113年前の上弦   作:白澄星火

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第漆話:真価

第壱節:涙(ながれ視点)

 

激痛とともに、目を覚ます。

 

それにしても、凄まじい痛みだ。

それこそ、"神経を直接焼かれている"のではないか?と思ってしまうほど。

 

しかし、それは錯覚ではなかった。

左腕は酸によって侵され、骨が露出していたからだ。

 

(ほとんどは呼吸の技で受け流したつもりだったんだけど、漏れてたか・・・そんなことより、新吾は?)

 

私は、新吾の安否を確認するため周囲を見渡す。

するとすぐに彼の姿が視界に映るが、地面に伏せていた。

 

さらに、新吾のすぐ近くに鬼が立っており、私は背筋が凍った。

鬼は、身体中にヒビ割れが広がっていたが、それを歯牙にかけるそぶりも見せず平然と佇んでいる。

 

そして、私が意識を取り戻した事に驚いたのか、眉をピクリと動かした。

 

「おー丁度良かった。今さっき稀血がこと切れたところでよォ」

 

「・・・殺したのか?」

 

「利き腕を捥いで、さらに腹に大穴開けたのによォ、向かってくるんだぜェ?」

 

鬼は口の端を釣り上げたまま答える。

そして、視線を落とした後、今度は失望したかのような表情を浮かべた。

 

「結果は御覧の通り、失血死かねェ?なんつーか、しぶといだけで退屈だったわ」

 

そう吐き捨てた鬼を見て、ついに怒りを抑えきれなくなる。

 

「お前・・・新吾を・・・新吾をよくも・・・!」

 

震える声とともに、水滴が瞳から零れ落ちた。

それを見て、鬼はあざ笑うかの表情を見せた。

 

「おいおい、話を聞けって。稀血はよォ、死ぬ直前に言ってたぜ。自分を食わせる代わりにアンタを見逃してくれって。俺様は約束は守るぜェ?」

 

鬼の声は私の神経を逆なでするだけだった。

 

私は激しい殺意とともに立ち上がり、自身が愛用している日輪刀の柄を口咥えた。

 

そして、腰に差したもう一つの日輪刀の柄を握る。

 

(新吾、使わせてもらうよ)

 

新吾から託されたもの。

無駄にはしない。

 

それを見ていた鬼は、ひらめいたように口を開いた。

 

「あァそうだ、アンタの両腕、二度と使えなくして良いよな?ただで逃がすのはマズいからよ」

 

──────それが合図だった。

 

私は刀身を鞘から抜き出すと同時に、鬼を目掛けて走り出した。

そして、鬼との距離を瞬時に詰め、刀を振るう。

太刀筋が放たれる度に空気が裂けるような音が鳴り響き、その剣撃は凄まじい密度を誇った。

 

しかし、鬼は驚異的な身体能力で攻撃を回避し続け、対する私は鬼の俊敏さと反応速度に振り回され焦りを募らせていく。

 

そして鬼は鼻歌交じりに口を開いた。

 

「大技の後、しばらく鬼血術が使えないのはアタリよ。だが、俺様は人間の時から喧嘩は無敗でねェ」

 

鬼はそう言った後、私の腹部を殴打した。

 

口から内臓が飛び出るかと錯覚するほどの衝撃。

当然、内臓は出ないが、赤黒い液体が口からあふれ出した。

 

あまりの苦痛に気を失いそうになるが、なんとか意識を繋ぐ。

そして私は、お返しだと言わんばかりに、右手に握った新吾の形見を、鬼の心臓へと突き刺した。

 

次の瞬間、鬼の口から苦痛の声が漏れ、表情が歪んでいく。

その様子に、思わず私は口の端を釣り上げた。

 

新吾が残したこの刀は、(まゆずみ)家の技術の結晶。

峰の部分に植え付けられた毛のような部分に紛れ込んだ、細かい針状の日輪刀が特徴。

 

誰にも真似できない加工技術だろう。

 

もちろん実戦で、その真価を発揮する。

この刀で切られた鬼は、血中に針状の日輪刀が流れ込み、体中をズタズタに斬り割かれる。

 

だからこうして、鬼の動きは鈍っているのだ。

 

(──────今が、勝機)

 

私は口に咥えた愛用の日輪刀を右手に持ち直し、鬼の首に刃を突き立てた。

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