ドオオオォォォンンン
銃声が鳴り響く…だが…俺の銃からではない。
音のした方へ振り向く。
そこには……。
そこには、鬼がいた。
真っ赤な憤怒に染まる鬼の仮面に、雪ん子と同じ藁を体に纏い、年季の入った猟銃を装備している。
鬼は、煙立つ猟銃の筒先を空へ向けていた。
「あ゛ああぁああああああああ」
鬼が言葉にならぬ声を高らかに叫ぶ。
「あなた!!邪魔しないでぇ!!」
「おんおああえあえういあ」
「………仕方ないじゃないの!!もし!もし!!あの子に何かあったらどうするの!!それに!!あなただって!!」
「おえあいあんあおおおおえああおう」
「…嫌よ!!」
「あ゛ああああああああ」
「…………嫌!!嫌!!嫌ぁ!!」
雪女が俺達に開いた手を向ける。
「鬼太郎!ちゃんちゃんこじゃぁ!!」
「はいっ!!!」
俺は鬼太郎が防御してる間に、三八式で女の手を狙う。
「止めっ!!」
ねずさんが射撃を手で制する。
「何故だ!」
「まだ、説得が終わってない!」
「ゔううお゛お゛おおおおぉおぉぉぉっーーーー!!!!!」
鬼が……雪男が咆哮を上げながら此方に突っ込んでくる。
そして目前で、手を目一杯広げて庇う…俺達を。
「なっ!?退いて!!」
「あえお!!」
「退け!!」
「あえあ!!」
「退きなさいぃ!!!」
「いああ!!」
「ぐうううう!!じゃっじゃあ!!あなたごと凍らせるだけよぉ!!」
「…………」
「嘘じゃないわ!!」
「……………」
「……グゥぅぁあああああ!!!」
「……………………」
雪男は身じろぎもせず依然、俺達を庇い続ける。
「あああああああっ!!はぁ!はぁ!はぁ…………」
雪女が手を下げる。
「……………はぁ………はぁ………」
「………」
「……卑怯よ……私が………今更……あなたを…殺せる訳ないじゃない…」
「うあ…」
手を下げて雪女に近づく、雪男。
そのまま雪女の肩に手を置く。
「謝らないで!!どうする気よ!もし…もし!此処が!此処にまで人間達が来たら!………もう、いい加減逃げ切れないわ!!これ以上、何処に住める場所があるのよ!」
「あいおううあ」
「何がよ!あの人間が!口を滑らせたら、どうなるかなんて!あなたが一番知っているでしょう!!…………もう……嫌よ!………離れ離れになるのは……」
「うん……いいえうう」
「何言ってんのよ………」
「ああえお……うい」
「…………はぃ」
雪男が振り返り、此方にやって来る。
「どうする」
「彼は…儂等を庇ってくれた…様子を見よう」
「……分かった」
深い雪に足を取られる事なく、真っ直ぐ歩く雪男。
そして、俺の前で立ち止まる。
「いいあいおおがあう」
聞きたい事がある。
………声は出てるが言葉にはなっていない……筈だが、何故か…何故か何を言ってるか分かる…。
「……何でしょうか?」
「ああい…」
やはり…。
「やはり?」
「いあ…………おおおおおあいああいえいえうえうあ?」
いや………此処の事は言わないでくれるか?
表情の変わらぬ真赤な鬼の瞳で、此方を覗く雪男。
「…誰にも言いません…絶対に」
「おんおうああ?」
本当だな?
「天地神明に誓って」
「……………」
「…………」
俺は虚な穴から、目を逸らさない。
ありがとう。
「…いいえ」
男は雪女の元に戻る。
「あいおううあ」
「……信じたの…?……ただの口約束を!?」
「あいおうう」
「……何故よ!何故…何故、貴方がそう言えるの!?」
「あえはおえおおあいあ」
「!?なんですって……」
「うおあいえあい」
「………………まさか…そんな…」
「おおいあいあああおおあおう」
「…………分かったわ……信じます……………あなたをね…」
「…………」
……ふぅ、良かった。
「話は纏まったようじゃな」
「……紙一重だゼ」
「かみひとえ」
「おあうあいああああおうああ」
「……………はぁ………貴方達、着いてきなさい」
雪女が鋭い眼光はそのまま、俺達を呼ぶ。
「えっ?」
「あいお……」
「………娘を送ってくれたのに、ただで返せるものですか…」
………えぇ…。
「さっき殺そうとしてたよなァ!?」
「…いちいち五月蝿い…細かい事、気にしてたら長生きできないわよ……それに!だいたい!人間が!私達の山に簡単に入ってくるのがおかしいのよ!」
「それはそうダ!」「返す言葉もないわい」「たしかに」「………ふ」
……いや……少しは…言い返してくれ……。
「お主が…変……いや…その……特異過ぎるんじゃ!」
「言い方ぁ!」
雪女に招かれ、雪ん子ちゃんも入っていった洞穴にお邪魔する。
洞穴の中は以外にも寒くなかった。
常に涼しげな風は流れているが、身体が芯から冷える事はなく、どこか温かみが、あった。
洞穴の天井には氷柱が一面に垂れ下がっていて、それが外から入る陽の光を拡散させて洞穴の中を優しく照らしていた。
「………ぅぅ」
……透明になった震々は、健気にも、震える手を、俺と背中の鬼太郎の合間に入れて少しでも暖を取ろうとしていた。
「みずきぃ、だっこにしてぇ」
「……いいとも」
すまん、震々。
くるり、と俺の体を回る、ちゃんちゃんこ。
「うふふ、おとさんとみずきの、おかおがみえるね」
「そうかい」
「ははは、鬼太郎の顔もバッチリ見えるぞ!」
「うふふ、けけっ!……あっそうそう……ぶるぶるぅ、せなかあいたよぉ」
「……おぉ、成程。頭、良いなぁ」
「優しい子じゃのぅっ!!」
ぴちょ、ぴちょ
泣き虫の親父の所為で…頭が、つめたい…。
「………ぁ………ぅ」
背中が、ぶるり、と震えた。
快適な洞穴を、一堂、列になって進む。
「意外と快適じゃのう!」
「どうも」「…おうお」
「うむ、うむ」
「…………しかし、こんな所で生活してりゃあ、不便じゃないのカ?」
「……ズケズケ言うわね……住めば都よ…それに……今に分かるわ」
歩く。歩く。歩く。
「ふぅ…」
少しばかり汗ばんできた所で、視線の先に何かが見えてきた。
………何かと言うより、長屋であった。
長屋って……。
ガララララ
「………どうぞ、お入り下さい……お茶でも出しますゆえ」
「…………」
「……では」
「お邪魔するのじゃ」
「じゃましちゃだめじゃない?」
「お茶とは、嬉しいじゃないノ」
「わぁ!皆んな!いらっしゃいませ!嬉しいわ!お礼もせず、別れるのは悲しいと思ってたの!」
雪ん子ちゃんが出迎えてくれた。
「流石は母様ね!」
「………当たり前でしょう」
…………………。
物凄い顔した、ねずさんの肩を軽く叩く。
「………やれやれダ」
流石に、雪ん子ちゃんの前では責める気が無くて良かった。
「……何よ、貴方達…」
何も言うなと、凍てついた視線で俺達を射抜く雪女。
「いえいえいえ、何も…」
「…………ふんっ」
「あっ!父様!お帰りなさい!」
「………ああ」
「雪ちゃん、お茶の用意お願いできる?」
「勿論よ、母様!」
まさか、畳の部屋で卓袱台を囲む事になるなんて思ってもなかった。
雪男は、ゆっくりしていってくれ、と伝えて、再び狩に戻った。
「ちょっと!あなた!いなさいよぉ!」
妻の責める声を背中に受けながら出て行った。
雪ん子ちゃんと鬼太郎は、家の周りで遊んでいる。
きゃっきゃっ!けけけ!
朝と同じ笑い声が聞こえてくる。
震々は湯を沸かした釜戸の近くに佇んでいる。
なので、卓袱台の周りには、俺、ねずさん、親父、雪女、の四人だ。
「……………」
「……………」
「………ふぅ…ふぅ」
「…………ふぁ〜あ…さてと、一服がてら、子供達の様子を見て来るかねェ……」
そそくさ、外に出るねずさん。
「お茶、ご馳走さん」
「……お粗末様でした」
ガララララ
いかないでくれよぉ…。
「……………」
「……ふぅ……ふぅ…」
親父は先から、ずっとお茶を息で冷ましている。
「親父、貸してごらん」
「おっ、うん」
茶碗を取ろうとしたら、白い手が先にでてきた。
雪女は、そのまま三秒程掴んで離した。
「…」
ずずっ
「丁度良い!かたじけない」
「………飲んだら帰ってね」
「うむ、元々、雪ん子ちゃんを送りに来ただけ。長居はせんよ。のぅ水木」
「ええ、そうです」
「………分かってるなら良いわ………」
「…………………………ねぇ、貴方…」
俺を見る雪女。
「なんですか?」
「………貴方は……なんなの?」
「…………」
何?うーん?
「えーと、唯の人間で、この目玉の友人で、一緒に来た男の子の後見人、そして、半人半妖の友人と、妖怪の友人、知人が多い男です……かね?」
「………………そう………あの男の子……ただの子供じゃないでしょう?」
「……そうですね………友人に託された子ですからね」
「……そう言うんじゃないのだけれど……はぁ…貴方も酔狂ねぇ」
「そうですか?」
「ええ、あの人と同じくらい」
「雪男さんですか?」
「………雪男?………ぷっ…ふふふ……あはははははは!!」
?何が可笑しいのかな?
「あはははははははははははっひぃはははひぇ」
笑いすぎて涙目になっている。
……落ちた涙は雪の結晶になって、お茶に落ち、溶けていく。
「はぁ、ひひっ、はぁ」
「……大丈夫ですか?」
「はぁはぁ、大丈夫じゃないわよ!何よ!雪…ふは男って!」
「雪ん子ちゃんが、父上は雪男じゃないか、と言っておったぞ」
「あはは!あの子ったら!」
「違うのですか?」
「ひひっ……へぇ……はぁ…少なくとも雪男なんて、名前じゃあなかったわ」
「では、何の妖怪なんじゃ?」
「………えっ……」
上気していた顔色が、青くなる。
「……まぁ、言いたくなけりゃ、いいんじゃ…すまんのう、聞きたがりで…」
「……………………間」
………えっ?
「………人間」
「……………あの人は……
「………だった……じゃと?」
「親父」
「いいの…」
「きっと、私、ずっと、誰かに話したかったんだと思う…」
「貴方、雪女の昔話は知っていて?」
「ええ、子供の時、婆さんに聞かされましたよ」
「そう……どこまで?」
「どこ…まで………えーと……確か……結末は……木こりが約束を破ってしまい、雪女と離れ離れになった……だったかな?」
「すみません……少し…あやふやで…」
「…いえ……間違ってないわ……どの話も…別れて終わりだから…」
「でも、でもね、話には、続きが……あったの」
「…そうでしたか」
「ええ、だーれも知らない…知る事のない…続きが」
「雪女…妻のお雪が出て行ってしまい、木こりは男手一つで一人娘を育てる事になった」
「本当に大変だった筈よ…木こりは…既に両親を亡くしていたし…頼める親戚もいなかった」
「それでも、一所懸命…娘を育てていたわ」
「けれど……ある時………」
「一人娘、大事な娘の…成長が…急に止まったの…厳密には…止まった訳ではないけれど…急激に…遅くなった…」
「人の何倍、何十倍も」
「一年なら、誤魔化せたわ」
「…二年、三年、四年、と姿の変わらぬ娘……毎日、毎日、仕事をしながらも、世話をしていた木こりには…だけには、その成長は感じ取れたわ」
「…だけど。奴等は。周りの人間共は違った!!」
「あの木こりの娘は歳をとらない!あの木こりの娘はおかしい!そう言えば、出て行った木こりの嫁も何処か、おかしかった!」
「おかしい!おかしい!おかしい!おかしい!おかしい!おかしいのはおかしい!!」
「きっと、きっと、あの娘は、化け物だ!あの嫁も、化け物だったんだ!そして、あの木こりは化け物好きの狂人なんだ!」
「倒さなくては!倒さなくては!村の為に!人間の為に!自分の為に!化け物を殺さなくては!」
「そして…そして…そして!」
「人間共は、親子の住む家を襲ったわ……けれど残念!親子は、もう居ませんでした!」
「…はぁ…」
「それからの親子は……あちこちを転々としたわ……おかしいと思わせないように…おかしいと思われる前に………何年も…何十年も……」
「何十年も経っても娘は未だ幼子だったわ。だけど…だけどね…木こりは…人間だった……唯の人間よ…」
「髪は真っ白に抜け落ち…皮膚はひび割れ…足も腕も満足に動かせず…目も霞み…徐々に昨日の事も思い出せなくなっていた…限界が近かった…」
「木こりは……一人娘…妻の忘れ形見を見て…苦悩したわ……まだ…死ねない…死ぬわけにいかない………死んでたまるか…まだ…この子を…一人には出来ない……それだけはできない」
「だから……だからね…故郷に…故郷の山……雪女と出逢った山に向かったの」
「…あの人には…時間が無かった……死神が追い縋っていた…人間に追われ続けた人生の最後は…死神が……追ってきていた…から…」
「だから……あの時も……あの真冬の雪山に登るしかなかった……春はもう待てなかった…だから登った…あの人は…もう降りる気は無かった……ただ……ただ…娘を母親に……届けるだけ……それだけの為に」
「幸いな事に…娘はそんな極寒の雪山の中でも……元気だったわ……温かった……そのお陰で…幸か不幸か……あの人は…あの女と…雪女と……出逢った山小屋…の…残骸まで……辿り着けた……」
「あの人は……叫んだ……力の限り…命の限り…声の限り」
“ゆきーっ!!お雪ーーー!!許してくれぇ許してくれぇ…この子を…この子だけは許してくれ……どうか…どうか…この子に罪な無い筈だ…どうか…どうか…この子を…お頼み申す…お頼み申す……この子…が大きくなるまで……一人で生きていける様になるまで………お頼み申す……お頼み申す……どうか……この子を…この子の未来を…許してくれぇー!!!”
「私は……その叫びを最初から…聞いていた……あの人の目の前にいた」
「私は……私は……私も…呼んでいたの……あの人を…」
「けれど……あの人はもう……疲れていた…壊れていた……もう私がミえていなかった」
「そして………叫び続けて……喉が潰れて…喉が裂けて……倒れてしまった……その時さえ……背中の娘が……雪に当たらぬ様に…前に…」
“……ゆ、る、して、くれ……”
“ゆ、るして、くれ……………な、ぜ……なに…ゆえ………”
“こ……の…こ…も……にくいのか………”
“……………………………そ、う、か………そうだった…………おらは、まだ、ば、つ、を…”
「あの人は…………あの人は………自分を許してなかった……約束を破った自分を………話してしまった自分を………何十年も…片時も!ずっと!ずっと!私以上に!許してはいなかった!!」
「だから……あの時……あっあの人は……自分で……自分の舌を……」
「……………」
「雪が…真っ赤に染まっていたわ…………何処から…出てきてるか……分からない程……広く……大きく………雪を染めたわ……」
“ああああああああああああ!!!なんて事を!!!!私は!!もう許してる!!許してるの!!聞いて!!聞いて!!見てよ!!私を見て!!見て!!見て!!私を!……どうか……どうか…私を許して!!!!”
“う、あ、あ、い”
“あああああああああああああああああああああ”
「その時だった……あの人の血が私達の周りの雪を染め上げた時…私が耐えきれず…叫んだ時……あの…死神………骸骨が………現れた」
お迎えです
「骸骨は………短い……短い………蝋燭を…掲げていた……」
“ああああ!!早く!!早くして!!もう!!殺してあげて!!”
“…………あ、い”
………………………
「……………何故か……あの骸骨は……蝋燭の火を消さなかったわ………」
“何を!!やってるの!!!!!!早く!!!消しなさい!!!!早く!!仕事しなさいよ!!!!”
………………………………………
「黙って……突っ立っていたわ……だから……私は……自分で…消そうと…でも…消えなかった……どれほどの…雪…吹雪……冷気でも…蝋燭の火は…消えなかった……」
“ああああああああああああああ!!!!!消えろぉ!!!”
………………………
「そして……足掻く…私を……無視していた骸骨…は…暫くして……話しかけてきたわ」
“あああ……はぁ……はぁ……ぐううぅううう”
………何故だ?
“…何故?………何故ですって!!……何言ってんのよ!!……これ以上苦しめない為よ!!”
分からぬ。解らぬ。何故だ?未だ火は消えず。即ち、その者は未だ生きておる。生きようと足掻いておる。何故だ?その者を愛している其方が、何故火を消そうとするのか?
“…………なっなにを……いってるの……”
愛は、とうに消えていたのか?
“………こ…の……糞………髑髏…………はぁっ……はぁっ”
“はぁ…はぁ………はぁ………はぁ…ああ……ああああ……ぐあああああ”
「どうにかなりそうだったわ……」
「もう……これ以上……あの人を…苦しめたくなかった………もう……みていられなかった……でも………でもね…それ以上に……我儘にも…程があると思うけれど…………死なせたくなかった…生きていてほしかった……また……あの…可愛い…顔が…みたかった……」
「…あの人はずっと…ずっと…苦しんでいた………苦しみ続けていた…可哀想…辛過ぎる……でも…それで……良かった…はは……それは…苦しんでいると言う事は………まだ生きている………まだ生きてくれてる……」
「私は……瀕死のあの人をみて……心の…どこかで……喜んでいた…………まだ…まだ…まだ…まだ終わっていない…まだ…死んでいない…まだ……まだ、まだ、まだ!……私を……待ってくれている!!………あはは…ははははは………本当に…私は……どうしようもない…正真正銘の化け物だった」
“…………ぁ”
“はぁ…はぁ…聞いて……聞いてよ……もう……もう…許すわ………だから…あなた…も…私を……許して…許してね………だから……だから……だからね…まだ…許さないで………私を許さないで……恨んで……妬んで……嫌って……生きてよ……生きていてよ………あなたを………苦しませ続ける……化け物を”
「私は……凍らせたわ……舌の傷………喉の傷………凍傷で…ズタズタの四肢……そして………そして………その魂さえも………」
「あの人の……なにもかも…ぜんぶ……全部を…凍らせたら…………あの…死神は消えたわ……火種しか無い蝋燭と一緒にね…」
「そして…愛しい人の何もかもを…氷漬けにして……あの人と……あの人との娘を……洞穴に……連れ込んだわ」
「娘……雪は……穏やかに眠っていたわ………私は……氷そのもの…にした…あの人を……眺めていた……」
「………ただの時間稼ぎの筈だった…ただの時間稼ぎにしかならない筈だった……凍らせて…そのままに…するしかなかった…止めておくしか……溶けたら…解けてしまえば……死の運命は……再び…燃え始めてしまう……」
“…………ごめん……ごめんなさい……あなた……わたしが……あのとき……みのがし…なんてしなければ……あなたに…であわなければ…………あなたを……すきに……ならなければ……”
こんな地獄に落ちる事も無かった筈なのに………。
“………泣かないで……お雪さん………”
「………………あの人は………動き始めた………凍ったまま……止まったまま…名を捨てて……人である事を捨てて……娘の為に…そして……私なんかの為に」
「そして………私達は………再び…家族になった………漸く……家族に…なれた」
「…何も…めでたくもない…何も…おしまい…じゃない…これが……本当の…雪女の…結末よ」
……………………………………。
「ふふふふあはははは…………面白いでしょう?……一等、馬鹿な女の話は」
「……………申し訳ありませんが…面白く…は、ありません」
「正直ね」
「すみません」
「いいのよ………やっぱり、思った通りね」
「……?」
「あの人に、似てるわ。貴方」
「それは……どうも」
「ふふふふふ」
お茶は、すっかり冷え切っていた。
「また来てね〜!」
「またくるね〜!」
子供達は和やかに別れの言葉を交わす。
「娘がお世話になりました」
「…あうあ」
「いえ……お茶、ご馳走様でした」
「……ああ、馳走になった」
「お〜い!そろそろ、行こうゼぇ!」
塗り壁に寄りかかりながら俺達を呼ぶ、ねずさん。
「では、さようなら」
「……ええ、さようなら」
「………いおうええ」
気をつけて。
「………………………『雪女』よ」
親父が、呼ぶ。
「……なに?」
「其方の夫の名は、『雪男』じゃ」
「……貴方、何を「一度くらい…新しい…名前で呼んでやんなさい」
「どう言う意味よ?」
「呼びなさい」
「……?」
「…それだけじゃ…ではな!水木さん帰ろう。鬼太郎〜行くぞぉ」
「はぁい!またね、ゆきちゃん!」
「またね!きたちゃん!」
鬼太郎を肩車して、塗り壁の元へ向かう。
「……何故、あんな事を言ったのです?」
頭の上に座する、名を捨てた親父さんに問う。
「…ただのお節介じゃよ…水木さんのが、移ってしもうた」
「はぁ」
「ほぇ」
…最初から、貴方も大概だったと思うが…。
「…オカエリ…」
「ただいま戻りました。申し訳ない、こんな寒い中、待っていただき…」
「…ナンテコトハナイ…」
「サッ…ノッテクレ」
ひやり、とした手触りの塗り壁に引っ付く。
「……イクゾ」
くるり、くるり、と視界が回る。世界が回る。
その中で、俺は確かに見た。
雪の中の家族を。
抱き合う三人の姿を。
涙を溜める『雪女』。嬉しそうな笑顔の『雪ん子』。
そして…鬼の仮面を投げ捨て…『雪男』になった……青年。
…ああ、きっと呼んだのだろうな。
「めでたし、めでたし」
「そうだな…その通りだ、鬼太郎」
何のけちも付かないだろうさ。
(もう、寒くないよね……ゆきちゃん)
背中の寒さは、
ご拝読ありがとうございました。