113年前の上弦   作:白澄星火

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第参話:疾走

第壱節:任務完了(新吾視点)

 

鬼が頻繁に出没する噂と同時に行方不明者が絶えず、次々と町人が出て行ってしまい、寂れきってしまった町に、或る呉服屋があった。

 

建屋の大きさから、随分と大規模な呉服屋だったようだが、住人がいなければ商売にはならない。

町の状況を鑑みるに、とっくの昔に呉服屋も事業を畳んでしまったのだろう。

 

そんな場所で、今日の任務を遂行していた。

 

ここを根城としていたのは、下弦の参、野干(やかん)

鮮やかな呉服に身を通した鬼で、踊りや、文様、柄などの視覚情報をきっかけに、自身の姿や物音、気配までも欺瞞する。

 

約十年前は老人の鬼が下弦の参だったが、ながれさんに討伐され、繰り上がったのだろう。

 

とは言え、たったさっき俺が野干も滅殺したため、空位となった下弦の参は再び、下の位の十二鬼月が繰り上がることで埋まる。

 

その繰り返し。

鬼舞辻無惨を殺さなければ、延々と続くのだ。

 

 

第弐節:鎹烏(新吾視点)

 

任務を終え、この後の対応を考える。

 

(下弦の参、もっと苦戦すると思ってたんだがな・・・)

 

そんなことを思っていると、背後に気配を感じた。

 

(・・・まだ鬼がいたのか・・・!?)

 

いつでも刀を抜けるように柄を握りつつ、勢いよく振り向いた。

 

するとそこには。

 

「落ち着け、俺は鬼じゃない忍だ」

 

忍装束に身を包んだ男が立っていた。

濃い茶色の瞳に、垂れ下がった目尻。

そして、目元以外は隠れていた。

 

「手短に話す。鱗滝ながれがが危ない」

 

「・・・今どこに・・・?数は・・・?」

 

「峠を一つ越えた先だ。相手はおそらく上弦、一体だ」

 

そう彼が返答した、その刹那。

 

不安、失意、恐怖、混乱。

様々な感情がどっと押し寄せ、吐きそうになった。

 

(ながれさん・・・まずい・・・早く行かないと・・・)

 

峠を一つ越えるのなら、全力で走っても四半刻(三十分)はかかる。

だが、それじゃあ遅い。

 

焦燥感に身体を押されるように、走り出そうとするが、忍が手で遮る。

 

「ついてこい。忍専用の道がある」

 

 

第参節:疾走(新吾視点)

 

鎹鴉である、(ほむら)には増援を呼ぶよう伝えると、俺と忍──────天暗さんは凄まじい速度で森を駆け抜け、彼女のもとに急いだ。

 

風が俺の頬を叩き、鼓動が胸を打つ。

 

(もしもながれさんが既に・・・)

 

良くない考えが頭に浮かぶが、必死に振り払う。

 

そんな中でも、想像したよりも早く、疲労が蓄積していく。

日々の修行や任務でのガタがここぞというときに襲ってきたのだろう。

 

足取りは、不安定。

だが、心は揺るがなかった。

 

(・・・死なせない。この命に代えても、俺が守る。だから・・・)

 

今が、限界を超える時だ。

涙が頬を伝い、汗が交じり合いながら、風に乗って消えていく。




ちなみに、ナレ死している下弦の参、野干(やかん)は極貧層の娘で、いつもみすぼらしい恰好をしていたため、鬼になってからは富裕層の女性を狙って食い殺しては、呉服を集めて着ていたとか。
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