113年前の上弦   作:白澄星火

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第弐話:上弦の参 猗窩座(あかざ)

第壱節:襲来

 

灰のように崩れ落ちる剽鼠(ひょうそ)の近くに立つ少年は、軽くせき込んだ後、黄色地に三角の模様が鱗のように描かれた羽織をパタパタと軽く叩く。

 

そして、既に息のない隊士たちの元へ歩いていき、片膝立ちの姿勢になる。

 

少年は、一人一人の隊士の顔を見た後、俯きがちに手を合わせた。

そんな彼の表情は、年相応のものが浮かんでいた。

 

悲嘆にくれる少年。

 

だが、水を差すように、突如として、

 

──────ズドン!

 

まるで、隕石でも落ちたかのような衝撃と、轟音が響いた。

 

 

第弐節:上弦の参 猗窩座(あかざ)

 

舞い上がる砂埃。

 

それも、徐々に収まっていく。

そんな中で、"何か"が落ちた場所の中心地には人影らしきものが見えた。

 

対する少年の表情は張りつめる。

まるで、その人影がなんであるかを本能的に理解しているかのように。

 

完全に砂埃が晴れると、そこには死体のような青白い肌をした男が屈んでいた。

 

鍛え抜かれた彫刻のような肉体の上に、罪人の入れ墨が走るその姿は、見るものを畏怖させる。

 

少年も例外ではなく、じわりと汗をにじませながら男を睨めつける。

 

向かい合う両者の間は、沈黙が支配していたが、それを払うかのように最初に口を開いたのは入れ墨の男だった。

 

「俺の名は猗窩座(あかざ)。お前柱だろう。見れば分かる。その年でこれほどまでの闘気、見事だ」

 

そう言って立ち上がった入れ墨の男──────猗窩座は右に上弦、左に参と刻まれた瞳を見開く。

それに対し、少年は唾を飲み込んだ後、絞り出すように口を開いた。

 

「・・・私は鳴柱、常磐(ときわ)宗丸。まさか上弦の鬼が来るとはね・・・まあ遅かれ早かれ戦わないといけない相手だったから、丁度良いか」

 

「まだ子供なのだから、強がるのはよせ宗丸。俺と戦っても勝てないことぐらい分かるだろう?そんなお前に、良い提案がある」

 

「・・・」

 

宗丸は、猗窩座の言葉に何も答えない。

そんな彼をよそに、楽し気に猗窩座は続ける。

 

「お前も鬼にならないか?」

 

その言葉に、宗丸はぎりりと歯を鳴らし、

 

「なるわけないでしょ。馬鹿にするのも大概にしろよ」

 

そう言って、前傾姿勢で居合の構えをとった宗丸の口元からシィィィィ、という音がした。

続けて、淡々と言葉を置くように。

 

「雷の呼吸 壱ノ型──────」

 

声色とは反して、荒々しい力が宗丸の中を駆け巡っているように見えた。

 

そして、爆発的な解放があった。

 

「──────霹靂一閃」

 

稲妻と見紛うような速度の居合斬り。

一瞬で猗窩座の背後に回った宗丸。

 

すれ近いざまに振るった刃には敵の血が付着していたため、それを払いつつ、彼は舌打ちをした。

 

「浅かったか・・・」

 

「いいや、見事な太刀筋だ宗丸」

 

猗窩座はそう言って、自身の首に走る切り傷を指さす。

言葉とは裏腹に、完全な切断に至るまで半分にも満たない傷は、瞬く間に塞がった。

 

「次はもっと深く踏み込んだほうが良い。だが、そのかわり俺の攻撃もお前に届くかもしれないぞ?どうする宗丸」

 

その言葉に、宗丸は答えない。

次の攻撃のため、刀身を鞘に納める。

 

それを見た猗窩座は、露骨に肩を落とした。

 

「雷の呼吸は、もっと型があったはずだが?またそれか宗丸」

 

期待外れ、と言わんばかりの冷めきった声色。

挑発なのではなく、心の底から出た言葉であることが分かる。

 

現に、猗窩座は一撃目を受けたことで完全に見切っているのか、余裕の表情を崩さない。

 

このまま進めば宗丸は容易く反撃を食らい敗北するだろう。

 

だが、それでも。

宗丸は先ほどと同じ型を構える。

 

「雷の呼吸 壱ノ型──────霹靂一閃」

 

二撃目の雷撃。

 

だが、猗窩座の間合いの外で急停止し、宗丸は日輪刀を振りぬいた。

 

すると、猗窩座が突き出していた拳からと四本の指が宙を舞った。

 

勿論、宗丸は攻撃の手を緩めない。

 

「雷の呼吸 参ノ型──────聚蚊成雷」

 

無数の斬撃が猗窩座を取り囲むように襲う。

そして、敵の真上に宗丸が移動すると、

 

「雷の呼吸 壱ノ型──────霹靂一閃」

 

自由落下を伴った居合斬り。

 

だが、猗窩座はそれを──────

 

「がっかりだ。宗丸」

 

そう言って、宗丸の攻撃を容易く回避し、彼の腹部へ拳を突き立てた。

──────かに見えた。

 

しかし、寸前で猗窩座の前腕から先は、斬り落とされていた。

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