第壱節:独白
自殺した人間はどこへ行くのだろうか?
俺は度々、そのようなことを考えてしまう。
自分自身であろうが一人の生命を奪ったことに変わりはない、と閻魔とやらが判断すれば問答無用で地獄へと落ちるのだろうか。
それとも、他に積んだ善行があれば帳消しになって、天国への道が開かれるのだろうか。
もし前者なのであれば、彼はどれほど無慈悲で冷酷な存在なのだろうか。
◇
第弐節:
俺には4つ下の妹がいた。彼女の名は"はな"。
はなが初めて俺の指を握ったとき、暖かい陽の光に包まれているような感触が心地良かった。
小さな手のひらが俺の手にすっと馴染み、妹を守るという使命感を一丁前に抱いた覚えがある。
それから俺は、はなの面倒をよく見ていた。
妹の成長に合わせ、ままごとからあやとりまで、なんでも一緒に遊んだ。
俺の家庭はひどく貧乏だった。
だから、自分の分の飯をはなに分け与えたりしていた。
でも平気だった。
妹が笑顔でいること、安心して過ごせることが何よりも大切だったからだ。
いつも俺ははなに言っていた。
「お兄ちゃんがお前を守るから」と。
それはただの言葉ではなく、心からの誓いだった。
・・・あの日が訪れるまでは。
それはあまりにも突然で、衝撃的な出来事だった。
両親は、はなを
はなは村でも評判なほど美しかったため、高く値が付いたらしい。
それもあってか生活は多少楽になったが、俺は妹を失った喪失感と、守れなかった無力感に苦しんだ。
その後、俺は金銭目的で鬼殺隊に入った。
鬼殺隊での任務は命を落とす危険性がある半面、金払いが良いとの噂を耳にしたからだ。
どうにか柱になり、大金を手にした俺は、はなを救うため遊郭に赴いた。
・・・しかし、はなはすでに居なかった。
はなのことを別の遊女に聞いた。
綺麗な顔立ちだったため、高級遊女にまで上り詰めたらしい。
しかしある時、梅毒にかかってしまった事で、客をとれなくなり羅生門河岸に送られた。
しばらくして、はなは自ら命を絶った。
俺はみっともないほど大きな声で泣き、何かから逃げるように遊郭から飛び出した。
それ以降、俺は遊郭に足を踏み入れることは無かった。
そして今日、俺は任務のため二度目の遊郭に赴いた。
数年前と違い、俺は遊郭で働いていた妹についての実像を、受け止めることが出来るようになっていた。
単純に時間が解決してくれたのか、柱としての数年間が俺を変化させたかは分からない。
羅生門河岸で話した遣手の女、そよは、はなを大変気に入っていたらしい。
はなは、元は高級遊女なのにもかかわらず、奢らず、謙虚で明るい娘だったらしい。
しかし、梅毒によって段々と醜くなっていく自分の姿に、時おり誰もいない場所で一人泣いていたようだ。
俺はそよから話を聞いた後、彼女に金を渡そうとした。
遊女が失踪するという情報をくれたそよに危険が及ぶと思ったからだ。
しかしそよは困った表情を浮かべた後、真剣な眼差しを俺に向けた。
そして彼女は言った。年老いた自分よりも、若い遊女たちを救ってほしい、と。
俺は彼女に深々とお礼をし、若い遊女たちに金を渡し羅生門河岸を去った。