三つの幽霊族の遺産を机の上に置き繁々と見つめる。
一つ目は、黄色と黒の縞々の布。
表面が艶々と光っている。何か動物の毛を使っているのだろうか。
先程、地獄で風呂敷として使って触ったが、指一つ引っ掛からず、なんとも言えない滑らかさだった。
二つ目は、下駄だ。
赤い鼻緒で、歯は2つ。木板は古めかしいが、ざらついておらず、きめ細やかで、よく手入れしてあるみたいだ。
三つ目は、笛…と言うより……これは…オカリナか。
白く煌めいていて、凄く綺麗だ。これは何の石だろうか。水晶の様に見えるが……。
う〜ん、三つとも良い品だと思うが、見て分かる特異性はない。
しかし、あの幽霊族の遺産とまで言う品物。
きっと何かとんでも無い機能があるに違いない。
…………三種の神器みたいな…。
久しぶりに自分の子供心が跳ね上がるのを感じる。
「ふわぁ〜あ」
起きたな。
胸ポケットから、欠伸をしながら這い出て、俺のシャツを滑り台のようにして親父さんが机の上に降り立った。
器用なものだ。
「おはようございます」
本日二度目になる挨拶。
「おはよう。水木さん」
挨拶を返して、親父さんは直ぐに遺産を見る。
「無事持ってこれたのぅ……いや〜久しぶりの再会じゃ」
フワリ、と三つの品物が浮いて親父さんの近くに寄って来た。
三つとも親父さんにくっついて揺れている。
まるで、飼い犬みたいだった。
…しかし、もう親父さんより品物達が数倍大きかった。
「ぐえぇ〜!」
おうおう!潰れちまう!!
慌てて親父さんを摘んで助ける。
「はぁはぁ…助かった、ありがとう」
品物達から猛烈な殺気を感じる。
お礼を言う親父さんを盾にした。
「親父さん!それより事情を説明してあげて下さい!凄い殺気が飛んできてます!」
布は毛を立てて、ウニみたいになってる。
下駄は俺の顔面に照準を合わせいる。
……笛は刀になって、こっちに剣先を向けていた。
誰だ犬なんて言ったのは!ありゃあ、猛獣だ!
主人を手離したら俺を確実に仕留める気だ。
「これっ!やめんかっ!この人は儂の命の恩人だ!」
親父さんが叱る。
すると、しなしなと元の形に戻る布と下駄。
…………おい。笛。
引き攣った目を向けると、渋々といった感じで元の形に戻った。
想像以上の品物達だった。
「ふぅ、ありがとうございます」
額の冷や汗を拭う。
「いや〜すまんのぅ!いつもは良い子達なんじゃが」
「…親父さんを護ろうとしたんでしょう。良い子達ですよ」
ゴトゴト揺れる品物達、照れてるようだ。
「それで、この子達はどういったモノなんでしょう?」
「うむ。この子達は我々幽霊族、秘蔵の宝物達じゃ。それぞれ、この世でも随一の神秘が込められておる」
親父さんの説明が始まる。
「一つ目は…」
布が飛んできた。
「霊毛ちゃんちゃんこじゃ。幽霊族は、一生に一本だけ特別高い力を持つ、毛、霊毛を遺す。その一本一本を編んで生み出されたのが、このちゃんちゃんこじゃ。つまり…この毛の数だけ……幽霊族がいた証になっておる……儂と岩子の毛は編み込む事が出来んかったが…」
ちゃんちゃんこが親父さんをさする。慰めているようだ。
「おぉ…ありがとよ……このちゃんちゃんこは、破れず、燃えず、着ている者をどんな環境、状況から守り通すのじゃ」
「二つ目は…」
下駄が、カランコロン、と前に出てくる。
「リモコン下駄じゃ。この下駄は、考えるだけで動かす事ができる。しかも、先の様に自分で考えて、持ち主を守ってくれるのじゃ。宙を軽々しく飛び回る事も出来る。壊れず、割れず、どんな障害も打ち壊せるのじゃ」
「ちなみに、ちゃんちゃんこと下駄は、持ち主の体に合わせて大きさも変えれるんじゃ。そして、最後の三つ目は…」
ヒューーーーゥゥーーー!!
笛が美しい音色を高らかに鳴らす。
「おぅあ」
「うぉっ!吃驚したぁ!」
鬼太郎が机の下から這い出てきた。
「おうおう」
小さな手でペシペシ俺を叩く。
抱っこして欲しいのか。
「はいよ」
優しく胸の前に抱く。
「うぃ」
満足そうな顔をしている。分かりやすい子だ。
「おっ!鬼太郎〜!おはよう〜」
親父さんは今日もデレデレだ。
「お〜」
………生後一日で会話が成立している。
……まぁ親子だしな。深く考えないようにした。
………宝物達が興味深々に鬼太郎を見つめている気がする。
「さて、気を取り直して、三つ目は妖怪オカリナじゃ。この笛を鳴らすと、たとえ遠く離れていても会いたい者を呼び出す事が出来る。そして、ずば抜けて変幻自在で、どんな物にも変形出来るのじゃ…三つとも、何千年も前からずっと代々受け継がれてきたものじゃ」
「すると、今の持ち主は…」
「そうとも。鬼太郎じゃ」
親父さんが宝物達に向き直る。
「皆の衆!次代の主人は今、水木さんに抱えられてる、あの子じゃ!名は鬼太郎。儂と岩子のたった一人の愛息子じゃ!宜しく頼む!」
親父さんが、ぴょこり、と頭を下げる。
すると三種の宝物達は、フワリ、と浮き鬼太郎に近づいてくる。
「おあー」
鬼太郎が宝物達に手を伸ばす。
「水木さん。鬼太郎をちゃんちゃんこに預けておくれ」
布が広がって目の前で揺れている。
「では…」
大布に鬼太郎を乗せる。
すると、どうだろう!
ぐるぐると鬼太郎に巻きついたと思ったら、身体にピッタリのちゃんちゃんこになった。
ちゃんちゃんこの力か、鬼太郎は空中でくるくる回っている。
「おー」
楽しそうだな。
次に下駄が鬼太郎の足へ小さくなりながら、スッポリ、と嵌った。
そして、オカリナが赤いリボンになって、ちゃんちゃんこを結んだ。
…すげぇ似合ってるなぁ。在るべき所に収まった様だ。
鬼太郎が空中でバタバタ手足を動かして、俺の腕に戻ってきた。
「かっこよくなったなぁ鬼太郎」
「かぁこ。かぉこ」
気に入ったようだ。
「これからは、宝物達も鬼太郎を守ってくれるのじゃ」
「怪我一つしなさそうですね」
「ええ………これなら、水木さんも安心して仕事に行けるじゃろう?」
「あっ!!あぁ〜そうでしたねぇ…」
うっかりしていた。
今日が偶々休日なだけで、俺が出掛けたら鬼太郎一人になってしまうではないか。
親父さんがいるとはいえ、この体では中々大変な事であろう。
……しかし、この宝物達がいれば何が起こっても大丈夫そうだ。
非常にありがたい。
できる事なら傍に居たいが……何をするにしても、お金は必要だからな……。
「いや〜そうですね……正直言って助かります。なるべく、やれる事はやってから出社しますからね」
「いやいやいや。全然お気になさらず!留守はお任せ下さい」
鬼太郎に引っ付いた宝物達も、ザワザワ、と揺れる。
心強い。
これなら、誰かに預ける事などしなくて良さそうだ。
「ぷぅひゅう」
腕の中の鬼太郎が、ちゃんちゃんこを、おしゃぶり代わりにしていた。
ご拝読ありがとうございました。