Nizガミンサーガ   作:PureFighter00

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コイツは上物だぜ!


高額(たか)くて白いヤバい粉

Nizガミンにもパンはある。あるにはあるが高級品で、祝祭の時や儀礼で用いられる程度。貴族や王族は割と頻繁に食べているとか。

 

幸いにしてカント寺院ではパンに宗教的な意味合いを持たせていない為、Nizガミンでは小麦は領主に納める税として生産して、大部分の庶民は大麦を食べている。大変良い事だ、この辺の土地は小麦作りに向かないからな。

 

 

【小麦作りに向かない】

小麦は原産地メソポタミアとかの南方で、ドイツやフランス北部、イギリスあたりは小麦耕作に向かないのだ……パンに宗教的な意味を持たせたキリスト教が広く広まったせいでヨーロッパは人口増やすのに難儀してる。一説によれば人口支える為に森林伐採しまくって耕地を増やして、一回ペストで人口が激減したから牧草地を使った三圃式農業がとか、色々ヘンテコなことが起きている。ギリシャやイタリア、エジプトなんかは小麦に向くんだけどね(だから小麦のパンを特別視するキリスト教が生まれた訳で)

 

 

ベッセル達がこの地に来た当初は大麦は苦労して麩を取り除いて大粒のまま麦粥にして生煮えにしていたのだが、麦粥エキスパートのベッセルが大麦を発芽させ(麦芽)、焙煎した後に粉砕する方法を伝えた。こうすると粉砕しやすくなり調理時間と燃料の節約が出来るのだ。

 

で、ここでちょっとした問題が起きた。

大麦パンの食感を良くしようとロータリーミル(皆も良く知る回転式石臼)を改良してたら待ったがかかった。なんでもきめ細かく上質な粉を作る技術は貴族や王族の特権らしく、庶民の……それもならず者の集団である冒険者がそんなものを食うのは許されないと難癖を付けられたのである。

何でも辺境の方では石臼すら使われておらず、細長い突き臼で精麦してたらしい。下賎な地方の農民なんぞそれで良い。分際を弁えよと。翔んで埼玉か。

いわゆるヨーロッパでは良くある階級蔑視なんであるが、遥か遠くの異世界「グローランサ」の灰色犬のインドロダール血筋である組合長、ベッセルは憮然とした。彼が奉じるフマクト神のカルトでは「信徒は平等」である。名誉と真実を護り剣でのいくさを生業として戦い死ぬ事を是認する彼らは、その生き方をする限り老若男女、出身を問わず平等に扱い平等に死ぬ。更に申せばベッセルは都市から離れた沼のほとりの寒村生まれ。この地の辺境農民の様に不揃いで生煮えの麦粥を食って育った身。青き血の連中が同胞にマズメシ強いるのは内心ムカついていた。

ならば良い、お前らの流儀に合わせて美味いもん食ったらぁ!

 

先ずはビールだ。ビールは小麦からも作れるが大麦の麦芽から作った方が良質な物が作り出せるし大麦の方が生産性が良い。そして大麦からの醸造を増やしつつ、当地ではビショップをやっている書写屋パイレミンに蒸留酒の作成をやらせることにした。

パイレミンはソーサリア生まれの書写錬金魔法使いである。かの地ではバリバリPvP向けの対人ビルドであるが、彼はその力を正しく書写や錬金術に用いてベッセル達と共にAmon Ithil(シンダリンで月の丘の意)という蒸留酒ブランドを立ち上げていた。

 

 

【シンダリン】

指輪物語のエルフが使うエルフ語。言語学の学者であるトールキンが構築した為、そこそこ実際に会話できる程度の語彙があり、ハワイ辺りの大学で学べた筈。日本語では「グワイヒアのエルフ語講座」ってサイトである程度シンダールとクゥエンヤのエルフ語辞典が公開されている。皆もエルフ語使えば良いのに。何故ベッセル達がエルフ語に親しんでいるかと言うと、パイレミンの師匠が「ガンダルフに知らんと言われた」パルランドだからだ。

 

 

錬金術!

などと言っているが、魔法学が発達したソーサリアでは賢者の石やエリクサーを作ったりはせず、秘薬というマテリアルから化学的にポーションや毒薬、爆弾を作る技術体系になっていた。そしてカントリーライフ拡張入れると錬金術スキルで酒の蒸留ができる様になるのだ。ベッセル達は面白がって(当のベッセルは宗門の掟で酒飲めないのに!)ウィスキーを蒸留しまくり、D.o.t.L(Dew of the Life)と名付けて販売していた。

 

中世ヨーロッパに近い技術レベルのナーロッパやNizガミンの地では、蒸留酒というものはメジャーではない。元々この技術は中東方面に伝えられていて、実際錬金術などと並行して修道院の書写修道士が医療用に伝えたのだ。新型コロナ禍でも多用された「アルコール消毒」である。

初期はワインやビール(の原液?)から高濃度アルコールを蒸留して用いていた。殺菌というか、菌や細胞などが発見されるより前からアルコールで清潔にするという概念自体はあったのである。

そして……化学実験などでエタノールなどを扱った事があれば理解できると思うが、酒飲みには堪らない香りがする。その香りに導かれて「消毒や医療用途の高濃度アルコールを飲んでみた奴がいた」現代社会でも偶にロシアとかで起きる奴だ。実際この高濃度アルコール飲んで死んだ人の記録や、高濃度アルコールを愛飲した人物の記録はガチで残っている。

で、酒は醸したり蒸留したりすると税金取られるのだが、当然?僻地では密造酒が流行り脱税していたりなどした。蒸留酒は高濃度アルコールであり、飲む時に加水して薄めて飲むので隠すのに最適(場所を取らない)

この高濃度アルコールを空いたシェリー酒の樽に入れて何年も何年も隠しておいたら何とびっくり美味くなっていた……まぁ大体これがウィスキーである。

 

ベッセル達はNizガミンやナーロッパに無い強力無比な酒を使って酒飲みを掌握する事を選んだのだ。この珍しい酒は瞬く間に広まる。ビールなどと異なりパッケージが小さいこともあり、貧弱な輸送能力しかないこの地でも販路に乗せるのが容易い。また蒸留などという技術が広まって居ないのも功を奏し、独占的に販売できたのである。

きちんと納税(と言う名の領主への袖の下)を支払っても尚十分な財力を勝ち得て、ベッセル達は農村開拓や蒸留酒生産でかなりの経済的貢献を果たした。そして小麦や大麦の製粉は許されなかったが、ウィスキーを始めとする蒸留酒との交換を条件に貴族しか許されない上等なきめ細かく純白の【小麦粉】を手にする事ができる様になったのだ!




技術的アドバンテージが有ればどーとでもなる。
パイレミン達がウィスキー売ってたのはウルティマ・オンラインで実際やってたガチの話。Mzhのルナ郊外にあった家が腐った時に多分大量放出されてると思う。
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