113年前の上弦   作:白澄星火

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第弐話:岩柱 善覚

第壱節:岩柱 善覚

 

「なんだ、ここは・・・」

 

男は驚きを隠せぬまま、周囲を見渡した。

壁に刻まれた不気味な経や、薄暗い灯りが不安を煽るようだった。

 

回廊は、十六間(約30メートル)の直線に伸びた歩廊を複数個、直角につなぎ合わせたような形状で、合計六十六間(約120メートル)の全長に及んだ。

 

そして、男と対峙するように立つ偈擂(げらい)は、右手で口元を隠しながらケタケタと笑い始めた。

 

「うまくかかってくれたわねえ。ここに誘い込まれて生きて帰った鬼狩りはいないわよお」

 

偈擂は自信満々に言い放った後、左手を上から下へ振るう。

 

「血鬼術──────解狗(かいく)操演(そうえん)!」

 

その瞬間、偈擂の背後に再びふすまが現れ、ひとりでに開かれる。

 

そして、中から勢いよく、身体中に刀身が生えた野犬が飛び出した。

 

獣は血走った目で、唾液を口から飛び散らせながら(えもの)へと猛然と襲いかかる。

 

逃げ場は無い。

なぜなら、男の背後からも野犬が迫っていたからだ。

 

そして何よりも、回廊の構造。

長い全長に反して、歩廊の幅は7尺(約200cm)と狭い。

 

武器を振るう空間も限られているのだ。

 

だがしかし。

 

鬼殺隊士が黙って狩られるはずが無かった。

 

「岩の呼吸・参ノ型──────岩軀の膚」

 

男は三節棍を、自身の周囲に振り回し、野犬たちを薙ぎ払っていく。

 

そして、その様子を静かに観察する鬼。

 

「手数をもっと増やさないと、ね」

 

偈擂は冷ややかに言い放ち、獲物の動きを封じるように次々と野犬を送り込む。

 

幸い、男はまだ手傷を負っていない。

──────数十匹の獣に四方から襲われても。

 

そんな中で。

 

「血鬼術──────獄引門」

 

女の声が響き、善覚の背後にふすまが現れた。

 

次の瞬間、偈擂はそのふすまを通じて一瞬で移動し、男の背後をとる。

 

振るわれる鋭い爪。

偈擂の攻撃が男の背中に迫る。

 

しかし、男は天井付近まで跳躍し、その攻撃を避ける。

巨体に似合わぬ敏捷性。

鬼は目を剥いた。

 

そして、男は回避行動だけでは留まらない。

空気を目いっぱい吸った後──────

 

「岩の呼吸・伍ノ型──────瓦輪刑部」

 

空中から勢いよく振り下ろされた三節棍。

 

偈擂はその攻撃で下あごを吹き飛ばされたものの、鬼にとって致命傷である首への攻撃は避けた。

 

そして、再びふすまを使ってその身をくらませる。

 

再び敵の姿を見失った男は、着地と同時に残りの野犬を全て肉塊へと変貌させた。

 

そして、男から十分距離が離れた場所でふすまが開き、傷を回復された偈擂が姿を現す。

 

「その強さ・・・柱ね?」

 

そう尋ねる偈擂。

 

すると、男は一息置いた後。

 

「拙僧の名は善覚。鬼殺隊の岩柱である」

 

そう口にした。

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