようね。帯刀禁止の建物内で鬼に喧嘩売るなんて。下っ端の鬼狩りなのかしら?」

 

鬼の嘲笑が部屋の中に響く。

そんな中、弥源次は静かに立ち上がり、前腕を前に出し、振り下ろす。

その瞬間、彼の前腕、肘、脛から刃が勢いよく飛び出る。

 

「刀ならある。それと言い忘れたな。俺の名は弥源次──────鬼殺隊の羽柱だ」

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