墓場より   作:ひノし

29 / 47
第二十八話 閑話

窓の隙間から入る風が病室の蒸し暑さを和らげていた。

「これが報告書です」

ベッドに備え付けられている机に手書きの書類を置く。

「……う、んうん……終わったのか?」

「終わりましたとも……もう、あの橋には()()居ませんよ」

「そう、か」

「もう、よろしいですか?」

「ああ………謝礼は…」

「……その内、戴きに来ますよ…烏が」

「烏が?」

「ええ、お喋りする烏です。可愛らしいですよ」

微笑みながら伝えれば、町長の顔色は、蒼く、蒼く、染まった。

「では」

「まっ、待ってくれ!…あっあと一つ。一つだけ……()()?」

「………末路には興味があるので?」

「………ぅ……」

「全て、それに」

出鱈目しか書かれていない書類を指さす。

「さようなら」

 

ジリジリ、と日に焼ける駅のホームの片隅へ小走りで向かう。

「おう、お疲れ」

「お疲れさま」

親子が迎えてくれる。

「待たせた…そりゃ、何だい?」

「んぐ…水よーかん」

竹の筒から覗く、綺麗な黒色の甘味を鬼太郎は丁寧に舐めていた。

「兄ちゃんも食うかい?」

隣の小豆洗いが竹筒を渡してくれる。

竹は、ひんやり、している。

「いやぁ、ありがたい」

「上がっとくれぇ」

 

水羊羹もまた、絶品であった。

 

キィーーーーーーーーーー

 

汽車が駅に着いた。

俺達と小豆洗いは大きな荷物を持って、乗り込む。

そして、寂しい町を後にした…。

 

ガタンゴトン、カダンゴトン

 

揺れる車内には、乗客は疎ら。

 

鬼太郎は俺の膝を枕に夢の中に旅立った。

「ふにゃあぁ」

猫の様な寝言は、実に愛い。

 

「初めて乗ったが……結構、上等だなぁ」

「こんな物、よう作るわぁ人等は」

「誠にな」

向かい合う座席の前で麦茶を啜っている、親父と小豆洗い。

「便利になり過ぎてますがね」

「ぉぅぃ」

俺の隣、大きな風呂敷が小声で呼ぶ。

「もぅ、ぃぃかぃ」

「まだだよ」

「いや、ええじゃろう」

「車掌が切符を切るまでは駄目だぜ」

「それまで、辛抱しな」

「ぐぅぅ、足が痺れてきたんだが…」

「………どの部位の事だよ…」

「…いや、な。無くなっても、感覚だけはあるんだよ…」

「……はぁ、やれやれ…」

風呂敷の縛りを少し緩める。

「おお!ありがてぇ」

「いっそ、完全に妖怪になっちまえば楽だったぜ」

「は、は、は!誰かさんのお陰で、スッキリ、しちまったからな!」

「デカい声を出すな…」

 

小豆洗いの引越しの荷物に紛れた、風呂敷は喋りたがりであった。

 

「は、は、はは」

 

…………あの後、色々と遠回しな事をやっていた……男……テケテケ(本人がこの呼び名が気に入ったのだ)…は観念と改心をして、警察に出頭する気になった。

しかし、それに小豆洗いが待ったをかけた。

自分の為に…間違ってるとは言え、ここまでやってくれた小僧…小僧だった者に憐れみをかけてくれ、と。

……土下座までされてしまった俺は…鬼太郎の…垂れた目と…親父さんの、まぁ死人も、重傷人も出ておらぬし…なんて言葉を受けて…あの出鱈目の書類を夜通しでっち上げる事にした。

見逃す事にした俺は、そのまま、いっその事、小豆洗いもテケテケも一緒に、都会の街に引越しする事を提案した。

つまりは俺達と同乗しないか、と。

そんな、簡単に言っていいか疑問のある提案に二人共、簡単に首を縦に降った。

あの田舎町に未練など、とうに無かった様だった。

 

そうして、今に至る。

 

風呂敷の隙間に水筒を差し入れて、窓の外の景色に目を向ける。

 

青い、澄んだ空の半分に、重く、厚い、雲が垂れ下がっていた。

 

雨が降るだろうか、晴れるだろうか…。

 

俺には分からない。先の事なぞ。

 

「……なんとか、なる、か」

 

なんとか、するだけだ。

 

 

ガタン、ゴトン

 

ガタン、ゴトン

 

ガラン、ゴロン

 

 

鉄の車輪の力強い駆動を足元に感じながら、瞼を落とした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。