第壱節:別れ(ながれ視点)
鬼の首が体から切り離され、地に落ちる寸前で時間が止まるかのような感覚が広がった
そして、鬼の首が地面に血しぶきを上げながら落ちる音とともに、敵の抵抗が一気に消え去った。
すると、私の身体も安堵感からか一気に力が抜け、膝をつく。
「・・・終わったよ。"みんな"」
私は静かに呟いた後、這うようにして、新吾の元へ。
彼の横で両肘と両膝をつき、冷たい手を握るが、当然のことながら握り返してはこない。
改めて実感する、喪失。
私は、彼の亡骸に必死でしがみつき、嗚咽を漏らした。
◇
第弐節:暴瀉の最期(ながれ視点)
「げへっ... げへげへへっっ... げっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
生首となっても、不気味な笑い声を上げ続ける鬼の姿が私の目に焼きついた。
その言葉に私はいら立ちを覚えず、ただ哀れみを感じた。
だが、鬼が笑う理由を聞かずにはいられなかった。
「何がおかしい?」
私は鬼に向かって問いかけた。
すると、鬼は快楽に浸りながら答えた。
「いやァ?俺様ごときを倒したぐらいで、馬鹿みたいに気の抜けたアンタを見ていると面白くてなァ。俺様としては最後は楽しめたから良いけどよォ。アンタらの試練はこれからだぜェ。俺様より上の上弦は、別次元だからなァ。精々がんばれよ、鬼狩り」
鬼の言葉が意味深に響き渡る。
そして、そのまま塵となって消えていった。
まだ五体もの上弦と、鬼の頂点に君臨する鬼舞辻無惨。
私たち鬼殺隊にはさらに過酷な戦いが待ち構えていることを改めて思い知らされた。
しかし、私の心は奮い立つどころか、凪のように静かだった。
「こんなんじゃもう戦えないよ」
そう言って、私は自らの両腕を見つめた。
傷だらけで力を失った腕が、私の宿命を物語っていた。
そんな中で、視線を感じたため、私は茂みの方へ視線を移す。
一瞬だが、そこには人影が見えたような気がした。
(天暗殿かな・・・?それに、鬼の死体があった場所から、茂みの方へ縄が二本伸びてる・・・)
そんなことを思っていると、新吾の鎹烏である焔に案内された増援が、私のもとに駆け寄ってきた。
「すまない、遅れた」
中には、岩柱、
彼は申し訳なさそうに頭を下げた後、ポタリと涙をこぼした。
「倒したのだな・・・上弦の鬼を・・・」
絞り出すような、震えた声。
感涙するのも無理はない。
それもそのはず、念願の上弦討伐だ。
鬼殺隊に長く在籍する善覚であれば、涙を流すほどうれしいだろう。
勿論、私も同じ気持ちだ。
ただ、失ったものも大きかった。
「うん、新吾・・・いや、皆のおかげだよ」
私は静かにささやいた。
そして、私は新吾を見つめ、静かに抱きしめる。
「帰ろう。新吾」
私の言葉に、返事はなかった。
◇
第参節:白銀の世界で(ながれ視点)
享和3年 01月06日(西暦:1803/01/28)──────
数日が経ち、なんとか退院した私は、冬の日差しに包まれた墓地に足を運んでいた。
白い雪が降り積もり、墓石には薄く凍りついた霜が輝いている。
まだ完治していない身体を寒さが刺す中、私は沈黙のまま進んでいく。
風は無く、雪を踏みしめる音だけが耳に響いていた。
そして、新吾の墓標の前に立った。
私は手を合わせ、黙とうをする。
「ありがとう」
その言葉が私の唇から溢れ出ると、冷たい風が墓地を包むように吹き抜けていく。
私が目を開くと、舞い上がった雪が日の光で輝く、幻想的な光景が飛び込んできた。
思わず目を奪われていると、今度は風が私の頬を優しく撫でた。
その時、心に暖かな安堵感が広がっていくのを感じた。
そして、風が次第におだやかになっていくと、墓地は再び静寂に包まれた。
「それじゃあ、行ってきます」
口から出た言葉は、白銀の世界に静かに染みわたる。
当然、返事は無い。
私は新吾の墓前で軽く頭を下げた後、背を向けた。
家で少し休もう。
澄み渡った冬青空の下、私は帰路へ着いた。
あとがき
ご拝読いただき、ありがとうございました。
最後に、ながれのその後を書き記します。
・新吾の形見を生涯大事にしました。
また、姉の言いつけである"おばあちゃんになるまで生きること"
を守り、90歳という大往生。
そして最期は、多くの継子たちに看取られながら天寿を全うしました。