墓場より   作:ひノし

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第十五話

ゴォゴォ ゴォゴォ ゴォゴォ

 

この先に、川が、ある。

この国の者が、死ねば必ず渡る、川が。

……父さん………母さん…。

………友人達は、ここに辿り着けたのだろうか……。

……………………岩子さん………。

…………………………………。

…………いずれ分かる…か……。

 

ゴォゴォ ゴォゴォ ゴォゴォ

 

「水木ぃ、行こうぜ」

「……」

「……大丈夫か?水木よ」

「…………」

「……水木さん?」

「…………………えっ?」

「……先に進みましょう?」

「…あぁ、はい…行きましょう」

 

カランコロン カランコロン

 

地蔵達の間を抜けると、すぐに明るい場所に出た。

 

「……ここが…」

 

目に飛び込んできた景色に息を飲む。

 

空は雲一つ無く澄み渡り、その桃色の鮮やかな色彩を隠す事なく晒していた。

地面の砂利は全てが白い玉であった。一踏みする度に軽やかな音を弾ませる。

そして、何よりも、川だ。

……………川の筈だ。

視界いっぱいに、広がる川。

水平線が、空と川を真っ二つにしていた。

海、と見間違える程の大きさではあるが、目の前にたたずむ水の集まりは、ゴォゴォと絶叫しながら、まるで竜の様に猛烈な勢いで一方向へと流れていた。

 

これを…泳いで渡るなぞ、無謀の極みだな。

渡し船が必要な訳だ。

 

「こっちだぜ」

見慣れているのか、何事も無く歩きだす骸骨を追いかける。

 

チャラ チャラ チャラ

 

玉砂利に足を取られながらも真っ直ぐ歩く。

間違っても、落っこちぬ様に。

 

「あそこだ」

骸骨が立ち止まり、前方を指す。

 

そこには、幾千、幾万の石積みの塔が、ズラリ、と並んでいた。

高さは様々であり……なかには、石が三つだけ積まれているものもあった。

 

親より先に死ねば…か。

 

「悪いが……俺はここで、待っとるよ」

砂利に座り込む骸骨。

「分かりました。また後程」

「おう」

 

案内人と分かれて三人で、無数に並立する塔の間を、縫うように進む。

進みながら無数にある塔の、その見事さに驚嘆した。

ほぼ、完璧に球体の玉砂利が、寸分違わずに積み上げられている。

一体どれ程の時間をかけたのだろうか。

 

そんな努力の結晶を触れぬ様、四苦八苦しながら前へ進むと、ぽっかりと開けた場所に出た。

塔に囲まれた円形の広場であった。

 

そんな、広場の真ん中に……ナニかが、ダレかが、いた。

 

「……あれ…は」

あれは…背中か…。

赤い、赤黒い、筋骨隆々の、座り込んだ背中が、見える。

…………まさか…。

「…親父…あれは…」

「…そうじゃな……鬼…だろうな」

「……………おに」

 

鬼。

 

………凄まじい威圧感だ。

その威圧感だけで、周りの重力を歪めている様に感じた。

これだけ離れていても、全身が粟立つのを止められない。

………恐ろしく、怖ろしく、畏ろしい。

だが…だがしかし。

進まねば。

「…行くか」

「気をつけろよ」

畏ろしき異形に向かって、一歩踏み出す。

「えぇ!?近づくんですかぁ?!」

火閻魔が、素っ頓狂な声を上げながら、俺の肩を掴む。

「あっ、ごめんなさぃ…」

直ぐに、手を離す。

……治ってはいるのだが。

「…子供達の居場所を聞くだけです」

「………はぃ」

 

慎重に、鬼に近づく。

 

カランコロン カランコロン

 

……鬼さん、こちら。手の鳴る方へ。

 

…………阿呆みたいな事を思わなければ、やってられない…。

 

「もう少し右だ」

 

「ほんの少し………そうだ…そこで良い」

 

鬼は、なにやらブツブツ呟いている。

 

「…大丈夫だ…あと一つだけだ…」

 

「落ち着いて……やれば良い」

 

……他に誰かいるのか?

 

ジャララ

 

玉が崩れた音が聞こえた。

 

「……残念だったな……また始めからだ………泣くな…後少しだったろう」

「次は出来る」

「だから……泣くな」

 

ヒィヒィ…クキュッ!クキュ!ヒェーーン!ヒィヒィ……。

 

…………赤ん坊の押し殺した泣き声が、微かに聞こえる。

……切ない響きに、胸が痛む。

 

「…いまのぉ……今の声はぁ!!」

火閻魔が、声を上げた。

「どうしましたか?」

火閻魔が、駆け出す。

「あっ!ちょっと!」

「なんじゃ?」

慌てて、火閻魔を追いかける。

 

「何だ?」

 

火閻魔を追いかけて、鬼の前に躍り出ると、そこには…余りにも…余りにも…小さな赤ん坊がいた。

「ぁぁあ」

その子の前で、跪る火閻魔。

 

……そうか、この子か。

 

「貴様等………何者だ」

地の底から響くような声が、鋭く射抜いてくる。

 

大きな目玉で、ギョロリ、と俺を睨みつける鬼。

「…えぇと…子供を……彼女の子供を探しに…」

少し、目を見開く鬼。

「………こんな所までか」

「はい」

「……よく、生きたままで、来れたな」

「切符がありましたので」

「………切符だと?」

「儂等、幽霊族のじゃ」

ピョコン、と手を挙げる親父。

「………………目玉が喋った」

…………鬼でも驚くのかよ……。

「………幽霊族…か……成程」

「…それにしてもだ…ここまで来るのは……大変だったろう」

「そんなには……まぁ……途中で、地蔵に襲われたりしましたね…」

鬼の眉間に、深い皺が寄る。

「……地蔵だと?………そんな…何かの間違い…ではないか」

「…いやぁ」

「あれは確かに地蔵でしたぞ………唄を歌っておったな」

「ええ」

「唄を……あぁ……はぁ」

溜息を溢す鬼。

「……………あの悪餓鬼達め……」

「はい?」

「いや…その……何だ…此方の監督責任だ」

「すまぬ」

大きな角の生えた頭を下げる鬼。

「いえいえいえ、お気になさらず………と言うより…あの……すみません……話が見えぬのですが」

「………その地蔵の正体は…恐らく……ここの子供達だ」

「外からの来訪者が珍しくて、悪戯のつもりだったのだろう」

「あぁ、そうでしたか」

………あれが…悪戯かぁ。

「…怪我はしてないか?」

「大丈夫です」

「そうか……それなら……良かった…良かった」

……いいヒトだな……昔話とは……えらい違いだ…。

 

さて、と。

 

足元で未だに蹲る火閻魔に声を掛ける。

「この子ですか?」

不思議そうに俺達を、その小さな隻眼で見つめる赤ん坊…いや……胎児。

「ぅうう、うん、うん」

……そうか。

「そうですか」

「………抱いてやらんのか?」

「うぐうぅぅぅ、ちゃちゃぁんと、うめなかったのにぃ、そ、そんなこと」

「…………抱いてあげなさい」

いつかの日の、優しい声で励ます……親父さん。

 

 

 

この後の事は、語るに及ばず……にしておこう。

 

……初めて、お互いを見つけた親子に、これ以上……何を言えるだろうか。




ご拝読ありがとうございました。
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