元レガ主のワイ、二度目の転生はケモ耳美少女だった件   作:アルティメット穢れた血

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 あぁ~、モチベが上がるんじゃ~。



動き出す世界

「全滅だと……!?

 それは確かな情報なのか!?」

「――はい。

 事後処理と確認のために向かわせた部隊からの報告です。

 人員は皆我々の部署の者たちなので一切の虚偽はないものかと……」

「なんということだ……」

 

 部下からの報告を受けたオルバ子爵は崩れ落ちるように椅子に腰をかけると、そのまま机にもたれかかり己の頭を抱えた。

 

 

 獣人の少数部族である銀狼族の隠れ里――

 そのひとつの在処を彼らが掴んだのは今から数か月前のことだ。

 

 銀狼族は古くからその血に「英雄の力」を宿していると噂される一族である。

 

 そんな銀狼族の血が彼らの求めている「英雄の血」である可能性は極めて高く、それゆえに銀狼族の娘を生け捕りにせんとオルバの命で先の隠れ里に戦力が送り込まれたのがひと月ほど前のことであった。

 

 ――そして、いつまで経っても送り込んだ者たちが戻ってくることも、彼らが任務の完了・帰還といったの旨の報告もしてこないので、事後処理も兼ねた調査人員を追加で派遣したのが10日ほど前のことだ。

 

 

 その結果、オルバたちのもとに届いたのは「投入戦力および銀狼族双方の全滅」という最悪の結果を記した報告書だった。

 しかも、「人為的に生じたと思われる大規模な山火事による隠れ里および一切の痕跡の焼失」という頭が痛くなるおまけ付きである。

 

 

 ――このようなことになるのなら、あんな連中をあてにせず自分たちで事を実行するべきだった。

 

 

 オルバは受け取った報告書を処分するためにビリビリと破りながら数か月前の自らの選択を悔いた。

 

 

 すでに全盛期はとうに過ぎ去り落ちぶれたとはいえ相手は獣人だ。

 生半可な戦力では返り討ちにされるだろう――

 

 

 そんな考えから「作戦に投入する戦力は実戦慣れした精鋭がいい」という結論に達したオルバは、上に頭を下げて無理を言ってまで戦闘要員を自分の部署に急遽配属してもらっていた。

 

 ――だが、蓋を開けてみれば送られてきたのはネームドである2ndを長としたチルドレンたちであったのはいいものの、その2ndをはじめとした全員が戦闘狂かつ人殺しを至上の喜びとするイカれた連中という有様であった。

 

 作戦直前まで「今回の任務の最大の目的は女児の生け捕りであり殺すことではない」とオルバは彼らに対して厳命してきたが――

 

 

「どうやら聞く耳持たずだったらしい」

 

 

 破いた報告書に火をつけながらオルバはそうつぶやき、チッと部屋に響くほど大きく舌打ちする。

 

 ――今思えば、完全に「これ幸い」とばかりに上がお払い箱のレッテルを貼られた連中を自分のもとへ押し付けてきたような気がしないでもない。

 

 在庫処分――そんな言葉がオルバの脳裏によぎった。

 

 

 ――山火事はおそらくチルドレンどもがこちらの命令を無視して遊び感覚で森や里に火を放ったことが原因だろう。

 

 「双方全滅」という結果になったのは間違いなく相討ちだ。

 奇襲を仕掛けたとはいえ地の利は銀狼族側にあり、加えて彼らは素の身体能力が人間よりもはるかに勝る獣人――

 いくらこちら側の戦力がネームド率いるチルドレンの部隊だったとはいえ、そう簡単にはいかなかったらしい。

 

 焼け跡からチルドレンたちや銀狼族の遺体や遺留品、隠れ里の痕跡といったものは一切見つからず、すべて灰と化した可能性が高いという報告書の記述は少々気になるところだが、それだけ火の勢いが激しい火災だったと考えればおかしな話ではない、か――?

 

 

 戦略的にも戦術的にも失敗に終わった作戦をオルバは自らの頭の中でそのように総括する。

 

 それは「“作戦の失敗は現場の命令無視と独断”ということにしておけば自分や部下たちが上から責任を追及されることはないだろう」という、無意識からくる保身でもあった。

 

 

「しかし、これでまた“英雄の血”を探すのも振出しか……」

 

 

 その言葉と共にオルバの顔は少しずつ険しいものに変わっていく。

 

 

「ミリア……」

 

 

 ――オルバには亡き妻との間に1人の娘がいた。

 

 しかし、その最愛の娘がある「不治の病」に侵されてしまったことが彼の人生、そして彼自身を大きく狂わせることとなった。

 

 娘の病を完治――最悪少しでも症状を良くするために今の上司である人物の提案と誘いに乗り、オルバは現在とある「組織」に身を置いている。

 その組織が研究しているものの一端に娘の病が少なからず関係しており、もしかしたら娘を治療する手がかりが見つかるかもしれないという一握の期待からであった。

 

 ――だがその結果、彼は組織の研究に必要な「英雄の血」を手に入れるために娘と同年代の少女たちを各地から誘拐・拉致する任を請け負うこととなり、今ではすっかり悪の道へとその身を堕としていた。

 

 最愛の娘から「理想の父親」とまで称された王国騎士団に所属する魔剣士時代のオルバが、現在の見るからに汚れ仕事役がピッタリな悪人に変貌した彼と出会う機会が仮に訪れれば、きっと前者は大いに嘆くに違いない。

 

 

 ――この悲しき悪人にとって皮肉なことは、彼の娘が病に侵された原因があろうことか組織の手によるものであり、彼はその真実を知ろうとするよりも先に娘を思う一心から盲目的に組織に身を投じてしまったことであろう。

 

 

「――そういえば、一時期辺境の田舎貴族たちの間で“悪魔憑き”の噂が流れていたな。

 まあ、貴族たちの権力争いの中で流された虚言の類に違いないだろうが……」

 

 

 ふと以前耳にした話を思い出したオルバは、少しの間目を閉じて考える。

 

 

 「悪魔憑き」――

 

 自らの最愛の娘ミリアが患った「不治の病」の正体――

 

 もしこれと「英雄の血」が直接関係しているものであると仮定すると――

 

 

「――“悪魔憑き”がいるなどと噂されていたのは、確かカゲノー男爵家だったか?

 所詮は噂である以上、信憑性は限りなくゼロに近いが他に有力な情報はない――

 少し部下に調べてさせてみるか……」

 

 

 

 

 オルバがカゲノー男爵家の長女、クレア・カゲノーの誘拐を部下たちと実行するのはそれから数か月後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クハハハハ!

 “教団”の連中、どうやら目先の欲に駆られてやらかしたらしいな!」

 

 自らに与えられた部屋の中で『聖教』の司教ドレイクは聖職者とは思えない下品な笑い声をあげていた。

 

 普段の彼からすれば自分の立身出世とは関係がない話題などすこぶるどうでもいいことであったが、事あるごとに自分たちから仕事と手柄を横取りしていく「教団」が失態を犯したと耳にすれば、ざまあみろという気持ちも湧いてくるというものである。

 

 

「聞いた話によると部隊を丸々ひとつ失ったそうだが……

 まあ、彼奴らにとってはそれぐらいの損失は痛くも痒くもないだろう。

 だがしかし、“()()()()()()”という事実は変わらん。

 おそらく二の舞を演じることを恐れてしばらくの間は目立った動きはできんはずだ」

「――つまり、その間は我々“テンプラー”の活動を妨げる者はいないということですね?」

「そのとおりだウィクトーリア君。

 “教団”の連中から余計な口を挟まされることもなく異端審問を行うことができる――

 我ら聖教が本来の役目を十全に果たす機会がようやく訪れたというわけだ」

 

 

 ドレイクは司祭らしく真面目な顔を作りながら――しかし、その口元は相変わらず下品に歪んでいる――自身の前に立っている少女に目を向けた。

 

 『聖女』ウィクトーリア。

 

 普段はその肩書きのとおり聖女として聖教の教えを人々に説いて回る役目を担っているが、その裏では聖教が異端者と認定した存在を抹殺する処刑部隊『テンプラー』の長という顔を持つ少女である。

 

 その身にまとうドレスのような聖女としての白い正装と、さながら目隠しのようにその顔の上半分を覆っている漆黒のベールは、いかにも聖女としての神々しさと審問官としての恐々しさを併せ持っていた。

 

 ――そんな彼女はドレイクの言葉にわずかばかりの笑みをその口に浮かべるが、実際の心境はベールに覆われたその顔のごとくうかがい知ることはできそうにない。

 

 

「しばらくは忙しくなりそうだぞウィクトーリア君?

 女神ベアートリクスのご加護を世に広めるため、そして私の大司教昇進のために“テンプラー”にはこれまで以上の活躍を期待している」

「はい。ドレイク司教」

 

 

 ウィクトーリアは深々とドレイクに対して一礼をすると、もはやここには用はないと言わんばかりにいそいそと彼の部屋を後にした。

 

 

「ドレイク司教はやはり気づいておられない……

 件の山火事は人為的なものであるとしても、間違いなくなんらかの異端の力が関与している……

 そして、その力を行使したのは間違いなく教団側ではない……」

 

 

 聖堂内の廊下を歩きながらウィクトーリアは先ほどドレイクが語っていた「教団の失態」の内容を思い返す。

 

 獣人の里を襲撃した教団の戦闘部隊が山火事によって標的だった獣人たちもろとも全滅した――

 

 それだけならば確かに「失態」の一言で片付きそうな情けない話である。

 しかし、ウィクトーリアは自分のもとに届いたその山火事に関する情報のある一点に注目していた。

 

 

「ただの山火事ならば必ず焼け跡にはなんらかのものが遺されるはず……」

 

 

 ――そう。死者の遺体もその遺留品も、獣人たちの生活の営みの痕跡もなにもかも灰になったなど、通常の火災ならば決してあり得ない。

 文字どおり()()()()()()()()()ことなど、どれだけ激しく高温の炎であっても不可能に近いのだ。

 本当にすべてを灰に――無に帰したというのならば、それはもはや「焼失」ではなく「消失」と呼んだほうが正しい。

 

 

「おそらくアーティファクトかその類によるものと思われますが……

 やはり一度、私たちでも直接調べてみる必要がありそうですね。

 仮に件の火災を引き起こしたものの正体がいまだにこの世界に存在するのならば、それを見過ごしておくのはあまりにも危険すぎる――」

 

 

 ウィクトーリアは早速『テンプラー』の長としての勤めを果たさんと、聖堂の大扉をゆっくりと、されど堂々と開いて外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あり得ねえ……

 これはなにかの間違いだ……」

 

 男はつい今しがた自分の目の前で起きた光景が信じられず、恐怖からその場に尻もちをついた。

 

 

 ――モーヒー・カン盗賊団。

 

 この地域ではそれなりに名前が知られた、そこそこの規模を誇る盗賊集団である。

 

 構成員は総勢30名近くおり、日々自分たちが縄張りとしている領域を通行する貴族や商人の馬車や一団を襲撃しては金銀財宝や食料、いい値段で売れそうな女子供を略奪していた。

 

 

 ――そう。して()()のだ。

 

 

 その日も彼らは縄張りのひとつとしている山道を歩く旅人と思わしき1人の通行人を発見した。

 

 フード付きのマントをその身にまとい、顔はフードを深々と被っていたため拝むことはできなかったが、背は盗賊団の男たちよりも明らかに一回りも二回りも低い。

 また、その一歩一歩山道を歩いている足取りから、その人物は若い女もしくは子供と推測された。

 

 

 自分たちにとってはまさに絶好の獲物――

 

 

 そう判断した盗賊団の行動は早く、すぐさまその場にいた全員が木陰から山道に飛び出して通行人を取り囲んだ。

 

 

「へへへ……

 おいお前、命が惜しかったら有り金含んだ持っているもん全部置いていきな!」

「なにも持ってないっていうんならその体を俺たちに差し出してくれてもいいんだぜぇ~?」

「おいおい……

 まだ女だと決まったわけじゃねえのに気が早すぎだろ?」

「別に俺は顔が良けりゃ男のガキでも構わねえけどな!」

「マジかよ!?

 ハハハハハハ!」

 

 

 いかにも悪党らしい下衆な言葉を口にしながら盗賊団の男たちは通行人にじりじりと近づいていく。

 全員その手には剣やナイフといった刃物が握られていた。

 

 

「――ねえ、あなたたち食べ物や水持ってる?

 ちょっと手持ちが少なくってさ……」

 

 

 通行人が自身の目の前にいる盗賊の男に対してそのようなことを口にする。

 

 その声は明らかに幼い子供か若い女性が発するものだった。

 

 問いかけられた男は一瞬「は?」と言わんばかりに呆けた顔をしたが、すぐさまいやらしい笑みを浮かべて声をあげる。

 

 

「ハッ!

 おめえさん俺たちを誰だと思ってるんだ?

 泣く子も黙るモーヒー・カン盗賊団だぜ?

 水に食料に金銀財宝……持ってないものなんかありゃしねえぜ!」

「ちょうど女子供は今切らしてるけどなァ!」

「ギャハハハハ!」

 

 

 再び聞く者を不快にさせそうな笑い声を周囲に響かせるモーヒー・カン盗賊団の男たち。

 

 それを聞いた通行人は、フードを深く被っている状態でも外にのぞかせている口元をゆっくりと三日月型に歪めた。

 

 ――にやり、と。

 

 

「ふぅん……そう……

 それなら、いただけるだけいただいていく!

 Pestis Incendium(悪霊の火よ)!」

「えっ?」

 

 

 マントの中に隠していた右手――それに握られていた杖を掲げると同時に、通行人こと壱与はその先端から紅蓮に染まった莫大な魔力の奔流をほとばしらせた。

 

 

 そして、それがモーヒー・カン盗賊団にとっての地獄の始まりを告げる合図であった。

 

 

 

 

 ――その後のことは特に語るまでもないだろう。

 

 壱与の杖から放たれた「悪霊の火」は大蛇の姿を形作るとモーヒー・カン盗賊団の男たちに襲いかかり、1人また1人とその(あぎと)の餌食としていった。

 

 はじめはただ驚いていただけの男たちだったが、仲間が次々と生きたまま灰――いや、灰のひとかけらも残さず焼き尽くされていく光景を見せつけられて次第に恐怖を抱き戦意を喪失。

 やがて、我先にと言わんばかりに生き残っている者たちは自分たちのアジトへと蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。

 

 

「ははは。待て待て。

 まだわたし水も食料ももらってないよ~?」

「ひいいいい!?」

「た、助けてくれええええええええっ!」

「ぎゃああああああああっ!」

「か、体が……!

 俺の体……ああああああああああああっ!」

「に、逃げろォ!

 とにかく逃げるんだァーーーーっ!」

 

 

 当然それを壱与がみすみす逃がすわけがなかった。

 

 悪霊の火を従えて、まるで鬼ごっこでもしているかのようにその顔に笑みを浮かべながら男たちを追走する。

 

 獣人であるがゆえに男たちを追いかける壱与の足取りは衰えることがなかった。

 

 

 文字どおり命がけな恐怖の追いかけっこからモーヒー・カン盗賊団は最終的に数名が生き残り、アジトとしていた洞穴に命からがら逃げ込んだ。

 

 ――が、悪霊の火はわずかな隙間から洞穴の中に侵入。

 洞穴の最奥へいの一番に逃れた1人を除いて、生き残りとアジトで留守番をしていた団員たちをことごとく呑み込んでいった。

 

 

 

 

 ――そして今に至る。

 

 

 

 

「ふふ……

 “悪霊の火”も完璧に制御できるようになったかな?

 今後はこれをメインウエポンとして使っていきたいところだけど……

 うん。やっぱりまだ今の段階だと魔力消費が激しいな。

 もっと魔力制御の腕を磨いて低コスト化できるように努力しないと……」

 

 

 悪霊の火を横目に壱与はぶつぶつとそのようなことをつぶやきながら洞穴に足を踏み入れ、モーヒー・カン盗賊団最後の1人となった男に一歩一歩近づいていく。

 

 

「あ……ああ……」

 

 

 男は徐々に近づいてくる自らの死に対する恐怖からなにもすることができなかった。

 

 完全に腰が抜け、声をあげる勇気すら失われてしまった。

 

 

 ――と、ここにきて彼は現実逃避からか数か月前にふと耳にした風の便りのことを思い出した。

 

 

 曰く、夜な夜な盗賊を狩って回る奇妙な冒険者がいる。

 

 曰く、その冒険者は神出鬼没で、盗賊がいる所ならば大陸中のどこにでも現れる。

 

 曰く、その冒険者は誰も見たことがない未知なる武器を振るって戦う。

 

 曰く、その冒険者は常に素顔を隠しているため誰もその正体を知らない。

 

 曰く、その冒険者は子供と見間違うほど小柄で背が低い。

 

 そして最後に、その冒険者と出会った者で生き残れた者は誰もいない――

 

 

 正直言っていろいろとツッコミどころ満載な噂だ、と男は思った。

 

 特に「出会って生き残った者は誰もいないのに、その人物に関する噂が広まっている」という矛盾が最後の最後で出てくるところが思わず「待て待て」と言いたくなる。

 

 

 そのようなことを考えたからか、男の思考は少しだけ冷静さを取り戻した。

 

 

 ――考えてみると、今自分の目の前にいる人物は先の噂の存在と特徴が一致するところが多い。

 

 神出鬼没であるかどうかは定かではないが、大蛇の形を取る炎という未知なる武器を操り、フードを深く被って素顔を隠している小柄で背が低い冒険者と思わしき人物――

 

 まさか、こいつが――

 

 

「ま、まさか、お前が……

 お前が噂の“スタイリッシュ盗賊スレイヤー”なのか……!?」

「は? 誰それ?

 たぶん違うと思うよ?」

 

 

 ――即答で否定された。

 というか、疑問符を疑問符で返された。

 

 

「とりあえずあんたで最後?

 それじゃあこれで――」

「ま、待て! 待ってくれ!

 ここにあるもんは水だろうと食料だろうと宝だろうと全部好きなだけ持っていっていい!

 だ、だから命だけは助けてくれ!」

「はぁ?」

 

 

 男は地面を這いつくばりながら壱与の足下に近づくと、そのまま彼女の足に縋るように頭を下げた。

 

 

「た、頼む!

 なんだったらあんたが今日から俺たち……いや、俺のボスだ!

 あんたの命令に従う!

 絶対にあんたには逆らったりはしねえ!

 だから頼む! 命だけは……!」

「…………」

 

 

 情けなく自らの額を地面にこすりつける男を見下ろしながら、壱与は軽くため息をついた。

 

 そして、その場で身を屈めて男と同じ視線の高さになるまで顔を下ろすと、改めて男に対して口を開く。

 

 

「ねえ、おじさん」

「な、なんだ……?」

 

 

 数秒ほどの静寂が洞穴の中を支配する。

 かすかに響くのは壱与のそばで今も轟々と燃えている悪霊の火から時おり弾ける火花の音だけだ。

 

 

「おじさんたちが今まで襲った人たちで、今のおじさんと同じようなこと言って命乞いした人は絶対にいると思うんだけど……

 おじさんたちそう言ってきた人たちを助けてきた?」

「も、もちろんだ!

 最初に仲間が言っていたと思うが俺たちは女子供は――!」

 

 

嘘つけ。わたしは心が読めるんだよ

 

 

 壱与のその一言と共に、悪霊の火がモーヒー・カン盗賊団最後の1人に食らいついた。

 

 

 

 

「いや~、まさかこんなに早く“開心術”を試す機会が訪れるとは思わなかったな~。

 あのオッサンレベルの相手なら今のわたしでも余裕で杖なし無詠唱でのぞき見れるね」

 

 

 さすがに至近距離まで近づく必要があるけど、と言いながら壱与は盗賊団のアジトであった洞穴の中を物色していく。

 

 目当ての品々は彼女が思っていた以上に早く見つかった。

 

 

「とりあえず優先して持っていくのは水と食料だよね。

 お金は……とりあえず持っていけそうなだけ持っていくか。

 宝石とか美術品とかは……いらないな。持っていてもこの先邪魔になるだけだろうし……」

 

 

 同じく洞穴の中で見つけた鞄や袋の中に次々と必要なものをやや雑に放り込んでいく壱与。

 その姿は先ほど彼女が殺めた盗賊団の者たちに負けず劣らずの盗賊ぶりであった。

 

 

「――それにしても、“スタイリッシュ盗賊スレイヤー”ってなにさ?

 この世界、忍者みたいなやつまで存在するっての?

 “ドーモ”とか挨拶してくんの?」

 

 

 洞穴の中に壱与のそのような疑問の声が響く。

 当然それに答える者など誰もいないので、声は虚しく響いてやがて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――へっくしゅ!

 ん~? 誰かが“陰の実力者”である僕の噂でもしているのかな?」

 

 

 ミドガル王国の辺境、そこのとある場所に黒衣を身にまとった1人の少年がいた。

 

 少年は今しがた自分と仲間たちが片付けた「盗賊」の拠点にて戦利品を探している真っ最中だった。

 

 

 彼の名はシド・カゲノー。

 田舎貴族カゲノー男爵家の長男であり、その裏では世界を影から支配する秘密結社『ディアボロス教団』に仲間たちと共に人知れず立ち向かっている『陰の実力者』――というロールプレイに日々勤しみ、盗賊狩りに精を出している少年である。

 

 そして今日も彼は『シャドウガーデン』と自ら名付けた()()()()()()()()()()総出で『ディアボロス教団』と脳内で設定した「盗賊」を倒し終えたばかりというわけだ。

 

 

「それにしても、金貨や美術品はおろか、売ったらお金になりそうなものがぜんぜんないな……

 今回倒したやつら結構人数が多かったから、お宝とかかなりアジトに溜め込んでいると思ったのに――」

「シャドウ」

「ん……?

 ああ、アルファか。どうしたの?」

 

 

 背後から聞き覚えのある声がしたのでシドが振り返ると、そこにはシド同様黒い服――それも体のラインがぴっちりと浮かび上がるくらい肌と密着したボディースーツ――をその身にまとった長い金髪の少女がいた。

 

 

 彼女の名はアルファ。

 先ほど述べた『シャドウガーデン』の一員にしてその最古参であるエルフの少女だ。

 

 ――ちなみに、今彼女が口にした「シャドウ」とはロールプレイにおけるシドの『陰の実力者』としての名であり、『シャドウガーデン』の長としての名前でもある。

 わけあってアルファたち『シャドウガーデン』のメンバーは、皆シドのことをその名で呼んでいるのだ。

 

 

「その様子だとあなたのほうもなにも見つかっていないみたいね?」

「うん。絶対になにかあると思ったんだけどね……」

「教団のアジトとはいえ所詮は辺境の小規模な拠点のひとつ――

 やっぱり、重要な情報ははじめから存在しないってことかしら……?」

 

 

 ――アルファたちも戦利品がないかアジトのあちらこちらを漁っているのか。

 

 まあ、考えてみれば彼女たちだって常に無償でこんな命がけのことを手伝ってくれるわけないよね。

 

 本当に“『陰の実力者』ごっこ”も大変だ。

 

 

 シドはそんなことを思いながら「盗賊」のアジト内を物色していく。

 

 なんとなく目にとまった小さな棚の引き出しを開けると、そこには薄汚れた1冊の手帳が入っていた。

 

 

「へえ、盗賊なのに日記なんてつけているやつもいたんだ」

 

 

 適当にその手帳をパラパラと数ページほど開いて内容を流し見したシドは、すぐにそれに興味をなくし背後に適当に放り投げた。

 

 

 ――自らの背後にいまだアルファが立っているなどとは知らずにである。

 

 

「えっ? シャドウ?」

 

 

 突然シドから投げ渡された――と思っている――手帳を掴み取ったアルファは、すぐさまそれを開いて書かれている内容に目を通した。

 

 すると、数ページほど読んだところで彼女の目がかっと見開かれる。

 

 

「こ、これは……!

 かつてここで研究されていた“悪魔憑き”に関する記録……!?

 さすがねシャドウ!

 必ずここに教団に関する情報が残されていると確信していたのね!?」

「……えっ?」

 

 

 アルファが突然予想だにしていなかったことを言いだしたので、シドは思わず彼女のほうに振り返る。

 

 ――というより、シドはアルファがまだ自分の後ろにいたことを知らなかった。

 

 ちょっぴり驚いた拍子にほんの一瞬だけビクッと体が跳ね上がってしまったのは秘密である。

 彼が思い描く理想的な『陰の実力者』は、ちょっとやそっとのことで驚いたりビビったりするようなカッコ悪い存在ではないからだ。

 

 

(あ、アルファ、まだいたの?

 というか、その手にある日記帳はさっきの……)

 

 

 シドはアルファの手に先ほど自分が投げ捨てた手帳が握られていることに気がついた。

 

 そして彼は、そこからある結論に至る。

 

 

(――あ。なるほど。

 日記帳の正体が“ディアボロス教団”の隠された暗号文だったって設定にしたのか。

 アルファは本当にこういう即興のシチュエーションを作り出すのが上手いなあ……)

 

 

 シドは軽くうんうんと頷くと、自らも「シャドウ」としてのロールプレイでその声に答えた。

 

 

「――ああ。

 ここならば誰も来ないだろうなどと油断してやつらが重要な情報を処分せずに残している可能性は予想できた」

「敵の行動だけでなく思考すらも予想してみせるなんて……!

 あなたのその叡智は本当に計り知れないわね」

「当然だ。やつらのことで私に読めないものなどない」

 

 

 フッとわざとらしく――というより実際故意にやっている――不敵な笑みをその顔に浮かばせるシャドウもといシド。

 それもアルファから見ると「カッコいいリーダー」っぽさが増すアングルを予想したうえで、さり気なくポーズまで決めるおまけ付きだ。

 

 

 

 

 ――シドは知らない。

 

 彼がロールプレイのためにでっち上げた設定である『ディアボロス教団』が実在する秘密結社であることを。

 

 今彼らがいる場所がその教団のアジトのひとつであったこと、そこにいた者たちが「盗賊」などではなく教団の構成員であったことを――

 

 そして、『シャドウガーデン』のメンバーはシド以外これら事実を知っており、それゆえにアルファたちはシドの作り出した“『陰の実力者』シャドウ”の設定すら事実だと勘違いしているうえに信じ切っているということを――

 

 

 本当にシド・カゲノーはこれらの事実をまったくといっていいほど知らないうえに、まったく気づいていないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――物語は動き出す。

 

 今はまだ交わらないひとつひとつの潮流は、やがてひとつの大河となって「世界」と言う名の大海へと至る。

 

 その時は今はまだ遠いが、確実に、そして必ず訪れる。





 意味深そうに登場したオルバとドレイクだが、本作における出番はこれで終了。

 現実は非情である。

 今後イッチと絡むことなく原作どおりの運命を巡ることになるから仕方ない。

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