113年前の上弦   作:白澄星火

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第伍話:天衝(てんしょう)怒髪(どはつ)

第壱節:終式・青銀乱残光(宗丸視点)

 

鬼が空気を叩くと、すさまじい速度の衝撃波が飛んでくる。

だが、それを避ける。

 

今度は、拳が駄目ならば、と言わんばかりに鬼の脚技が襲い掛かる。

だが、それも避ける。

 

回避に自信はあったが、こうして実際に上弦の攻撃を凌ぎ続けていると、思わず口元が緩む。

 

(・・・行ける・・・この調子で、治郎吉(じろきち)さんが来るまで・・・)

 

そう思った、次の瞬間。

 

「破壊殺──────」

 

鬼のその構えを見た時、悪寒が一気に全身を駆け抜けた。

私は鬼の技が繰り出される前に、重心を後ろに傾ける。

 

しかし、鬼は獲物()を決して逃しはしなかった。

 

「──────終式・青銀乱残光」

 

それは、不可避とも言える技だった。

鬼の身体から、花火のように全方向に繰り出される無数の暴力。

 

それに対して、防御も、回避も間に合わなかった。

 

私の身体の、ありとあらゆる部位の骨が砕かれ、内臓が潰れた。

 

(・・・これが、上弦・・・現実は甘くなかった・・・か)

 

鬼の技を受けて空中に投げ出された私の身体は、追い打ちをかけるように無造作に地面にたたき落された。

 

(・・・これはもう長くない・・・かな?でも・・・)

 

確かに、聞こえた。

私が知っている声。

 

(良かった。今の技、ちゃんと見てくれたんだ。それに今すごく怒ってるでしょ?)

 

私は、声の主の方を見た。

言葉にしなくても、伝わってるはずだ。

 

後は頼みましたよ──────治郎吉さん。

 

 

第弐節:天衝(てんしょう)怒髪(どはつ)(治郎吉視点)

 

たった今。

目の前で、仲間がやられた。

 

勿論、鬼殺隊では見慣れた光景だ。

 

"いい加減慣れろ"

柱になる前は、何度か言われた記憶がある。

 

だが、ある日。

 

"慣れなくて良い。お前の強さはきっと、そこにある"

お館様から頂いたありがたいお言葉。

 

これが無かったら、オイラはきっと柱になれていない。

 

だから──────

 

「よォ、猗窩座。オメェ、オイラを怒らせちまったな?オイラの目の前で、仲間をやりやがったな?絶対許さねえ・・・切り刻んでやるよオラァァァァァァァァ!」

 

オイラは戦うときは、思う存分感情を爆発させている。

 

どうやら人間は、気づかないうちに自分の力に制限をかけているらしい。

しかし、オイラの怒りの呼吸は、怒れば怒るほど、その制限を取っ払っていく。

 

そして、ありがたいことに。

鬼どもは、火に油を注ぐような態度で答えてくれる。

 

「素晴らしい・・・闘気が何倍にも膨れ上がっている・・・やはりお前は鬼になれ治郎吉!」

 

その言葉が合図だった。

お互い引き付けあうように、一瞬で距離を詰めると、猗窩座の拳と、オイラの刀が勢いよくぶつかる。

そして二撃、三撃・・・いや、最早数えるのが馬鹿らしくなるほどの技の応酬。

 

こうして戦っていると、認めたくはないが、実感してしまう。

 

(一回目の戦いでは、猗窩座は全然本気じゃなかった。その証拠に、技の速度も力も、段違いだ)

 

だが、俺も変わった。

今まで一つの型を出していた時間で、三つも出せるようになっているし、出力できる力の大きさも全く別物だ。

 

その証拠に。

 

「まるで別人のようだ。何があった治郎吉」

 

「五月蠅ェ!オメェはオイラに叩っ斬られるんだから、黙ってろ!」

 

オイラはそう言って、脇構えをとる。

 

「怒りの呼吸 壱ノ型──────天衝(てんしょう)怒髪(どはつ)

 

上から下へ、名の通り、天を衝くような一撃。

 

猗窩座の身体は、胸部からつむじまで、真っ二つに割けた。

 

「良い攻撃だ。だが、技の型は少ないようだな?それで全部か?」

 

傷を高速で治癒させながら、猗窩座は構えをとる。

そして。

 

「──────破壊殺・滅式」

 

その言葉の後、目の前に巨大な力の塊が、生まれた。

 

 

第参節:時間切れ

 

力と力の衝突があった。

 

その衝撃は、地を揺らし、木々を軋ませた。

 

そしてその爆心地にいる男二人に、特段目立った外傷は無かった。

 

「滅式を耐えるとは・・・見事だ治郎吉・・・!」

 

「ハァ・・・ハァ・・・とっておきの・・・技だったかァ?悪ィな」

 

「ああその通りだ。だが治郎吉、お前は自身の大きすぎる力に、身体が耐えれていないようだな。このままでは死んでしまうぞ」

 

「その前に・・・オメェを殺してやるよ・・・猗窩座ァ」

 

治郎吉は、ゆらり、と身体を前に出し、横一閃に刃を振るう。

しかし突然、ピタリと刀身が動きを止めた。

 

「・・・クソッ・・・!」

 

治郎吉はぎりりと歯を鳴らした。

 

なぜなら、自身の攻撃は、指二本で敵に容易く止められたからだ。

 

「そうか・・・もう限界なんだな。では終わりにしよう。()らばだ治郎吉」

 

猗窩座の拳が、治郎吉の胴を貫くと鈍い音が響いた。

続けて、ごぼり、と血の塊があふれ出す。

 

すると、すぐに治郎吉の身体からは力が抜けていった。

 

猗窩座がゆっくり腕を引き抜くと、既に糸の切れた人形は、地面に倒れ伏した。

 

「久々に、楽しかったぞ」

 

鬼の言葉には、心からの敬意が感じられた。

 

 

 

 




怒柱 朽葉(くちば)治郎吉(じろきち)は、当代の柱の中では主力勢より一歩劣る実力なのですが、怒りが最大限に達した状態ですと、当代最強の実力になります。
ただ、時間制限付きなんです。

鳴柱 常磐(ときわ)宗丸は、若すぎましたね。もっと経験を重ねていたら、猗窩座相手にも、もう少し粘れていたのですが。(勝てるとは言っていない)
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