113年前の上弦   作:白澄星火

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第伍話:最後の激突

第壱節:弥源次(やげんじ)の過去-その弐

 

次に張見世で働く、はなと同年代ほどの遊女から妹の話を聞いた。

よく俺の話をしていたらしい。自慢の兄だと。自分を守ってくれていたと。

 

はなの死を聞いた時と同様に、深い悲しみに押し潰されそうになった。

思い出が湧き上がり、胸が痛かった。

 

俺は静かに涙を流した。

一粒、また一粒と涙が頬を伝い、ポタリポタリと小さな音だけが部屋に響いていた。

 

 

第弐節:後悔

 

壊れた建物の中、月の光が静寂を照らし出していた。

埃が舞い、光がその粒子に反射される度、幻想的な輝きが広がる。

 

「くそ・・・意識が飛んでた・・・」

 

弥源次は薄暗い部屋の中で目を覚まし、吐き捨てる。

 

そしてすぐに体を起こすと、飛び込んできた美しい光景に少しだけ目を細めた。

 

しかしすぐに、現実に引き戻されることになる。

彼の眉間にしわが寄り、痛みによる苦悶の表情が広がる。

呼吸は乱れ、息を吐き出す度に苦々しい吐息が漏れる。

 

二の腕から下を失っており出血も多く、弥源次が無い腕を掴むような挙動をすると、手のひらは虚空をなぞった。

彼の額には汗がにじみ出ているが、次第に何かを悟ったような表情を浮かべた。

 

「彼女らは無事、遊郭から抜け出せただろうか?」

 

弥源次は自分の生死よりも、羅生門河岸の遊女たちのことを(おもんぱか)る。

 

その後、弥源次は一人薄暗い部屋の中で立ち上がる。

すると、一瞬呼吸を忘れたかのように、ハッとした表情を浮かべた。

 

「あの子には申し訳ないことをしたな」

 

俯きながら独り言ちる弥源次。

一人の高級遊女のことを思い出したようだった。

 

事実、彼女を危険に晒したのは他でもない弥源次である。

 

「結局、俺が成し得たのは、何人かの遊女を身上げするだけか」

 

弥源次の言葉がこぼれ、静寂だけが部屋に広がる。

 

 

第参節:執念

 

弥源次は再び鬼たちの前に現れる。

彼の瞳は虚ろで、集中力を保つことが困難になっている様子が伺える。

 

弥源次はどうやっても妓夫太郎と堕姫には勝てない。

彼もそれは理解している筈だ。

 

ただし、鬼殺隊として、何より柱として鬼に背を向けることはできなかった。

 

弥源次が斬った堕姫の首は再び彼女の体にくっつけられており、残酷なまでの無常観を叩きつけてくる。

 

妓夫太郎は弥源次を見ると不敵に嗤った。

 

「俺の血鬼術は猛毒を含んでるからなぁ。お前は俺らが何もしなくてももうじき死ぬんだよなぁぁ」

 

妓夫太郎は弥源次に残酷な運命を宣告する。

 

しかし、鬼は弥源次の心までは挫くことはできなかった。

弥源次は最期の攻撃のために、限界を迎えた肉体を執念で動かし、構えをとる。

 

「羽の呼吸・・・陸の型──────嘴突(しとつ)!!」

 

弥源次は妓夫太郎に向けて最後の攻撃を繰り出す。

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