113年前の上弦   作:白澄星火

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第捌話:決着

第壱節:決着(ながれ視点)

 

──────生か、死か。

 

今この瞬間、それが決まる。

なぜなら、私の頭部に鬼の左手が振り下ろされようとしていたからだ。

 

ただし、私の頭部が破壊される前に鬼の首を両断すれば私の命はつながる。

 

だが、間に合わなければ鬼は生き延び、私は命を落とすだろう。

 

そして、これは分の悪い賭けだ。

現に、さきほど私が鬼の首に叩きつけた刀身は、半分程度までしか進んでいない。

 

私は懸命に力を籠めるが、無情にも鋭い爪は私の瞳のすぐ先まで迫った。

 

(間に合・・・)

 

死を、覚悟した。

──────その刹那だった。

 

鬼の手はぴたり、と静止した。

 

(・・・天暗さんが呼んだ増援か?)

と鬼の攻撃が止めた者の正体について思案したが、私の目に飛び込んだのは、さきほど死んだはずの人間だった。

 

(新吾!?)

 

彼は、鬼の左手を、自身の歯や左腕、両足も駆使してがっしりと固定していた。

 

腹部の傷は止血をしているようだが、あとどれだけ持つか。

 

ただ、どんな形であれ、生きていることに安堵を覚えた。

 

そしてその感情も一瞬のこと。

瞬時に気持ちを切り替える。

 

もう二度と来ない好機を逃がすまいと、私はで死に物狂いで刃に力を籠める。

 

しかし、運命はさらなる試練を私たちに与えた。

 

──────鬼の鬼血術が回復したのだ。

 

胴ほどの触手がメキメキと鬼の身体から生えると、私たちを包み込もうと迫る。

 

(どうしよう・・・どうしよう・・・)

 

進まない刃と、刻刻と近づく死の気配。

 

私はすでに、恐怖と焦燥に支配されていた。

 

だが、そんな時だった。

ふわり、と身体が浮いた。

 

かと思えば、鬼から遠ざかる方向に投げ出された。

 

突然の出来事に、頭が追いつかない。

しかし、視界に飛び込んだ"彼"の姿、そしてその表情で、すべて理解した。

 

(新吾が・・・私を・・・!)

 

そうして、触手は新吾の身体を包み込んでしまった。

 

 

第弐節:灰の呼吸(新吾視点)

 

ながれさんと入れ替わるようにして、鬼の首に食い込む刀を握る。

 

触手から分泌される消化液で全身に激痛が走るが、今はそんなことを気にしている時ではない。

自分でも信じられないほどの力が発揮されているようで、みるみると刀身が進んでいく。

 

そんな状況下で、目の前の鬼は、だんだんと目尻を吊り上がらせていく。

 

「こんのガキ・・・!なんで生きてるんだよ・・・心臓止まってただろうが・・・!」

 

そう言って睨む鬼に、俺は眼を反らさず睨み返した。

 

とは言え、正直自分でも驚いている。

 

"灰の呼吸 終の型──────火の鳥"

 

(まさか、本当に"黄泉帰る"とはな)

 

この技は、心停止後に一定時間蘇生し、二百を超える心拍数で肉体の限界を引き出しながら"燃え尽きるまで戦う"というものだ。

 

・・・こんな話、誰が信じるというのか。

なんせ死人に口無し、だ。

誰かがこの技を成功させたところで、伝える手段が無い。

 

こうしている間にも、鬼の消化液による火傷、右腕と腹部からの出血、そして、自身の出力に耐え切れず自壊していく肉体。

 

凄まじい勢いで死へと再び向かっていることが分かる。

 

(もうすぐだな・・・だからこそ、ここで・・・!)

 

 

第参節:暴瀉の最期(ながれ視点)

 

(間に合って・・・お願い、神様、どうか・・・どうか)

 

新吾を包み込むように丸くなった触手の中に、私は右腕をねじ込んでいた。

 

酸の浸食に耐えながら、新吾と自身の刀を探す。

 

激痛の中で、骨と肉が露出した、ゴツゴツしたものが自身の手のひらに触れたのを感じた。

 

(新吾の・・・手だ・・・!)

 

変わり果ててしまっても、彼だと分かった。

死闘の最中だというのに、少しだけ安堵を覚えた。

 

だが、それも束の間。

 

──────柄を握る彼の手から、力が抜けた。

 

その瞬間、絶望と悲しみ、怒りが私の心を支配し、体中を凍えさせた。

 

そして、涙で視界がぼやける中鬼の触手が私を包み込んでいく。

 

新吾の死と、敗北の現実が私の中に突き刺さり、目の前は暗闇に包まれてしまった。

 

(新吾、ごめんなさい。私は弱虫だ。いつの日か私に言ってくれた、"好き"だという言葉。あなたの気持ちはうれしかった。でも、関係を深めるのが怖かった。あの夜と同じ思いは二度としたくなかったから。だからね、新吾。お互い生き延びて、出来ることなら上弦、もっと欲を言えば無惨を倒して、全部終わらせることができたなら、私の方から"好き"だと言いたかった。でも、手遅れになってしまった。そして私は結局、姉さんとの約束も果たせず・・・ここで・・・)

 

心には後悔と罪悪感が渦巻き、私は自分自身を責める思いに囚われた。

 

そして、すべてを諦めかけた、その時だった。 

 

──────刀身に、微かな力が加わった。

 

そっと添えられたその力は、目には見えなかったが、私の手に伝わる感覚が明らかに違った。

 

華奢な女性の存在を想起させるその力は、私にとって十分すぎるほど、勇気と力を与えてくれた。

 

さらに不思議な現象は続く。

鬼の身体は何故か、私の日輪刀をさらに食い込ませるように、動き始めたのだ。

 

すると、鬼の首にみるみると刃が進んでいく。

私は自身が発揮した力と、予想外の鬼の挙動に驚きながらも、その命を終えるまで力を緩めない。

 

「ハアッ!・・・アアアアァァァァァァ!!」

 

「くそ・・・クソクソクソクソクソ・・・稀血で酔って身体が・・・この縄もなんだよ・・・!チクショウこの俺様が・・・こんな奴らにィィィィィィィィィ・・・!」

 

そして、鬼の魂からの叫びとともに、斬り裂く音が響き渡った。




暴瀉は、新吾の血肉を吸収したことで、稀血酔いしてしまいました。
それにより自身の身体や"呑み衣"の操作が上手くできなくなっていました。

稀血にこだわった暴瀉が、稀血によって敗北することに。

それと、新吾か使った"灰の呼吸 終の型 火の鳥"
これは、心停止後に短時間だけ使用できる"痣"みたいなもんです。


暴瀉が最後、ながれに首を差し出すように動いたのは、天暗が暴瀉の頭部と胴体を縄で引っ張っていたことが原因です。

天暗は元々、戦闘に参加する予定はなかったのですが、ながれと新伍の必死に戦う姿に心を動かされ、こういった行動に出ました。
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