親父さんの言った通り、俺の日常は妖怪に彩られた。
ある日……親父さん専用茶碗風呂の用意が終わったので、鬼太郎と俺が入る為に風呂の用意をしようと風呂場に入ると先客がいた。
ピチャピチャピチャピチャ
…………先客が風呂釜を舐めている。
まるで新品の様に、ピカピカ、になっていた。
……こりゃ有難い……有難いが…。
「親父さーーーん!!!」
絵面的に駄目だった。
ある日……会社からの帰り道に、べとべとさんと世間話をしながら薄暗い道を歩いていたら、
ヒュゥーーーーーーーー
物凄い突風が俺達の足を止めた。
余りの強さに目が思うように開かず、薄目で前をみた。
「え?」
風に乗って、イタチが突っ込んできている。
……このままじゃ正面衝突だ。俺は兎も角、イタチが可哀想だ。
足に力を入れて、構える。
「よいしょっと!」
ドコンッ!
…ふぅ…なんとか両手で受け止めれたな…。
…しかし……あれだな……イタチって、こんなに軽いんだな。
まるで風船だ。
イタチを受け止めたら、突風もピタリ、と止んだ。
「大丈夫か?」
答える訳も無いが声を掛けた。
イタチは酷く驚いた顔で、俺を見上げている。
そして……ぎこちなく頭を下げた。
あぁ、良かった…………………妖怪かぁ〜〜。
イタチは未だに俺の腕の中に大人しく収まっている。
口がポカンと開いているので、イタチの方も混乱しているのだろう。
ヒューーーーー
また、突風が吹いてきた。
しかし、さっきよりも弱く、しかと前が見えた。
……今度は二匹か。
一匹は壺を抱えている。
もう一匹は……五尺程の鎌を構えていた。
おいおいおい…ヤる気かよ!?
「頼む!!」
腕時計が木刀に変わった。
キィイイィィィンンン
イタチを抱えながら、イタチの鎌を受ける。
しかし、空中を踊りながら続けて、イタチはニ本、三本と打ち込んでくる。
オカリナの手助けもあり、なんとか捌く。
「ちょっと…待って……こ…ろす…き…かぁ!!」
最早、竜巻の様になり打ち込んでくる。
鎌のイタチの少し後ろで壺のイタチがポカンと口を開けてる。
驚いてないで止めてくれ。
「ねぇねぇ」
ずっと横で見ていた、べとべとさんが話しかけてきた。
「べとべと……さん…ぐぉぉお…助けてぇ…」
段々、猛攻を捌くのも、キツくなってきた。
「きられてもだいじょうぶだよぉ」
えええ!?この竜巻に身を預けろと!?
「死っぬのっでっは?」
「だいじょうぶ」
「ぐぅーーーーおおおぉぉおお!!ああぁーー信じますよ!!」
怖えぇなぁぁぁ畜生めぇ!!
覚悟を決め、木刀を下げて、目を瞑る。
スッとに頬に鋭い風が通った。
そして、ベチョリ、と何かが頬を覆った。
ぐええぇええ!血かぁ!?痛ってええぇぇええ?
?あれ?痛くない?
恐る恐る目を開けて、頬を触る。
指には血ではなく白い軟膏が付いていた。
……?
斬った後に着けたのか?
どんな早業だ?
何で斬った??
斬ったのに何で薬塗った???
様々な疑問が頭の中で、ぐるぐると回る。
「ね。だいじょうぶでしょう?」
べとべとさんが、いつもの調子で聞いてくる。
「…ええ、まぁ…」
頬をいくら触っても何の傷も跡も無い。
……どういう…妖怪なんだ?
「キィ」
抱っこしているイタチが鳴いた。
「うん?」
イタチが地面を指差す。
「うぉ!」
鎌イタチと壺イタチが見上げていた。
鎌イタチが鎌の柄で俺の足を、トントン叩いている。
仲間を返して欲しいのか……。
「あぁ…はい」
地面に降ろしてやる。
「キィ」「キィ!」「キィ…キィ」
………イタチ達が綺麗に並んで頭を下げる。
「「「次は受け止めないでね」」」
ヒューーーーーーーー
また、突風が吹き、その風に乗って三匹のイタチ達は……消えた。
…………………はなせるんかい。
「くちで、いえばいいのにね」
べとべとさんが言う。
「…………………そう…ですね」
ある夜……グッスリ寝ていたら何やら枕がガサゴソと動くので、鬼太郎が起きたのかと思い、目を開けた。
………小さな仁王が……いた………捕まえて、窓を開け枕ごと外に投げた。
鬼太郎親子の無事を確かめて、また寝た。
……眠かったし。面倒だった。
翌朝、枕は俺の頭の下に帰ってきていた。外に投げたのに、綺麗だった。
………何だか申し訳なくなった。
ある休日……鬼太郎はちゃんちゃんこに包まれてお昼寝。
親父さんは下駄とお墓参り。
俺は玄関先で一服していた。
「そろそろ禁煙した方がいいかなぁ」
ぼやきながら煙を吐き出していた。
一本だけ吸って家の中に戻る。
そろそろ……鬼太郎が起きるだろう。ミルクを用意しなくては。
様子を見る為に居間に入ると、ぬらりひょんさんがいた。
「やぁ。水木くん。お邪魔しているよ」
「おや、いつの間に。いらっしゃい。今、お茶淹れますね」
「お構いなく」
「いえいえ」
鬼太郎は、ぬらりひょんさんの膝の上で、ちゅぱちゅぱ、ちゃんちゃんこをしゃぶっていた。
丁度良い、鬼太郎のミルクも一緒に用意するか。
ちゃぶ台の上に、緑茶二杯と剥いた梨を置いた。
ぬらりひょんさんが鬼太郎にミルクをあげている。
「すみません」
「ハハハ。いいってことよ」
「ぅまぁ」
鬼太郎はゴクゴクとミルクを飲んでいる。いい飲みっぷりだなぁ。
「元気に育っているようだね」
「ええ。なんとか男手二つで頑張っていますよ」
「よくやっているよ。目玉の親父さんも水木くんも」
「そう言われると嬉しいです」
「ねぇ?鬼太郎ちゃん?」
「おぅ」
鬼太郎が両手をあげて、こっちを見ている。
「ありがとう、鬼太郎」
「だぅ。けぷぅ」
おっ、げっぷだな。
「ぬらりひょんさん。鬼太郎をこっちに貰っていいですか?」
「ああ。どうぞ」
優しく手渡してくれる。
抱っこして、背中をトントン叩く。
「げぷぅ」
大きな、げっぷが飛び出た。
「お腹いっぱいになったか?」
「ん!」
元気に頷く。
「そうか。そうか」
「だぁこ」
「うん。だぁこ。だぁこ」
いつもの横抱きにする。
トントンお尻を叩いて少し揺らしてあげる。
「かぁ〜」
鬼太郎は一つ欠伸をして、夢の中に入った。
愛い。
「ハハハハハ。ずいぶん堂に入っているよ、水木くん」
「いえいえ。まだまだですよ」
「フフフ」
笑いながら、ぬらりひょんさんはキセルを咥えた。
「あっ!ぬらりひょんさん煙草は……………」
………ぁ……あ……………待て。待て待て待て。
………ぬらりひょんさん?………………誰だ!?何だ!!?
どうなってる!?
妖怪!!!
鬼太郎を強く抱いて、立ち上がり後ずさる。
「……あんた誰だ?」
「フフフ。中々やるじゃないか、水木くん。まぁ落ち着いてお茶でも飲みたまえ」
「…………」
鬼太郎の、ちゃんちゃんこも、腕のオカリナも反応していない。
敵意は無いのか?
「心配しなさんな。鬼太郎ちゃんにも水木くんにも、なーんしないよ。ただ、お茶を飲む妖怪さね」
何故だか、嘘は吐いてない気がする。
……取り敢えず、座る。
「先は悪かったね。愛煙家は癖で咥えてしまうものだ……この気持ちは君も分かるだろう?」
「……まぁ……」
俺も偶にやる。
「何をしにきたと聞きたいのだろう?いつもなら、お茶を飲みにきただけだが、今回は違う……たった一人の幽霊族の様子を見にきたのだよ」
「…何故知っているのです?」
「何故も何も無い。ただ知っている。そういう在り方になっているんだ。安心したまえ、他に知っているモノはおらんよ」
……また不可思議な。
「しかし安心したよ。鬼太郎ちゃんとも随分仲良くやっている様だ……君の様な人は、稀だよ。そんな人に出会えたのは、暁光だっただろうね。あの夫婦には」
「……結局………何も出来ませんでしたがね……」
「何も?フフフフフフハハハハハハハ!!馬鹿言っちゃあいけない。また親父さんに叱られてしまうよ」
「………」
すやすや眠る鬼太郎を見つめる。
「うーむ。中々頑固だねぇ、君は……まぁいいさ。これからの話をしようよ」
これから?
「目玉の親父さんからも聞いているだろうが、妖怪の中には、人間を傷つける事が在り方の妖怪もいる」
「ええ。聞かされています。実際この前、三匹のイタチに遭いました」
「『鎌鼬』だね。まぁ、傷つけるは傷つけるが薬を塗って貰ったろう?もっと危険な妖怪は、ゴロゴロいるからねぇ」
「…例えば……何ですか?」
「うーん。教えてあげたいのは山々なんだけど、知ってしまうと向こうから寄ってきてしまうからねぇ。あんまり、調べるのも辞めた方が良いよ。出逢った後なら、良いけど」
……そうなのか…。
「それと最近、在り方を捻じ曲げて人間を傷つける妖怪も増えているから、気をつけた方がいい」
「捻じ曲げれるモノなんですか?」
「人間と同じさ。恨み、怨みがあれば善人も悪人に堕ちる。それが妖怪にも起きているのさ。最近は、特に…そちらさんの戦争の影響もあるかもね」
…なんて事だ。人間だけに留まっていなかったのか……あの悪夢は。
「……貴方は恨んでいないんですか?」
「まさか!!恨んで如何する?人間を皆殺しにでもするのかい?フフフ。逆だよ。全く逆だ。
妖怪が人間を滅ぼせる訳が無い。
人間が妖怪を滅ぼすんだよ。
我々は貴方達から、産まれたのだから」
「え…」
「その事を私は知っている。だから、こうして愛すべき隣人としての在り方を選んでいる。それに人間全員が悪人な訳がなし、君の様な人も少なからずいるしね」
「ただ幽霊族は違う。人間から見たら、それこそ妖怪の様に見えるが、実際は人間だよ。少しばかり、妖怪寄りなだけで」
「話は聞いたろう?幽霊族は古代、人間達より前から、この星にいたんだ。厳密には、幽霊族は先人類なんだよ」
…先人類。
「その事を知っているモノ。或いは覚えているモノは、最早数少ない。だから、こうして知っているモノとして、幽霊族には敬意を払おうと思っている」
「……じゃあ如何してあの二人を…」
「聞いているが、本当は分かっているだろう?残念ながら、定め、運命は実在する。人間も妖怪もそれ以外もこれには逆らえないんだよ…………けれどね、水木くん。過程は変えれるんだよ」
「過程?」
「ああ。そうさ。君があの日、あの夜、あの廃寺に戻らぬ場合と、あの廃神社に帰った場合は、全く過程は違うんだ。どちらの場合でも二人は死ぬ。だがその心内は全く違う。君は間違いなくあの二人を。あの夫婦を救ったのだよ」
「そして、今。遺された御子を愛して、育てているじゃないか。これ以上何を望むんだい」
「そして、君の様な人がいると知っているモノが、如何して人間を恨めるんだい?」
「………」
「どうか、その在り方で居続けてくれ。それだけで救われるモノもいるのだから」
「…努力します」
「フフ。謙虚だねぇ」
ぬらりひょんがお茶を啜る。
俺もお茶を啜った。
「…話が逸れたね。妖怪に気をつけてと言ったが、それだけじゃない。妖怪より、悪意という点では無視出来ない存在がいる」
……そんなの一つしかないだろう。
「人間ですか」
「残念だが」
「基本的に妖怪が鬼太郎ちゃんと、目玉の親父さんを襲う事はまず無いだろう……多分」
……多分かよ。
「まぁ、仮に襲われても、そうは二人とも柔じゃない。だから、水木くんが気をつけてれば、大丈夫だろう。しかし、人間は違う。鬼太郎ちゃんは赤ん坊。目玉の親父さんは、如何したって人間の悪意には疎い。そこに、つけ込まれれば、非常に危うい。だから、水木くんには、その辺りを警戒してほしいのだ」
「警戒ですか?」
心配しすぎでは?
「心配しすぎならそれで良いんだ。しかし、幽霊族を狙う者はまだおるのだ。その者に、もし鬼太郎ちゃんの存在が知れれば、どんな手段に出るか分からない。それ故に、水木くんに頼んでいる……あまり言いたか無いんだが、人間の悪意には敏感だろう?」
「…認めたく無いんですが、その通りです。悪人はツラを見れば分かります」
「すまんが、宜しく頼むよ。私もなるべく手助けさせてもらうからね」
その後、親父さんも帰ってきた。
「水木さん!ぬらりひょんじゃ!」
興奮した親父さんを二人で宥めた。
ぬらりひょんさんは、ちゃっかり夕食も一緒に食べて帰っていった。
「湯加減どうですか?」
「最高じゃあ。ありがとう水木さん」
恒例の茶碗風呂を用意した。今日は緑茶だ。
「親父さんの言った通りでしたねぇ」
「妖怪達の事かのぅ?」
「ええ。本当にあっちこっちにいたんですね」
「…辛くはないかのう?」
心配そうに俺をみる。
「実は………少し……楽しいですね」
「えっ?楽しい?……フフフハハハ!!水木さんは大物じゃのう」
「ハハハハそうですか?」
「ハハハハそうじゃよ!」
「「アハハハハハハハ」」
「ウフフヘェ」
だぁこした鬼太郎も笑っていた。
ご拝読ありがとうございました。