墓場より   作:ひノし

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第十七話

翌朝。

子供達の駆け回る声で、目が覚めた。

「あはははは!」

「いひひひ!」

うぅむ、実に心地よい。

何だって、童の笑い声は、こんなにも幸せな気持ちにしてくれるのだろう。

………外から聞こえるのが驚きだが…。

…雪ん子ちゃんは兎も角。鬼太郎はちゃんと、着込んで出たのだろうか…?

風邪を引いてしまうよ、鬼太郎。

…いや…でも……あの子…風邪引くのか?

……まぁ良いや。

「よいせっ」

布団から勢いよく飛び出す。

 

「おはよぅ…」

真っ白な世界を、真っ赤な鼻と耳をした童達が、縦横無尽に飛び回っていた。

正しく、風の子であった。

………せめて…重力には従ってほしい。

誰かに見られたらどうするのだ。

「おはよう、水木さん!」

「おはよ!」

駆け寄ってくる二人。

「ああ、二人共おはよう」

雪ん子ちゃんは、昨日のままの格好。

心配していた鬼太郎の格好だが…いつかの蓑虫状態になっていた。

………愛い。

もふもふしている。

「きたちゃん、可愛いでしょう?ふかふかなの!」

鬼太郎の頭を撫でくる雪ん子ちゃん。

「むふー」

まるで、どうだと言わんばかりに胸を張る鬼太郎。

……鬼太郎…残念ながら威厳は無いぞ。

ただ、ただ可愛いだけだ。

俺も、その、もふもふ具合を両手で念入りに確かめさせてもらった。

あったかい。やわかい。うい。

 

もふもふもふもふもふもふもふもふ。

 

「……あっ…そう言えば、お父さんはどこだい?」

布団は、もぬけの殻であった。

「おとさん?」

「うん」

「うふふ」

何故微笑む。

「ふふ、どうした鬼太郎?」

「ふふふ、みてみてぇ」

もふついた両手で前髪を上げる鬼太郎。

「うん?……………鬼太郎、目が!?」

………産まれついて、閉ざされていた左目に光が差していた。

「うふふふ!」

「治ったのか!!良かったなぁ!!」

流石は幽霊族だ。

「ふふふ?……なおった?……ちゃんとみてぇよぉ」

?何を?

「???」

「………」

「………………」

まさか。

「………」

左目が、じっとり、と汗をかいている。

「…………………親父…………そこで…なにやってんだ……」

「……鬼太郎が……入れって…」

だからって……。

「これで、おとさんと、いつでも、いっしょだねぇ!」

ふふーん、と嬉しそうな鬼太郎。

「わぁ!凄いわ!凄いわ!一体、きたちゃんの体どうなってるのかしら!」

本当だよ。

「みじゅきぃ、みてみるぅ?」

「………何をだい?」

「なかみ」

「な…かみ」

……頭がくらくらする。

「おとさん、でてね」

ふんわりしたお手手を、親父の前に差し出す鬼太郎。

「うん、ありがとうな、鬼太郎」

「どういたしましてぇ」

……随分、言葉を覚えてきたな。

親父を頭に乗っけて、ぽっかり開いた左の眼孔を俺に向ける。

「どうぞぉ」

………。

「……みないの?」

……………。

「…いや…みるよ…失礼」

念の為の確認だ。

 

しゃがみ込んで、恐る恐る幼子の顔にある穴を覗き込む。

真っ暗な眼孔の奥に、仄かな光がある。

……一体どうな!?…は…!!??

目を擦る。もう一度覗き込む。

……………えぇぇ………。

……………………………どう見ても………どうしたって……。

左の眼孔の奥には、和室の四畳半が広がっていた。

「みえたぁ?」

「…………鬼太郎、なんか、部屋が、あるん、だけど」

「つくってみましたぁ」

むふぅ、と小さな鼻息を出す、鬼太郎。

「……そうか…そうか………よくできてるよ」

「へへへへ、そうでしょぉう」

「きたちゃん、私もいいかしら?」

「いいよぉ」

目眩がする。

「だ大丈夫か?水木?」

「………………親父さんと岩子さんにも、あったのか?」

「んなものあるかい」

「いや、あってくれよ」

 

手早く朝飯を用意して、皆んなで炬燵を囲んだ。

「「「「いただきます」」」」

「………ぁ………ぃ」

「いやいやいや、待て待て待て」

「どうした?ねずさん」

「俺が寝てる間に何が起きたんだよ!!」

「あっ、そうか。寝てたもんな……えっと、こちらが雪ん子ちゃん」

「おはようございます、おじさん」

姿勢を正して、綺麗な礼をする雪ん子ちゃん。

「……おはようさん」

少しばかり面食らう、ねずさん。

「こちらが、『震々』」

「…………」

微動しながら、頭を下げる震々。

(白湯を、ちびちび飲んでいる)

「……どうも」

なんの妖怪なんだ、こいつは。と思ってる顔をしてるなぁ。

「きたでぇす」

箸を持った手を挙げる鬼太郎。

「オメェさんは、何度もあっとるだろうが」

「うふふ」

………冗談、言えるようになったのか………。成長したなぁ…。

しかし、変わらず愛い子だ。

「二人共、穏やかだから、大丈夫だよ」

「本当だろうな?親父ヨ」

「うむ」

「さっ、食べましょ」

「…うぅん…はぁ……まっ、いいか………いや…いいのか?」

「……ねずみ、馳走が冷めるぞ」

 

朝飯を食べ終えて、まったり、とした時間が流れる。

子供達は、炬燵に包まりながら絵を描き、それを浮きながら眺める震々。

男三人は、外で一服だ。

 

ホゥ。

「…水木ちゃんよ、震々は兎も角、雪ん子ちゃんはどうすんだ?」

「どうするって?」

「雪ん子だぜ。誰かの子供じゃねぇのか?なぁ親父」

「……そうなのか?」

「うむ、自然発生の話もあるが、大抵は『雪女』の子供と伝えられておるな」

「じゃから、雪ん子ちゃん本人に聞いてみるしかないのぅ」

「『雪女』か…。また有名な妖怪じゃないか」

「本が出たからな……俺も一発書いてみようかねェ」

「……ねずみよ、書いたところで妖怪話なぞ、今の時代、誰が読むんじゃ?」

「……それを言うなヨ」

………俺は読むけどな。

 

一足先に、居間に戻る。

 

先と同じ様に、炬燵で丸くなっている、雪ん子ちゃんと鬼太郎。

ぽかぽかしている二人の前に座る。

「ちょっといいかな?雪ん子ちゃん」

「なぁに?」

「えぇと……親御さんは居るのかい?」

いささか気まずい質問だ。

「うん、二人共元気よ………あっ!いっけない!」「忘れてた!」「一晩も、黙って居なくなっちゃった!」徐々に立ち上がる雪ん子ちゃん。

「あわわわ、お母さんに怒られちゃう!!」

そして、炬燵の周りを、グルグル歩き回りだした。

「はわわわわわわわわ」

「どうどう、落ち着いて」

「わわわ……いやぁだぁ……かえらないとだけど…かえりたくないよぉ」

うっすら涙目になってしまった。

 

……落ちた涙が、雪の結晶になっていく。

その結晶を、足元で受け止める鬼太郎。

「きれぇ」

 

「大丈夫だよ、きっと心配してるだけさ。お家は遠いのかい?」

「…ぐすり…ちょっとだけ」

「何処かな?」

「この、お家の、裏の森の、先の、お山の、洞穴」

割と近所だった……。

「よし、じゃあ、送っていこう」

「へっ?いいの?」

「勿論」

 

「いや、勿論じゃねェ!!」「じゃないわぁ!!」

声を上げて部屋に入ってくる、ねずさん、と親父。

「どうした?たかが、近所の山に散歩じゃないか」

「たかがだと?妖怪が!いる!雪山!だぞ!」

「まぁだ、そんな事言うとるのか!?死にかけたじゃろうが!お主!」

「それが?」

「「それが!?」」

「やっぱり、私、一人で帰るわ……」

「いやいやいや、大丈夫だよ、雪ん子ちゃん」「大丈夫だよ…多分」

「おっおおおお主という人間は………」

心なしか赤くなっている親父。

「おいおい…………はぁ……しゃあねぇなぁ……俺もついてくよ」

「おお、有難い。ねずさんが居れば百人力だ!」

「ねずみ、行ってくれるか」

「…ここで知らんぷりなんて出来るかヨ……それに、歩いては行かねぇし、行かせねぇゾ」

「じゃあ、どうやって?」

「親父、水木ちゃんが持ってんのは『妖怪笛』なんだろ?」

「ああ…そうじゃ。………そうか、誰ぞ呼ぶのか?」

「おう、送迎の得意な奴をな」

「誰だい?」「誰じゃ?」

 

「『塗り壁』だ」




ご拝読ありがとうございました。
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