「そして、あの
鼠は嗄れた声で、簡単に、ある家の破滅を告げた。
………まさか。
まさか、そんな……
「えぇ。えぇ。わかるでしょう?
あの娘以外、みいんな連れて行かれましたよ。
あっちに。
見るも無惨にね。
………………………………。
………………………………。
…………ああ。
……………………………………………わかるとも。
いくら、死というものが絶対であっても。
人間、そうは死なない。死ねない。
そして、あっけなく死ぬる。
一発の弾丸。一寸の傷。一畳の火。一尺の水。
一欠片の硝子。一本の柱。一斗の石。
一度の間違いから。
先祖代々の呪詛なんてなくとも。
一回。一度。一瞬。
それで事足りる。
この数十年、この世界は、たった一人の。
一人。一人。一人。一人。一人。一人。一人。一人。
一人。一人。一人。一人。一人。一人。一人。一人。
一人。一人。一人。一人。一人。一人。一人。一人。
数えるなんて簡単だ。
数字なんて無情だ。
この世の始まりから終わりまで…他でもない誰かが。
毎朝。毎昼。毎晩。毎日。
去ってしまう様な日々は振り向くだけで其処にある。
………全くもって、親父の言う通りだ。
今の時代に誰が…妖怪なんて優しいモノを怖がるか。
何度だって言える。
あんなものに比べて、他に何が恐ろしいか。
「………………わたしゃ、鼠。
ただの。ほんの少し怪しく、大きいだけの。
ただの。鼠。
どれだけの思いがあろうが、なかろうが。
わたしゃには、四本の足しか無い。
あんな小さな娘しか護れなかった。
純粋な鼠であっても、護れた、赤ちゃんしか。
………そんな事も理解出来ていなかった…わたしゃ。
そんなわたしゃは、やはり、ただのねずみ以下の畜生だったのでしょうや」
そんな訳がない。
そんな話で、あってはならない。
「慰めなんて要りません。
赦しなんて要りません。
わたしゃ、わたしゃ、唯、目の前のあの子が。
あの子が、満足の出来る死を迎えれば、それでいい」
「心配は、心配なんか、何の役にも立ちゃしません。
そんな暇があれば。
わたしゃは唯、唯、あの娘を愛していたいので」
「………さて、さて。
話が少し逸れました。
さて、水木さん。水木探偵さん。
ここからが本題です」
…。
「暴風は、この家の者を何人も連れていっちまいましたが…。
それと同時に…風が吹いていた時期に奴等は…一匹もこの家にゃ、来ませんでした。
しかし、風が去れば…再び、ポツポツ、歩いて来ました。
人間に扮して子育ての真似事をしていた…わたしゃは片手間で奴等を片付けていました。
だけど、だけどですね。
水木さん…おかしいのです。
とても、おかしいのです」
「もう十数年は三味線を、作っちゃいません。
いや……もう作れやしない」
「水木さん。
この家の人達はね、奴等からすれば悪鬼でしょうや。
悪魔にミえたでしょう。
それでもね。
ヒト達は、勝手とは言え…真摯な供養を獣達に、
捧げていた故に」
!……では、ならば…奴等は…。
「えぇ、そうですよ。当然の事ですよ。
獣に人間の摂理は通りゃしません。
だけど……誰が…獣に人間と同じ摂理を持っちゃいない、なんて…言えるでしょうか。
この数百年、この家を襲い続けた奴等は……。
「散々、丸齧りにした…わたしゃが言う事じゃありませんがね。
みぃんな、
「故に。だからこそ。
おかしいのです。奇妙なのです。
この数年、我が家を襲う奴等は…何の因縁の無い、
「寝子をおぶりながら…わたしゃは、下手な化かしを使って…身に覚えのなき恨みが何処から湧いて出てくるのかを…その答えを…
…年端のいかぬ子供と一緒の婆には、色んな人間が快く協力してくれました。
寺や、神社や、図書館や、役所やら。
時には、いかがわしい専門家達にすら話をしました。
……あぁ…一人だけ、一人だけ本物もおりましたね」
………本物、なんて…存在したのか。
「事態の解明を求めたと言うのに…言葉遊びなんかして、訳の分からない代物をくれただけでしたが…」
「この部屋の
役には立っておりますが……」
「………四方八方に奔走し、聴き、読み、見て。
それでも、他人に攻撃されなければならない理由が、
わたしゃには、掴めませんでした」
「寝子はどんどん大きくなる一方で、
奴等はどんどん増えて。
わたしゃは、ほとほと困り果てていた、ある日」
「冬の朝に寝子と一緒に、寝子の好物の南瓜でも買おうと、思い…えっちらほっちら、ぎしぎしと鳴る雪を踏んで、はるか遠くの八百屋に向かいました。
……念の為ですよ。
近場の人間にわたしゃの顔を見られたくなかったのでね…」
“やおやさん、これくださいな”
“おお、お嬢さん。いい目をしているね。そいつぁ、きっと美味しい奴だよ”
“そう!うれしいな!”
“それ以外にも欲しいの、あるかい?”
“いいえ、これだけでいいの!ねこ、かぼちゃが大好きなの!”
“ねこ?猫が南瓜好きとは舌が肥えているねぇ!”
“あはは!猫じゃないの!わたしがすきなの”
“おや!お嬢さん、ねこって名前なのかい…”
“そうよ。かわいいなまえでしょう?”
“そうだねぇ。いい名前だねぇ”
“じゃあ、
「その人間に噛みつかなかった…わたしゃの…人間じみた忍耐には、今でも、自分でも驚きますよ」
“……どういう事だぃ?”
“おばぁさん、知らないのかい?”
“………ふぅむ…知らんねぇ…なんぞあったのかい?”
「眼が真っ黒になるまでの、害意を飲み込んで。
わたしゃ、その人間に話しかけました」
「人間は寝子に聞こえぬ様に…。
わたしゃに小声で聴かせました」
“あの三味線屋はねぇ…噂によると…とんでもねぇ処なんだ。
三味線に、皮が必要なのは知っているだろ?
でもね、彼処はそれに飽き足らず。
可哀想な事に…頭まで玩具にして売りつけているんだってよ。
誰かが聴いた話には…親と子の継ぎ接ぎの…人形まであるとか。
何十の尻尾で作った縄まであるとか。
いやぁ、恐ろしいねぇ…本当に彼処は恐ろしい場所だよ。
そんな事していたら。
「私は、目の前が真っ暗になりました」
「そんな事。そんな残酷な事。そんな罰当たりな事。
数百年遡ったって…この家の一族、誰一人も、犯しちゃいません。
それを、わたしゃ知っています。
ここ数十年の隣人達も、知っています。
三味線を求めに来ていた客達も、知っています。
知らぬは他人ばかり。
知らぬは他猫ばかり。
寝子は、寝子は。
家業を。そして表裏一体の畏怖を、受け継ぐ事の出来なかった…あの娘は。
善にも悪にも依らない、馬鹿馬鹿しいにも程がある、
こんな時代になっても、
………俺は……バカな俺は……また、自らの愚かさの詰まった…傷んだ脳髄を投げ捨てたくなった。
「………さて、さて、本題も本題。
『人面犬』その者は、今夜、此処に。
あの娘を狙いに。
三味線を形作るのは、猫ばかりでもありません。
犬も、また。
…………初めて、奴等に成って来ますが。
………………犬に、犬にすら。
この家は、恨まれてしまった様です」
「水木さん。
どうか、お助けを。
わたしゃ、わたしゃには。
わたしゃは旧鼠。
猫を噛み砕けても。
犬には勝てません。
どうか、どうか、あの子を。
寝子を助けてください」
お婆様は声も身体も震わせながら、俺なんかに頭を下げた。
「勿論です」
言いたい事。謝りたい事。言うべき事。
今は、違う。
目の前の一生懸命に生きる祖母と孫の為にこそ、
時間を使うべきだろう。
長い時間、お話をしてくれたお婆様は再び眠りについた。
誰かが創った屏風が、真っ白なままである事を確認した後、俺達は居間へと戻った。
「…………親父、犬を食う妖怪はいないのか?」
「元気が良いのう……結構な事じゃが…まぁ、鬼太郎一人で十分じゃよ」
「あ、そぉ?」
「鬼太郎…倅や。儂の目は誤魔化せんぞぉ。元気が良いのは水木だけじゃあ無い事を」
……………触れるべきか、迷ったが。
鬼太郎が羽織っている、ちゃんちゃんこは、先から仄かに蒼い光を発していたし、
鬼太郎の髪の毛は、ふわり、ふわり、と膨らんでいた。
…………玄関で脱いだ筈の下駄も今は天井に、潜んでいる。
即時、戦闘態勢。
「………」
黙って腕時計を愛用の銃にして、肩に担ぐ。
「早い、早いわ。日も暮れとらんぞ、お主等!!」
顔を真っ赤にした寝子さんが、ぜぇぜぇ言って氷を抱えて帰ってきたので、俺と鬼太郎は瞬時に介抱した。
日は暮れ、昼の暑さは消え去って…代わりに肌が立つ寒さが隙間風になって、ねこやの中に入って来た…。
「鬼太郎君、今夜は一緒に私の部屋にいた方がいいんじゃないの?」
寝子さん手製の晩飯をすっかり戴いた俺達は…なんだか切れかかっている電球の様に、ちかちか、と人間の姿が重なってミえる旧鼠さん、ご機嫌な寝子さんと食後のお茶をしていた。
お茶菓子を一口一口堪能していた鬼太郎は、
そんな寝子さんの提案に、思い切り咽せた。
「大丈夫?」
「………………な、なんで?」
「?だって、放浪している犬がくるのでしょう?
危ないよ?」
………それもそうか。
普通の視点から見れば、鬼太郎の姿は…たとえどれだけ背伸びをしたって…五才以上には見えないだろう。
「だ、大丈夫、大丈夫です」
「大丈夫…な訳ないでしょ」
「え」
「わんちゃんだって可愛いだけじゃないのよ?
腹の虫が悪かったら、吠える、噛み付いたりするよ。
痛いのは嫌でしょ」
「え、あ、そうかなぁ」
「そうなの!」
………鬼太郎が救援を要請する目で、俺を見ている。
……うぅむ。
どう助けようか…?
………いやいや…それ以前に…だ。
事が起きた時に、鬼太郎が居なければ此方が不利になってしまう。
「えぇと、ね?寝子さん」
「なんですか?」
「その、だね。鬼太郎は…こういう事が慣れていて」
寝子さんは俺の言葉を遮った。
「
「…………」
般若……みたいな顔になりかかっていた寝子さんに、これ以上の反論は不可能であった。
「鬼太郎、もうこんな時間だ。寝子さんの部屋にお邪魔させていただきなさい」
「水木ぃ…!?」
「さ、歯磨きして、早く寝ましょうねぇ」
「ねこさん…ちょ、ちょっと…!?」
鬼太郎は寝子さんに引き摺られていった。
「………すまん、鬼太郎」
臆病者の俺を許してくれ。お詫びはするから。
「………まぁ……その…あれじゃ。鬼太郎も年の近い友人との交流も必要じゃろうて…」
入れ替わりで鬼太郎の眼孔から脱出したらしい目玉の親父が歩いて来た。
「ひっひっひっ……あの娘も楽しそうで嬉しいよぉ、わたしゃ。
いいんじゃないか……奴が来たならば、鬼太郎坊やも飛んで来るでしょうや」
旧鼠さんの、この言葉を最後に俺達は示し合わせた様に沈黙した。
時を、待った。
丑三時。
横になっていた親父が立ち上がり。
旧鼠さんが本来の姿に戻り。
鬼太郎が夜の闇から手を伸ばして、俺の肩を叩いた。
奴が来た、なんて、言うも野暮だろう。
声も出さずに、怪しい三人は手振りで意思疎通を行った。
旧鼠さんは、孫の寝室へ。
親父は、倅の片目に成り変わり。
鬼太郎は、俺の前へと進み出た。
鬼太郎は一瞬だけ、じと、とした視線を俺に投げた。
無茶はしないでよ。もう二度と。
ってな具合だろう。
はいよ。
両手を挙げて、理解を示す。
微笑んで頷いた鬼太郎は、全身に青い稲妻を漲らせて、ねこやの、中庭の方向へと風の様な速度で走り出して行った。
町中での発砲音が別の問題になる事を危惧し…手の中の笛を三十年式銃剣に変化させて、俺は後を追った。
ねこやの、その屋敷の中にある庭は、本来飾って然るべき庭木や庭石は一つたりとも見当たらず。
静かな庭は、珍しく…一面の芝生であった。
そして、ふわふわ、と揺れる芝生の上に一つだけ。
夜に消えそうになっている…六尺程の高さ、
黒色の御影石が、あった。
鬼太郎は既に下駄を履いて中庭へと降り立っている。
中庭に面した縁側の下の、自分の革靴を履き、俺は鬼太郎の後ろで。
月の中に、浮かんでいる犬の姿を目視した。
「此処がそうか。そうだ。つまりは、
仮称『人面犬』は、月の中で、そう、唸った。
未だ、鞘から刀身は抜かずに犬の一挙一動に注視する。
「おぅ、犬の怪。今夜は人家に何の用であるか?」
鬼太郎の顔から、甲高い声が、犬に投げかけられる。
「……面妖な。しかし、て、その有り様には同意しよう。亡骸の残骸」
「言ってくれるでないか。外道は其方も同じ事じゃろう」
「故に、同意した………あぁ…では、行くぞ…」
風が頬を切った。
視覚が追いついた時には、目の前に犬の牙があった。
「!ぐっ!?」
抜刀動作が間に合わない事は、理解してしまっていたが、それでも柄に手を持っていき…。
柄へ指先が触れた瞬間。
犬の頭は上空に跳ね上がっていた。
「ギャッッ…!!」
そして、その下には脚を空へ突き出している鬼太郎の姿、あり。
「どうしてっ!」
そのまま鬼太郎は逆立ちし、腕だけで空中に飛び出て、追撃の足蹴を一発。
「みんなっ!」
二発。
「僕よりぃっ!」
三発。
「水木をっ!」
四発。
「狙うのかなっ!!」
五発。
「ググクッ!!!」
頭、胴体、四肢に痛撃を受けた犬は、身を捩って、
宙を跳ね、鬼太郎から距離を取った。
そして、御影石の上に立つ。
「ぐく……見た通りの存在か…不思議だ。
何故、邪魔をする」
鬼太郎は、ころん、と地面に回りながら着地した。
「見た通りだよ」
「成程。幸運だったな。赤子よ。
そして、不運だ。それを失う事になるのは」
「…………………」
中庭に雷鳴が鳴る。
助けられた俺は呑気にも身に迫ってくる危険よりも、
目の前の犬の貌に、目が離せなくなっていた。
人面犬。
人語を話し、人の貌を持つ、犬の怪。
目の前の犬の貌。
ありのままの姿で…。
だからこそ、俺は吐き気が止まらなかった。
どうして、どうして。どうして。
誰も彼も、人間と言う者は。
「……ぅ……」
嘘。虚偽。出鱈目。妄想。街談巷説。
穢らわしい戯言。
「……ぅぇ…え…」
俺も…そうだ。
そうだ。俺は、俺は。
俺が一番……
「水木!?……彼奴に何かされた?!」
鬼太郎が俺なんかに駆け寄って来る。
「鬼太郎!!止せ!!」
そんな優しい子の向こう。
その方向にいるのは…。
すまない。
思い切り鬼太郎を突き飛ばして、急接近する鋭い牙へ身体を投げ出した。
「水木!!!!」
鋼鉄にすら穴を空けるだろう、と思える様な何十本の鋭利な牙は、速度を落とさずに俺の腹へ。
煮えたぎる腹へと、来やがった。
鬼太郎に牙を突き立てようと企てやがった犬畜生の上下の口蓋を思い切り両拳で畳み、鳴き声すら許さず、口吻を渾身の力で握りしめ、犬が飛んできた方向へと全力で投げ返した。
犬畜生は体勢を整える事も出来ずに無抵抗の姿のままで、中庭に面した障子を、その毛に覆われた身体で突き破り、襖を突き破り、内壁へと猛烈に激突した。
怯み喘ぐ獣を直視したまま、腰の得物を抜き、地面を蹴り上げ、その勢いのまま獣の喉元へ切先を突き立てんと、刃を振り下ろした。
刃は畳を両断。
紙一重で躱した獣は罅の入った壁を走り抜けて、天井に逃げたと思えば、俺の背後から懲りずに飛びかかって来た。
気配を察知し、刃を笛に戻しながら畳を全身で叩いて右方向に回避し、再度笛を刃へと変化。
上下を別つ為、獣の頭蓋へ振り抜く。
金属同士が打ち合う音が屋敷に響き、刃と牙の鍔迫り合いになった。
空から地へ落ちた獣と違い俺は直様立ち上がり、
刃へ体重を落とした。
「ググクッキャォォォ」
「………」
苦悶の声が溢れる獣の頭蓋に徐々に身体を下ろしていく。
「オォォオオォォ!!!!」
「…」
獣の抵抗は既に意味は無い。
これで終いだ。
「もう止めなさい。水木」
真紅に染まる両手を、誰かの…病的なまでに白く……
大きな掌が包んだ。
優しさしかないその声と手に、
その人に、力が抜けた。
「そりゃあ!!!!」
「オオオオォォォ…」
眼前の犬が俺の前から消えて中庭に吹き飛んでいった。
「大丈夫!?水木!!!聞こえる!?」
その代わりに、鬼太郎の顔が、俺を覗き込む。
「…………」
「水ーー木ーー!!」
「…あぁ、きこえてる……俺より…鬼太郎…怪我しちゃいないか?」
「よりじゃない!!!絶対によりじゃない!!
ちゃんと答えて!!水木!」
「………大丈夫だ。俺も」
「本当だね…!?」
「あぁ、あぁ。もう大丈夫だよ」
「それなら、いい」
「元気じゃよ、お主等は本当に」
俺の震える手に乗っている目玉の親父が、
いつもと同じ様に笑った。
………最早、人面犬とも呼びたくもない、
人語を解す白狼は、庭の地面で伸びていた。
「これで漸く話し合いが出来るのぅ。紳士的に。
ほれ、鬼太郎。ちゃんちゃんこを頼む」
「はい、お父さん」
ふわり、と鬼太郎が広げた霊毛ちゃんちゃんこは、
白狼を四肢を縛り上げる様にして拘束した。
「………」
あれだけ、投げられ、打たれたと言うのに、白狼の身体には擦り傷すら無かった。
「ほれ、起きんか。でなきゃ、本気で鍋にするしかないんじゃぞ。こっちは」
よりによって…白狼の鼻先で跳ねて、親父は覚醒を促している。
「親父…危ないだろ」
「もし、喰ったら…内側から悪戯してやるわ」
「一寸法師だぁ」
「そこまで小さくないぞ!鬼太郎!!」
鬼太郎と俺は顔を見合わせた。
「……無念。殺せ」
瞼を閉じたまま、白狼は一言だけ呟いた。
「起きてたのか。何じゃ?死にたいのか、其方」
「道理だ。負けた者にはそれしかあるまい」
「武士みたいな事をいいおるのぅ……ならば、勝った者の言う事を聞くべきじゃな」
「恥辱には塗れぬ」
「ぺらぺら喋る癖に、よく言う。
面倒じゃなぁ。
せめて…。
私の倅と友人に牙を向けた理由だけは、
話してから逝け。犬」
紅い眼光の親父の言葉に、初めて白狼は目を開いた。
「殺す為。殺して、勝利する為」
「勝って、どうするんじゃ」
「……………………………」
「急に黙りおって」
白狼は再び目を閉じて。
「……………………………」
長い沈黙の後。
「………………息子の…息子が成った…
勝ち取る為に」
誰も彼も。何もかも捨てて。
最後に残るのは愛だけだった。
ご拝読ありがとうございました。