Nizガミンサーガ   作:PureFighter00

7 / 8
安易にファンタジーワールドにジャガイモ出すと中世ヨーロッパ警察が来ると言われておりますが、ちょっと中世ヨーロッパに詳しい私から見たら、ジャガイモ程度でワーキャーやってるのはワナビーでありガンプラで言うところのゲート警察や合わせ目警察みたいなものだ。

中世ヨーロッパの癖に白パンなんぞ食いおって。ガチ中世舐めんな!


冒険者たちの食卓

冒険者組合の組合員は、迷宮探索に飽きるとNizガミン郊外の農村へアルバイトに行く。閾の調律をした冒険者たちは牛馬より力が強く、農地開拓に最適な存在なのだ。

 

本作読者のほぼ全てが日本人であり、日本の常識しか持たないからNizガミンの様な中世ヨーロッパ的世界については説明が必要だろう──中世ヨーロッパでの農業と言う作業は、呆れる程単位面積での生産性が低い。

日本人が食うコメ──水稲は、連作障害が起きず馬鹿みたいに反収(単位面積で収穫可能な作物量)が高い。だから狭い面積の水田で食わせることの出来る人数が多く、それが故に江戸時代の首都「江戸」は世界でも有数の都市人口を維持できたのである。

これに対して中世ヨーロッパ。西アジア原産の小麦を高緯度の寒い地域で栽培し、更に小麦は連作障害が起きて反収が低い。超絶不利な──いや、ほぼ無理ゲーと言って良い。

それでも数多くの人間を養うためには広大な農地が必要になる。冒険者やその周辺サービスを行う人口を養うには開拓が不可避なのだ。まぁ、広大な耕地が必要だから戦争なんて物が発生する遠因になるのだが。

 

ベッセルたちがNizガミンにやってきた頃、酒場メシは専ら麦粥だった。と言うか、市民や農民までパン食える様になったのは中世末期まで待たねばならない。基本的にはパンは貴族や修道院の連中が食う高級品で、製粉やパン焼き窯は市民や農民に開放されていない。そのため麦(大麦、燕麦、小麦含む)を脱穀・精白して粒のまま煮込む麦粥と、やはり煮込みである各種シチューが主菜となる……と言うか、そんなもんしか食えなかった。更に申せば都市部は燃料である「薪」が不足しがちで、煮込みなのに火力をケチって生煮えがザラと言う地獄模様。

 

大きな沼地のほとりの寒村で育った貧農の子であるベッセルは、まずい麦粥が何故不味くなるかと言う点については恐ろしく博識だった。彼が若き日に在籍していたフマクトの社では十字軍めいた従軍遠征があり、その際十数名の仲間に飯を供する当番があったのである。

燃料だ、燃料がまず足りんのだ!

そこでトコトコとNizガミン郊外の農村に行き、開墾手伝いますよと「嘘ではないが、目的とは異なる申し出」をして、ワッシワッシと木を切り倒して馬鹿力で根本を掘り出し、更に仲間に炭焼き窯を作らせて木を片っ端から炭にして持ち帰った。麦粥もちゃんと煮込めばちゃんと美味いのだ。火力不足で生煮えでは味付け以前の問題だ。

この「どうせなら美味い麦粥が食いたい」と言う食い意地が農民側の開拓促進に寄与して、ベッセルたちは貴族に顔と名前を知られる様になる。

ここで彼らは炭焼き窯を農民に無償で譲渡し、炭を金貨で買う契約を結んだ。無論取引に際して領主に税を納めるのも忘れない。楽しく豊かな迷宮探索の為に産業や経済圏の一部を自作したのである。

 

一抱えもある樹木をロングソード「開拓1号」で叩き切る。次いで大上段に構えて切り株を縦に滅多切り。当初はその様を見て青ざめていた農民たちも今は気にせず枝を払ったり次に切る木を選んだりしている。たまたま作業を見に来た領主一行は悪い夢でも見ているのかと呆けている。

ベッセルとサムライのネスカは木の根を握りしめて無造作に引き抜いて行く。地に張った根を引き抜くなどと言うのは本来人には無理な力技だが、ヒトを辞めた迷宮踏破人には容易いことだ。

領主は冒険者組合から融資を受けていた。金貨で10万枚程度であるが、寝かしておいても仕方がないので領地開拓向けに融資した。そして利息だが……組合長は農産物を利息として要求した。当地では高級品であるきうりが潤沢に供されるのはその様な理屈からだ。また、豚を生きたままNizガミンに運び町外れで食肉に加工。

豚さんは、農村ではありふれた食材である。村の近くの森林に放しておけば勝手に肥える。稀に狼に襲われる事もあるが、それは領主が己の義務として駆逐すべき存在であった。狩猟は趣味でもあり、兵の訓練の側面もある。

 

食の充実は冒険者達の安全確保にも役立つ。ともすれば寝食を忘れて探索に励む彼らを小まめに宿屋に戻らせる為に美味い飯が有効だったのだ。

世の中には2種類の人種があり、片方は美食を楽しむもの、もう片方は食事を生命維持の為の義務であると考えるものだ。後者は漏れなくマズメシ民となる。ベッセルも若い頃は後者だったのだが悪い先輩に唆されて美食に目覚めた。彼の宗門では加護と制約という規則があるのだが、まだ制約を選択していない彼に悪い先輩は「宗門では節制対象である」酒を飲ませた。曰く「酒の旨さを知った上で酒を絶たねば制約にはならぬ」という事だ。

相変わらず酒場の主食は麦粥であるが──豚の骨でダシを取り、塩や香辛料、胡椒をふんだんに使ってベーコンなどを浮かべた麦粥は破格に美味い。かつてベッセルが苦労させられた生煮えでモミまで混じる味気ない麦粥とは別種の料理と言って良いほど進化している。酒場の裏にはパン焼き窯もあるが、質の良い小麦粉が偶にしか手に入らないので稀にしかパンは焼けない。

 

 

【パン】

長年の開拓貢献が認められて冒険者組合にもパン焼き窯設置権が与えられたのだ。尚パン焼き窯あるだけで課税されたり使用料取られたりするので、設置権が認められたのはかなり破格の厚遇である。また、小麦の製粉に用いる水車や風車も勝手に作ると処罰されるし、きめ細かい小麦粉作る技術は貴族連中の秘中の秘。パン食というのは「中世盛期では」めちゃくちゃ困難だったりする。

尚、基本調理は熾火という薪を用いた火力によるものが主流であり、火力調整が困難で炙り肉なんてのも結構難易度が高い。火力調整が容易な炭火を持ち込み調理技術がBBQ Pit boys並に進化したギルガメッシュ酒場は「化け物の様な冒険者に囲まれて食事をしなければならない」点を除けば高級レストラン並みの豪華な食事を堪能できる美食家天国だ。




尚、ナイフとスプーンはあるがフォークは無い模様。熱い肉はナイフでぶすーのお口でガブーよ。
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