墓場より   作:ひノし

13 / 47
第十三話

赤が…緋が…紅が…

緑に踊る 緑を消す

 

燃える 燃える 燃える

森が……密林が………

燃やせ 燃やせ 燃やせ

燃えろ 燃えろ 燃えろ

 

何もかも灰になれ

 

ユラユラ揺れる陽炎の中に影が…。

あの影は…。あの子は……。

「鬼太郎…」

「そこに…いたら…危ない……こっちに…いや…はやくにげろ」

燃えるのは、俺だけで…俺だけがいい。

炎の中で鬼太郎が、こちらを振り向く。

「……きたろう」

「危ない事はしないで」

流れる様に宣う鬼太郎。

「…でも……俺は…君を…護らなくては」

鬼太郎の左目が俺を射抜く。

「……阿呆!」

「早う起きて!」

 

 

そして、現に浮き上がる。

 

 

「鬼太郎っ」

「みずきぃーーー!!」

まさしく、目、の前に親父がいた。

「よがっだぁ〜〜!いぎどっだがぁ〜!!」

親父の涙が、俺の目に注がれて、景色がぼやける。

「ぐおお」

なんとか手探りで、親父を摘んで起き上がる。

そのまま、掌の上に収めた。

「うおおお〜〜」

その間も、ずっと涙を撒き散らす、親父。

掌が、すぐに池に変わった。

起き上がって、ハッキリと周りの景色が見え始めた。

…ここは、俺の家の居間か…。

…………。

「……何が起きたんだ…?」

「みじゅき〜わすれたんかぁ〜」

「…いや、火達磨になった所までなら…」

「そうじゃよぉ、そんで意識を失ったんじゃあ」

「そうか……」

 

“ズドオオオオォォォオオオオンンン”

 

………あの雷は………。

……!?

「親父!鬼太郎は!?…無事なのか!?」

「大丈夫じゃ!!水木のお陰で、無事じゃ!!」

池の中、涙をちょろちょろと、出しながら答える親父。

「…だが、しかし、あの雷は!?」

「あぁ、あれか。あれは幽霊族の必殺技じゃよ」

「……なんだ、その素敵な言葉は?」

「必殺技じゃ!その名も体内電気じゃ!」

体内……電気…。

「…………トンチキな体してんなぁ」

「……言い方ぁ」

「…悪かったよ。…本当に無事なんだな?」

「大丈夫じゃ」

…なら良いが。

「お主は?………身体…大丈夫なのか?」

「うん?……………」

言われて、ハタと気付く。

 

右肩を回す。

驚くべき事に、いつも通り、変わらず動く。

痛みも無い。一寸の違和感も感じない。

全身に負った筈の火傷も、何の熱さ、疼きも無い。

身体中の傷が、すっかり治っていた。

 

「…………凄いなぁ!」

「な、何がじゃ?」

「いや、だって、何らかの薬、塗っただか、飲ませてくれたんだろう?」

「お陰様で、全快だ!」

平時よりも、調子が良いくらいだ。

「…そうじゃ!凄いじゃろう!」

「あぁ!ありがとう親父!」

そう言うと、また瞳から涙が、噴き出した。

「ありがとうはぁ!!こっちの台詞じゃあああ!!」

「ごめんよぉ水木ぃい!!」

「いいって、いいって!」

「こうして、五体満足で無事なんだ!なーんにも!気にすんなよ!」

「すまぁああん!!許してくれぇ!!」

…結局、それから十分程、噴水を浴びていた。

 

「ぐすっぐすっ」

俺も親父も、しっとり、していた。

「……大丈夫か?」

「すまぁん」

「もう、いいって。気にし過ぎだぜ」

「ぐすっ」

「それに、まだ二、三聞きたい事が、あるんだ。しっかりしてくれよ」

「ずずっ……何じゃ?」

「森が、えらい燃えてたろ?…あれ、大丈夫だったのか?」

「ああ、それなら、婆が消したわい」

婆……。

……あぁ、成程。

「俺を運んだのも、お婆さん達だな?」

「そうじゃよ」

「しかし、どうやって、俺達の状況が分かったんだ?」

「…垢舐めじゃよ。彼奴が、婆達に助けを求めたんじゃ」

「垢舐めが…」

「…良くやってくれたわい…儂等の命の恩人じゃ」

「ああ、そうだな」

返せぬ恩が、出来た。

「……そんで、鬼太郎とお婆さん達は?」

「どこかに、出かけたよ。まぁ、婆達と一緒なら、安心じゃて」

確かにな。

「…………あの女は?」

死んだか?

目で問う。

「……死んでは、おらん」

「そうか……そうか」

ふぅ…。

「………なんか嬉しそうじゃのう」

「……鬼太郎の手を汚さずに済んだ、そう思ってな」

「………もう、あの女は完全に人では、ないのじゃぞ…」

「それでも、人のカタチは、してただろう」

「…………そう…じゃな」

「何処に居るんだ?」

「実はのぅ……隣の部屋じゃ」

「………ぇぇっ」

随分、近くに……。

 

「大丈夫なのかよ?」

「…大丈夫じゃよ…と言っても、安心出来んじゃろうしな」

「その目で見た方が早いと思うぞ」

………。

「…じゃあ、見てみようじゃないか」

百聞は一見にしかず…だ。

布団から立ち上がり、親父を肩に乗せて、隣の部屋の襖を静かに開く。

「………親父、こりゃ何だい?」

 

部屋の、ど真ん中に壁が建たっていた。

白い塗り壁、であった。

???

…………意味が…分からん。

「反対側に行ってみろ」

「?ああ」

一体何が…。

壁の反対側に行く。

………!!?

その壁の反対側に…ひのえんま…が肩まで、埋め込まれている。

……僅かに出ている肩から上も、何か、白い布…で、きつく、包む様に縛られていた。

身じろぎ一つも許さぬ程、硬く、固く、拘束されている。

辛うじて、微かな呼吸の音だけが、聞こえる。

「………」

「……この拘束からは、如何に強力な妖怪であろうと、逃げる事は出来ん……安心してくれ水木」

火閻魔を睨みつけている親父。

………かなり……キているな…これは。

「………この、壁は?」

「おお!そうじゃのう。ちゃんと、紹介せんとのう」

 

「『塗り壁』と『一反木綿』じゃよ」

 

「…ドウゾ…ヨロシク」

壁から、低い声が響く。

「よろしゅうな!!」

布が、頭?を上げて、俺に細い目を合わせた。

 

「あぁ…どうも」

「ようやったねぇ!水木どん!おはんは凄か漢やっど!!」

「……ブジデ……ヨカッタ」

なんだか、小っ恥ずかしいな。

「いえいえ…結局、鬼太郎に助けられましたし」

「はっはっは!!奥ゆかしか人じゃ!!」

「水木サン…イナキャ……アブナカッタ……」

「そうじゃ!!なぁにを言うとるんじゃ!!」

「全く!!!少しは、威張っとくれ!!」

「えぇ…?それはそれで、どうなんだよ」

「そのくらいで、丁度ええわい!!」

 

その後、大好物の茸を、たんまり抱えた鬼太郎と、砂かけお婆さん、子泣きお爺さん、垢舐め、べとべとさん、が帰ってきた。

「みずき!!」

こちらに駆け寄り、ひしと抱きつく鬼太郎。

「鬼太郎」

柔らかな、御子を抱き上げる。

「みずき!みずき!だいじょうぶ!?もういたくない?」

「ああ!この通り!すっかり治ったよ」

「よかったぁ!!よかったあ!!」

全身を使って、俺を抱きしめる鬼太郎。

……力がついたなぁ…。

鬼太郎の成長を身をもって感じる。

「水木さん!!身体は大丈夫なのかい!?」

と、お婆さん。

帰ってきた皆が、心配そうに俺を見る。

「ええ!お陰様で!」

「いや…しかし…」

親父が肩から飛び降りて、お婆さん達に近寄る。

「皆の衆、話がある」

いつに無く真剣な声を出す、親父さん。

「水木さん!鬼太郎の事頼むぞ!儂等、少し外に出てくるわい」

??

……いつも通りか…。

「みずき!!ごはん!ごはん!」

「おお、そうだな」

「きのこぉ!」

「はいよ」

おや?

「……髪はどうしたんだ?」

いつも通りの長さになっていた。

「もとにぃ、もどちゃったぁ」

しょんぼり、としている、鬼太郎の頭を撫でて、慰めた。

こりゃ気合いを入れて、茸を美味しくせねば。

 

渾身の茸汁を作った。

「はふほふ!うまい!みずきぃ!うまいよ!!」

「慌てるなよ。ちゃあんと、冷まして食べなさい」

「ほふほふ!」

茸汁を、夢中になって、飲み込む鬼太郎。

本当に好きだなぁ。

「ちょっと、失敬」

「どぉぞ」

…一丁前に……愛い奴め!

 

拘束部屋に戻る。

「塗壁さん、一反木綿さん」

「……ドウシタ?」

「何ね?」

「あの、ご飯って、どうしますか?今、茸汁を作ったのですが」

「…イタダキ…タイガ…」

「今は、手が離せん!また、後でな!」

「そうですか…では、また後程」

「アリガトウ」

「あいがとごわす!」

 

また、居間へ。

「みずきぃ!おかわり」

「ふふふ、はいはい」

「うふふ」

 

茸汁を、たんと食べた鬼太郎は、すぐに午睡に入った。

「すふーすふー」

「…良い夢を」

「水木ちゃん!いるかぁー!?」

ねずさんの声が。

ドタドタ、と入ってくる。

「やぁ、ねずさん」

「えっ!?………えっ?だ大丈夫なのか?」

壺を抱えて、汗だくのねずさん。

「ああ!親父さん達のお陰で全快さ!」

「そうか、そうか…良かったな」

「俺ぁ、心配で心配で、鎌鼬から薬を分けて貰ったんだが……」

「へへっ!無駄足になっちまったな!」

「そんな事ないさ!ありがとう、ねずさん」

「優しい奴だね…お前さんは」

「ははは…そうだ!腹へってないかい?」

「ん、ああ!ぺこぺこだぜ!」

 

二人で、昼餉にした。

 

昼餉を食べ終わり、外で一服していると、親父さん達が戻ってきた。

「おかえりなさい」

手を差し出す。

「ああ!ただいま!水木」

掌に飛び乗る親父。

 

「おんや!ねずみを来ておったかぁ!」

「こんな一大事に、どこ行ってたんだい!?」

「そう、かっかっすんなよ!鎌鼬に会いに行ってたんだよ!」

「何!?…おめぇ、良い仕事したのう!」

「無駄足になっちまったがな」

「フンッ!鈍いんだよ!オメェは!」

「口が悪いババァだなぁ!」

「まぁまぁ」

 

「心配かけたね。垢舐め、べとべとさん」

「ぶじで、よかったよぉ、みずきさん」

「れろ、れろん」

「垢舐め、助かったよ。ありがとう…命の恩人だ」

「儂等、三人のな!ありがとう!垢舐めよ!!」

「れろぉ」

顔を赤らめる、垢舐め。

「よかった、よかった」

 

べとべとさんは、

「おだいじにぃ!」

と言って、道に帰っていった。

 

「………ろん」

垢舐めは、顔を真っ赤にしたまま、お風呂場に引っ込んだ。

 

「もう無理すんなよ!!いいか!?……本当に分かってんのか!?」

ねずさんも、薬の入った壺を置いて帰った。

 

「さてと…」

「………どうするんだ親父さん、あの女……火閻魔は?」

「………うん」

「うぅむ、困ったのう!」

「…とりあえず、様子見たら、どうかのう?」

「はぁ…爺ぃ!もし、目が覚めてたら、危ないじゃろうが!」

「儂も、婆もおる。木綿に、壁も。それに、三種の宝物も、あるんじゃ。鼻っから、構えておれば好きに出来んじゃろう」

「ふむ……それもそうか」

「では、話を聞いてみましょうか」

 

三八式を構える俺。その俺の肩には、親父。

凄まじく鋭利な捻れた棒になった、ちゃんちゃんこ。

ヤる気満々の下駄。

重苦しい雰囲気を出す、子泣きお爺さん。

着物の袖に腕を入れたままの、砂かけお婆さん。

皆で、塗り壁の前へ。

 

「よし、一反木綿!いいぞ!」

「応!」

シュルシュル、と鬼の頭から離れる。

「ふはぁっ…はぁはぁ」

火閻魔が、呼吸を調える。

「………まだ、やるか?」

親父が、問う。

「………あのこ…は…?」

火閻魔が、問う。

「……寝てるよ」

俺が、答える。

「…あの子は…言ってた……わ私、おかさんじゃないって」

「……お母さんじゃない……」

涙を、溜めて、言葉を搾り出す………女。

「……そ…うよね…あの子は……」

 

「私の子じゃ無い」

 

溜めていた、涙が溢れ出す。

「ほんっ…とは、わかっていた…」

「我が子は……彼の子はいない………何処にも…いない」

「ううううううう」

「あいたい……会いたかっただけなの……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

………………。

…………………………。

銃口を降ろす。

「会いたいのか…」

「ううううううううぅ」

 

…………………そう…だ。

 

「……じゃあ、会いに行くか」

 

 

「!!水木、何を言うとる!?」

「俺達なら、行けるだろう?…それも、生きたまま」

「切符か!!…しかし、行った所で…」

「……何言ってるんだよ、親父…俺ですら、知ってるぜ」

「賽の河原…だったか」

「!」

 

「……あえるの?」

 

「ああ。会える」

 

「連れてって下さい!お願いします!!」

 

「承った」

 

「…お主…なに…だあぁぁ…………はあぁぁぁ…お人よしが過ぎるぞ…水木」

呆れ返る親父。

「……うん」

「…んだんだ」

お爺さん達も頷く。

 

「ハハハ!死んでも治らんよ!この性分は!!」

 

「冗談でも言うなぁっ!!!!!!」

 

親父の雷が、俺に落ちた。




ご拝読ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。