墓場より   作:ひノし

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第三十二話

「ウギャアアアアア!!!」

たかだか顔面を一発殴られただけで地面にのたうち回る、のっぺらぼう。

 

「安穏か!?水木!?」

枕返しが首の後ろに腕を回して起こしてくれる。

 

「…だ…ず…あった…よ」

 

激痛に歪む口では、感謝の言葉も碌に伝えられない。

 

「ぬぅ!…脚を切られきや……」

「されど…」

「今、治す」

 

「暫し、待て」

 

俺の頭を優しく降ろして…丁寧に手を合わせる枕返し。

……何をする気だろうか?

 

「………………畏、畏…」

 

「スゥ………………」

 

 

 

どぅりゃああああああああ!!!!

 

 

 

パキョォオオオオンンンン!!!!

 

「……ぉ…!」

地面が割れぬのが不思議な程の凄まじき轟音を、叩き鳴らした。

 

ピシ…

 

何処からか…。

音が聴こえる……音の成り掛けが聴こえる。

 

ピシピシピシッ!!!

 

ひび割れる音が…。

 

ギーーーンンン!!!

 

限界を超えた。

 

……………ガァシャアアアアアンンンン!!!!!!

 

割れて、破れる、夢の世界。

 

「……は……は」

 

致命の罅は留まらず。

夢の中を縦横無尽に破り続ける。

修復は不可能。

取り繕いは無用。

 

気色の悪い万華鏡の景色が破れた端から溢れていく。

溢れた端から…俺の夢が満たされていく。

 

家、病室、戦場。

 

母、親子、友。

 

映っては消えて、見つけては隠れる。

 

ピシピシ!!

 

罅は夢見る俺の脚にまで…裂け目を入れた。

 

「ぅぉ………」

……心底、驚いたが…何の反応も出来ず、ただ、どうなるか…見届けるしか出来なかった。

 

ピシピシ!!ピシッ!!

 

そして、裂け目は呆気なく破れた。

 

パリン

 

思ったよりも小さな音を立てて、俺の脚も割れた…。

 

…………ぇぇ…。

 

割れちまったぞ…。

 

恐る恐る…目を開いて脚を見てみれば。

なんと元通りに繋がった脚が。

 

「おっ、おお!治った!!ん?」

声も出る。

全身の脂汗も引いていて、あれ程の熱かった苛烈な痛みも消えて無くなっていた。

 

「……おお?」

 

「全ては悪しき夢なり…」

「ぁ、ああ…成程」

 

「……………はぁぁ」

夢で良かった、と思うなんて…いつ以来だ。

「心から感謝します…枕返し」

 

「む………かたはらいたし…」

お?うん?

「それよりも…ほど稼ぎすれば、とくおどろけ」

???何だって?

「…………むぅ………早く…目を…覚ませ…」

「ん?……このまま脱出、出来るのでは?」

「あながちなり……む!」

 

「ココカラデテイケーーー!!!」

 

呑気に話してる場合では無かった!

体制を立て直したのっぺらぼうが枕返しに襲いかかった!

 

「ぬうりゃぁ!!!」

パゴォンン!!

「あ」

「ギャアアアアアア!!」

枕返しは器用にも、先と全く同じ顔面の真芯を殴り、ぶっ飛ばした。

 

「…………ぅんと……」

地面に二度、三度、四度と跳ね返り、転がっていく奴に目も向けず…何か考え事に更けている、小さな仁王。

「ん…水木さん…」

「はい」

「アレは…自分が…相手…をするから……その間に…なんとか…目覚めて…現実に…戻って…下さい…そして…アレを退治して下さい…」

…お優しい事に…俺にも分かり易い言葉に砕いてくれた。

 

「ゴノォオオオオオ!!!!」

「!こころばめ!!」

ボコ!バコ!グシャアアア!!

「ウキャアアアアア!!!」

 

…のっぺらぼう…の顔面を袋叩きにし続けながら…俺から離れる様に遠くまで行ってしまう。

 

いと、強し。

 

「……こころばめ、と言われてもなぁ」

遠くの一方的な蹂躙が目に入る。

もう、退治出来るんじゃねぇのか…?

 

「早く起きて!」

「!!?うおおぉぉお!?」

鬼太郎!?

……?

…あれ…今、確かに鬼太郎の声が聞こえたんだが…。

夢の中の何処にも姿は無い。

 

「水木ーー!ー!」

 

キーーーーンン

 

ぐわぁ……。

耳鳴りがする程の声量。

気のせいではない。

確かに、俺の耳に届いて響いている。

 

「これ!鬼太郎!余り大きな声を出すな!」

親父の声も。

「…お主が本気の声を出したら、水木の脳が弾け飛ぶぞ!」

「早く止めろぉ!!馬鹿野郎ォ!!!!」

何で少し様子見てんだよ!!??

 

「ごほん」

気を取り直すな。

「水木や!聞こえておるかぁ!!」

「聞こえてるぞぉ。ちんちくりん」

「…何故か無性に腑が煮えくりそうじゃが…気にせず話すぞー!甲斐性なしーー!!」

「聞こえてんじゃねぇのか!!!??」

「枕返しが時間を稼いでる間に、お主は目覚めなくてはならーん!!」

「…分かってんだよ…そりゃあ…」

 

「分かってんだよ、そりゃあ」

「そう思ってるのは重々分かるぞーー!!」

 

「本当に聞こえてねぇのか!!?」

 

「水木、よーく考えよ!目覚めたいのじゃろう!お主は!」

「勿論だ!」

「目覚めるにはどうすれば良い?そうじゃろう?!」

「……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()

 

「焦らすな!!答えを言えー!」

 

()()

()()()()()()()()()()()()…そうじゃろう?」

 

「いつかの地獄巡りの様に…お主は眠って帰るんじゃ!」

「頑張って眠るんじゃ!!」

「無事に帰ってこい!!水木!!」

 

「ふ……頑張って寝るってなんだよ…」

 

ありがとうよ、親父。

 

さて、と、やる事が明確になりゃ…こっちのもんだ。

 

「………ねーんねーんこぉろりぃよぉ〜」

 

鬼太郎の可愛い子守唄が夢に響き始めた。

 

「フフ!ありがとう、鬼太郎」

 

だが…すまん。それは必要ないんだ。

 

地面のひび割れた夢の欠片を見つめる。

少しばかり品定めをして一つ手に取る。

長く鋭利な一欠片は十分な強度があった。

これならば確実な仕事をしてくれるだろう。

 

喉に当てる。

 

一息に力を「待ちな」

 

「……………そういや、お前はなんだったんだろうな」

「お前の夢さ」

「法外な奴の干渉出来ない?」

「法外な奴の干渉出来ねぇ」

「……フ。そんな夢の登場人物が何の用だ?」

「分かってるだろ?それとも…お前の後頭部は不感症なのか?」

「…銃は下手だったよな…」

「ああ。だからこうして当ててりゃ外さねぇ。だろ?」

「これで外したら奇跡だな」

「奇跡の前に恥だ。しかし、残念。奇跡(準備不足)は起きん。丹念に整備して、弾も丁寧に込めた。深呼吸も、もうやった」

「お前らしからぬ繊細さだ」

「繊細にもなる。友達を送るんだから…」

「…………………友達じゃねぇだろ……」

「いいや」

「………俺は……俺は……()()()()()…」

「許すさ。つーか、俺が許したんだろうが…」

「………お前はそう言うだろうな………なんせ、俺の夢だ…しかし、本当の、本物の、本人は……」

「傷つくねぇ。偽物扱いか?」

「…………」

「だが、この心は。この意思は。偽物(おれ)の真実だ。遠慮なく受け取れ」

「……すまん…」

「謝るなよ。()たれる方が」

「………ありがとう」

「…どういたしまして……じゃあな、水木」

 

「久しぶりに会えて嬉しかったぜ」

 

ぱんっ…………

 

…………。

……。

…。

 

 

 

目を開く。

 

 

 

「おはよう」「おはよう」

「おはようじゃないわー!!!」

「ああ、それどころじゃあない。親父さん」

「…何じゃ」

 

「犯人は『のっぺらぼう』だ。そして奴は此処、この病室にいる」

 

「鬼太郎、構えよ」

「はい」

………俺も直ぐに立ち上がり、時計を刀に変化させる。

その重い刃を一瞥してから、俺の顔をまじまじ見る目玉は鬼太郎の頭の上に居る。

「……水木よ、夢で何をされた」

「…何も」

「…ぐぬぬ…………後で絶対に聞くからなァ…」

「そんな事より枕返しさんは?」「そんな事……はぁ……もう少し消耗させてから此方に帰ってくる手筈じゃ……心配するな」

………心配は…あんまり……してないが…。

 

「鬼太郎、解るか?」

「…………ううん。ぼんやり、薄くなってて……」

「だが、此処にいる筈なんだ……」

「うぅむ、儂も患者達しかいない様に…見え…あっ」

「どうした、親父さん」

「患者達だけじゃない」

……何を…あ。

「……まさか、あの、先生が?」

「顔はよう見えんかった…」

「……マジかよ…」

本当にそうなら……良い役者だ。

そして…此方は良い道化だ。

「あの先生をやっつけるの?」

 

「もし、そうならな……」

「…仕方ねぇ……鬼太郎、真似しちゃ駄目だぞ」

 

足音が近づいてきている。

 

「はて?なにを?」

扉の握り手が動く。

「これから、やる事」

 

扉が開く。

 

足を三歩、前へ。

 

医者が部屋に入る。

 

刀を右手だけで持ち、(つか)を掌と指で包み込んで、手首を固定する。

「し、失礼しまぁす」

 

医者の視覚外で、刃を水平に、腕を回して運ぶ。

 

扉が閉まる。

 

静かに、優しく、鋭く冷たい鋼の刃を医者の首筋に当てる。

「………」

 

「わっ!あぁ、すみません…かなり時間が、経ったので…気になってしまい…み、水木さん、何かわかり…???」

「………」

瞬きもせずに医者を見続ける。

 

「うん?……あわわわわわわわ!!!!どどどどどどどど!??」

 

「………」

吃驚動転してジタバタする医者…に当てている刃を微塵も動かさずに、更に押し当てる。

押しても、斬れない。

引かねば…斬れない。

確信が無ければ、斬れない。

 

「えっおっ!な…ぁ…ぅ…ぁぁえ」

段々と言葉が小さく、震えは大きくなっていった。

 

「……」

…反応を観察する。

 

曇った瓶底眼鏡の下から…涙の一筋が落ちた。

「……いたくしないでぇ……」

 

………………………………。

「…………」

「…………いや、絶対違うだろ!!?」

人斬り包丁を慌てて、はたきに変えた。

 

はらり

 

「あひゃ!」

……アンタも(くずぐ)られて笑ってる場合か。

 

「……へ?…あっ、はたき?…あれぇ?……あれぇ?」

「………どうしました?先生?」

「いや、その、今、水木さん。刀を?」

「ははは。そんな物ありませんよ。これは、はたきですし」

「そう?ですよね?……で…でもなんで、はたきを、私に向けてるので?」

「……埃、付いてました…」

「あっそれは…これはご丁寧に、ど、どうも」

 

「ところで、先生?」

「はい?」

「恐縮ですが…眼鏡とマスク外して戴けませんか?」

「むり」

むりって。

「どうしてですか?」

「えっ、あっ、ん、どどどうしても!」

「それならば此方も如何しても、です」

「なんでぇ?!」

「……犯人の妖怪が分かりました」

「そ、それはそれは良かった!」

「先生が、その妖怪であるか、どうか、確かねばなりません」

「わわわわわわわわわわわわわ」

…………何故、刀を向けられている時より…動揺してんだ。

「わたし、ちがうます」

「念の為です」

「………実は…風邪を引いていて…」

嘘。

「…では、眼鏡だけで結構です」

「目からも感染る風邪でして」

嘘………子供でも分かる……。

「…先生ェ」

「げほ!げほ!けほ!」

「先生、子供が見てますよ。下手な演技はお辞めなさい」

「………ひぇぇ………大体、如何して、妖怪かどうか、顔を見て判断するんですかぁ……」

「……顔が無いんですよ。その妖怪」

「……」

「そして、怖がらせたくないのですが……どうやら、この部屋に居るのですよ」

 

 

「誠か?」

 

 

耳に飛び込む澄み切った声。

 

「え?」

なんだ?

 

「それは誠?水木さん」

震えず、堂々とした声。

それは医者の、先生のマスク越しに。

 

「え、ええ」

なん、だ。

急に雰囲気が変わった。

 

「そうか、そうですか」

「では、決着としましょう。今。此処。私達、四人で」

 

四人。

…………はたきを持つ手に力が入る。

 

 

「此処には。起きているのは…三人でしょう?先生?」

 

「惚けずとも…鬼太郎君、その左目の孔の中に居られるではないですか」

 

 

「……………」

「…」

 

「…のっぺらぼう…」

「……」

 

「先生…いや、貴方が、それでは無い事は分かった。十分に」

「だが、それでも。いや、それだからこそ、聞かせて欲しい」

 

「貴方は…お前は何だ」

鬼太郎達の前に立ち塞がり…睨みつける。

 

「そ……」

 

「……そ?」

 

「……そ、そんなに怒らなくとも…いいいのでは?」

 

「そこは演技じゃないのかよ!!??」

威風堂々のまま、ガタガタ震えて臆するな!

「まぁまぁ」

後ろの鬼太郎に尻を叩かれて宥められる。

 

「………その、先生や」

…親父さんが口を開いた。

 

「…まずは初めまして……そして、な…水木は怒ってる訳じゃあ無い。気合いが入り過ぎとるだけじゃよ。だから、其方も落ち着いて話をしてくだされ…」

優しく声を掛ける。

「左目…」

おいおい…。

「………やっぱ、怒っとるな。やっばい。怒っとる」

おい。

「みみみみみずきさま?」

「臆病過ぎるぞ、先生!!?」

 

「ねぇ。おいしゃさん」

鬼太郎が俺の股を潜り抜けて、正体不明の先生の元へ。

俺は止めなかった。

 

「本当に。本気でいやなら」

「名前とか。顔をみせなくてもいいけれど」

「でも。でもさ」

「僕はおいしゃさんの名前をおいしゃさんのままにしたくないし…」

「今度、どこかであっても…顔を知らなきゃ…手もふれないよ…?」

 

……鬼太郎。

 

「ぎだろぉ……」

少し困り顔の幼子は、左目だけ涙を流す。

 

「きたろうくん…」

誠実な言葉に貫かれた医者が唖然と呟いた。

 

「…おいしゃさん?」

「わ、わかった。分かりました」

「外します。直ぐに。はい外しました」

…躊躇は?

 

「…でもぉ…こんな顔……怖いでしょう?」

 

……存外、雑に分厚い眼鏡とマスクを剥ぎ取り、投げ捨てる。

その下…隠されていた顔を見せる為に。

 

 

目。瞳に余白は無く、純然たる黒が開けていて。

しかし、暗さは無く。

吸い込まれそうな闇の中、一杯に星が瞬きキラキラと耀いて持ち主の純粋さを、これ以上無く現していた。

 

そんな夜空そのままの目の下の隈は…不健康なものではなく。

艶やかに、鮮やかに、黒き彩で瞳を縁取っている。

 

彩は途切れずに、長い鼻筋を流れて、ちょん、とした天辺にまで一直線に下りていて。

 

小さく慎ましい鼻は、静かに濡れて、ヒクヒク動いていた。

 

口。薄い唇を黒い彩で、紅の様に引いている。

それ故に真白な()が目を引く。

形の良い牙はそれぞれの姿を写して、力強さを剥き出しにしていた。

 

その顔は。

 

その御顔は人間の持てるものでなく。

……人間だけでは……。

 

暴かれた(かんばせ)は…。

人と(けもの)が、交じっておられた。

 

「可愛い!」

!??お!?

「かわっ?!かわいいの!?これ!?」

言われた本人も動揺を隠せない。

「うん」

「そ、そう。き、鬼太郎くんは不思議な感性を持ってるねぇ…」

「?お父さんと水木も、そう思うでしょ?」

……振ってくれるな。

「…う、うむ。可愛いとは言わんが……まぁ…見目麗しく、見えるぞ」

可愛いを優に超えてるじゃねぇか…親父よ。

「水木は…?」

俺の両脚を掴んで、つぶらな瞳で見上げてくる鬼太郎。

「……………か」

「か?」

「か?」

「か?」

……なんで……期待して待ってるの鬼太郎だけじゃねぇんだ…。

「その、あれだ、格好いいな、うん。実に。カッコいい」

……あながち、出鱈目でもない。

「ほらぁ!」

「え、えへへ、えへへへへへ!」

……割りかし図太いな。この医者。

 

「名前の方は?」

「あっ、『獏』って名前ですよ」

ばく?

ばく。本当に動物なのか?

「何と!其方が!暴飲暴食の化身!果ては夢まで喰う、あの『獏』か!?」

なんか凄い評判が聞こえたぞ。

「…食いしん坊なんだね」

「はは、はずかしながら…」

「?…結局、妖怪なの、か?」

すかさず親父が答える。

「妖怪、とも言えるが…その在り方は完全な自然由来。それ故に獣…幻獣の方が相応しかろうな」

 

「そう、ですね。そっちの方が、嬉しい呼び方です!」

「しかし、その姿は何じゃ?その形は?まるで人間ではないか?」

「上手く出来ました!」

「……変えたのか…」「…気軽だな…」

 

「では!疑いの余地も無くなり!名乗りも終わった処で!」

 

「のっぺらぼう、の調伏、始めましょうや」

 

在り方が切り替わる。表情が引き締まる。

 

獏は扉の前に立ち塞がり…部屋の中を凝視する。

鼻を鳴らして、喉を鳴らし、牙を打ち付け音を鳴らして、挑発する。

もはや、これ迄。

八方、塞がり。袋の鼠。

逃しはしない、と睨みつけている。

 

「…私は…」

視線は動かさぬままに、溢すように語り始めた。

「私は奴を…『のっべらぼう』を止めなくては…」

 

「…友人でもなく、恩人でもなく、ただの知り合い程度の仲でありますが…私は止めねば…」

「私しか止めれません…」

「夢すら喰い貪る漠しか…」

「…何故か狂ってしまった奴を探す為に…こうして夢に囚われた人々を攫って…看病をしながら…手掛かりを追いました」

「しかし、奴は狂っていながら巧妙でした」

「私がどれ程、夢を食べても食べても…完食出来ぬ様に…皿の底が見えぬ様に…自分の姿が見えぬ様に…次々と人々を捕まえては…夢に囚えました」

「…思えば…私が余計な事をしなければ…こんなに多くの人達を巻き込まずにすんだのです…」

「最悪な事に…奴は、私が夢を外側から見て食べれる事は出来ても…夢の中に入れぬ事を十分に理解していました」

「大喰らいのお前でも、この量は食えまい、と言わんばかりに」

「故に、この人数を…」

「…その通りでした。気がつけば…夢は沢山に。皿どころか机の上から溢れ出て床すら埋め尽くさんばかりに…」

「気がつけば…犠牲者も沢山に。部屋を変えて、ベッドを増やして、寝ずの番を続けなくてはならなくなって…」

「…その内に最初の方々から容態が、どんどん悪くなって…夢の捜索をやってる場合じゃあなくなってしまい……貴方達に助けを求めたのです…」

 

「しかし、まさか、此処に、直ぐ傍に居たなんて」

 

「……ぅぅぐぐぐるる」

 

「なのに、なのに!此処にいるのに!何処か分からないなんて!」

「そんなイカサマあると言うのか!!?」

「もう、刻が無いのだ!!」

 

大きな瞳から、コロコロ、と涙の粒が溢れて転がり落ちている。

 

無念極まれり。

 

…。

 

刻々と過ぎ去る時間の中、苦い怒りで脳髄を引き摺り回して、(かんが)える。

 

のっぺらぼう。

夢。

患者。

医者。

病室。

此処の何処かに。

 

………此処にいる。

此処にいる者。

…………ずっといた者。

 

…………一つの閃きが、曖昧な考えが脳に過ぎる。

そして、俺は視線と指を動かして、()()()

 

いち、にぃ、さん…………。

 

確かめる為に。間違えない様に。

 

「どうした、水木」

親父が孔から出て来て、俺の肩に乗ってくる。

「静かに…」

「お、ん」

 

数え終わり、間違ってる事を正しく認識した。

 

しかし、念の為。

「親父…目、良いんだろ?…一緒に数えてくれ」

「…心得た」

何かは言わずとも察してくれた。

 

俺も、もう一度、数え直す。

 

「……終わった…しかと、な…………水木、よう気づいたな」

「これしか無いだけだ」

 

穏やかな寝息を立てる、患者達は()()()()であった。

 

「獏さん」

「…はい、何ですか」

「この部屋以外に患者さんは?」

「いません」

「では、今まで全ての被害者は?」

「この人達で全てですよ」

「……そうですか。では、も一つ」

「先から何を?」

「患者さんは何人でしょうか?」

()()()()()()()()()()()()()()

決まりだな。

「残念ながら違う様に見えます……ほら、数えてごらんなさい」

 

「そ、そんな筈は…………………」

指を震えさせながら、何度も何度も数える獏。

「え、え、えどうして?」

気の毒になるほど狼狽していた。

 

「一人多い……」

「あとは、誰がか…です」

「そんな…毎日、毎日、私は触れていたのですよ…?」

 

「……それなのですが……奴は、夢の中で言ってました…お前達を馬鹿にも出来る、と」

「もしや…唯、貶しているでは無く…奴は俺達の認識をずらす事が出来るのでは?」

 

「此処は現であるのに?」

()()()…というのは…どうでしょう」

「…成程…夢は夢です、か…」

「ええ」

 

「獏さん…喰えますか?」

求める答えは一つだけだが…改めて、問う。

 

「……目と鼻の先にあり。()かも解る」

「なればこそ」

「もう舌の上…」

 

「んぁアガアア……」

『獏』は口を開く。

貌が割れる。口が際限無く広がる。

 

今、正に目の前の誤魔化しに牙を突き立てた。

 

グアシャ!!

 

ギッ

 

ギギギギギ!!

 

機械の様な軋む音を立てながら…限界を超えて開いた口を閉じ始めた。

 

ガチィン!!

 

「いただきました!!御三方!」

 

「「其処だ!!」」

髪のアンテナをピン、と立てた鬼太郎と目を見張る親父が叫ぶ。

二つの小さな指が指し示したベッドの上に…人型の肉塊があった。

鬼太郎は小さな身体を回転させて、ちゃんちゃんこを射出。

 

ギュゥゥンン!!

バチん!!

 

瞬時にしてベッドの上の、のっぺらぼうを確保した。

 

「………」

 

ちゃんちゃんこ、その万力の様な締め上げにも声も漏らさず。

奴は未だ夢の中にいる。

 

「…何だか呆気ないな」

最後の抵抗があると、思っていたのだが…。

「なぁに、タネも仕掛けも暴けばこんなものよ」

「そうかい…しかし、此奴はいつ迄、寝てやがるんだ?」

「フフフ。起きたくとも、起きれんのじゃよ!ハハハハ!枕返しめ!どうやら魂の主導権を握ってくれた様じゃ!」

「……そんな事も出来るのか?」

「おうともよ!事、夢に関しては…文字通り年季が違うわ。ハハハ…」

冷たい笑いを隠さない親父さん。

その笑いには…患者達と獏の代弁が含まれている事は容易に理解できた。

……情の深い方だ。

 

「ガガガギギ……うっゔん!」

顎を叩いて元の位置に直した獏が動き始める。

「では…寝ている間に…『憑き物落とし』をば…」

ずずい、と、のっぺらぼうに近寄る。

 

何やら、聞き慣れぬ言葉だ。

 

「何です…それは?」

「…ん…今の姿で言うと、何ですが………治療です…」

気まずそうに、ぼそぼそ話す漠。

……何だって自信無さげなんだ…。

貴方が思うより似合ってる気がするが。

「…ふむ。狂った、と言っておったな…それを治してやるのか?」

 

「ええ、その通りです。翁。元来、のっぺらぼう…()()のっぺらぼうは、ここ迄、凶暴でないのです…」

「しかし、何故か、狂ってしまった………曖昧模糊な存在である妖怪が狂うなど…狂わせるモノなど…一体、何モノであるのか…」

「…………」

静かな眼差しで、知人の妖怪を見つめている。

 

「獏さん…」

 

「ま、喰っちゃえば解りましょうやいただきます」

バカン!

巨大な口腔を開けて、のっぺらぼうの頭に急接近した。

「おいおいおい!!!」

「待て待て!!」

大慌てで肩を掴んで止めた俺と親父……親父は何も止めれてないが。

 

「とめあいてくあさい!」

食いしん坊の膂力は恐ろしい程に強く、此方が全身全霊で引っ掴まなくてはいけなかった。

「待てって!!喰うって!!頭ごとかよ!?」

「?」

「疑問符を…さも…当然みたいに返すな!」

「アガァアア」

「こら!!待て!!待て!お座り!!」

「ワンワン!」

「犬じゃねぇだろ!!」

言ったのは…此方だが…!

「……クゥン……アガアア」

「グググ…ぐ…理性を投げ捨てるな…幻獣なんだろ、アンタ!」

「グァァァ…」

 

「こんの、野郎……」

そんな悍ましい場面を鬼太郎に見せる訳にいくか!

それに、狂ったのなら…その原因を突き止めなくては…いけない…!

まだ、のっぺらぼうには聞くべき事が山程ある。

 

喰って終わりで…たまるか!

 

「止まれって………クソっ!……ぐくくく…」

「鬼太郎、手ェ貸してくれ!」

情けないが…大人として、どうかと思うが…幼子に助けを求めた。「はぁい!よいしょ!」

 

バシン!ヒュン!

「ガ?」

「お!?」

 

「舌噛まないで、ねっ!!」

 

ドゴシャアンン!!

「ウガァ!!」

 

「おおお!!一本!」

親父の判定。

 

……俺の助けの声に…一瞬の間もなく鬼太郎は正面から獏の頭を掴んで、そのまま獏の背後へ一回転して跳んだ。

哀れ…獏は、その大きな口腔を開いたまま顔面から床に叩き付けられた。

 

「ぐわぁーー」

間の抜けたの声を出しているところをみれば、平気な様子である。

頑丈だ…随分と。

「いはい…」

「大丈夫?」

「き、鬼太郎くぅん。危ないよ…怪我してないよね?」

「……それ、僕が言うんじゃない?」

「……そう?」

「そう。獏さん、空腹でアンポンタンになってるね。でも、あんな妖怪の頭を食べるのはよくないよ。お腹壊すし。のっぺらぼーは死んじゃうよ」

……すらすら、と説得する鬼太郎。

「…えぇとね、鬼太郎くん。二つ、訂正を」

「うん?」

「私は何を食べても腹を壊しません」

「!そりゃあ、良いね」

「それと…頭を食べる気をありませんよー。頭の中を食べるだけ。頭は口に含むだけ、ですよ」

「………ホントに?」

鬼太郎……俺も全く同じ気持ちだ…。

「ホントーホントー嘘じゃないヨーワタシ、嘘吐かないヨー」

「……」

「何でカタコトになってんですか」

「はっ!……なまりました」

「どんな、なまり?」

「こんな、なまり」

「………」

「………」

「……も一回、投げようかな」

「ごめんなさい!!食べない!食べません!頭の中の埃だけ!それだけ!それだけ食べますので!!」

「…本当だね?」

「はい!」

「じゃあ、約束を。指切りしよう」

「ええ、勿論」

どんどん鬼太郎の術中に、ズブズブ嵌まる猛獣。

実に強かである………言うまでもなく鬼太郎が。

 

「「指切り拳万!嘘吐いーたら!」」

仲良く、約束を交わす二人。

………足元には死んだ様に眠る妖怪がいる中で…。

「「針千本呑まーす!」」

「指、」「必ずやるからね」

「きったぁ………きっちゃったぁ……コワイ…」

「やらなきゃいい…だけ」

………まん丸な目は獏を射抜いていた。

 

「で、では、いただきます…」

床に拘束した、のっぺらぼうを寝かせて…獏は正座で貌を割り、頭を下げて、のっぺらぼうの頭を口腔に納めた。

「んぁ…」

 

ぴちゃ、ぺちゃ、はふ、ちゃぷ

 

のっぺり、とした何の凹凸も無い頭を舐める音は、飴玉を食している様であった。

 

…しかし……これで正気に戻ったところで…患者達は回復出来るのだろうか…。

それが一番の気がかりだった。

 

「ぬわぁ!!」

!のっぺらぼうが悲鳴を上げた。

 

ちゅぽん!

 

獏がまん丸な頭を吐き出す。

 

「ななななにすんだぁ!!?」

「……あんまし、美味くは無いですねぇ」

「当たり前ェだ!!」

 

どうやら、無事に治療は終わったらしい。

先までの異形な在り方ではなくなり…俺が、よくミる妖怪達によく似た姿に変化していた。

 

有り体に言えば…丸っこくなっていた。

 

「何で、喰ったんだ!?此処は何処だ!?お前さん達は誰!?何で裸!?いやーーー!!」

 

大混乱である。

 

「親父、これは…」

「…自分が何をしでかしたか…覚えておらんな…」

「……良いんだか、どうだか…」

「まぁ……何であれ、自分のやった事の始末はつけて貰わんとな」

「そうだな」

 

正座のまま苦い顔している獏の前で、どったんバッタンしている『のっぺらぼう』に服代わりにベッドのシーツを渡す。

 

「あっ、ありがと」

「…いえ…そんな事より貴方、自分のした事を覚えていないのですね?」

「…ああ、さっぱりだ」

「…この部屋の人間達は…貴方が…何かに憑かれた貴方が夢に囚えて、魂を痛ぶり、生気を搾り取ったのです…」

「……な、なんだって」

「信じる、か、どうか。そんな事はどうでもよろしい。唯、この患者達を救える、元通りの生活に戻す方法があるならば…早急に行って下さい。その方法が無いならば…また別を考えるだけですので」

余裕の無い頭では、突き放す言い方しか吐き出せなかった。

「どうです……のっぺらぼう」

「んん〜道理で…腹が痛え訳だ。大丈夫だ。大丈夫。()()()。唯、返せば良いだけだぁ……んぱぁ」

のっぺらぼうが目立たぬ小さな口を精一杯開いた。

 

すると。

 

其処から、なにか白い玉の様な、風船の様な、正しく絵に描いたよう様な…人魂か?…兎に角それが、ぼぼぼぼぼぼ、と飛び出して来た。

「んぉ……おおいぁぁ」

吐き出す本人は何と言う事も無く…口しか無い顔の筈だが…呑気な表情であった。

 

「成程、魂喰いどころか…丸呑みしておったか…咀嚼も消化をされておらんのは僥倖じゃったな……はぁ良かった。良かったよ、水木」

「助かるって事か?」

「ああ。ほれ、見てみぃ。患者達の顔を…徐々にふくよかになっていよう」

小さな白い玉で埋め尽くされた部屋の中。

患者達の顔は…親父の言う通り、みるみる間に快方していく。

 

「ふわふわ、ぷかぷか、キレイなシャボン玉!」

鬼太郎が手を挙げて、目を輝かせる。

 

……確かに。

人魂など、ドス黒いと思っていたが…中々に綺麗な姿である。

 

「のっぺらぼうの…憑き物は善行の乗った美味い魂、それもとびっきりのを…選り好みした様じゃな……ますます、気に食わんのぅ」

 

……………ならば…俺のは喰えた物じゃない筈だな。

…あの野郎に一口食べさせて、悶絶する所を見てやりゃあ良かった。

 

「ぼぼぼぼ…おおいぃ……ああ、あごいたいなぁ……ぼぼぼ」

「うげぇ。不っ味いなぁ…これぇ」

部屋の真ん中で二人の妖怪がぼやく。

 

「捕まえて、食べて、吐いて、又、吐いて………これで…解決なのかしら?」

「格好はつかないけどな」

 

人魂が帰るのに、時間はかからなかった。

 

スゥーーーー

カァーー

グォーー

ムニャん

クーー

フゥフゥ

 

患者達は穏やかな、本当に穏やかな寝息を立てて眠りを享受している。

 

「いちち…つったかな……」

頬を摩っている、のっぺらぼう。

「ううう。あれぇ?あれ?いてててて…まさか…これが腹痛?………私がぁ?いててて」

腹を摩っている、獏。

 

経緯は一先ず…遥か彼方に置いて…患者達に快適な眠りを送ってくれた二人は痛みに悶絶している。

 

「お疲れ様でした。お二人…しかし、申し訳ないが、まだやる事が残ってますよ」

「左様」

隣には、いつの間にか枕返しの姿が。

「あっ。枕返しさん。お疲れ様でした。それと、もう一度、感謝を。ありがとうございました」

「な案じそ」

「儂からも。ありがとなぁ」

「お帰りぃ。枕返し」

背丈が同じ枕返しに抱擁する鬼太郎。

「おっ…ん…どう…いたしまして」

 

「……何ですか?やる事って?」

腹をさすり続ける獏が寝転がったまま言う。

「…獏さんは、この後に患者達を元の場所に返さないといけないでしょう?」

「あ……ここ…この人数を一人で……??」

青い顔を、ぶるり、と震わせている。

……そんな顔されちゃあ、なぁ。

「……少しは手伝いますよ…知り合いの妖怪達も呼んでみますから…」

「やったね!」

「……やったねって、アンタ…」

……ま…いいや。

 

「もう一つ。お二人には聞かねばならない事があります」

「……おらの憑き物か?」

「はい」

 

「のっぺらぼうさん。心当たりはありますか?」

「さっぱりだァ………家で天麩羅食ってる処から、記憶が飛んでるなぁ…」

「そう、ですか…」

「あっ、待ちねぃ……そうだ…そうだ。その記憶が飛ぶ瞬間に感じたんだよ!確かに」

「…何を?」

 

()()だ!誰かに……いや、誰かと目が合ったんだ!!」

 

「ほぅ……目がのぅ」

目玉親父が声を呟いた。

「んだども…それだけ。それだけしか憶えてねぇなぁ……皆んなには悪い事したなぁ……」

顔が無いが…泣きそうな表情だ。

「……そう落ち込まず…その話なら、目の合った相手が本当の犯人ですので…貴方は悪くありませんよ…」

「…そう、言ってくれるか……」

「慰めにもならないでしょうが…」

「……いんや、ありがとよ」

 

「……獏さん。憑き物が何か分かりましたか?」

「…すみません……憑き物はそれなりに喰ってきましたが…あんな物は永い生で一度も口にした事、無く。それ故、正体は…」

「……味は…参考になるのでしょうか?」

「味ですか…そう、ですね。もしかしたら…」

「どんな味か、言って貰えますか?」

 

「苦く。辛く。泥の様な。土の様な。砂の様な。灰の様な。或いは糞の様な。二度と起きてはならない。二度と味わってはならない。何もかも壊さなくては。何もかも犯さなくては。何もかも溶かさなくては」

連続する文言が獏の口から流れ出して止まらなくなった。

 

「鬼太郎。腹に電撃じゃ」

「はい。パチっとするよぉ!」

豪快な親子は躊躇が無かった。

 

バヂィイィンン!!!

 

「オグハ!!!」

口から言葉の代わりに黒煙を吹き出した、獏。

「あやや……」

怯えてどん引く、のっぺらぼう。

「見事」

枕返しは感嘆の声を漏らす。

 

「な」

そして、反応の遅れた俺は。

「ななな何やってんだァ!!??」

肩の目玉を掴んだ。

 

「ぐえ」

「お前は!何を!息子に!指示してんだ!?」

「?体内電気を?」

「だっ!なっ!あ!……はぁ……死にはしねぇんだよな?!」

「馬鹿を言うな!儂、自慢の倅がそんなヘマするか!」

「何に怒ってんだ!」

 

親父を掴んだまま、鬼太郎と獏の傍へ。

 

「鬼太郎……大丈夫か?」「何が?」

「いや、何がって…電気流すなんて、痛いだろう?」

「全然」

「…あ、そう…そうなの」

「獏、大丈夫かな?」

「…」

工場の煙突みたいに黒煙を吐き出し続けている。

「……獏さん……死にましたか?」

「………………………………………ブハァ!!」

良かった。生きてた。

「…フゥ!スッキリ!ありがとう、鬼太郎くん!電気のお陰で消化出来たよー!」

どんな身体だ。

「どんな身体だ」

いけねぇ、口に出ちまった。

 

「いやぁ、ご心配させて申し訳ありませんねー!」

晴れやかな顔になった獏は他人事の様に言う。

 

「いや……元気になったら、それで良いです…」

「ハハハハ!!」

「スッキリしたところで、獏さん、先の続きを…」

「あっそうですねー……実は一つだけ、ほんの少ーし、似ている味の物がありましたよ!今さっき、思い出しました!!」

「…それは?」

 

「火薬です!」

 

 

 

その後。

一反木綿。塗り壁。烏達を呼び出して、皆んなで協力して患者達を元の場所に戻した。

「また、埋め合わせするよぉ!必ず!」

「ありがとう!水木さん!ありがとう!!目玉!鬼太郎くん!何かあったらいつでもお気軽に呼んでねー!」

「お主は軽いのぅ!バク!!」

「肩の荷が下りたのでー!」

 

「じゃあねー!二人ともー!」

「お気をつけてー!」

 

『獏』と『のっぺらぼう』は、そう言い残して何処かに帰っていった。

 

俺と親子は暗く、空になった病室に、ぽつん、と残った。

 

この後、買い物をしたい為に歩いて帰る事にしたのだ。

 

「じゃあ、行くか」

「おぅ…そういや酒が残り少なかったぞぉ!」

「はいはい…鬼太郎は何か欲しい物は?」

「きゅうり!」

きゅうり。

「そうか。買ってこうな」

「うん!」

 

話しながら、用の無くなった病室から出る。

 

「おわ!!」

 

病室の扉を開けば、そこに白衣のご老人がいた。

 

「あっ!貴方が探偵さんですか!?それで!?この部屋の幽霊はどうなりましたか!?」

「……幽霊?」

「依頼した、ここにいる医者の幽霊ですよ!!」

「……あぁっと…」

……獏はこの依頼に便乗したのか…。

「うゔん、いや失礼。ご安心を」

「退治出来ましたか!」

「いや、帰りました」

「うん?」

 

「もう、此処には戻ってこないですよ。先生」

医者の獏は。




ご拝読ありがとうございました。
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