113年前の上弦   作:白澄星火

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短編・呪佛鬼寄
第壱話:下弦の壱 偈擂(げらい)


第壱節:或る寺院

 

町から外れた森林に佇む静かな寺院。

その境内には灯りが点り、薄暗い光が周囲を照らしていた。

 

寺の門をくぐり、参拝する人々がやって来る。

しかし、そのうちの何人かが行方不明になり、その身体は決して戻ってこない。

 

何故か、犠牲者はいつも男性ばかりだった。

この事実に、周囲の人々は不気味さと恐怖を感じ、寺に近づくことを避けるようになった。

 

 

享和3年 8月8日(西暦:1803/09/23)──────

 

第弐節:下弦の壱 偈擂(げらい)

 

寺院の前に、男が立っていた。

背丈は6尺(約180cm)を優に超え、さらには恵まれた骨格や筋肉によるものか、横幅も大きく、まるで岩山のような存在感を放っている。

 

彼の丸めた頭と袈裟という姿から、この場所に溶け込んでも良いはずなのだが、節制を続けている人間とは思えないほどの体格であった。

 

そして、何より際立つのは、袈裟の後ろに刻まれた"滅"という文字。

殺生を避ける坊主としては異様な風体といえよう。

 

そんな、寺院とは場違いなほど物騒に見える男は、堅く結んでいた口をおもむろに開いた。

 

「なんの因果か・・・拙僧が鬼殺のために御寺(みてら)に足を踏み入れようとは・・・」

 

そう言って、数秒間合唱をした後、寺院の中に入っていった。

 

みしり、みしり、と床板が軋む音だけが廊下に響き渡る。

細長く、先が見えない暗闇が続く。

 

そして、本堂が見えてくると、そこには──────

 

首が()がれた仏像を背に、美しい尼が佇んでいた。

 

異様な雰囲気が辺りを包み込んでおり、真っ白な法衣に身を包むその女の姿は暗闇の中で際立っていた。

 

瞳は閉じられ、涙袋からは氷柱のような紋様が伸びている。

服装も相まって、女の姿は一見、信心深く祈りを捧げているように見えた。

しかし、口元には鋭く光る牙が見え、それは欺瞞と死の予兆を秘めていた。

 

「あら、鬼狩りだなんて、珍しい参拝客だわ」

 

女の声は冷たい響きをもっていた。

 

対する、大柄な男は眉を潜めながら口を開いた。

 

「今まで好き放題食べたようだな。だが、それも今日で終わりだ」

 

唇が動く度、威厳さえあるような音が、伽藍を満たす。

 

だがそれでも、女は臆することなく、言葉を続けた。

 

「いいえ、まだ終わらないわ。醜い男どもを殺して、たくさん食べるのよ。そうすれば世の中はもっと良くなるわ」

 

白い牙が妖しく光った。

 

その女の姿、言動。

 

それを観て、最早交わす言葉は、もう無い。

男はそう判断したのか、早速攻撃を仕掛ける。

 

その手には、三節棍が握られている・・・が、もはや目で形状を捉えられないほどの速度で振るわれる。

 

しかし、その攻撃が届くことはなかった。

なぜなら、標的──────女の姿が消えたからだ。

 

正確には、女の背後に突如として現れたふすまがその身体を連れ去ってしまったのだ。

 

それを見た男は、自分以外誰もいなくなった空間で舌打ちをする。

 

「厄介な血鬼術・・・それに、反応速度も速い・・・瞳は閉じられていたため文字は見えなかったが、間違いなく十二鬼月・・・」

 

そう言って、冷静に分析していると。

 

男の頭上にふすまが現れ、そこから女が上半身だけをさらけ出すと──────

 

「血鬼術──────六十六間大回廊」

 

男と女を取り囲む、周囲の景色が一変した。

 

全長六十六間(約120メートル)にも及ぶ巨大な回廊が現れる。

 

「十二鬼月、というのは予想は正解よ。わたくしは下弦の壱、偈擂(げらい)

 

気づくと男の正面に立っていた女──────偈擂は片目を開いたままそう言ってのけた。




短編・猗窩座戦にて倒された剽鼠(ひょうそ)に代わって下弦の壱になったのが偈擂(げらい)です。
急速に力を付け、期待株だったりします。
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