墓場より   作:ひノし

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第五話

三つの幽霊族の遺産を机の上に置き繁々と見つめる。

 

一つ目は、黄色と黒の縞々の布。

表面が艶々と光っている。何か動物の毛を使っているのだろうか。

先程、地獄で風呂敷として使って触ったが、指一つ引っ掛からず、なんとも言えない滑らかさだった。

 

二つ目は、下駄だ。

赤い鼻緒で、歯は2つ。木板は古めかしいが、ざらついておらず、きめ細やかで、よく手入れしてあるみたいだ。

 

三つ目は、笛…と言うより……これは…オカリナか。

白く煌めいていて、凄く綺麗だ。これは何の石だろうか。水晶の様に見えるが……。

 

う〜ん、三つとも良い品だと思うが、見て分かる特異性はない。

しかし、あの幽霊族の遺産とまで言う品物。

きっと何かとんでも無い機能があるに違いない。

…………三種の神器みたいな…。

久しぶりに自分の子供心が跳ね上がるのを感じる。

 

「ふわぁ〜あ」

起きたな。

胸ポケットから、欠伸をしながら這い出て、俺のシャツを滑り台のようにして親父さんが机の上に降り立った。

器用なものだ。

「おはようございます」

本日二度目になる挨拶。

「おはよう。水木さん」

挨拶を返して、親父さんは直ぐに遺産を見る。

「無事持ってこれたのぅ……いや〜久しぶりの再会じゃ」

フワリ、と三つの品物が浮いて親父さんの近くに寄って来た。

三つとも親父さんにくっついて揺れている。

まるで、飼い犬みたいだった。

…しかし、もう親父さんより品物達が数倍大きかった。

「ぐえぇ〜!」

おうおう!潰れちまう!!

慌てて親父さんを摘んで助ける。

「はぁはぁ…助かった、ありがとう」

品物達から猛烈な殺気を感じる。

お礼を言う親父さんを盾にした。

「親父さん!それより事情を説明してあげて下さい!凄い殺気が飛んできてます!」

布は毛を立てて、ウニみたいになってる。

下駄は俺の顔面に照準を合わせいる。

……笛は刀になって、こっちに剣先を向けていた。

誰だ犬なんて言ったのは!ありゃあ、猛獣だ!

主人を手離したら俺を確実に仕留める気だ。

「これっ!やめんかっ!この人は儂の命の恩人だ!」

親父さんが叱る。

すると、しなしなと元の形に戻る布と下駄。

…………おい。笛。

引き攣った目を向けると、渋々といった感じで元の形に戻った。

 

想像以上の品物達だった。

 

「ふぅ、ありがとうございます」

額の冷や汗を拭う。

「いや〜すまんのぅ!いつもは良い子達なんじゃが」

「…親父さんを護ろうとしたんでしょう。良い子達ですよ」

ゴトゴト揺れる品物達、照れてるようだ。

「それで、この子達はどういったモノなんでしょう?」

「うむ。この子達は我々幽霊族、秘蔵の宝物達じゃ。それぞれ、この世でも随一の神秘が込められておる」

親父さんの説明が始まる。

「一つ目は…」

布が飛んできた。

「霊毛ちゃんちゃんこじゃ。幽霊族は、一生に一本だけ特別高い力を持つ、毛、霊毛を遺す。その一本一本を編んで生み出されたのが、このちゃんちゃんこじゃ。つまり…この毛の数だけ……幽霊族がいた証になっておる……儂と岩子の毛は編み込む事が出来んかったが…」

ちゃんちゃんこが親父さんをさする。慰めているようだ。

「おぉ…ありがとよ……このちゃんちゃんこは、破れず、燃えず、着ている者をどんな環境、状況から守り通すのじゃ」

 

「二つ目は…」

下駄が、カランコロン、と前に出てくる。

「リモコン下駄じゃ。この下駄は、考えるだけで動かす事ができる。しかも、先の様に自分で考えて、持ち主を守ってくれるのじゃ。宙を軽々しく飛び回る事も出来る。壊れず、割れず、どんな障害も打ち壊せるのじゃ」

 

「ちなみに、ちゃんちゃんこと下駄は、持ち主の体に合わせて大きさも変えれるんじゃ。そして、最後の三つ目は…」

 

ヒューーーーゥゥーーー!!

 

笛が美しい音色を高らかに鳴らす。

 

「おぅあ」

「うぉっ!吃驚したぁ!」

鬼太郎が机の下から這い出てきた。

「おうおう」

小さな手でペシペシ俺を叩く。

抱っこして欲しいのか。

「はいよ」

優しく胸の前に抱く。

「うぃ」

満足そうな顔をしている。分かりやすい子だ。

「おっ!鬼太郎〜!おはよう〜」

親父さんは今日もデレデレだ。

「お〜」

………生後一日で会話が成立している。

……まぁ親子だしな。深く考えないようにした。

………宝物達が興味深々に鬼太郎を見つめている気がする。

 

「さて、気を取り直して、三つ目は妖怪オカリナじゃ。この笛を鳴らすと、たとえ遠く離れていても会いたい者を呼び出す事が出来る。そして、ずば抜けて変幻自在で、どんな物にも変形出来るのじゃ…三つとも、何千年も前からずっと代々受け継がれてきたものじゃ」

「すると、今の持ち主は…」

「そうとも。鬼太郎じゃ」

親父さんが宝物達に向き直る。

「皆の衆!次代の主人は今、水木さんに抱えられてる、あの子じゃ!名は鬼太郎。儂と岩子のたった一人の愛息子じゃ!宜しく頼む!」

親父さんが、ぴょこり、と頭を下げる。

すると三種の宝物達は、フワリ、と浮き鬼太郎に近づいてくる。

「おあー」

鬼太郎が宝物達に手を伸ばす。

「水木さん。鬼太郎をちゃんちゃんこに預けておくれ」

布が広がって目の前で揺れている。

「では…」

大布に鬼太郎を乗せる。

すると、どうだろう!

ぐるぐると鬼太郎に巻きついたと思ったら、身体にピッタリのちゃんちゃんこになった。

ちゃんちゃんこの力か、鬼太郎は空中でくるくる回っている。

「おー」

楽しそうだな。

次に下駄が鬼太郎の足へ小さくなりながら、スッポリ、と嵌った。

そして、オカリナが赤いリボンになって、ちゃんちゃんこを結んだ。

…すげぇ似合ってるなぁ。在るべき所に収まった様だ。

鬼太郎が空中でバタバタ手足を動かして、俺の腕に戻ってきた。

「かっこよくなったなぁ鬼太郎」

「かぁこ。かぉこ」

気に入ったようだ。

「これからは、宝物達も鬼太郎を守ってくれるのじゃ」

「怪我一つしなさそうですね」

「ええ………これなら、水木さんも安心して仕事に行けるじゃろう?」

「あっ!!あぁ〜そうでしたねぇ…」

 

うっかりしていた。

今日が偶々休日なだけで、俺が出掛けたら鬼太郎一人になってしまうではないか。

親父さんがいるとはいえ、この体では中々大変な事であろう。

……しかし、この宝物達がいれば何が起こっても大丈夫そうだ。

非常にありがたい。

できる事なら傍に居たいが……何をするにしても、お金は必要だからな……。

「いや〜そうですね……正直言って助かります。なるべく、やれる事はやってから出社しますからね」

「いやいやいや。全然お気になさらず!留守はお任せ下さい」

鬼太郎に引っ付いた宝物達も、ザワザワ、と揺れる。

心強い。

これなら、誰かに預ける事などしなくて良さそうだ。

 

「ぷぅひゅう」

腕の中の鬼太郎が、ちゃんちゃんこを、おしゃぶり代わりにしていた。




ご拝読ありがとうございました。
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