第壱節:
「・・・そう、柱は初めてね。でも勝てる。わたくしの血鬼術はあの方がお褒めになるほど強いのだから」
偈擂はそう言うと、両手を上に向け、胸の前に掲げる。
すると、彼女の手のひらから黒い霧が吹きだした。
「ふふふ、この力を使うのは初めて。だって今までの鬼狩りが弱すぎたんだもの」
その言葉とともに、霧が晴れる。
そして、姿を現したのは、たった一振りの刀。
「妖刀・
偈擂がその名を呼ぶ。
すると、ひとりでに鞘が抜かれた。
刀身は真っ赤に錆びており、人を斬る道具とは言えない代物だった。
さらには、薄っすらと念仏が書かれている。
それを見て、善覚は眉を
「御仏を侮辱するのも大概にせんか・・・!」
「・・・馬鹿なのかしら?仏は救わない。わたくしも、いえ、誰一人として。でも、あのお方だけだわ。わたくしを救ってくださるのは」
偈擂は、ぎりりと歯を鳴らす。
そして。
「さあ、食事の時間よ」
その瞬間。
"善覚は、自身の首を妖刀にあてがっていた。"
洗脳能力によって、自ら命を絶とうとしたか、否。
引力によって、身体が引き寄せられたか、否。
妖刀の真の力、それは。
──────空間転移。
つまり、善覚が立つその空間ごと、妖刀の元へ転移させられた、というのが正しい。
あまりにも、無法な力。
善覚は冷や汗をかく。
だが冷静さを失うことなく、身体を反らせながら、手に持った三節棍で妖刀を真上に弾く。
天井に突き刺さる刀身。
しかし次の瞬間、妖刀は姿を消した。
いや、正確には消えたのではない。
善覚の三間(約6メートル)背後に、転移されていた。
その後、わずかな空白を置いて、善覚の身体は妖刀のもとへ。
これがまずかった。
なぜなら、善覚は一番最初の妖刀の攻撃を、後ろに身体を反らせる形で回避した。
では、その体勢を戻す前に、背後に刀身を置かれたらどうなるか?
答えは簡単。
ぽたり、と鮮血が滴る。
善覚は体勢を戻し、べっとりと血が付いた自身のうなじを触る。
「・・・なるほど、空間転移の血鬼術か。だが、この妖刀自体はあくまで対象の首に刃を"あてがう"だけ。今ので拙僧の首が落ちていないのが何よりの証拠。直立した人間を転移させても、傷を付けることはできず、あくまで動きのある者だけに脅威となる・・・か」
「ええ、そうよ。よく分かったわね。でももう手遅れ。あなたはもう、ひたすら死に向かっていくだけ。だってあなたは妖刀に傷を付けられたんだもの。嗚呼、大変・・・どれくらい持つかしら?」
偈擂は、善覚に指を差しながら嘲笑った。
対する善覚は、ピクリと眉を動かした後、自身の手のひらを見る。
するとそこには。
「これは・・・念仏か・・・!」
「いいえ、それは"呪い"よ。妖刀の呪いが発動したの。ふふ、どうやら妖刀は、まず最初にあなたの"左手"が"欲しい"みたいね」
偈擂がそう言った後。
善覚の左手が、黒い霧にさらわれ、消えた。
「・・・なにっ!?」
さすがの善覚も、顔に焦りを浮かばせた。
さらには、奪われた部位の断面は、肉や骨ではなく、真っ黒で平坦な面が見えていた。
そして妖刀の所有者、偈擂は焚きつけるように。
「次はどこかしら?ふふふ。今すぐにでもわたくしを殺さないと、もう戻ってこないわよ。消化しちゃうから」
そう言い放った。
その言葉を聞いた善覚は、一瞬にして鬼との距離を詰め、三節棍を振るう。
だが、偈擂は自身の背後にふすまを出現させていた。
一度姿をくらませる気だろう。
これを許せば、善覚はさらに肉体の部位を失う。
次は臓器や脳かもしれない。
だからこそ。
善覚は、鬼の逃避を許さなかった。
偈擂と一緒に、ふすまに飛び込む善覚。
するとそこは、寺院の本堂だった。
さらには、善覚の左手は彼の元へ戻っていた。
とはいえ、消化途中で所々骨や肉がむき出しになっている。
まさかの形勢逆転。
呆然とする偈擂。
「待っ・・・!」
もちろん、その言葉は聞き入れられるはずもなく。
善覚は、自身の武器を振りぬいた。
今回敵として出てきた下弦の壱
ある日、山賊に寺が襲われ、結構ひどい乱暴を受けました。
その時、何度も何度も仏に救いを求めましたが、事態は変わらず。
そして山賊が去り、命以外すべて奪われた偈擂。
そこに、無惨が現れ、彼女を鬼にします。
こういった過去で、男性と仏を強く憎むようになりました。
名前の由来は、
偈:仏の
擂:すりつぶす
という感じで、個人的に気に入っています。
血鬼術はレア度が高い空間系です。
このまま育っていれば、ヤバかったですね。
あと、チート妖刀の弱点として、消化中は転移能力使用不可というのがあります。
善覚にはそこを突かれました。