第壱節:水の呼吸(ながれ視点)
複数の触手が猛攻を仕掛けてくる。
その攻撃を受け流すために、私は呼吸の技を絶え間なく繰り出し身を守り続けた。
水の呼吸の使い手として、私は歴代の使い手たちの中でも呼吸の技を低負担で繰り出すことと、相手の攻撃を受け流すことに長けていた。
上弦の技に対応できるかは未知数だったため、驚きと高揚感を覚えるも、すぐさま冷静さを取り戻す。
一瞬でも気を緩めれば、死ぬ。
肌でそれが分かる。
だが、ここまで研ぎ澄ました集中力は、持って四半刻だ。
(早く・・・救援を・・・)
刻一刻と、時間は迫っていった。
◇
第弐節:激闘(新吾視点)
俺と天暗さんはついに、ながれさんと鬼の戦いの現場に到着した。
全力で走ったのと、彼の案内する道が近道だったのか、四半刻もかからなかった。
天暗さん曰く"戦闘は得意じゃない"とのこと。
俺をこの場に連れてくることが目的だったようで、それを果たした彼は踵を返しどこかへ行ってしまった。
別れ際、俺は天暗さんに一言だけ礼を言うと、再びながれさんの方へ視線を移した。
すると飛び込んできた光景、それは。
柱と上弦が繰り広げる、壮絶な戦いだった。
凶暴な力がながれさんに向けられ、猛烈な一撃が空を裂く。
ながれさんは鬼との間合いを保ちながら、その身の軽さと優れた剣術によって、鬼の攻撃を反らし、反撃の瞬間を狙っている。
彼女の剣舞は、泉から湧き出る清冽な水のような美しさと、雷鳴と共に降り注ぐ雨のような迫力を持っていた。
風になびく長い黒髪が、ながれさんの動きとともに踊り、月の光を受けて輝いている。
彼女の剣は水面を軽やかに叩くが如く、次々と相手の攻撃を受け流していく。
しかし、そんなながれさんの表情は一瞬も気を抜けないと言わんばかりに張り詰めていた。
そして、それとは対照的な鬼の表情。
どちらが有利な状態か、否応にも分かってしまう。
「良いじゃんよォ!女の癖に楽しませてくれるじゃねェか!」
鬼の叫び声が響き渡り、暴れまわる触手は凶暴さを一層増していく。
◇
第参節:救援(ながれ視点)
聞きなれた声が耳に響いた。
「ながれさん、援護します!」
その声に、私はほっと胸を撫で下ろす。
(新吾か、でも、感動の再開は後だね)
「こいつは
「承知しました、絶対に、ここでこの鬼を滅殺しましょう」
新吾の声には、見る必要もなく鋭い殺気が感じられる。
反撃の狼煙は、上がった。
◇
第肆節:恐怖(新吾視点)
・・・そうだ。
俺は、目の前の鬼が恐ろしい。
顔や体がぶよぶよとした肉塊に覆われ、鬼というより怪物であった。
さらに、血鬼術はほぼ無敵とも言えた。
情報は事前に得ていたが、こうして目にすると勝てる気がしない。
しかしこんな鬼に、長所を生かして食らいついているながれさんは流石だ。
対する俺はと言うと、峰打ちで鬼の触手から身を守るという戦法で、泥臭いと言わざるを得ない。
そして、こんな付け焼刃と疲労困憊の状態では、鬼からすれば塵芥同然だ。
怪物の触手は、軽々と俺の体を弾き飛ばした。
「ぐはっ・・・!」
そのまま樹木に衝突し、呻き声とともに、地面に倒れ込む。
しかし鬼はそれを見てもいない。まるで眼中に無かった。
「男の方はつまんねェが、女の方は良いな。よォし、決めた。」
鬼が口元を歪ませると、触手が一つにまとまり、急速に大きくなっていく。
巨大な影が、視界を覆った。