元レガ主のワイ、二度目の転生はケモ耳美少女だった件   作:アルティメット穢れた血

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 アニメ第2期第12話の終盤、ワンカットだけ映ったゼータが着ていた服――

 あれ金豹族の民族衣装ですかね?

 エッチでいいね!(おい)



3人の旅人と3つの望み

「……やっぱり、このままじゃ駄目だわ」

 

 ミドガル王国の辺境「カゲノー男爵領」、そのさらに辺境の廃村のとある廃小屋の中でアルファは1人そうつぶやいた。

 

 そこは外見も内装も本当にただのおんぼろな廃小屋であったが、アルファにとっては思い出の場所であり、同時に彼女という存在の始まりの地でもある。

 アルファは時おりここに1人で訪れては、シャドウことシドと出会った時のことを思い出しつつ、表立って『シャドウガーデン』を切り盛りできない彼に代わって組織を動かしている自身を戒めていた。

 

 

 ――当のシドは『シャドウガーデン』のことを「自らの“『陰の実力者』ごっこ”に協力してくれる幼馴染たち」程度の認識で、組織だなんてこれっぽっちも思っていないのだが。

 

 

 さて、そんなアルファは現在、ある問題に直面している真っ最中であった。

 

 

「――今後本格的に教団と戦っていく以上、明確な戦略目標は必要よね」

 

 

 そう。『シャドウガーデン』にはこの時点で「組織としての戦略目標というもの」が存在しなかったのである。

 

 先も述べたとおり、発足者であるシドが自分たちを組織だとは思っていない――というか、『シャドウガーデン』という名前自体も彼がその場のノリで名付けた即興である――のだから当然といえば当然のことなのだが、自分たちのことを本当に『ディアボロス教団』と戦っているレジスタンスだと考えているアルファたちにとってはまさに大問題であった。

 具体的な戦略もなしに世界規模で活動している教団という強大な敵に挑むのは、まさに「蛮勇」ではなく「無謀」というものである。

 

 「組織を相手取る」というのは、ただ単に目の前の敵を倒していけばいいというだけの話ではないのだ。

 アルファたちの世界の話ではないが、ただ戦術的勝利をあげていくだけで戦争や紛争に片が付くのならハンニバルはローマを滅ぼしているし、ゲラート・グリンデルバルドが魔法界の頂点に立っていた。

 

 閑話休題。

 ともかく、『シャドウガーデン』にとって対ディアボロス教団に向けた戦略構想を練り上げることは急務だった。

 

 

「そういえば……」

 

 

 ――と、ここでふとアルファは思う。

 

 「シャドウはどうして自分たちに教団に対する自らの戦略を今まで語らなかったのか?」と。

 

 

 言わずもがなシャドウもといシドはそんなもの当初から考えていない――それどころか自分が“『陰の実力者』シャドウ”の設定を考えた際にでっち上げた『ディアボロス教団』という組織が実在していたなんてことすら知らない――からなのだが、彼に対する信頼がすでにおかしな方向で限界突破しているアルファは、なにか理由あってのことなのではないか、と推測してしまう。

 

 当然それは考えすぎであり邪推である。

 しかし、この場にはそれを指摘することができる者は誰もいない。アルファ以外誰も存在しないのだから。

 ――仮にアルファ以外の誰かがこの場にいたとしても、その人物は間違いなくシドおよびシャドウに対する信頼がアルファと同レベルである『シャドウガーデン』のメンバーなので指摘できるかは怪しい話ではあるが。

 

 

「彼ほどの知恵者が今までなにも考えずに教団と戦っていたなんて思えない……

 間違いなく彼には彼の戦略があったと思うのだけれど……」

 

 

 顎や口元に手をやりながら真剣な顔で考えるアルファ。

 その姿は彼女のイメージである「知的なエルフの美少女」のまさにそれであるが、実際は「滑稽」かつ「道化」でしかない。

 

 

「――あら?」

 

 

 そんな時、部屋の隅に置かれた木箱が彼女の視界に入った。

 

 長きにわたり放置されていたがゆえに大量の埃を被っていたそれは、よく見ると蓋が若干ズレて中身を少しばかりのぞかせている。

 

 

 ――アルファがなんとなくその木箱に近づいてみると、1冊の赤い本が存在を主張していた。

 

 

「これは……

 確か、あの時の……」

 

 

 木箱の中から取り出されたその本は、この世界の宗教である『聖教』の教典だった。

 

 表紙には有名な御伽話である「魔人ディアボロスを討ち世界を救った3人の英雄」――人間とエルフと獣人の姿が描かれている。

 

 

 アルファにはこの本に見覚えがあった。

 

 それは今から3年ほど前、「悪魔憑き」を発現させ腐った肉の塊と成り果てていた彼女をシドが治癒し救った時のことだ。

 

 ――厳密にはシドは偶然発見した後にアルファとなる「悪魔憑き」を使って魔力制御の実験をあれこれ試していた結果、偶然それを治療することに成功してしまっただけで、彼女を救う気などまったくなかったのだが、そのことは置いておく。

 

 

『君も知ってるだろ?

 教典にも載ってる魔人ディアボロスを討伐した3人の英雄の御伽話――

 実はあれは本当にあったことなのさ』

 

 

 あの時、シドはこの教典を手にアルファにこの世界の真実を明かした。

 

 「悪魔憑き」と呼ばれる存在はディアボロスを討った3人の英雄の末裔を示す証明であり、本来は決して蔑まされるものではなかったこと――

 

 しかし、ディアボロスの復活とその障害になるであろう英雄の血を引く者たちの抹殺を目論む輩の手により歴史は歪曲・改竄され、「悪魔憑き」はそれまでと打って変わって迫害の対象となったこと――

 

 そして、それを行ったのが現在の『ディアボロス教団』であるという事実を――

 

 

 もはや言うまでもないが、これらは当初シドが“『陰の実力者』シャドウ”の設定のために即興ででっち上げたほら話である。

 だが、その後アルファが古文書などを独自に調べてみたところ、偶然にも事実であることが判明。

 おしまいには『ディアボロス教団』も――名前までそのままで――本当に存在していたものだから、アルファやその後『シャドウガーデン』のメンバーとなる者たちはシドの話をすべて鵜吞みにしてしまうほど彼を信用し切っていた。

 メンバーの中にはその信頼が「崇拝」の領域にまで達している者までいる有様だ。

 

 別世界における「希代の詐欺師」とも呼べる大悪党ゲラート・グリンデルバルドですら仮にこの話を知れば「ねーよ」と思わずツッコミを入れたことだろう。

 

 

 ――話を戻す。

 

 実際はどうであれ、世界の真実を知ったアルファはこうしてシドと共に教団と戦うことを決意した。

 

 そして、その決意を抱いた場所こそほかでもなく今彼女がいる廃小屋だった。

 

 

「思えばあの時彼から真実を教えてもらう選択をしなかったら、私は今もかつてのように偽りに満ちた世界を怠惰に生きていたでしょうね――」

 

 

 教典の表紙を一度そっと撫でた後、アルファはそれを木箱の中に戻そうとした。

 

 だが、木箱の中に目をやると、もう1冊なにやら本が入っていることに気づく。

 

 

「あら?

 こっちの本はなにかしら……?」

 

 

 思わずそれを手に取るアルファ。

 その本は教典と比較すると明らかに薄かった。

 隙間から入り込んだ日の光を今まで浴び続けていたせいか、それとも本自体が古いものなのかは定かではないが、表紙は汚れや黄ばみが酷く、残念ながら表面の埃を払っただけでは内容を把握できそうにない。

 

 

 ――ぺらり、と軽く音をたてながらアルファはその本を開いた。

 

 

「――っ!?

 こ、これは……!」

 

 

 しばらくの間黙って本の内容に目を通していたアルファだったが、やがてなにかに気づいたのか驚きの声をあげる。

 

 

「そう……

 そういうことだったのね、シャドウ――!」

 

 

 そしてなにか納得をしたような顔をすると、彼女はその本を手に廃小屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それでアルファ、話ってなんだい?」

「非常に重要な話だとお聞きしましたが……?」

 

 

 その日の夜、アルファは家に『シャドウガーデン』の全メンバーを招集した。

 

 彼女――いや、彼女たちの家は廃村の中に建てられた明らかに他の家屋とは建築様式・構造が異なる一軒家である。

 かつてシャドウから教わった「ツーバイフォー」というやり方でアルファが建てたものだ。

 

 現在この家にはアルファを含む7人の少女が暮らしている。

 その7人こそ現時点での『シャドウガーデン』の全メンバーであった。

 

 

「ええ――

 私は今まで――本当に今日までとんでもない勘違いをしていたことがわかったの」

 

 

 アルファは真剣な表情で自身に問いかけてきた獣人の少女ゼータと、自身と同じくエルフである短髪の少女ベータのほうを向きつつ一度頷いた。

 

 彼女のその様子から、その場にいた誰もが「これはただ事ではないかもしれない」と瞬時に理解する。

 

 

「勘違い……ですか?」

「そうよガンマ。

 私は今日までの3年近くもの間、彼の……シャドウの真意を理解することができていなかった……

 シャドウガーデン最古参のメンバーでありながら、とんだ失態だわ……」

「主さまの真意――!?

 あ、アルファ様、それはどういうことです!?」

 

 

 これまたエルフである長髪の少女ガンマに対して申し訳なさそうな顔を浮かべたアルファを見て、慌ててフォローするかのようにまたまたエルフであるツインテールの少女イプシロンが問う。

 

 

「――私たちは今までシャドウの指示のもとディアボロス教団と戦ってきた。

 だけど、それがどのような戦略目的による作戦行動であったのかを私は知らなかったのよ。

 本当に今日までね……」

「……?

 ボスは今まで目の前に獲物がいたから狩りをしていたわけじゃなかったのですか?」

 

 

 アルファの発言にもう1人の獣人の少女デルタが疑問の声を口にする。

 なお、彼女は犬系の獣人で、ゼータは猫系の獣人である。

 

 

「確かに自らのお膝元で隠れて狼藉を働いていた奴らに対する誅伐の意味も含まれていたでしょう。

 ――でも、それはあくまでもついでだったのよ。

 シャドウは自らが練り上げた戦略目的に則ったうえでこれまで教団と戦ってきていたの」

「つまり、そんな主の戦略目的がなんであったのかがはっきりしたってわけだ?」

「そのとおりよゼータ。

 彼の対ディアボロス教団のための戦略は、この本が示していた――!」

 

 

 そう言ってアルファは皆に手にしていた本の表紙をばっと見せつける。

 

 アルファを除く6人全員の目がそれに釘付けになった。

 

 

「……絵本?」

 

 

 7人の中の最後の1人――やはりエルフである長髪で小柄な少女イータのそんなつぶやくような声が部屋に響く。

 

 アルファが手にしていた1冊の本――

 それは確かに絵本であった。

 

 

「ええ。そうよ。

 私がシャドウと出会い、彼からこの世界の真実を教えてもらったあの廃小屋の中にこれがあったの。

 その時に彼が見せてくれた聖教の教典と一緒にね」

「あ、あの……アルファ様?

 その絵本がシャドウ様の戦略とどう関係しているんですか?」

「どう考えてもただ偶然そこにあっただけなのでは……?」

 

 

 明らかにドヤ顔を浮かべているアルファに対してベータとガンマがそれぞれ思っていたことを口にする。

 というより、アルファ以外の皆が同じ疑問を抱いていた。

 

 

「それもちゃんと説明するわ。

 だけどその前に、この絵本の内容をみんなにも一度知ってほしいの。

 なぜならこの絵本の物語の中に彼の目的を知るヒントが隠されているから――」

 

 

 2人からツッコミ同然な疑問を受けながらも、なお得意気な顔のままのアルファはそう言って皆に内容が見えるように絵本を開いた。

 さながら読み聞かせのような形である。

 

 

「作品名は“3人の旅人と3つの望み”よ」

「あ。私それ昔読んだことあります」

「私も。結構有名な絵本だよそれ?」

「私も一度読んだことあるような……」

 

 

 ――ベータとゼータ、そしてイプシロンのそんな声をアルファは無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むかしむかし。3人の若い旅人がおりました。

 1人は獣人、もう1人はエルフ、そして最後の1人は人間でした。

 

 3人は「世界の果て」を目指して長い長い冒険の旅を続けておりました。

 

 

 

 

 長く苦しい冒険の果てに3人は「影の国」へとたどり着きます。

 

 そこは「世界の果て」に最も近い場所でした。

 

 

 

 

 「影の国」にやって来た3人はその国の王様から歓迎を受けました。

 

 王様はこの世界で知らないものはなにもないとされるほどの物知りです。

 

 盛大な宴が開かれる中、3人は王様に尋ねました。

 

 

「わたしたちは“世界の果て”を目指してここまでやってきました。

 “世界の果て”にはどうすれば行けるでしょうか?」

 

 

 すると、それを聞いた王様は困った顔をして言いました。

 

 

「“世界の果て”とは“死”のことである。

 残念ながら生きているものにはそこにたどり着くことはできぬ」

 

 

 それを知った3人は酷く落ち込んでしまいました。

 これまでの冒険の苦労が水の泡となってしまったからです。

 

 獣人は“世界の果て”にいるという最も強いものと戦うために――

 エルフは“世界の果て”を知るために――

 そして人間は“世界の果て”にいるという自分の両親に会うために旅をしていました。

 

 

 

 

 3人が“世界の果て”を目指していた理由を知った王様は、なんとか3人の望みを叶えてあげられないかと考えました。

 

 しかし、物知りな王様でも生きているものが“死”に足を踏み入れることができる方法など知りません。

 

 考えに考えた末に、王様は3人に対してこう言いました。

 

 

「がっかりさせてしまったお詫びに君たちにそれぞれ贈り物をあげよう。

 獣人には“この世に生きるすべての生き物を殺せる力”を。

 エルフには“世界の果て以外のすべての世に存在する知識”を。

 そして人間には“死後の世界に通じている扉”を」

 

 

 3人は「まあ、それなら……」と王様のその贈り物を受け取ると、それぞれ帰路につきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分たちの国に帰ったら早速いただいた贈り物を使ってみることにしよう」

 

 帰路の途中に3人はそう約束すると、やがてそれぞれの国へと帰っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一番最初に自らの国に帰ることができたのは獣人でした。

 

 獣人は王様から受け取った力で早速国中のありとあらゆる生き物を殺しました。

 

 やがて、その国には獣人以外に生きているものはいなくなりました。

 

 

 

 

「わたしは誰よりも強い!

 もう生きているものでは誰もわたしに勝つことはできない!」

 

 獣人はそう言い放つと、あろうことか“死”に戦いを挑むことにしました。

 

 

 

 

「よせ。お前ではわたしには勝てぬ」

 

 獣人の前に姿を現した“死”が獣人にそう語りかけます。

 

 しかし、獣人は聞く耳を持ちませんでした。

 

 

「そんなことはない!

 わたしはお前にだって勝ってみせるとも!」

 

 

 獣人はそう叫ぶと自分自身を殺しました。

 

 

 

 

 こうして獣人は死にました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に自らの国に帰ることができたのはエルフでした。

 

 エルフはもらった知識を使って早速“死”について考えてみることにしました。

 

 しかし、いくら考えても“死”がどのようなものなのかわかりませんでした。

 

 

 

 

「わたしはすべての知識を王様からいただいたのに……

 それでもわからないなんて……」

 

 エルフは再びがっかりしましたが、王様からいただいた知識で自らの国を豊かにしていきました。

 

 

 

 

「お前を迎えにきた」

 

 そんなある日、エルフのもとに“死”がやってきました。

 

 気がつくとエルフはすっかり年老いていました。

 

 

「ああ、そうか。

 “死”とは人生の最後に必ず巡り着くものだったのだな」

 

 

 エルフは納得しました。

 

 

 

 

 こうしてエルフはあの世へと旅立っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に自らの国に帰ることができたのは人間でした。

 

 人間は王様からもらった扉を早速開いてみることにしました。

 

 しかし、扉は重く閉ざされ、まったく開く様子がありませんでした。

 

 

 

 

「せっかく王様から扉をいただけたのに……

 これじゃあ両親に会うことなんてできないじゃないか」

 

 人間は仕方なく扉が向こう側から開いてくれるのを待つことにしました。

 

 

 

 

「死後の世界のものは生きているものの世界に足を踏み入れることはできぬ。

 生きているものがわたしに足を踏み入れることができぬように――」

 

 やがて、人間のもとに“死”がやってきました。

 

 人間はすっかり年老いていました。

 

 

「では、君ならこの扉を開けることができるか?」

 

 

 人間は“死”に問いかけます。

 

 

「それぐらいは容易いことだ。

 なぜならこの扉はわたしそのものなのだから」

 

 

 “死”は頷くと人間の前でゆっくりと扉を開きました。

 

 

 

 

 扉が開かれると、その向こう側には人間の父親と母親がいました。

 

 彼らも人間に会いたくていつまでもそこで待ち続けていたのです。

 

 こうして人間は両親と出会うことができました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人の旅人は世を去りました。

 

 しかし、彼らが影の国の王様からもらった贈り物はこの世界に残されました。

 

 3つの贈り物はわたしたちの生きているこの世界のどこかに今も存在するのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というお話なの」

「むぅ~……

 獣人がバカすぎて納得いかねーのです!」

「んん~……?」

 

 

 絵本を読み終えたアルファに対してデルタが不満の声をあげた。

 また、イータは読み聞かせをされているうちに睡魔に襲われ、今では部屋の隅で寝息を立てている。

 残念だが、こうなると彼女は当分目を覚まさないだろう。

 

 

「それでアルファ様、いったいこの絵本の内容のどこに主さまの教団に対する戦略が隠されているのですか?」

 

 

 話を戻すようにガンマが改めてアルファに尋ねた。

 

 

「それなんだけど……

 みんな、まずは思い出してみて?

 私たちがかつて御伽話だと考えていた魔人ディアボロスと3人の英雄のことを――」

「それって、さっき言っていた聖教の教典にも載っているあの?」

 

 

 イプシロンの問いにアルファは黙って頷く。

 

 少しの間部屋がイータの寝息を除いてシンと静まり返ったが、ベータがなにかに気づいたかのように声を発した。

 

 

「そうか……!

 アルファ様はその絵本の物語も実際にこの世界で大昔に起きた出来事だと考えているんですね?」

「さすがねベータ、そのとおりよ。

 彼がこの絵本を教典と一緒にあの廃小屋に残していたのは、そのことを私たちに気づかせるためだった――!」

「なるほど!

 主さまはあえて自分で語らず、私たちが自らその事実に気づくことに期待されていた……!」

「さすがはボスなのです!」

 

 

 ベータとアルファの会話から、納得したガンマとデルタが感嘆の声をあげる。

 

 しかし、そんな彼女たちに対してイプシロンとゼータだけはまだその顔に疑念を浮かべていた。

 

 イータは寝ているのでそれ以前の問題である。

 

 

「ちょっと待って。

 仮にその絵本の内容も本当のことだったとしても、それだけじゃまだ納得できないよ?」

「そうですアルファ様。

 そのことと主さまの対教団戦略がどう繋がるというんですか?」

 

 

 2人の口から飛び出した疑問に、アルファは「いい質問ね」とつぶやいて答えた。

 

 

「この絵本の最後の一文をもう一度読んでみて?

 “3つの贈り物はわたしたちの生きているこの世界のどこかに今も存在するのです”――

 そのうえでこの絵本の登場人物が誰であったかも思い出してみて?」

「えっ?

 登場人物ですか……?」

「3人の若い旅人――獣人とエルフと人間、そして影の国の王様と“死”だね。

 “死”は厳密には“人物”と言っていいのかはわからないけど……」

「ええ、そうね。

 そしてさらに思い出して。

 この絵本でエルフが影の国の王様からもらったものがなんであったかを……」

「エルフがもらったもの?

 確か、“死以外のすべての世に存在する知識”――」

 

 

 そこまで言ったところでゼータの口が止まり、次の瞬間彼女の顔がはっとした表情に変わった。

 

 それを見てアルファの口元が若干つり上がる。

 

 

「“影の国の王様からもらったすべての知識”――

 それはつまり……!」

「ま、まさか、主さまの“陰の叡智”――!?」

「どうやら2人とも気がついたようね」

 

 

 イプシロンの口から漏れた『陰の叡智』という言葉に、アルファと寝ているイータを除く全員が顔に驚きの色を示す。

 

 

 ――『陰の叡智』。

 それは、シドがアルファたちに教えた()()()()()()()()未知の知識や技術の総称である。

 今アルファたちがいる家の建築構造であるツーバイフォーも、そんな『陰の叡智』のひとつだ。

 

 そして、彼女たちが少女という身でありながらシャドウと共に『ディアボロス教団』をはじめとした悪党たちと渡り合えているのも、そんな『陰の叡智』に由来する装備や技術・技能によるところが大きい。

 もちろん、彼女たちの日々の努力の成果でもある。

 

 

「そう。絵本の中における“影の国の王様からもらった知識”とは“陰の叡智”のこと――

 そして、影の国の王様が旅人に授けたものは他に2つある!」

「獣人が授かったという“この世に生きるすべての生き物を殺せる力”……!」

「そして、人間に与えられた“死後の世界に通じる扉”――!」

 

 

 少しばかり興奮してきたのか少々声が荒げてきたアルファにつられるように、イプシロンとベータが思わず絵本の中に出てきた「贈り物」をそれぞれ口にする。

 

 

「シャドウは私たちに密かに示していたのよ。

 ディアボロス教団を打倒するために必要となるものがなんであるかを――!

 すなわち、“すべての生き物を殺せる力”と“死後の世界に通じる扉”、そして“陰の叡智”のすべてがシャドウガーデンに揃った時、勝利への道が開かれるということ!」

「おお……!」

「彼が今まで近隣の教団構成員や施設のみを標的としていたのは、残る2つの“贈り物”の手がかりとなる情報を掴むため――!

 そして、教団側に2つの内のどちらか、もしくはその両方が渡っていないかを確かめるためだった!」

「な、なんと……!」

「確かに、残る2つの“贈り物”が“陰の叡智”に匹敵するものであるとすれば、教団だって見過ごしたりはしない……

 むしろ自分たちが手に入れて利用しようとするだろうね」

 

 

 徐々に発言に熱がこもっていくアルファに触発されてデルタやガンマが感嘆の声を漏らし、ゼータが助け舟を出すように自らの解釈を口にする。

 

 

「――ここまで説明すればもうわかるでしょう?

 これこそが彼の対教団のための戦略だったということが……

 そして、ここから導き出される結論はたったひとつよ。

 それは――」

「そ、それは……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちはこの3年あまりの間、シャドウの期待にまったく応えられていなかったということよ!」

 

「「「な、なんですってーーーーーーーーーー!?」」」

 

「ガーーーーーーンなのです!」

 

「そ、そんな……!」

 

「んぅ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マンガかアニメだったらものすごく集中線をかけられていそうな表情をしながら自らが導き出した結論を叫んだアルファに対して、ベータとガンマとイプシロンはまったく同じ驚きの声を同時に発し、デルタとゼータはそれぞれショックを受ける。

 

 一方で、仲間たちがすぐ近くで大声をあげているというのにイータはまったく目を覚ます様子がなかった。

 完全に熟睡かつ爆睡である。

 

 

「――彼は私たちが気づいてくれているのを待っていたのよ。

 だけど、私たちが至らなかったばかりに……!」

「では、主さまが今まで教団に対して大掛かりな作戦行動をとらなかったのは……」

「今の私たちでは教団と本格的に戦っていくのは時期尚早だと思われていたってこと――!?」

「そんな……!

 私たちがかえってシャドウ様の足枷となってしまっていただなんて……!」

「ぼ、ボス~……

 デルタもっと強くなるのです……」

「くっ……!」

 

 

 自分たちはまだシャドウが満足いくだけの存在には至っていない――

 

 彼から「教団と戦っていくための戦力としてはいまだ不足」と判断されている――

 

 イータ以外の『シャドウガーデン』のメンバーは皆少なからずショックを受けた。

 

 

 

 

 ――なお、今さら説明するまでもないが、シャドウもといシドはそんなことは微塵も思っていない。

 

 そもそも彼は『ディアボロス教団』が実在していることなど知らないし、これまで自分たちが戦ってきた教団の構成員たちのことも盗賊かチンピラだと思っている。

 

 

 さらに言ってしまうと、『3人の旅人と3つの望み』の絵本があの廃小屋にあったのはまったくの偶然にすぎない。

 

 そもそもあの廃小屋にあったものはシドの私物ではなく、彼がアルファと出会う以前に盗賊から略奪してきた戦利品の残り――すなわち、彼が「不要」もしくは「値打ちなし」と判断して放置していったものだ。

 

 その中にたまたま聖教の教典と絵本が混ざっていただけであり、シドの意図などそこにはまったく含まれていない。

 

 ――もちろん、絵本の内容が今のアルファたちや聖教の教典の内容と若干被っていたのも本当にただの偶然である。

 

 

 勘違いや盲信もここまでくるともはや「笑い」を通り越して「恐怖」である。

 

 こうして若者たちの間でカルトは広まっていくのだろう。

 

 それはこの世界であろうと、こことは違う世界のマグルや魔法族でも同じことのようだ。

 

 

 

 

「――だけど、それも今日までよ。

 こうして彼の真意がわかった以上は、私たちもそれに則った行動をしていけばいい」

「そうですね……

 しかし、具体的にはどうように?」

「当然、先ほどの絵本の中に登場した残る2つの“贈り物”を探す。

 ゼータもさっき仮定していたけど、教団の手に渡っていた場合は奪取することも視野に入れる必要があるわね」

 

 

 ベータと話をしながらアルファは己の目をゼータともう1人の獣人であるデルタのほうに向ける。

 

 

「絵本の中では“贈り物”のひとつである“すべての生き物を殺せる力”は獣人が与えられていた――

 おそらく、このことは“贈り物”の捜索における重要なヒントになっていると私は思うの。

 デルタ、ゼータ、あなたたちが獣人の里にいた頃にこのような話をちょっとでも耳にしたことはないかしら?」

「私はないね。

 さっきの絵本自体は幼い頃に読んだことはあるけど、そんな物騒な力は聞いたことがない」

「デルタたちはそもそも本なんて読まなかったのです」

「そう……

 ごめんなさい。さすがに無茶振りだったわ」

「あ。だけど――」

 

 

 なにかを思い出したかのようにゼータが突然口を開いたため、アルファは下げかけた頭を止めて再び彼女のほうに目線を送る。

 

 

「確実な手がかりというわけじゃないけど、もしかしたらヒントになるかもしれない獣人の部族に心当たりがある」

「部族?」

「うん。銀狼族っていう一族。

 私は直接会ったことはないけど、獣人の中で一番魔力の扱いが上手いらしいよ。

 “すべての生き物を殺せる力”というのが魔力やアーティファクト絡みのものだとしたら、なんらかの情報を彼らが持っているかもしれない」

「なるほど……

 デルタ、一応聞くけど銀狼族という部族に覚えは?」

「ないのです!」

「だろうね。バカ犬が知っているわけがない」

「むっ!?

 メス猫、それはどういう意味なのです!?」

「やめなさい2人とも。

 私たちは今重要な話をしているんだから」

 

 

 このような時でもいきなり喧嘩をおっぱじめようとする2人をアルファは咎める。

 デルタとゼータ、それぞれ犬系と猫系だからか、この2人はとにかく仲が悪いというか相性が悪く、しょっちゅう喧嘩をする。

 そして、そんな2人をアルファが叱って止めるまでがワンセットであり、この家ではお約束の光景だ。

 

 

「しかしアルファ様、残る“贈り物”を探すといっても私たちだけでは限界があります」

「はい。私たち7人だけでは捜索できる範囲はこのミドガル王国内だけでやっとでしょう。

 人員の確保――新たな仲間を迎え入れることは急務だと思います」

「――そうね。

 教団や“悪魔憑き”の呪いの調査もこれまでどおりやっていかなければならないから、やはり人材の獲得と組織の規模拡大は優先的に進めたいところだわ」

「わかってはいましたけど、やることが本当に多すぎますね……」

「まだ私たちは7人いるからやるべきことを分担できるだけマシよイプシロン?

 シャドウは私たちと出会うまではこれらのことを自分1人で考えて進めていたのだから……

 加えて、彼は私たちと違って普段は表立っての行動はできない。

 そんな制約の中で彼は今まで教団という強大な敵と1人で戦ってきた――」

「……そう考えると、ますます今後私たちがシャドウ様の負担にならぬよう努めなければなりませんね」

 

 

 これからの自分たちの行動方針を話し合いつつ、改めてこれ以上主であるシャドウの手を煩わせるわけにはいかないと決意を新たにするアルファたち6人。

 

 ――しつこいようだが、彼女たちが考えているようなことをこれまでシャドウもといシドが行っていたことは一度もないし、当然考えていたこともない。

 

 

「ん~……」

 

 

 そしてイータはいまだに部屋の隅で寝息をたてていた。

 

 

「――ところでアルファ様、シャドウガーデンの規模を拡大していくとなると、いずれはこの廃村だけでは人員を収容しきれなくなるのではないでしょうか?」

「ガンマ、そのことなのだけれど……

 私からみんなにひとつ提案があるのよ」

「提案ですか?」

「ええ。

 前々から考えてはいたことなのだけれど――」

 

 

 アルファは一度黙って仲間であり家族でもある目の前にいる面々を見やる。

 

 ほんの一瞬だけ「はたして言っていいのだろうか?」とでも言いたげな表情をその顔に浮かべた。

 

 それを見たベータとイプシロンが「イータが肝心な時に寝ているから言いたくても言えない状況になっている」と勝手に解釈し、ここにきてようやくイータを叩き起こすという行動に出る。

 

 当然いきなり夢の世界から緊急帰還させたれたイータは不満の声を漏らした。

 

 

「ううぅ~……

 なぁ~にぃ~……?」

「あんたねえ……

 こんな時に寝てんじゃないわよ!」

「……ごめんなさいねイータ、これから言うことは本当に重要な話なの」

 

 

 別に決定事項を告げるわけではないのでイータには引き続き寝ていてもらってもよかったのだが、そう言うとベータとイプシロンに悪いのでアルファはあえてなにも言わなかった。

 ――そのようなことを言うと普段は話を聞くのが苦手なデルタまで眠りかねないというのもある。

 

 

 気を取り直して再度仲間たち1人1人に目を向けた後、アルファは意を決したように口を開いた。

 

 

「今後さらに厳しい戦いに身を投じていくであろうシャドウの負担を減らすため、そしてシャドウガーデン全体のため――

 私たち“七陰”は一度彼から距離を置いたほうがいいのかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Avada Kedavra(息絶えよ)

 ……う~ん、やっぱりダメか。

 かつてのように緑色のビームみたいな光が出せるようになるのはいったいいつになるのやら……」

 

 

 同じ頃、とある森の中で偶然にも「すべての生き物を殺せる力」を有する銀狼族の少女がその力の修行に勤しんでいた。

 

 当然彼女は世界全土を巻き込もうとしている1人のエルフのとんでもない勘違いに自分も巻き込まれそうになっていることなど知りはしない。




 ギャグ回って難しい……


イッチ「“すべての生き物を殺せる力”?」
シド「“この世のすべての知識”?」
モードレッド「“死後の世界に通じる扉”?」

イッチ「…………」
シド「………」
モードレッド「…………」

イッチ「さすがにアバダ・ケダブラのことじゃないな! ヨシ!」
シド「さすがに“陰の叡智”のことじゃないね。うん」
モードレッド「うむ! 間違いなく“黒キ薔薇”のことではないな!」

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