113年前の上弦   作:白澄星火

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第参話:呪佛鬼寄(じゅふつおによせ)

第壱節:呪佛鬼寄(じゅふつおによせ)

 

「・・・そう、柱は初めてね。でも勝てる。わたくしの血鬼術はあの方がお褒めになるほど強いのだから」

 

偈擂はそう言うと、両手を上に向け、胸の前に掲げる。

すると、彼女の手のひらから黒い霧が吹きだした。

 

「ふふふ、この力を使うのは初めて。だって今までの鬼狩りが弱すぎたんだもの」

 

その言葉とともに、霧が晴れる。

そして、姿を現したのは、たった一振りの刀。

 

「妖刀・呪佛鬼寄(じゅふつおによせ)

 

偈擂がその名を呼ぶ。

すると、ひとりでに鞘が抜かれた。

 

刀身は真っ赤に錆びており、人を斬る道具とは言えない代物だった。

さらには、薄っすらと念仏が書かれている。

 

それを見て、善覚は眉を(ひそ)めた。

 

「御仏を侮辱するのも大概にせんか・・・!」

 

「・・・馬鹿なのかしら?仏は救わない。わたくしも、いえ、誰一人として。でも、あのお方だけだわ。わたくしを救ってくださるのは」

 

偈擂は、ぎりりと歯を鳴らす。

そして。

 

「さあ、食事の時間よ」

 

その瞬間。

 

"善覚は、自身の首を妖刀にあてがっていた。"

 

洗脳能力によって、自ら命を絶とうとしたか、否。

引力によって、身体が引き寄せられたか、否。

 

妖刀の真の力、それは。

 

──────空間転移。

 

つまり、善覚が立つその空間ごと、妖刀の元へ転移させられた、というのが正しい。

 

あまりにも、無法な力。

 

善覚は冷や汗をかく。

 

だが冷静さを失うことなく、身体を反らせながら、手に持った三節棍で妖刀を真上に弾く。

 

天井に突き刺さる刀身。

しかし次の瞬間、妖刀は姿を消した。

 

いや、正確には消えたのではない。

 

善覚の三間(約6メートル)背後に、転移されていた。

その後、わずかな空白を置いて、善覚の身体は妖刀のもとへ。

 

これがまずかった。

なぜなら、善覚は一番最初の妖刀の攻撃を、後ろに身体を反らせる形で回避した。

では、その体勢を戻す前に、背後に刀身を置かれたらどうなるか?

 

答えは簡単。

 

ぽたり、と鮮血が滴る。

善覚は体勢を戻し、べっとりと血が付いた自身のうなじを触る。

 

「・・・なるほど、空間転移の血鬼術か。だが、この妖刀自体はあくまで対象の首に刃を"あてがう"だけ。今ので拙僧の首が落ちていないのが何よりの証拠。直立した人間を転移させても、傷を付けることはできず、あくまで動きのある者だけに脅威となる・・・か」

 

「ええ、そうよ。よく分かったわね。でももう手遅れ。あなたはもう、ひたすら死に向かっていくだけ。だってあなたは妖刀に傷を付けられたんだもの。嗚呼、大変・・・どれくらい持つかしら?」

 

偈擂は、善覚に指を差しながら嘲笑った。

対する善覚は、ピクリと眉を動かした後、自身の手のひらを見る。

 

するとそこには。

 

「これは・・・念仏か・・・!」

 

「いいえ、それは"呪い"よ。妖刀の呪いが発動したの。ふふ、どうやら妖刀は、まず最初にあなたの"左手"が"欲しい"みたいね」

 

偈擂がそう言った後。

 

善覚の左手が、黒い霧にさらわれ、消えた。

 

「・・・なにっ!?」

 

さすがの善覚も、顔に焦りを浮かばせた。

さらには、奪われた部位の断面は、肉や骨ではなく、真っ黒で平坦な面が見えていた。

 

そして妖刀の所有者、偈擂は焚きつけるように。

 

「次はどこかしら?ふふふ。今すぐにでもわたくしを殺さないと、もう戻ってこないわよ。消化しちゃうから」

 

そう言い放った。

 

その言葉を聞いた善覚は、一瞬にして鬼との距離を詰め、三節棍を振るう。

 

だが、偈擂は自身の背後にふすまを出現させていた。

一度姿をくらませる気だろう。

 

これを許せば、善覚はさらに肉体の部位を失う。

次は臓器や脳かもしれない。

 

だからこそ。

善覚は、鬼の逃避を許さなかった。

 

偈擂と一緒に、ふすまに飛び込む善覚。

 

するとそこは、寺院の本堂だった。

さらには、善覚の左手は彼の元へ戻っていた。

とはいえ、消化途中で所々骨や肉がむき出しになっている。

 

まさかの形勢逆転。

呆然とする偈擂。

 

「待っ・・・!」

 

もちろん、その言葉は聞き入れられるはずもなく。

善覚は、自身の武器を振りぬいた。




今回敵として出てきた下弦の壱 偈擂(げらい)は人間だったころ、尼でした。
ある日、山賊に寺が襲われ、結構ひどい乱暴を受けました。
その時、何度も何度も仏に救いを求めましたが、事態は変わらず。

そして山賊が去り、命以外すべて奪われた偈擂。
そこに、無惨が現れ、彼女を鬼にします。

こういった過去で、男性と仏を強く憎むようになりました。
名前の由来は、
 偈:仏の功徳(くどく)をほめたたえる詩
 擂:すりつぶす
という感じで、個人的に気に入っています。

血鬼術はレア度が高い空間系です。
このまま育っていれば、ヤバかったですね。
あと、チート妖刀の弱点として、消化中は転移能力使用不可というのがあります。
善覚にはそこを突かれました。
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