元レガ主のワイ、二度目の転生はケモ耳美少女だった件 作:アルティメット穢れた血
アニメ第2期第8話でイータがベータのことを「自称可憐なエルフのお姫様」と言っていたけど、アニメ第2期第3話のあるシーンを見返してみると自称ではない気がしてきた……
これってやっぱりエルフの国を舞台にしたエピソードもいずれやるってことだよね?
――銀狼の民には魔人の血が流れている。
――銀狼族の血は「穢れた血」である。
そのような流言を耳にするようになったのはいつからであろうか?
自分たち獣人を部族を超えてひとつにまとめていた大英雄シヴァが世を去ってから?
それともそれ以前からか?
……いや、今はそのようなことを考えている場合ではない。
ふと頭の中に浮かんできた雑念を払い、両足に全身全霊の力をこめて紅蓮に染まる街中を駆ける。
かつて大英雄シヴァを支えし有力部族として栄華を誇っていた銀狼族――
その都が今、長くも短い、短くも長い歴史に終止符を打とうとしていた。
視線を上げればかつて華やかだった街並みが業火に焼かれる姿が目に映り、逆に視線を下に向ければほんの数時間前まではその生を謳歌していたであろう者たちの骸とそれから溢れ出ている鮮血が視界を埋め尽くさんとしている。
――「盛者必衰」とはまさにこのことか。
若き銀狼族の男はその内から湧き上がる嘆きや怒りを噛み締めつつも己の両足に改めて力をこめた。
「
すぐに脱出を――!」
目的地であった屋敷に無事にたどり着くことができた男は、目的の人物――自分たち銀狼族の族長の部屋へと一目散に駆け込んだ。
すでにこの屋敷もいたるところから炎が上がっており、崩落するのは時間の問題であった。
――しかし、ここにきて彼はその足とその口から発していた声をぴたりと止めてしまう。
無理もない。
彼の前には日々部族の皆から尊敬の眼差しを向けられていた族長その人がすでにこと切れた状態で存在していたのだから。
腕に、足に、腹に、肩に、背中に、その体のありとあらゆる箇所に傷を負い、場所によっては途中で折れた剣であろう刃が深々と突き刺さりながらも、その顔にはまったくといっていいほど苦痛の表情は見られず、その手には自らの愛剣を握ったままの立ち往生――
今の状況が状況でなければ、誰もがその姿に見事とも天晴れとも称賛の声をあげたであろう。
「
「奥方様!?」
部屋の片隅から聞こえてきた自分の名前を呼ぶ声によって、男――風雅は族長の妻の存在と彼女がまだ無事であることに気がついた。
急いで駆け寄る風雅であったが、それによって奥方の体もいたるところに傷を負っており、彼女が背を預けていた壁には大きな赤い染みができあがっていることにも気づいてしまう。
彼女の命が助かる可能性はもはや残されていないことは明白であった。
「この子を、お願いします」
「――っ!」
風雅が近寄るまでその身を丸めていた奥方がゆっくりと体を広げると、彼女のその両腕には生後間もない銀郎族の赤ん坊が1人抱かれていた。
「――本当に、強い子です。
私と同じ妖狐ではなく銀狼、として生まれたから……あの方に似たのでしょうね……」
「
その顔から生気が徐々に失われていきながらも、奥方はふふっと笑みを浮かべて「壱与」と呼ばれた赤ん坊の顔を軽く撫でる。
壱与に一切の外傷はなく、それどころかこのような状況でありながらも表情ひとつ変えることなく呑気に眠りこけていた。
赤子の身ながらなんという胆力だろう、と黙ってその様子を見守っていた風雅は思った。
先の自らの発言のとおり、奥方は銀狼族ではない。
妖狐族という獣人の中でもとびきり力が弱いとされる部族から嫁いできた女だった。
当時、弱小部族であった妖狐族は藁にも縋る思いで力ある他部族の庇護を、族長がそれまでいた妻を正室、側室問わずすべて失ってしまった銀狼族は族長の新たな妻となる女をそれぞれ求めていた。
その両者のタイミングが偶然にも一致したことから実現した政略結婚――それによって誕生した夫婦の間に生まれた子が壱与であった。
妖狐族の者たちは生まれた子が自分たちと同じ妖狐でなかったことを嘆き、惜しんでいたが、奥方自身は自分たちとは違い力強い子になってくれそうでよかったと喜んだ。
もちろん同族たちの前でそのようなことは決して口にはしなかったが。
――そして現在、母の腕に抱かれている壱与は確かに力強い子に成長するであろう片鱗を見せつけていた。
「この身と命に代えてもお守りいたします――!」
風雅は奥方からゆっくりと壱与を手渡されると、彼女に代わって壱与の身をしっかりと抱きしめた。
おそらくこの子は自らの両親の顔も名も知ることなくこの先生きていくことになるだろう。
だが、それはかえって良い事なのかもしれない。
「穢れた血」「呪われた血」などと呼ばれ、かつては共に国を支えていた盟友であった他部族たちから次々と裏切られ見捨てられてきた銀狼族の悲劇を知ることなく穏やかに生きていけるであろうから――
「……風雅」
「はっ。なんでしょう?」
「最後に、これを……!」
「!?」
風雅は一瞬目を疑った。
奥方が最後の力を振り絞るようにゆっくりとその身を上げたと思うと、彼女を中心に強力な魔力の奔流が走る。
すると、それと同時に彼女の妖狐族特有の太く長い尾が2本、3本、4本、と分裂していくかのように増えていき、最終的にその数を9本に増やした。
――妖狐族はその力を強めれば強めるほど尾の数を増やしていく。
かつて風雅はそのような話を聞いたことがあった。
そして、そんな妖狐族たちの間で伝説とまで呼ばれているのが、輝く9本の尾を持つ存在であるとも。
確かその名前は――
「金毛九尾……」
風雅の口から思わず零れたその名のとおり、自身の目の前に立つ妖狐族の女の尾は自らの強大な魔力によりその9つの尾を金色に輝かせていた。
「――まさかこのようなところで伝説とも謳われし存在と出会えるとは思いませんでした」
「強すぎるだけの力は、争いや、災厄を招く……
かつて、大英雄シヴァ様が、遺された言葉、です。
その言葉に共感し、今日まで、皆には隠して、おりました……
あの人以外の、方には……」
崩れ落ちるようにその場に腰を下ろす奥方の視線の先には、骸となりながらも今もなお圧倒的な存在感をその場に示している銀狼族族長の力強い背中があった。
奥方は自らの尾のひとつにそっと手を添えると、次の瞬間にはそれをぐっと掴み、そこから何本もの毛をぶちりと強引にむしり取った。
「……これを。
この先、壱与に必要だと思った時に、渡してあげてください……」
「――はっ」
弱々しく震える手から今にも零れ落ちそうだった遺品を風雅は奥方から受け取る。
伝説の存在の尾毛は、ただの毛でありながらもそれ自体に強い魔力が秘められていることが風雅にも一目でわかった。
「壱与、どうか、その生に平穏と幸があらんことを――」
それが奥方の最期の言葉だった。
風雅に尾毛を手渡せたのを確認すると彼女は床に音をたてて倒れ込み、その言葉を遺してふたつの眼をゆっくりと閉じる。
「…………」
風雅はそんなことをするのは時間の無駄であることはわかってはいたが、奥方の体を族長の背後へと移動させると、夫婦に対して最後に深々と頭を下げた。
生き残った銀狼族は少数の群れに分かれ、各々が人知れず「隠れ里」と呼ぶべき集落をつくり、そこで暮らすようになった。
風雅も自身の妻たちや僅かに残された親族、そして幼い子供たちと共にとある山奥に身を潜めた。
集落のまとめ役となったことで風雅は表向きは族長となったが、彼は亡き先代に対する尊敬の念から「
――自分の子として育てることになった先代と奥方の遺児から長扱いされたくなかったというのもある。
そんな先代たちの遺児である壱与は、亡き両親の想いが実ったのか、それとも真実を知る風雅たち大人の努力の賜物か、はたまた両方かは定かではないが、大きな怪我を負ったり病に苦しめられることもなくすくすくと成長していった。
――ただ、時おり里の者が誰も聞いたこともない言葉を口にしたり、1人でいる時に突然笑い出したりといった奇妙な言動をすることがあるので皆を不思議がらせた。
一時期は風雅ら大人たちが「壱与様は自分が風雅の本当の子ではないことに気づいており、それゆえに心に変調をきたしてしまっているのではないか?」などと心配したこともあったが、その後それは杞憂であったことがわかり安堵したということもあった。
壱与が齢二桁になった――すなわち、風雅たちが集落で暮らすようになって10年あまりが過ぎた頃、壱与は度々自分の家を夜中にこっそりと抜け出すようになった。
そして、集落すら抜け出し森に入っていくと、そこで太めの木の枝やら生息している魔獣の体の一部やらを集め、1人黙々となにかを作ることに没頭するようになったのである。
当初は獣人の子供ゆえの気まぐれかなにかだろうと思い見逃していた風雅であったが、さすがにそれが1年以上も続き、日に日に壱与がその身にまとう魔獣の死臭を強めていくと捨て置くことができなくなった。
「壱与、俺や他の者たちに隠れていったいなにをしているんだ?
かれこれ1年以上夜に家や里を抜け出して森で魔獣を狩っているみたいだが――?」
ある日、風雅は自分の部屋に壱与を呼び出し、彼女がなにをしているのかを問い質した。
それに対して壱与は隠し事がバレたことに対して気まずさや罪悪感を抱いているというよりも、恥ずかしいとでも言いたげな表情を浮かべながらこう答えた。
「実は杖を作っているのです」
――杖?
それを聞いた風雅は、ほんの一瞬だけだが壱与が気を違えてしまったのではないかと思った。
風雅にとって「杖」というと、足腰が弱い老人や足を負傷した者が手にする長物というイメージだったからだ。
杖を作るのになぜ魔獣の体の一部がいる?
拾ってくる木の枝などの木材だけで十分作れるものじゃないのか?
「“杖”といっても御屋形様が思い浮かべているそれではありません。
わたしの言っている“杖”とは魔力を効率的に運用するための補助器具のようなものです」
風雅の考えていることが読めたのか、壱与は再び口を開くと彼に対して自らが作り出そうとしているものについて説明を始めた。
曰く、杖は魔剣士たちが持つ剣の代わりにもなるものである。
曰く、杖を作るには本体となる木材の他に、魔獣の体の一部を素材とした芯が必要になる。
曰く、杖には個人ごとに相性があり、自分に合った杖を見つけ出す――この場合は作り出さなければならない。
――なんだそりゃ?
壱与から話を聞いた風雅は、やはり気が違ってしまったのか、と思わず目頭を押さえた。
しかし、不思議と壱与の口から語られた言葉のひとつひとつからは嘘や偽りの類は感じられなかった。
――もしや壱与は俺たちでは及ばぬ叡智をその身に秘めているのではないか?
ふと、風雅の頭にそのような考えが浮かんだのは偶然か必然か。
そして、その思いと同時に10年以上前の「あの日」の出来事が彼の脳裏に鮮烈に蘇った。
――まさか、すべてはこの時のためだったというのだろうか?
奥方様はこのようなことが起きるとわかっていたのか?
そのようなことを思いながら風雅は黙って自室の棚の奥深くから隠していた
「御屋形様、これは――?」
「――これなら芯の素材に使えるんじゃないか?」
――金毛九尾の尾毛。
壱与の母の遺品にして形見であるそれは、10年以上の歳月が流れながらも金色に光り輝き、強い魔力をその内に秘め続けていた。
「御屋形様! 杖ができあがりました!」
壱与に金毛九尾の尾毛を渡して半年近くの時が経過したある日、壱与がその顔に満面の笑みを浮かべながらそう言って風雅の部屋に飛び込んできた。
彼女のその手に握られていたのは「杖」というにはあまりにも短い、妻や女たちが飯を作る時に使う菜箸かと思わせる茶色い棒だった。
しかし、実際によく見てみると箸よりは一回りも二回りも太く、かつ持ち手の部分には握りやすいように加工が施されていた。
「それでいったいなにができるんだ?」
「そう言うと思って用意しておきました!
早速使い方をお見せしますのでついてきてください!」
上機嫌で家を出た壱与につれられて森へ入る風雅。
少し歩いたところで木々が生えていない頭上がぽっかりと開いた場所に出た。
――そんな空間の中心に、成人男性1人分の長さはあろうかという丸太がどんと1本立てられている。
「今からあの丸太に魔法を撃ち込みます」
「魔法……?」
楽しそうにそう語る壱与に対して風雅ははじめて聞く単語――おそらく名称だろうと判断した――に頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「まあ、見ていてください」
そう言って壱与は丸太のほうに近づいていき、やがて丸太と1メートルほど距離が空いたところで立ち止まる。
そして、右手に持っていた杖の先端を丸太のほうにゆっくりと向けて口を開いた。
「
壱与の口からまたしても飛び出した聞き覚えのない言葉と共に、彼女の手に握られた杖の先端から魔力の奔流が一瞬だけほとばしるのを風雅は感じた。
それと同時に、壱与の前に立てられた丸太が勢いよく後方へと吹き飛んでいく。
吹き飛んだ丸太はその先に生えていた木に衝突し、森の中にドンという音を響かせる。
その衝撃で木から何枚もの葉がひらひらと地面に落ちていった。
「――とまあ、こんな感じです」
「…………」
得意気にこちらに振り返った壱与に対して風雅はかける言葉が見つからなかった。
目の前で起きた光景を信じられなかったというのが理由である。
自分たち銀狼族に限らずある程度魔力を制御できる術を身につけた者は、魔力そのものを銃の弾丸のように飛ばすことはできる。
だが、それは基本体外に放出された魔力を一定の形に集束させることで魔力の拡散を半ば強引に抑え込むことで可能とする術だ。
つまり、必ずある程度の魔力は集束させ切れずに拡散して消えてしまう。
手のひらで水をすくうと指の隙間などから必ず零れ落ちてしまう水があるように――
だが、壱与が今自分に見せた「魔法」というものは、明らかに魔力制御によるそれとは明らかに違っていた。
魔力が放出されたのは壱与の右手に握られていた杖の先端部。本当にそこだけだ。
風雅はかつて先代が魔力放出を応用して空を飛んだところを見たことがある。
曰く、足の裏や姿勢を制御する部位からのみ魔力を放出させ、その勢いで浮遊・行動を可能とするらしい。
当然、そのようなことをするためには体内の魔力の流れを精密にコントロールする必要が生じる。
そして、それほどの芸当ができるようになるためには莫大な時間をかけた修練や努力を要することは言うまでもないことだ。
もし、今見せられた「魔法」とやらの正体が、極めて精密かつ繊細、および正確にコントロールされた魔力制御によるものだとすれば――
「天賦の才、か……」
風雅の口からつぶやかれたその言葉は、吹き飛んだ丸太を元の位置に戻している壱与の耳には聞こえなかった。
銀狼族の集落が次々と襲撃されている。
そのような話が風雅のもとに届いたのは、壱与が風雅に魔法を披露してから数か月後のことだった。
他の集落から来た連絡役の者からもたらされたその情報の真偽を確認するため、最も近い別の里に遣いを送ったのが10日ほど前のことである。
――そして、本来ならばその遣いの者が里に戻る予定の日からすでに数日が経過していた。
「御屋形様これは……」
「ああ……
おそらくすでに襲撃されたとみて間違いないだろう。
「…………」
部屋に集まった主だった大人たちの間で緊張が走る。
都を失い早12年――
それ以前から他部族による銀狼族狩りは行われていたが、どうやら彼らは本気で自分たちを1人残らずこの大地から駆逐するつもりのようだ。
――これも
――流言により穢された我らの血はそこまで彼奴らには悪しきものに見えるらしい。
――まるで呪いだ。
部屋にいた誰かがそのような声を漏らす。
いや、もしかしたらそれは風雅が無意識に漏らしたものかもしれない。
呪い――確かに的を射た例えだ。
状況から考えて次に狙われるとすれば自分たちのいるこの里であることは疑いようのないことであった。
さながら「血の呪い」とでも呼ぶべきか――
「――俺たちだって黙って殺られるわけにはいかねえ。
女子供はいつでも里の外から逃がせるように備えはしておこう」
風雅のその言葉に大人たちは皆黙って頷く。
全員わずかばかりの恐れを当然浮かべてはいたが、その顔には覚悟があった。
「御屋形様、壱与様はいかがなさいますか?」
「壱与?」
ふいに部屋にいた若い男の1人が風雅に意見する。
思いがけない問いかけだったために、風雅はつい問い返してしまった。
「はい。
あれ以降も夜な夜な里を抜け出して森に行っているようですが……
さすがにこうなると危険ではないでしょうか?」
「むぅ……」
もっともな意見である。
この場にいる者たちは全員壱与が風雅の実の子ではなく、先代の遺児であることを知っている。
そして、壱与は銀狼族にとって自分たちの命よりも優先して守るべき存在――それほど先代とその血の存在は大きかった。
当の壱与本人はそんなことまったく知りもしない話だが。
――確かに、状況的に壱与に夜里を抜け出すことは禁ずるべきなのかもしれない。
しかし、風雅は壱与ならばこの状況でも1人切り抜けられるのではないか、という奇妙な安心感があった。
それはあの日、彼女から「魔法」という天賦の才の一端を垣間見させられたがゆえであろうか――?
「――いや、むしろ無理に里や家に留めるほうが壱与様にはかえって身を滅ぼすことになるやもしれん。
壱与様はこれまでどおりにさせてやろう」
そのほうが彼女だけでも生き残れるかもしれねえ、と風雅は吐き捨てるように言った。
彼のその言葉に大人たちも皆――もしかしたら渋々かもしれないが――納得して頭を下げた。
「畜生め……!」
里の中心部にある広場。
普段は部族の集会場などで用いているそこは今や地獄と化していた。
同胞たちや襲撃者たちの死体がそこかしこに転がり、大地は彼らから流れる血により真っ赤に染まっている。
唯一普段と変わっていないのは夜空とそこに浮かぶ月だけだ。
「こんな時に限って満月とは……
何事もなければ月見酒にしゃれ込むこともできただろうによ……!」
皮肉気に口を歪めながら風雅は広場の中央に1本だけ植えられた桜の木に背を預ける。
すでに体のあちらこちらに傷はあるが、いまだに致命傷にまでは至っていない。
まだやれる、と風雅は大きく息を吸い、そして吐いた。
――敵ながら見事なまでの夜襲だった。
見回りの者や風雅たち歴戦の戦士すら気がつかぬほどの完璧な奇襲攻撃。
気がついた時には大人たちの多くが男女関係なく一方的に狩られていた。
そして子供も――
「……!」
ギリッと歯噛みすると同時に剣を握る手に力をこめる。
まだ敵は残っている。
そしてそれはこちらにゆっくりと近づいてきている。
銀狼族特有の耳の良さと鼻で、敵と血の臭いを感じ取り、風雅は背を桜の木から離した。
「ヒヒヒ……
オレの部下たちをここまで殺るとは雑魚にしちゃなかなかやるじゃねえか……
もしかしてテメエがここのボスか?」
「そういうあんたがこいつらの大将か?」
月明かりに照らされながら堂々と目の前に現れた男――
ニタニタと下衆な笑いをその顔に浮かべ、その手にだらんと面倒くさそうに血に濡れた剣を持っているその姿は、まさに「悪党」と呼ぶにふさわしい風貌をしている。
――まさか襲撃者が獣人でなく人間だとは思わなかった。
目の前の男を見て風雅は改めて敵の正体に内心少しばかり驚く。
てっきり襲撃してきたのはかつて都を滅ぼされた時のように他部族だと思っていたからだ。
「本当はメスのガキは可能なら生け捕りにしろって言われてたんだけどよぉ~……
オレたちは面倒なことは嫌いなんだ。
だから誰彼構わず目の前にいたやつは全員殺っちまったぜぇ~。ヒヒヒ……
ま。そもそもオレ以外のやつは“できそこない”だから殺し以外のことはできねえんだけどよぉ~。
ヒャーハハハハハハハハハハ!」
「……御託はいい。
お前も剣を持つ者ならさっさと構えろ」
風雅は今すぐにでも目の前で癪に障る笑い声をあげている輩を切り捨てたい衝動に駆られていたが、男はその様子に反して一切の隙がないことも見抜いていた。
「ハァ~……そうかよ。
まったく、せっかちな野郎だぜ……
それじゃあ、望みどおりテメエもさっさと殺してやるよぉ~」
「死ぬのはお前のほうだ、下衆」
「ヒヒヒ……ゲスぅ?
オレはそんなダッセエ名前じゃねえぜ。
チルドレン2nd『戦血嗜好』のカマセーヌ!
それがオレの名前だぁ!」
「――風雅」
互いに己の名乗りを上げるのと同時に、風雅たちは大地を蹴った。
「……ったく、最期は案外しまらねえもんだな」
桜の木に再び背を預けながら風雅はそう自嘲する。
その体は己の血で赤く染まり切り、傷口からは今も大量の血が流れ落ちて足下に赤い小川を作り出していた。
ちらりと視線を下げる。
気がつけば左腕は肘のあたりからなくなっていた。
おそらくこの広場のどこかに周囲の死体たちと一緒に転がっているかもしれない。
これだけ派手にやられていながら即死は免れたのは、はたして運がいいやら悪いやら――
「はぁ……」
軽く息を吐き、桜の木に寄りかかりながらずりずりと腰を下ろしていく。
すでに足や下半身からは力は抜け切ってしまった。
あとは死ぬのを待つだけだ。
――壱与様ははたして無事だろうか?
いや、あの方のことだ。おそらく大丈夫だろう。
あの方は俺や先代にはなかった天賦の才と底知れぬ叡智がある。
「あ……」
体中から一気に力が抜け落ち、桜の木に寄りかかっていた体がごろんと大地に転がってしまう。
最期くらい先代のようにカッコいい死に方をさせてくれてもバチは当たらねえだろうに、と風雅は再び苦笑いを浮かべた。
――目を開けると空に浮かぶ月がこちらのことなどついぞ知らぬと言わんばかりに相変わらず輝いている。
「光……」
風雅がそうぽつりとつぶやくと、彼の視界は真っ赤に染まった。
どうやらいまだに流れ続けている自分の血が目に入ったらしい。
もはや痛みも感じなかった。
「……ん?」
そんな赤い世界の中で風雅は見た。
視界を埋め尽くす赤の中からひときわ強く輝く小さな真紅の光――
それが見知らぬ誰かの瞳の輝きであること、そして今自分の目に映っているものが今際が見せている幻であることに風雅はすぐに気がついた。
――だが、幻にしては妙に現実味を感じる。
まるで、この世においてこの先必ず起こりえるものを見せられているような――
「っ!」
風雅は見た。
その目から真紅の輝きを放つ黒衣の男の姿を。
その男を中心に立つ多くの黒衣の者たちを――
そして、そんな黒衣の者たちの中に混ざる、同じく黒衣を身にまとった自分がよく知る者の姿を。
実際にはその人物の特徴とよく似ているだけの別人かもしれない。
現に
目の前に映る黒衣の者は明らかに
――だが、風雅には間違いなくその人物が
「は、はは……」
風雅は笑った。
それは安心感からだろうか?
それとも、目の前の者たちが自分たちの仇をとってくれるだろうという予感からか――
理由は風雅自身にもわからない。
だが、彼は笑わずにはいられなかった。
「
あなたたちの、ご息女は……」
――この世界を変える光となられましょう。
風雅の意識はその言葉を最期に漆黒の中へと沈んでいった。
シヴァ「強すぎるだけの力は争いや災いを呼ぶで?」
先代「わかる」
奥方「ですよね~」
風雅「それを扱う心が大切だよな」
イッチ「アバダ・ケダブラ早く使えるようになりたいンゴおおおおおおおおおお!」